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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
十章

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百九十六話

(´・ω・`)おまたせしました

「しかし、急に手合わせだなんて珍しいなレイス。いつもならリュエにお願いしてるのに」

「私の予想なのですが……カイさんはあの方、ヴァン選手と同じ技、使えますよね」

「……正解。お望みとあらば、聖騎士剣含めてどんな技でも使ってみせるよ」

「やはりそうでしたか……」


 大会初日を終え、遅めの昼食の後に彼女に請われ訓練施設へとやってきた。

 直接手合わせ頼まれる事など滅多になかったのだが、その理由を聞いて納得する。

 彼女の言っていた秘策。恐らくその完成度を高める為に、こうして彼女は俺に依頼したのだろう。

そう。彼女が言うように俺はヴァンの使っていた剣術『ゲイルピアサー』を使う事が可能だ。

 俺は『奪剣士』として戦うために、ゲーム時代にすべての剣術を納める為に『剣聖』まで職をランクアップさせていたのだから。

 奪剣は、既に習得している『剣術』『長剣術』『大剣術』から特定の技を使う事が出来る武器。

 だがその反面、奪剣だけを使っていても新しい技を覚えることが出来ず、真価を発揮する為には先に他三つを極めなければいけない。

 そして――知識と技量、それを扱えるだけの肉体があれば、奪剣に対応していない剣術や、本来俺が――この場合はKaivonが使えないはずの聖騎士剣ですら扱える事が分かっている。

 やはり、俺の意識にRyueを操作していた時の知識が染み付いているのが影響しているのだろう。

 まぁもっとも、その完成度は本家に遠く及ばないものではあるのだが。


「万が一があるかもしれないし、ちょっと準備をさせてくれ」

「分かりました。その……出来れば本気でお願いします。相手は上位魔族、その力は並の冒険者とは違いますから」

「そういう貴女も上位魔族なんですけどね?」


 俺は久しぶりに、目の前の彼女に[サクリファイス]を発動させる。

 これにより、彼女が受けるすべてのダメージは俺が肩代わりする事になる。

 そして……万が一、億が一を考え、俺は自分自身に[カースギフト]を発動させ[蘇生]を付与。

 この空間は、身体的ダメージを体力の消費へと変換してくれる。

 だが……本当に限界まで体力を奪われた人間はどうなる? 身体の機能を維持できない、本当に全ての運動を止めるほどの体力喪失を受けたらどうなってしまう?

