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百九十五話

三(´・ω・`)っ=―――

『第一試合が終わったところで、残りの対戦の組み合わせが発表されたぞ。今日は第四試合まで開かれる予定だ。名前の書かれた選手は控室へ向かうように』

『いやはや、初戦から凄い勝負が見られましたな。さて、トーナメント表を見ると、次の試合は――』


 先程の試合の余韻に浸る観客達に、解説席から案内が通達される。

 魔導具にはトーナメント表が表示されており、こちらの席の対岸に設置されていた選手用観戦席の人間達が一斉に動き出す様が見える。

 こちらも、知った名前を探しその表に目を向けてみると――


「初日で知り合いは戦わないみたいだな……ドーソンは二日目、レン君は三日目でヴィオちゃんは四日目か」

「この組み合わせだと、レイスがいるブロックの決勝の相手はドーソン君になるのかな?」

「いや、どうだろう。ドーソンも優勝候補の一人として上げられてはいるけど、レイス同様実力を隠している人間だって紛れているかもしれないし」


 組み合わせを見れば、順当に勝ち進めばレイスとドーソンがあたるのは準決勝。

 そして、レン君もまた順当に勝ち進んで行けば準決勝でヴィオちゃんとあたる事になるだろう。

 レイス、ヴィオちゃん、レン君、ドーソン。この四人の中だと、恐らくドーソンの地力が一番低いのは明白。

 だが、彼には勝負に必要な駆け引きや絡め手を展開し、戦局を支配していくという力がある。

 そしてついでと言ってはなんだが、愛娘と奥さんの応援という外部ブーストも存在する。

 まぁそれでも、彼はここから先も予断を許さないだろう。

 その一方で、ヴィオちゃんはもう決勝に来るのは当然のように思える。

 まだレン君が本気で戦う姿は見ていないが、こちらと最後に戦った時からいくら成長していようが、さすがに彼女の実力には届かないと判断する。

 恐らく、彼女は以前こちらとの訓練で見せた補助魔法のような、オーラを纏う術を使うのだろう。

 一切の油断なく、万全を期して勝ち残る為に。


「……恐らく、この大会で唯一レイスを脅かすのは彼女、か」


 彼女には優勝への渇望がある。

 その理由を作ったのは、紛れもなく俺だ。


『リベンジする』と彼女は言った。

 この大会、優勝者には白銀持ちに挑戦するという権利が与えられ、その結果次第では自身も白銀持ちへと昇進する事も可能だ。

 冒険者ではない外部参加者ではあるが、その『白銀持ちへの挑戦権』こそがヴィオちゃんの目的だろう。

 大舞台で、こちらにリベンジマッチを挑む為に。


「さてと……レイスを迎えに行ってくるけど、二人はどうする?」

「私はここでこのまま試合を見ておくよ。レイスを迎えに行っておくれ」

「私もここで待ちます。レイス様もこちらに来るのですよね?」

「研究熱心な彼女のことだから、きっとそう言うと思うよ。じゃあ行ってくる」




「先程の戦い、見事でした。いかがです、この後の観戦を、貴賓席で一緒に、というのは」

「いやいや、某と共に先程の武について語り合いましょうぞ! 是非、是非に!」


 控室の側で、どっかで見たことのある貴族の青年達と、どこの武士だよと突っ込みたくなるような口調の剣士に取り囲まれたレイスの姿を見つける。

 それだけではない。勢い良く彼女へと迫る一団に尻込みをしているようだが、その他大勢の人間がレイスに声をかけようと殺到していた。

 だが、さすがにこういった手合にはなれているのか――


「申し訳ありませんが、私には待ち人がいるのでお誘いを受ける事が出来ません。どうか、道を開けてくださいませんでしょうか?」


 明確に道を開けて欲しいとお願いされては、足止めするのも憚れると、口惜しそうに道を開ける一同。

 それに習うように俺もサッっと壁際に立ち道を開けると、こちらに気がついたレイスがおかしそうにクスクスと笑う。

 その微笑みに、男性陣のため息が漏れ聞こえる。

 いやぁ……もう、本当に一躍有名人じゃないですか。


