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十六話

 細かい描写が必要な戦闘回がやってくる事がこの先あるのだろうか

 その日は、朝から街全体がそわそわとしていた。

 宿の主人はしきりに宿泊者である冒険者達に話しかけ、彼らもいつもと違い、トゲのあるあしらい方をする。

 外では行商人が南側の区画へと向けて一斉に移動をし、領主の私兵と思われる同一規格の鎧に身を包んだ者達が誘導をする。

 いよいよ、魔物の氾濫が始まった。


「じゃあカイくんは今回、街の中の警備なんだね」

「ああ、万が一があるからな。みんな外にばかり目を向けているからこそ、だ」

「確かにね。じゃあ私も……」

「リュエは外で戦ってくれ。そっちにリュエがいるってだけで安心感が段違いだ。それに、回復魔法が使える人間は多い方がいい」


 そんな建前で言いくるめ、リュエを外へと向かわせる。

 大丈夫、リュエがその気になれば、街の入口を氷で封印する事だって出来る筈だ。

 まぁその時は何人も氷漬けになってしまうが。


 街の中では既に、南北を両断するようにバリケートが貼られている。

 建前上は『万が一でも魔物をソルトバーグへと向かわせないため』だそうだ。

 北側は既にゴーストタウンと化しているし、俺もぼちぼち向かう事にしようか。



 一人、閉じられた北街門の外に佇む。

 そしてアビリティを念のため、広範囲の索敵が可能なアビリティをセットする。


 『五感強化』

 『気配察知』

 『ソナー』


 この3つがあれば何か有ってもすぐにかけつけられるだろう。



 そういえば、以前リュエが冗談で言った『シチュエーション』に似ている事に気がつく。

 それがついおかしく、こんな状況なのに笑いがこみ上げてくる。

 別に気負う理由なんてない。

 この世界に来てすぐの頃ならまだしも、既に俺は自分の力がどれ程の物か理解している。

 一方向からしかこない敵の相手なんて、どうってことない。

 ……ただし数による。


「というか、鉱山の出口を崩してしまった方がよかったんじゃ」


 あーでもそれをすると万が一にでも、別な知らない場所から溢れてきてしまうかもしれないし、これが正しいのかね?


