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二百話

(´・ω・`)二百話達成

 ドーソンの大活躍から一夜明け、今日は大会本戦三日目、即ちレン君が戦う日だ。

 本来、関係者席へは本日出場する選手から渡される特別観戦券がないと入場する事は出来ないのだが、そのあたりは豚ちゃんも抜かりなく、最終日まであの席を利用する事が可能なチケットも受け取っているわけでして。

 が、しかし。既に名前も広がり、またギルドカードによるゴリ押しも可能な為そんなチケットがなくても観戦可能なわけでして。

 つまり、このフリーパス券が余っている常態なのですよ。


「というわけでリュエの分はレイスに、そして俺の分は――ドーソンにやろう」

「うお、マジでいいのか! いやぁ、やっぱりいい席でライバルの戦いが見れるに越したことはないからな、助かるぜカイさん」

「昨日はいいもの見させてもらったからな、その礼だ。っていうかお前どんな筋力してんのよ、あの一撃打ち返すって」

「なぁ、俺散々石の槍ぶん投げてたよな……?」

「……そういえばそうでしたね」


 というわけで、余ったチケットをドーソンに渡し、四人で関係者席にやってきたわけです。

 いやぁ、ヴィオちゃん辺りに見つかると『ズルイ私もほしい』と言われるかもと思ったのだが、どういうわけかこちらより先に関係者席にいたんですよね。

 そしてその傍らにはレイラの姿が。

 同じサーディス出身という事から、恐らく向こうで顔見知りだったのだろう。

 しかしなんとも居心地が悪そうだな、ヴィオちゃん。

 何か事情でもあるのかね。


「レイス、今日出場する八人について何か知っている事はあるかい?」


 隣の席で、熱心に本日出場予定の選手が整列する姿を見ていた彼女に尋ねる。

 出場選手のほぼ全ての情報を網羅しているらしい彼女ならば、本日の見所も知れると思ったわけだ。

 すると、彼女はこちらに向き直り、コホンと小さく咳払いをする。

 ……なんだか女教師が板につきそうですね貴女。


「今日の試合は、恐らく四日間の中で最も激戦になると思われます。偶然だとは思いますが、今日のブロックに振り分けられた選手は皆、他大陸から訪れた強者ばかりです。そうですね……全員とではありませんが私も手合わせしましたが、いずれもAランクに匹敵する方々ですね」

「つまり、レイスに匹敵すると」

「いえ、あくまで『今の』Aランクです」


 彼女の言葉からは、自身への絶対の自信を感じられた。

 ……なるほど。確かに彼女やゴルド氏のような戦争経験者からすれば、今のランク付けは少し甘いと言えるのだろう。

 オインク自身も、幹部やその候補を育成する為に、少し早めに高い立場へと就かせ、責任感を負わせ実務を積ませる方針だと言っていた。

 だからこそ、たとえ同じAランクでも実力に差が出てしまうと。


「自惚れていると思われるかもしれません。ですが、現状で私が警戒すべきは――そうですね、ヴィオさんと『彼』でしょうか」

「お? もしかして俺かい? いやぁ姐さんに警戒されるなんて俺もまだまだ捨てたものじゃ――」


 するとその時、近くに座っていたドーソンが口を出す。


「ドーソンさんは……そうですね、先日のような戦いをするのであれば、私も本気を出さざるをえないでしょう」

「本気って……具体的にどういう」

「ふふ……秘密です」

「お、おいカイさんなんだか姐さんが恐いんだが。なんだあの意味深な笑みは」


 はっはっは。本気で魔弓を取り出したらドーソンの弾幕じゃあ太刀打ち出来ませんぜ。

 なにせ飛来する溶岩の塊を一瞬で撃ち落とすような人ですから。


「私がこのブロックで警戒するべきは、やはりレン君でしょうね。彼の成長速度は異常としか形容出来ません。そうですね……最後に見た時から十日。恐らく今の彼の実力は――Aランクを凌駕しつつあるでしょう」