「どうして道を開けるんです、カイさん。私をしっかりエスコートしてください、ね?」

「ははは、ついつい。じゃあ、行こうか」


 少しだけキザったらしく手を差し伸ばし、彼女の手を取る。

 ああ、なるほど。これは牽制もかねているのかと納得し、周囲に見せつけるようにして通路を進んでいく。

 役得役得。


「レイス、初戦突破おめでとう」

「ありがとうございます。上手く隙を突くことが出来ました」

「ああ、しっかり見ていたよ。これで恐らく、二回戦からは難しい戦いが待っているんじゃないかな」

「いえ、三回戦までは危なげなく勝ち進めると私は踏んでいます。私と二回戦で当たる可能性のある選手を見るに、全員先程戦ったギルさんと同じ前衛の、それも若干実力の劣る方達です」

「……もしかして、全員の情報を集めていたり?」

「ええ。訓練施設で大勢の方達と手合わせしましたから」


 そういえば、以前彼女はあの訓練施設で長蛇の列をさばくかの如く勢いで対人戦を繰り返していた。

 まさか、その全員の名前と戦闘スタイルを覚えているのだろうか……。

 努力家。そして用心深さ。戦いに挑む者として、これ以上ない気質だ。

 もしかしたら、商売柄人の名前と特徴を覚える事が得意なのかもしれない。

 そこに生来の真面目さが加わり、彼女を彼女たらしめているのだろう。


「あの、どうしたんですか? 見つめられると照れてしまうのですが」

「いやぁ、つくづくレイスは秀才型だなぁと」

「秀才……ふふ、自分で認めるのもおかしな話ですが、確かにそうかもしれません。臆病が故に、私は人よりも入念に準備をする。自分が誇れる絶対の一がないからこそ、沢山の手段を用意する。私がこのランクに至るまで模索し続けた、私だけのスタイルです」

「んー、絶対の一なら持ってると思うんだけどなぁ」


 勝負事には関係ないと思われるかもしれないが、彼女は絶対の一を持っている。

 美しさは、夜の社交界の外でも立派な武器になりえるのだから。


「私の一、ですか?」

「その武器のせいで俺は毎日色々なものと葛藤しているんです。お察し下さい」

「まぁまぁ……顔が赤いですよカイさん」


 自分で言ってて恥ずかしい!

 お願いだから布団に潜り込まないで下さい、布団から出られなくなってしまいます。




「おかえりレイス! 初戦突破おめでとう!」

「おめでとうございますレイス様。まさか選手として登録していたなんて、驚いてしまいましたわ」

「ありがとうございます、二人共。ふふ、驚かせてすみません」

「きっと、父は今日の事を興奮しながら話すはずです。とても格好良かった、と」


 関係者席に戻ると、相変わらずそこにはリュエとアイドの二人しかいなかった。

 戦場ではすでに次の選手達が向かい合い、試合開始の合図を今か今かと待ちわびているように見える。

 選手紹介を聞くのを楽しみにしていたのだが、残念ながらそれはもう終わってしまっているようだった。

 それについてリュエに尋ねてみたのだが『聞いてなかった』とのこと。

 可哀想だろ、ちゃんと聞いてあげなさい。


「彼らはドーソンさんと同じくこの街出身の冒険者の二人ですね。お二人とも銀持ち、Bランクに昇格したばかりらしいですよ」

「何故この場にいなかったレイスの方が詳しいのか」


 情報を制するものは戦いを制するとはよく言ったもので。

 彼女はこの試合の先行きを語ってみせてくれた。

 曰く、二人共同じ剣士として切磋琢磨しているも、片方の戦績の伸びが悪く、最近躍起になっている、と。

 ならばそちらが負けるのでは? と思ったのだが――


「あ、レイスが言った通りだ。あっちが勝った」

「意地からくるオーバーワークが身にならないとは限りません。安心感からここ数日対人戦を怠っていたが故に、油断が生まれたんでしょうね」


 実力で劣っていた方が勝つ、という彼女の読みが見事的中するのであった。


 そして順当に初日の試合が執り行われ、レイスが言うように二回戦で当たる可能性のある選手達の戦いにはとくにこれといった見どころもなく消化されていったのだが、本日最後の試合となる第四試合でその流れが変わることになった。


