プロローグ1
軽い気持ちで読んでくれれば幸いです。
それぞれの職場という名の戦場から解放された人々が集う居酒屋で、俺は久方ぶりに二人の友人と『現実で』顔を合わせていた。
目の前にいるのはいずれも男。
長い付き合いだが、それぞれの道に進んでからは滅多に顔を合わせる機会もなくなっていた。
「明日でいよいよ終わりだな『グランディアシード』」
ジョッキに残っていたビールを飲み干し、ぼやくように、しみじみとそう漏らす。
「ぶっちゃけ今回もサービス終了詐欺だと思ってたわ」
「まぁ、過疎に過疎ってる上に当初からクソゲー扱いだったしな」
返答する二人もまた、少しだけ声のトーンが低く、力ないように聞こえる。
先程『現実で』と言ったが、俺を含めたこの3人は、いずれも『グランディアシード』と言うオンラインゲームをプレイしていた。
離れていてもコミュニケーションがとれて、さらに一緒に遊べるこのゲームは、3人ともゲームが好きだった事もあり、長い間プレイしてきた。
だが、今言ったようにこのゲームは、クソゲーと呼ばれていた。
「戦闘に関してだけは未だに最高峰だと思うぞ、俺」
俺……自己紹介が遅れたが、俺の名前は『仁志田 吉城』
自他共に認めるゲーム好きだが、そこまで上手だってわけじゃない、ただゲーム好きなだけだ。
ただ、膨大な時間を注ぎ込んだだけは有り、それなりに上位には食い込んでいると俺は思っている。
まぁ、過疎が極まった今となっては、自分がどれくらいの腕前なのか比較対象がほぼいないのだが。
「チャットツールと化してたしな、ウチも"久司"も」
「吉城だけじゃね? 未だに育成してたの」
「普通に戦うのが楽しかっただけなんですがそれは」
オフライン一人用ゲームにも劣らないアクション性にどハマりした俺は、人が楽しそうにチャットしていても、何かユーザーイベントが開かれていてもひたすら戦っていた。
それだけ面白かったのだ。
だが……
「それも明日で終わりだからなー」
「移住先どうするよ? 久司は何か良いのしらない?」
「俺あんま情報とかあつめてねーからしらね。"一樹"は知らないのか?」
普段、あまりサブカルチャーに興味を示さず、このグランディアシードくらいしか触れていない久司が、もう一人の友人"一樹"に話をふる。
こちらは久司とは逆に、どっぷりとサブカルチャー、ゲームやアニメ、そしてネットに慣れ親しんだ男だ。
なお俺はどちらかと言うと久司寄りで、グランディアシード以外のゲームにはそこまで夢中になっていない。
と言うのも、俺の年齢がもう四捨五入したら三十路に突入してしまう所為もあるのかもしれない。
「俺は後半まったり勢だったからな、正直会話が見やすいならどこでもいいわ」
まったり勢――早い話がのんびりしてる人。
確かにアップデートもされず、ただ戦う事しか出来ない世界では、娯楽の代わりにのんびり会話、というのが通説だった。
俺も会話は好きだが、それでも戦うのが楽しいので比重が下がる。
その結果、ゲーム内での俺の評価は『戦闘狂』や『求道者』そして某巨大掲示板にすら名前がのってしまっている。
一部ではBOT(業者の組んだマクロ、簡易システムのような物)やNPC説まで流れているとか。
「ま、今日のメンテ終わったらログインしようぜ。チームの連中とも相談したい」
「だな。じゃあそろそろラストオーダー頼むか」
「吉城まだ飲むのかよ……じゃあ俺も」
「お前ら……じゃあ俺はカルーアミルクで」
「「女子か」」
Kaivon:おっすおっす
帰宅後、早速ログインをし挨拶を一つ。
チーム内チャットではこんな風に明るく挨拶をしているのだが、周囲からはそう思われていない。
まぁ、今じゃ周囲に人がいることすら稀なんですけどね。
Kaivon:ありゃ? SyunとDariaは?
Oink:二人はまだきてないわよー
Kaivon:マジかよ……ホテルで無線LAN使えないとか?
Oink:3人でオフ会とかうらやま
ゲーム内チームには、今日も俺達以外に一人しかログインしていない。
明日にはサービス終了なのだし、少しくらいログイン数が増えても良いとは思うんだけどなぁ。
あの二人は、態々休みに地元まで戻ってきていた為、恐らくホテルからノートPCで接続する筈だ。実家に戻りゃいいのに。
ともあれ、そうなればこの寂しいチームチャットもマシになる筈だ。
Syun:ばんわ
Daria:こんにちは > 皆
Kaivon:お、きたな?
