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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
十章

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百九十八話

(´・ω・`)インターフェース

 大会二日目は既に組み合わせが発表された所為か、本日出場予定の選手の友人や家族が関係者席に集まっていた。

 今日はドーソンが出場する都合上、彼の奥さんと娘さんも来ている事だろう。

 他にも地元の冒険者仲間も、恐らく一般席に来ているのではないだろうか?


「今日は人がいっぱいだねぇ、空いてる席はあるかな」

「三人で固まって座るのは難しいかな? もう少し早く来るべきだったか」

「う……申し訳ありません……私がゆっくり歩いたせいです」

「ああいや、気にしないでおくれ。元々は俺に責任があるんだから」


 とりあえず、リュエとレイスだけでも座らせようと、都合よく最前列の空きへと彼女達を連れて行く。

 ふむ、誰かが席をとっているわけでもなさそうだ。


「すみません、ここに連れを座らせて頂いても大丈夫でしょうか?」

「あん? お、いいねぇ、こんな美人の姉ちゃん二人なら大歓迎だ。なぁ?」

「へへ、こいつはいい。いいのか兄ちゃん、俺達に預けちまっても」


 あらやだ物騒な方達。

 俺知らないよ、なにかしようものならうちのお姉様方がなにをするか。


「ただ座らせるだけなのになぜ預ける事になるのか。なにかしたら問答無用で首落とすので肝に命じてくだせぇ」

「あん? なに言って……」

「ちょおおおおおおおっと待った! お前ら集合!」


 するとその時、この物騒な方々の元へもう一人似たような風貌の、これまた世紀末にいそうなファッションをした男性が血相を変えて駆け寄ってきた。

 その号令に驚きながらも、一同が渋々と言った様子で彼の元へ。

 そして――


「すみません全員で母親の腹の中からやりなおしてきますのでどうか命ばかりはお助けください」

「申し訳ございませんでした。これからは無闇にこの臭い息を吐き出す口を開かないように慎ましく生きていきますのでどうかご容赦ください」

「ごめんなさい。どうか許してください。家には腹をすかせたハムスターが五匹と七匹のオウムがいるんです」


 ……最後の君、結構動物好きなんですね。

 いやそうじゃない! この変貌ぶりはなんぞや。

 この状況がなんなのか説明が欲しいと、周囲に目を向けてみる。

 だが、全員がサッと目を逸らしこちらにかかわらないようにしているではありませんか。

 なにこれ新手のいじめなの? 精神攻撃は基本だけどこれは質が悪いですよ。お兄さん泣きそうなんだけど?