「……そうか。そこまで欲しいのか」

「事情は知りませんが、彼は白銀を求めているのでしたよね。そして――カイさんとの再戦を」

「……あ、そっちか」


 ごめん。完全にカレーが食べたいだけだと思ってました。

 そういえば元々リベンジと白銀の為に出場するとオインクが言っていましたね。

 いやぁ……お兄さん料理の話にばっかり夢中になってしまいましたよ。

 毎晩スパイスの調合変えたりして自分でもカレーの事しか頭になかったです。


 しかし言われて思い出す。今日彼が出場するのならば、彼の取り巻きの三人娘さんもこの辺りに来ているはずなのだが。

 周囲を見回してみる。

 今日の出場者は大陸の外から来た人間が多いせいか、関係者席に彼らの身内の姿も少なく、空いている席も多い。

 そして、そんな空席の一角に彼女達はいた。

 相変わらず自信満々な様子で、整列している姿が映し出されているレン君に視線を向ける勝ち気娘さんことアイナ嬢。

 そしてこちらも相変わらず心配そうな表情でオロオロと見守っているレイナ嬢。

 最後に、我が道を行く、今日も空いている席をふんだんに使って寝転がっているシルルちゃん。

 ちょっとからかってやろうと、彼女達の元へと向かう。


「やぁやぁお三方。本日も絶好の観戦日和であるわけですが、レン君のコンディションはどんなものですかね? ちょっとお兄さん賭けがしたいので情報を下さいまし」

「カイヴォン……なによ、賭けって。そんなのレンが勝つに決まってるでしょ。私の全財産を賭けたっていいわ」

「あの……その賭け事はギルド主催によるものなのでしょうか……? もし違うのであれば、規則違反なのですが……」

「………はら……たいら……」

「あ、また寝ちゃってる。シルルちゃん起きて、もうすぐ試合が始まっちゃいますよ」


 今の寝言ですかそうですか。

 しかし実際問題、レイスの見立て通りならばこの今日の試合で勝つのは彼だろう。

 だが、このブロックを勝ち進んでいけば、間違いなくヴィオちゃんとぶつかるだろう。

 今日の試合で彼がどこまで戦えるか。その試合運び次第で今後の勝敗の行方も見えてくるというもの。

 今まで何度かヴィオちゃんと手合わせしてきたのだ。彼女の実力はこちらも把握出来ている。

 レン君がどこまで成長しているのか。それを期待しながら今日の試合を見るとしようか。


「じゃあ俺は戻るよ。我が家の優勝候補さんが解説してくれるので」

「優勝候補……レイスさんね。確かにあの人は強いし、恩もあるけれど……それでも勝つのはレンよ」

「あ、それは万が一にもないから。今のうちにレン君を励ます言葉を考えておきなさい」

「な、なによ! 見てなさいよ! 絶対にレンが――」


 もちろん、最後にはしっかり煽らせていただきます。

 我ながら性格が悪いね。けれどもこれは事実だ。

 颯爽とその場を後にする。

 だが、だがしかし。


「訂正しなさいよ! レンが勝つの! 優勝はレンがするのよ! ちょっと止まりなさい」

「ア、アイナ、落ち着いて」

「ダメよ! こいつに分からせてやるんだから!」

「ちょっと付いてこないで! ほら、席に戻っとけって」


 余程腹に据えかねたのか、とうとうこちらの席にまでついてきた彼女達。

 シルルちゃんは後からレイナが連れてきました。なぜ連れてくるし。

 そして気がつけば、周囲にはリュエとレイス、そして居心地の悪そうなドーソン。

 レン君の応援に来ていた三人に、抜け出してきたヴィオちゃん。

 そしてそれを追いかけてきたレイラと、脅威の男女比が出来上がってしまいましたとさ。


「ドーソン、助けて」

「すまん、俺はここから避難させてもら――」

「俺を見捨てたら権限使ってランク落とすぞ」

「ひでぇ!」


 まぁこれだけ大人数だとそれぞれ勝手に交流を始めてくれるので、案外こっちから関わろうとしなければそこまで大変じゃないんですけどね。

 今も三人娘さんが新たな標的、具体的に言うとレン君が優勝するという発言に噛み付いたヴィオちゃんと舌戦を繰り広げております。

 まぁ、間違いなく彼がぶつかる最大の壁が彼女だろうし、恐らくヴィオちゃん自身もレン君に目をつけているはずだ。

 完全にアイナをからかって遊んでいるようなものだが。


「ふふーん。結果はどこまでいっても残酷に事実を伝えてくれるからね。ベスト10に名前が載ってない段階でアウトオブ眼中なんだよね~」