「ん、そろそろ始まったか」


 かなりの距離があるが、街の反対側からかすかに声が聞こえ始める。

 そして、足元から感じるに微かな揺れ。

 これは想像以上の大群かもしれないな。












「第一陣はランクD以下の遠距離攻撃手段を持つ者だ! 既に決められた班ごとに持ち場につけ!」


 自分と同じエルフ族の老人、クロムウェルの指示に従う冒険者たち。

 彼の人望はすさまじく、規律の厳しい軍隊でもないのに皆きびきびと動いている。

 私も魔導師だが、割り振られた役目は遊撃。

 一定以上の実力者は、広範囲で活動し軍団の中に司令塔とおぼしき相手を見つけたらそれを叩くようにと言われている。


「後のことを考えなければ、一斉に凍らせてしまえるのにな」


 そうすると最悪、この街が外部と絶たれて後ろに続くソルトバーグごと滅んでしまうかもしれないので却下。

 とりあえずうん、ちょっと離れた場所の地面を全て凍らせておいてしまおうか。

 私は周りに気が付かれないように、カイくんにもらった剣を大地に突き刺し"魔導"の行使をする。


「魔に背きし者に永久の罰を"コキュートス"」


 久しぶりに短い呪文を唱え、少しだけ本気で魔導を行使する。

 これで、遥か彼方にいる魔物の軍団の進行は遅れる筈。

 あえて威力を抑え、時間経過で溶け出すようにする事で、地面の滑りを良くした。

 さあころべころべ。


「お、アンタも遊撃か?」


 少し離れた場所にいた筈だが、いつのまにか近くに他の人間がやってきていた。

 見れば、酒場でカイくんに注意された子達のようだ。

 なんだか妙に馴れ馴れしいが、私はカイくんと違ってこの子との接点はないはずだ。


「まぁね」

「へぇ、じゃあ結構やるんだな。あんたの名前は?」

「リュエ。君が先に名乗るべきだったと思うんだけどね」

「ああ、そうだったな。俺はレン。こう見えても解放者なんだぜ?」

「……解放者、ね」


 ちょっとだけ不満が漏れそうになる。

 その称号は、他の誰でもないカイくん『解放者カイヴォン』の物だ。

 それを、私達の封印した七星を開放しているだけの人間に名乗られるのは、正直気分の良い物じゃない。

 それに何より、何故彼は先程からニヤついているのか。


「驚かないんだな」

「ミーハーでもないからね。それで、他に用事がないならそろそろ他の場所に行くべきじゃないかな」

「なぁ、リュエは一人なのか?」

「呼び捨てを許した覚えはないよ坊や」


 もう話す事はないと、自分からその場を離れる事にする。

 というか、遊撃だしもっとあちこち回ったほうが良いんじゃないかな?

 それとも彼にとって遊撃の"遊"は遊び歩くの遊なのかな?


「さっきから聞いてたら、その態度は何よ? 用事があるから話しかけてんでしょ!」

「悪いね、私は誰にでも愛想をふりまくタイプじゃないんだ。じゃあ要件を聞こうか」

「まぁ落ち着けよ。リュエさん、よければ俺達と一緒に戦わないか? 遊撃の人間は少ないし、一人で動きまわるとさすがに危ないだろ」

「提案ありがたいけど遠慮しておくよ。じゃあ私はこれで」

「なっ、俺達といたほうが安全だって言ってんだぞ!?」


 悪い子じゃないんだろうけど、ちょっと世間知らずなんだろうか?

 ……私だって余り知ってるわけじゃないけれども。

 ちょっとだけ気合を入れて、身体に魔力を巡らせる。


「……レン、この人私より魔力ある。一人でも大丈夫っぽい……」

「マジで? なぁ、あんたもしよければ、この戦いが終わったら――」

「私にはもう仲間がいるから、その先の言葉は話さなくて良いよ。ではね」




 少し大人げなかっただろうか?

 でも、思いの外"解放者"と言う言葉に不機嫌になっていたみたいだ。

 我ながら、少しカイくんに依存しすぎている気もしないでもないけれど、仕方ないよね。

 何せ、私はもう彼の事しか頭にないのだから。


「終わったらまた一緒に街の中見て回りたいな……」





「見えてきたぞ! 魔物の大群だ!」

「前方に見えるのは……ウルフゾンビです! 魔物がアンデッド化しています!」

「この真っ昼間なのにか!? どうなっているんだ!」


 俄に慌ただしくなる戦場に、少し気分が高揚してくる。

 こうして沢山の人間と一緒に大群を相手にするなんて、いつ以来だろう?

 つい、昔の私の役目を思い出してしまう。


「あの鎧があればなぁ……」


 封印してしまった防具。

 絶大な防御を誇り、幾度と無く敵の攻撃を耐えしのぎ、仲間を守った私の分身とも言える装備。

 とある場所にしまったきり、二度と取り出す事の出来なくなってしまったソレ。

 けれども、今の私のローブでも十分に攻撃を耐えられるはず。

 直ぐ様自身に防御の魔法を行使する。


「"ダイヤプリズン""ミラーズキャッスル""ハンドレッドウォール"」


 自身の身体を極限まで硬化し、魔術から魔導まで全てを反射するフィールドを纏い、さらに前方に100の魔障壁を展開する。


「私が敵の勢いを殺す! 皆はその隙に遠距離攻撃を!」

「んな! なんだあの障壁の数は!?」

「馬鹿な、王伝魔法だと!?」


 オウデン魔法? 始めて聞く名前だ。

 私の知らない魔法が生まれたのかな?

 終わったら調べてみようか。


「敵、魔力障壁に接触しました!」

「撃てえええええ!!!!」


 一斉射撃の様子を確認し、直ぐ様魔力障壁の範囲外から回り込もうとする魔物へと向かう。

 背後からの誤射も、反射出来るので問題ない。

 ……反射で怪我をしてもその時は自分を恨んでおくれよ?