「あの……カイさんこの間この大舞台で戦ったんですよ?」

「そういうレイスも戦ったじゃないか。他人事じゃないよ?」

「そういえばリュエさんや、君もアルバ君と戦いましたね」


 ……あ、なるほど。

 それは納得ですわ。この三人に関わろうとする人間なんていませんよねそりゃ。

 容赦なく現役議員で白銀持ちである人間をボコボコにしたミスセミフィナル。

 えげつない戦い方で大会出場者の心を折り、セミフィナル最強の冒険者を倒した男。

 大会にそぐわないドレス姿の麗人。ただし戦闘を速攻で終わらせる武闘派。

 ちょっと好奇心だけで近づくには勇気がいるメンツですね。仕方ないね。

 だがその副産物とも言うべきか、周囲の人間が一斉に席を詰めだし、こちらの周りの席がガラリと空いてしまいましたとさ。


「やった、三人で座れるね」

「結果オーライって事で」


 さて、無事に席に着けたところで改めて本日執り行われる試合について見てみよう。

 我らが期待の星ドーソンは……どうやら本日のトリを飾るようだ。つまり四戦目。

 そして他の選手を見るに……。


「レイス、他の選手について詳しくお願いします」

「ふふ、分かりました。今日の最初の試合は、二人共外部からの参加者だそうですよ」

「へー! レイスは物知りだね。どんな戦い方をする人なんだい?」

「物知りと言ってもらって早々ですが……知らないんです。どうやら訓練施設を利用していなかったそうで」

「へぇ、結構秘密主義な選手なのかね、二人共」

「むむ、手の内を隠しているなんてちょっとズルいね。正々堂々と戦わないと」

「うっ……はい、ごめんなさい」

「はーい、ここに格闘家の振りした弓使いさんがいるのでそれ以上虐めるのはやめてくださーい」

「あ……ごめんよレイス。すっかり忘れていたんだ……あんまり堂に入っていたから……」

「ふふ、冗談です」


 楽しいコントのようなやり取りをしているうちに、件の二人が会場に現れる。

 見たところ、片方は男性でもう片方は女性のようだが、互いに似た意匠の施された独特の服装……ポンチョのようなものを身にまとっている。

 どこかの民族衣装のようにも見えるが、そういった少数民族がいるのだろうか?

 すると、その時、本日も大きな声を拡声器で轟かせる議員、ゴルド氏が解説席に現れた。

 その隣には、やや興奮気味のブックさんの姿。ふむ、目にうっすらと隈が出来ているな。

 さてはレイスの戦いぶりについて一晩中アイドさんと語り合っていたのだろう。


『さぁ、大会も二日目に突入した訳だが、本日の第一試合を飾るのはこの二人だ』

『おお、彼らはこの大陸の西部に住む『ドルディア』の一族ですな! 同郷の者同士の戦い、どうなるか楽しみで仕方ありません』

『ここまでの戦績にあまり目立ったものは見られないが、同時に彼らの戦いもあまり目立ってはいなかった。だが、彼らの本来の得意戦法は特殊な魔術によるものだ』

『そうですな。彼らの戦いは本来ならば、大いに目立ち注目を集めるはず。これはあえてここまで隠してきたと見るべきでしょうな!』


 解説席からの説明に、やはり少数民族の出だと知った俺は、すぐさま自分に[詳細鑑定]を付与する。

 特殊な魔術とはなんの事なのか。ちょいと好奇心が疼いてしまいますな。

 やや離れているが、戦場にいる男性を視界に収めてみる。すると――




【Name】 リ・レゾーネ

【種族】  ハーフエルフ

【職業】  法術士(21) 弓闘士(11)

【レベル】 39

【称号】  森の番人

【スキル】樹霊術 弓術 三次元軌道 鷹の目


なるほど。特殊な魔術とは樹霊術の事か。

よく見れば、彼らの耳も種族の特徴である笹の葉のような形をしている。

ふむ、ハーフエルフの一族とは興味深い。それにそのあり方も。

弓を使い、そして森や自然の力を使い戦うようだが、その姿はまさしくオールドタイプなエルフそのものではないか。


「特殊な魔術ってなんだろうね? ちょっと気になるよ」

「ああ、樹霊術の事だよ。前にアキダルで一緒だったマッケンジー、彼も使えたはずだ」

「ああ、樹霊術の事なんだ。いいなぁ……樹霊術」

「リュエは樹霊術が使えないんですか?」

「うん。残念だけどあれも先天的な素養が必要だから……」


 少しだけ残念そうに彼女がぼやく。

 そういえば……マッケン爺もハーフエルフだったな。

 この世界で新たに樹霊術を習得する、つまり法術師になるには種族が関係しているのだろうか?

 元々、法術士は魔術師から派生する職業だ。

 攻撃的な魔術よりも回復や補助に特化した職業で『神官』同様に回復役として重宝されていた。

 神官が回復特化だとしたら、法術士は回復や補助全般。ゲーム時代のエンドコンテンツでは、尖った性能以外はあまり重要視されていなかった関係で日に日にその姿を見ることがなくなっていった職業だった。