 ましてや、レイスと俺のステータス差は凄まじく、また彼女の防御力はお世辞にも高いとはいえない。

 故に、入念に下準備をしていく。

 正直、このダメージ変換が存在する場でなければ、訓練とはいえ身内に剣を向ける事に抵抗がある。

 だがそれでも、彼女の訓練の為ならば。彼女が勝利を手にする為ならば、未だ残る忌避感を今は飲み込んで見せよう。


「準備完了だ。レイス、君が本気で大会に挑む以上、こっちも全力で協力する……さすがにあの剣は使わないが――」


 誰も見ていない訓練室。故に俺は、この街に来てから初めてあの姿になる。

 右手に握るのは、闇魔剣。この姿で生み出したそれは、これまでの完成度とは一線を画していると手に持つだけで伝わってくる。

 いわば、この姿の力の結晶。恐ろしい程の存在感を放つ、漆黒の結晶剣。


「……この圧力を、正面から受けて立っていられるならそれだけでたいしたものだよ」

「……凄まじい、ですね。では……お願いします」


 いつも目に見えるようなファイティングポーズを取らない彼女が、腰を落とし片手を前に突き出す。

 頬にうっすらと汗を浮かべ、心なしか指先が震えて見える。

 それでも、こちらをしっかりと見据え、迫りくる一撃に備えるその姿は、間違いなく一流の戦士のそれ。

 俺は彼女の力と、そして自身の能力を信じ――


「……これが、最強を下した人間の技だ」


 片手剣術ゲイルピアサー。

 自身の瞬きの間に、俺は彼女を通り越して訓練室の反対の壁に剣を突き立てていた。

 距離にして約一五メートル。それを瞬きの間に移動する、恐らく俺が使った事によりヴァンよりも数段上の性能になっているであろう一撃。

 そして、確かにこちらには彼女を貫いた手応があった。

 レイスへと、剣が触れたのを感じた。


「レイス、だいじょう――」


 その瞬間、まるで脳内から何かが溢れてくるような感覚に囚われ、視界が塗りつぶされていく。

 なんだ……この感覚は……なんだ……。

 知らない、なんだこれは、意識が、考えが、俺が、自我が、溶ける。

 分からない、終わる。なにかが終わる。不安感と絶望感が胸に広がる。

 これは……なんだ……。






「レイス、落ち着いて、落ち着いておくれよ……私じゃ……私でも……無理だよ……」

「カイさん……嫌です……嫌です……イヤアアアア!」

「いや……そんな耳元で大きな声出されると驚いちゃうんですけどね……?」


 まるで全身が筋肉痛になったような、寒い部屋で布団もかけずに眠った後のような、そんな全身の気だるさと身体の硬さに顔をしかめながら、ゆっくりと身体を持ち上げる。

 ん、ありゃ? さっきまで訓練室にいた筈なのに、ここはどこなのだろうか?

 鼻を突く何かの薬品、エタノールのような匂いに、まるで病院や保健室を彷彿とさせる。

 見てみれば、ベッドからカーテンに至るまで白一色。本当にどこか病院の中のようだ。

 ベッド脇にはリュエとレイスの姿が。

 ……おいおい、どうしたんだこの有様は。

 レイスは、まるで別人のように髪がボサボサになり、また目の周りが真っ赤に腫れ上がっている。

 そしてリュエもまた、青い顔で目の周りに乾いた涙の跡が残されている。

 ……待って、ちょっと本当になにがあったの。


「ああ……あああああ! カイさん、カイさんが……! カイさんが!!!」

「カイくん! どうしたんだいカイくん! どうして、どうやって……どうやっでぇ!!」

「いや、なにがなにやら。俺、レイスと訓練してたよね? それで確か剣術を発動して、それで急に意識が……」


 まさか……まさかとは思うが……ひょっとして俺……?


「二人共……もしかして、俺ってさっきまで死んでたりしませんでしたか……?」

「カイさん……倒れて、動かなくて……起きなくて起きなぐでぇ!」

「うわっと」


 レイスが抱きつき、その勢いのまま再び枕へと頭を埋めてしまう。

 もしや[サクリファイス]の効果は、あの訓練施設のダメージ変換より先に発動してしまうのだろうか。

 ダメージが体力の消耗に変換されるより先に、HPで肩代わりするという効果が発揮されたとしたら……。

 ということはつまり、俺の一撃をレイスが防げなかったという事になる。

 やはりサクリファイスを使っておいたのは正解だった。だが――まさかここまで自分の力が強くなっているとは予想だにしなかった。

 いや、そもそも今回攻撃を受けたのはレイスだ。つまりそのステータス差で受けるはずだったダメージをそのまま俺が肩代わりしたのだとしたら……即死も致し方なし、ということなのか。


「いや、万が一と思って保険をかけておいたんだけど、まさか現実になってしまうとは。ごめん……じゃすまないか。悪かった。自分の力をしっかり把握出来ていなかったみたいだ」

「カイくん……なにか原因があって、それは自分が知っているものなんだよね? なにか分からない呪いとか、副作用とか反動とかじゃないんだよね? もう、もうこんな事は起きないんだよね!?」

「ああ、勿論だ。今回はその……失敗してもリカバリー出来るように術を使っただけで、半分自滅したみたいなものだから……」

「私のせいです! 私があんな提案をしたから! ごめんなさい、許してください! カイさん、ごめんなさい、カイさんごめんなさい……」

「謝らないで、本当に大丈夫だから。レイスはなにも悪くないから、な?」




 完全に取り乱してしまった彼女を落ち着かせるのに数時間。

 背中を擦りながら腕の中で彼女をあやし、寝息が聞こえてきた事でようやく静寂が訪れる。

 どうやらここは訓練所内にある救命施設らしく、今はこの場所を借り切っているそうだ。


「それで……具体的にどうしてあんな事になったか、私にだけ教えてくれるかい? もしも万が一、これから先似たような事が起きた時のために、カイくんの力をそろそろ私に教えてくれるかな」