「さぁ、久々の接近戦だ!」







 暇だ。

 敵なんてどこにもいないじゃないか。

 もしかして廃鉱山の中で崩落でも起きて、こっちにこられなくなったんじゃないか?

 既に戦いが始まって一刻程。次第に南側の攻撃音も少なくなってきているように思える。

 これは本当に――


「魔物だああああああああああああああああ!」


 その時だった。

 明らかに街の反対側よりも近くから叫び声が上がった。

 間違いない、これは街の中からだ!


「くそ、まさか横の坑道に繋がったのか!?」


 閉鎖された街門へと一気に飛び乗り声のした方へ目を向けると、スロープ状の道を行軍してくる魔物の大群が目に映る。

 ……あれは、確か俺とリュエがアンデッドを封印した廃鉱山だ。

 あそことつながっていたのか!?


「くそ、間に合えよ!?」


 移動速度を上げるアビリティ構成にし、そして少しでも速度を上げる為にステータスを底上げする方法を取る。

 そう『あの姿』だ。


「羽根なんだし滑空くらい出来るだろ」


 以前使った『フレイムフェーン』で上昇気流を生み出す。

 闇魔法のお陰で熱さを感じないのにも関わらず、何故上昇気流が発生するのか謎だが今は関係ない。

 直ぐに羽根を広げて高く飛び上がる。


「うお! 不謹慎だけど楽しいぞ!」


 ハングライダーを思い出す浮遊感と風の抵抗を感じながら、坑道へと向かう坂道の中腹へと飛ぶ。

 そしてそのまま剣術を発動する。


「"ウェイブモーション"」


 初級剣術ウェイブモーション。

 本来片手剣の技であり、貫通する低威力の波動を剣から生み出す技。

 貫通こそする物の、片手剣故にその攻撃範囲はたかが知れているが、その分手数が多い。

 だが、そこは奪剣。

 攻撃範囲は武器によって異なり、もちろん長剣と同じ範囲を持つこの剣にもそれは反映される。

 横幅3メートルにも広がった波動を打ち出しながらも剣の向きを変え、広範囲をカバーしながら数を減らす。


「そ、空から魔族!?」

「嘘!?」


 坂道の下で見張りをしていた冒険者の声を背後に、指示を出す。


「ギルドランクEXのカイヴォンだ。緊急時につき命令を出す。直ぐ様街の中の冒険者を坑道の前へと配置させろ!」

「黒持ち!? 本当にいたんだ……」

「了解した! 住人の警護はどうする!?」


 念のため他の坑道の警戒をさせるが、余り人数を割いては住人の警護に不安が出る、か。

 領主の兵と連携が取れればベストだが、俺にその権限がないし、そもそもEXランクにも命令権なんて物はない。

 ただ、ギルドの職員と同じ権限を持てると言うだけだ。

 一応貴族並の権力もあるらしいがこの場では何の役にも立たない。


「坑道は最低限の見張り程度で良い。住人は今街の南側だな?」

「ああ、領主の私兵団駐屯地にいる」

「領主も恐らく気がついているだろうが、念のため連絡してくれ。それと、この場に援護はいらないから背後に念のため控えさせておいてくれと」

「一人で大丈夫なのか……?」

「大丈夫だ、問題ない」


 すでに魔物の第二陣が向かってきている。

 幸い空を飛ぶ相手はいないが、道を無視して斜面を滑り降りて来る奴が何匹かいる。

 打ち漏らさないように俺も後退し、滑り降りた魔物を待ち構える。


「……こいつら、アンデッドじゃないぞ」


 見れば、坑道で見かけたレアワームの色違いやら、リュエのいた森にいた狼型の魔物の色違いばかり。

 しかし、よくみるとその瞳が怪しい赤い光を放っている。


「強化……というか狂化だなこりゃ」


 動き出す前に再び剣を振るい先制攻撃を仕掛ける。

 その一撃で身体を引き裂かれ、今度は道なりに降りてきた一団と相対する。


「さぁ、通れるもんなら通ってみろよ」

 弱い者いじめを細かく描写すればいいんだ(錯乱)

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