 そんな中、法術士だけが習得出来る『樹霊術』というものがあった。

 相手の足止めや、地形変化に特化したその術は、攻略においてはあまり重要視されてこなかったが、特定のプレイングでは大いにその力を発揮する事となった。

 固定湧きの敵をハメ殺して稼いだり、または大群戦やチーム間での対戦だ。

 特定の範囲を完全にコントロールし、自由に障害物を生み出せるこの術は、戦場をコントロールするという意味では無類の強さを誇ったのを覚えている。

 なるほど、たしかにリュエが使いたがるのも頷ける。


「私はきっと、森に愛されていなかったんじゃないかなぁ……」

「リュエ……」


 昔の事を、思い出させてしまったのだろうか。

 少しだけ悲しげにそう漏らす。

 あの、冷え切った雪に覆われた最果ての森。あの場所でかつて過ごした彼女。


「ほら、私森で食べ物探していたんだけど、勢い余って森の一部を枯らしちゃうくらい木の実とか穫り尽くしちゃったし」

「そりゃ嫌われる」


 自業自得でした。


 そんなこんなで試合開始。

 だが、一向に二人共動こうとしない。

 互いに弓を構えるでもない、術を発動させるでもない。ただ不動のままじっと開始地点に立ったままだ。

 なにか、互いの動きを読み合うような、そんな達人同士の高度な駆け引きが行われているとでも言うのだろうか?

 ふと、この中で一番解説に向いていそうなレイスを見る。

 なにが起きているのか、彼女には分かるかもしれない。

 しかし、そんな願いも虚しく彼女の顔に浮かぶのは困惑。

 ふむ。投影されている二人の表情も、どことなく困っているように見える。


『おおっと! ここでようやく二人に動きがありましたぞ!』

『いや、だがあれは……なんだ、試合はもう始まっているはずだが』


 その声にフィールドを見れば、互いにゆっくりと歩み寄り、そして魔導具が拾えないような小さな声でなにかを言い合っているように見える。

 どれどれ、ちょっとお兄さんにも聞かせてみなさい[互換強化]。


『困った。まさか本戦が街の真ん中だったとは……我々の力量では……』

『ダメです兄さん。いくら頑張っても木が応えてくれません。あまりにも自然から離れすぎています』

『くっ……昨年まではこの辺りにもブナやシイの木が沢山植えられていたはずなのに』

『オインク総帥は自然を愛するお方だと聞いていましたが……さすがに場内に植林をする事に異を唱えた方がいたのでしょうか……』

『なんにせよ、我らがこの状態で勝ち進めるとは思えない。おとなしく棄権するぞ』

『仕方ありません……せめて私も弓が使えれば、打ち合いに興じる事も出来たというのに』

『俺に無抵抗の相手を射る事など出来るものか。来年、もっと樹霊術を高めてから挑むぞ』


 …………あっ! そういえはレベルが低いと発動可能な環境が限られていましたね。

 ここ、近くに木もなければ草もはえてないからね。

 おそらく頼みの綱のドングリの木も、さすがにイル辺りが撤去したのだろう。

 オインクが街中にドングリの木を植えたがるのを必死に食い止めようとしてくれていたんですね、分かります。

 つまりこれもオインクの責任だ。


『おっと! ここで両者棄権の合図です! これはどういうことでしょう!』

『ううむ……なにか彼らの掟に触るような事をしたのかもしれない。同族同士の闘争を禁ずる……とかか?』


 いいえ、木がないからです。

 案の定、会場からブーイングの嵐が巻き起こる。

 隣にいたレイスもリュエも、なにが起きたのかわからないと、困惑の表情を浮かべている。


「えー、せっかく樹霊術が見られると思ったのに……」

「なにかトラブルでも起きたのでしょうか……」

「あー、たぶんそうかもしれないな」


 二人の名誉のため、先程聞いた話は俺の中に秘めておこうと思います。


 その後の二試合もとくに見所がなく、むしろ今年も紛れ込んでしまった一般人同士の地味な殴り合いに会場の空気が完全に白けてしまっていた。

 それは我が家のお姉さま方も同じようで、レイスに至っては編み物を始めている始末だ。


「レイスレイスー、それこの前から編んでいるけどまだ出来ないのかい?」

「実はこれ三つ目なんですよ枕カバー。三人でおそろいです」

「おお、それは楽しみだねぇ」

「ええ、本当に楽しみです……ふふふ」


 なぜそこで魔女めいた怪しげな笑いをするのか僕には分かりません。

 さて、フィールドの方でも無事に決着がついたようだ。

 勝者はこの街の馬車職人のおじさんか。残念、花屋のお兄さんは負けてしまいましたか。


「……この冷え切った空気の中戦わされるとか、ドーソン可哀想すぎるんですが」


 頑張れドーソン、大会を盛り上げるのは君だ!


(´・ω・`)次回 お父さん頑張る

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