「……そうだよな。教えておくべき、だよな」


 ついに自分の力の一端、俺が入手したスキル[サクリファイス][カースギフト][フォースドコレクション]について彼女に説明をする事にした。

 そしてそれに付属し、これまで入手してきたウェポンアビリティ群についても。

 まるで、自分の不正を人に打ち明けるような、そんな緊張と罪悪感と恐怖が胸中で渦を巻く。

 だがそれでも、隠し事は、出来ればしたくない。

 教えられないこと、一線を引きたい部分は確かにある。けれども――これは教えるべき事、そして教えるべき時が来たのだろう。


「……本当、笑っちゃうような力なんだ。まず――」


 説明を聞き始めた彼女の表情が、みるみるうちに驚愕に染まり、果てに乾いた笑いを漏らし始める。

 まったくもってその通りだ。笑っちゃうような性能だよ、このスキル達は。


「人一人を対象にした完全なる肩代わり……ノーアクションで発動……似たような魔法は知っているけど、これは有効範囲というものがないんだね?」

「以前、レイスがアーカムの屋敷に一人で向かった時にも発動を確認出来た。最低でもあの街くらいの範囲なら有効のはずだよ」

「なるほど……それに付与魔術みたいな能力だけど……これはつまりカイくんの力の源である能力を与えるんだよね。任意で効果を逆転させる事も可能、と」

「これは前に一度試しただろう? ほら、レイスの攻撃が弱まったり、リュエが苦しんだあとに身体が急に軽くなったり」

「あ、なるほど。それで……その中に蘇生の力もある、という事なんだね」


 彼女の表情が険しいものになる。

 それは、まるでこれから子供を叱る先生のような、自然とこちらの身が引き締まるようなものだった。

 彼女は、聖騎士と魔導師という、回復魔法にも精通している職業構成だ。

 その都合上、やはり『蘇生』というものに思うところがあるのだろう。

 ゴクリと唾を飲み、彼女の言葉をじっと待つ。


「……カイくん、これは例えば、すでに亡くなった相手に使っても、蘇生させられるのかい……?」

「いや、これはあくまで予防策だ。あらかじめ発動しておいた状態で命が尽きた時にしか発動しないはずだよ」


 そう答えると、あからさまに彼女は安心したようにため息をつく。


「そっか。うん、安心した。もし人を自由に、生き返らせられるとしたら……それは存在してはいけない力だから」

「……そう、だな。本来、死んだら終わりなんだからな」

「……あ! 違うよ、カイくんが無事だった事に問題があるとか、そういう意味じゃないんだからね!」

「ああ、勿論分かっているよ。そして何を言いたいのかも」


 もしも、死人を自由に生き返らせる事が出来たとしたら。

 不老不死と同じように、人が願い抱き、そして追い求め破滅へと向かうような原初の欲。

 それがもし本当に存在しているとしたら。それを追い求める人間が知れば、どんな手段を使ってでもそれを手に入れようとするだろう。

 いや、追い求めていない人間ですら、その存在を知った時に身を焦がし狂うようにそれを追い求め始めてしまうだろう。

 命とは、死とは、それくらい人に深く根付き、感情を掻き乱すモノなのだから。

 ああ、そうだ。レイスは、だからこそここまで取り乱したのだ。

 俺は、彼女に味わなくてもいい深い傷を負わせたのかもしれない。

 そう自覚した瞬間、腕の中の彼女が小さなうめき声をもらす。

 ……無意識に、彼女を強く抱きしめてしまっていたのか。


「……とにかく、原因が分かって良かった。それに、カイくんの力も」

「ああ、今後は絶対に軽率な真似はしない。レイスが起きたら、もう一度しっかり謝らないと、な」

「ふふ、そうだね。本当に大変だったんだからね。泣きながら私のところに来たんだ。周りの目があるにも拘わらず、大きな声でね」

「……本当に、すまなかった」


 目尻に涙を浮かべ、子供のように安心しきった寝顔を覗かせるレイス。

 乱れた髪を整えるように、そっと頭を撫で、そうしているうちにゆっくりと、こちらのまぶたも下がっていくのを感じるのだった。


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