「な、なによ生意気ね! あんなの実際の強さと関係ないじゃないの!」

「一位をとった人が現にこの大陸最強の人間を負かしたっていう例が目の前にいるけど?」

「あ……あれはナシよ! あんなの、そもそも人前で戦うのが間違いなの!」

「え、なにキミってばお兄さんの事詳しいの? ちょっと詳しく教えてくれない? 弱点とか戦法とか」

「な、なによ急に」

「ほら、私優勝するじゃない? だからお兄さんに勝負挑むんだよね、今のうちにリサーチ」

「キー!」


 すげぇ煽りスキルである。

 いや、全部天然というか本心なのかもしれないが。

 だがそんなやり取りを見ていたドーソンが、ぼそりと呟いた。


「……俺もまだ勝ち残ってるんだがなぁ……」

「どんまい。ほら、どうせレイスに負けるからレン君ともヴィオちゃんとも当たらないし」

「ち、ちくしょう! 俺にだって切り札の一つや二つあるんだからな! 見てろよ!」


 さて、そんなやり取りをしている間にも会場では最初の挨拶も済み、第一試合の準備が始められている。

 一組目はエンドレシアからやってきた、なんと冒険者ではなく王国騎士団の人間だそうだ。

 なんでも、街道警備隊に所属している人物らしく、俺は久しぶりにあそこの警備隊長であるローガンさんを思い出した。

 ううむ、懐かしいなエンドレシア。結局あの大陸、リュエのいた森から首都まで南下して、そこから一気に港町まで向かった関係で満足に観光も出来なかったからな。

 ふむ……もしもすべての大陸を制覇したらそのままぐるっと世界一周してエンドレシアに戻るっていうのはどうだろうか?


「カイさん、この試合は見ものかもしれません」

「む、どうしたんだいレイス」

「リュエなら気が付きませんか? あの騎士の男性、普通では考えられない密度の魔力を纏っています」

「あ、本当だ。凄いねぇ、たぶんなにか魔導具とか、特別な装備の影響じゃないかな?」


 考え込んでいるうちに二人がそんな言葉を口にする。

 ほほう、王国騎士という経歴に加えてそんな凄い装備を身にまとっているとな。

 これは相手の選手はご愁傷様――え?


「二人共。たぶんこの試合はあの騎士の敗北で終わる」

「む、どうしてだい? 相手の選手に特に変わったところなんてないよ?」

「あの方は……訓練施設でも見かけませんでしたね。カイさん、お知り合いですか?」


 知り合いなんかじゃないさ。

 けれども、騎士と対峙しているその選手は非常に見覚えのある装備を身にまとっていた。

 黒いコートに、銀の鎧パーツを組み込んだコートアーマー。

 まるでどこぞの英雄様よろしく、スタイリッシュさとセクシーさを併せ持つその装備。

 ああ、懐かしい。間違いなくあの装備は――


『さぁ、奇しくもこの対決、王国騎士同士の対決だ! なんともう片方の選手、ルーナ・ガルディン選手はセカンダリア大陸の王都ガルディウス出身の騎士だ!』

『おお! それは遠路はるばる……向こうの国とは交流もあまりありませんしな、これは見ものですぞ!』


 あの装備は、もしかしたら俺が身にまとっていたかもしれないものだ。

 懐かしい、実に懐かしい。

 ゲーム時代、同じチームに所属していた友人『ぐ~にゃ♪』が手がけた装備の一つだ。

『見た目に極振りした紙装甲の鎧が完成したわけだが、どっちか買わないか?』

 あの時、俺は魔王ルックとして馴染みつつある『黒色皇帝外套金糸仕上げVer重合鎧合成』という無駄に名前の長い装備を選んだわけだが、もう一つ提示されたものがあった。

 それが今試合会場で剣を構えている男が着ているものだった。

『最終物語七作的外套ラスボス風味』それがあの鎧の名前だ。

 ……本当に、本当にどっちを選ぼうかものすごく迷ったんです!

 だけどね、俺のキャラって銀髪で長髪で、あれ着ちゃうと本当に色々と言い訳がきかなくなるんですよ!

 なので泣く泣く諦めたのがあの鎧なんですよ!


「……試合が終わったら、話聞かないといけないな」


 あの鎧を身にまとっているのだ。ただ者であるはずがない。

 彼の勝利を確信し、はやる気持ちを押さえ込み試合開始の合図を固唾を飲んで見守る事にしたのだった。


(´・ω・`)ここにきてようやくあの二人以外のチームメイトに纏わる情報が……?

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