『さて、ここで登場するのはヴァン・フィナルだ。昨年度、惜しくも準決勝の試合に出られず不戦敗に終わってしまったが、今年はどうなる!』

『情報によりますと、彼は一度Aランクに昇格した後にBランクに降格したという経緯があるようですな』

『今大会においては、不気味なほど静かに勝ち上がってきたが、そろそろ本領発揮と相成るか!』


 現れたのは、恐らく上位魔族と思われる一人の若い男だった。

 レイス同様、小さな羽を背中から生やし、羊のような巻角を生やしたその出で立ちは、どことなくアーカムを彷彿とさせる。

 ……ふむ、家名が『フィナル』か。

 確か、アーカムのミドルネームも『フィナル』とあったようだが……。


「フィナルといいますと、恐らく旧王家の流れを組んでいる方かもしれませんね」

「む、王家っていうのは滅ぼされたんじゃなかったっけ? オインクがやっつけたんだよね?」

「オインク様ならびに革命軍の方々が排したのは、王家と近しい一族のみ。遠縁の人間と、革命軍に協力した当時の公爵は見逃されたはずです」


 となると、もしかしたら彼は……アルヴィースの街からやってきたのだろうか?

 アーカムが自分と同じような境遇の人間を、側に置いておかないはずがない。

 ふむ、だが残された魔族は俺がしっかりと説得したので、もうおかしな問題は起こさないはずだが……。

 そう考えているうちに、試合開始の合図がなされる。

 だが――その数瞬の後に、試合終了の宣言がされるのだった。


「……『ゲイルピアサー』か。剣術を使った選手は今日の中だと彼が初めてだな」


 片手剣用剣術『ゲイルピアサー』。超高速突進系の刺突技。

 移動距離が長く、また発動速度が全剣術中二位という性能を誇り、ゲーム時代は攻撃手段だけでなく、移動用として使う人間も多かった技だ。

 その半面、威力が極端に低く、クリティカルヒットを狙うか、相手が弱点を露出した瞬間に当てないと満足にダメージが出ない技だ。

 だが――この世界ではどんな威力設定が低い技でも刺突は刺突。

 試合開始の宣言がなされたそのすぐ後には、頭を串刺しにされ、一気に体力を失った選手が残されただけだった。

 いくら致命傷は体力の消失に変換されるとはいえ、眼前に迫る剣の恐怖は相当なもの。

 剣を引き抜かれた跡すら残らず、外傷もないにも拘わらず、攻撃を受けた選手はその恐怖からか完全に気を失ってしまっていた。


「そこそこ速かったね、今の人。うーん、上手だね」

「恐ろしい……私には何が起きたのかすら分かりませんでした」

「このまま行けば、レイスとは三回戦で当たるな。思わぬダークホースというべきか、ノーマークだったというべきか」


 レイスは彼の存在を知っていたのだろうか?

 彼女の反応を窺ってみる。

 すると、彼女の顔に浮かんでいたのは強い警戒の表情だった。


「昨年、不戦敗と言っていましたね……昨年度の準優勝が誰だったか、カイさんは知っていますか?」

「確か決勝でアルバに負けたのは――そういうことか」

「ええ。恐らく、彼は元アーカムの信奉者でしょう。それも――本来なら準優勝を果たす程の実力者」


 昨年度の準優勝者は、アーカムの実の娘であるジニアだ。

 そして……彼女が不戦勝で決勝に出場したのは、恐らく偶然ではないのだろう。

 これは、ひと波乱起きそうな予感がするな。


「……まぁ、私が負ける事はありえません。慢心でなく、これは自信です」

「そこまで断言するとなると、秘策ありってところかね」

「ふふ、期待していてくださいね」


 うーん、レイスが活き活きしていてお兄さん満足です。


ー(´・ω・`)ー そんなー

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