Dariaが先ほどまで一緒に飲んでいた友人の一人、久司。
20年以上の付き合いの友人だが、ゲームに誘っていざログインしてみると、こいつの知られざる性癖を思い知る事となった。
キャラクターの外見は、典型的にエルフ娘。
だが、ロリだ。金髪ボブカットエルフ幼女だ。
まぁ、なりきったりネカマだったりもせず、本当に素のままの自分をさらけだしているせいで違和感が凄いが。
そしてSyunがもう一人の友人一樹。
俺と久司は小学生からの付き合いだが、こいつはかなり後、このゲームのサービスが始まってからの付き合いだ。
ちょっとした会話の流れで同郷だと分かり、オフ会……まぁ3人だけだが、それがきっかけで今でも良い友人だ。
彼は現実世界の自分に出来るだけ似せてキャラを作っており、ヒューマン(人間)の男性で、背が低い、一歩間違えれば少年にもみられそうなキャラクターだ。
まぁ、髪色は白色と現実ではちと見慣れない物だが。
その後、Oinkを含めて移住先を相談したり、ログインしてこないチームメンバーの事を話したりしていた。
恐らく、明日……というかもう今日だが、夕方辺りからログイン数は増えるだろうという話だ。
それまで俺はどうするか。
モニタの中で、一人の剣士がひたすら敵を切りつけ、その死体から何かを吸い出す。
俺は他人に趣味武器と呼ばれている『奪剣』と言う武器をずーっと長い間つかっている。
攻撃力は初期のロングソードが15に対して25しかない。
チュートリアルの報酬で貰えるような、そんな威力しかない。
だが、この剣は一応、このゲームに設定されている15段階のレアリティの中で、最高峰の15を冠している。
そして、この武器を手に入れる事で転職可能な『奪剣士』というジョブだ。
Kaivon:おいおい、明日で終わるからって運営なんかしたのか?
Oink:なになに? 何かあったのぼんぼん
Kaivon:さっきからアビリティ吸収が成功しまくる。今ソロで"ダスタードラゴン"のレア種ぶっ殺したらゲット出来た
Oink:まじかよ!
Kaivon:口調
Oink:べべべ、べつに素でてないし
この剣の特徴は、倒した敵の能力をランダムで1つゲット出来ると言う物。
それを幾つまでストックする事が出来るか定かではないが、俺は今までずーっとこの剣で戦っており、倒したボス級の敵の数だけで優に万に手が届く場所まできている。
にもかかわらず、これまで手に入れたアビリティは165個。そして今、166個目を手に入れた。
一見すると、とてつもない武器に思えるかもしれないが、一度に効力を発揮出来るのは8つまで。
元々の攻撃力の低さを補う為に数値やダメージにボーナスを与える構成にすると、自由に能力をつけかえられるのは2枠程度しかない。
今の構成はこんな感じだ。
攻撃力+15%
与ダメージ +10%
クリティカル率+25%
連撃の追刃
魔刃
アビリティ効果2倍
滅龍剣
氷帝の加護
『攻撃力+15%』は幸い、武器を装備した最終ステータスにかかる補正。
このお陰で最終的なステータスは一般的な武器にやや劣る程度まで引き上げられている。
さらに『与ダメージ+10%』のお陰で、相手の防御力にあまり左右されずに威力の底上げが出来るので、他人(一般ユーザー)に引けをとらないダメージを与える。
『クリティカル率+25%』は説明不要だろう。
さらに連続で攻撃を決めるとダメージが伸びる『連撃の追刃』と攻撃の後に魔力の刃が追加ダメージを与える『魔刃』
さらに俺が手に入れたアビリティの中で一番のレアリティを誇るのがこの『アビリティ効果2倍』だ。
これを取得した瞬間、俺の時代がきた! と興奮したものだ。
だが……一般的な武器にもアビリティってついてるんですよね。
例として『攻撃力が980の武器に与ダメージ+10%とアビリティ効果2倍』がついていたら、もうその段階で俺の与えるダメージなんて簡単に追い越されてしまう。
今のは極端な例だが、本来アビリティは完全にランダムで付与される物なので、大いにありえる……というかそういう神武器はオークションにかけられてたりする。
なので、俺が手に入れたところで別に、俺が最強になる、なんて事はない。
まぁ、それでも8つ中7つに効果が適用されるのはかなり大きいのだが。
しかしこの2倍は、数字が設定されているアビリティにしか効果を発揮してくれない。
例えば今装着している『滅龍剣』はドラゴンに対して与えるダメージを1.5倍にするという物だ。
だが、別にこの効果が上がる、なんて事はない。
『氷帝の加護』に至っては攻撃の属性を氷にかえるだけの物。倍にしようがない。
まぁこんな具合で、労力の割に合わないのがこの『奪剣』正式名称『奪剣ブラント』なのだ。
で、今回ダメ元で最上位の竜種のダスタードラゴン、今回は亜種の"ネクロダスタードラゴン"に挑んだ結果、未修得のアビリティを手に入れたのだ。
途中、既に習得していたアビリティを何度も習得してしまい、おかしいと思っていたのだが、もしかしてと挑んでみた結果、まさかの最上級モンスターからの習得だ。
そのアビリティはこうだ。
『簒奪者の証(龍)』
『七星の一、滅龍から全ての技を奪った証』
『ドラゴンからのダメージ半減 ドラゴンを倒した際の取得経験値10倍』
中々にぶっ壊れている。
ダメージは増えないが、それでもこの効果はかなり大きい。
基本的に、俺の装備は見た目重視でお世辞にも防御力が高いとは言えない。
まぁ基本は「避けて殴る、食らったらアビリティ付け替えて回復」なのだ。
一応攻撃でHP吸収という一瞬凄そうなアビリティもあるのだ。
まぁ、実際は凄くないが。
Kaivon:という効果なんだけど、どうよ?
Oink:……微妙じゃない? もうぼんぼんカンストしてるじゃない
Kaivon:そうなんだよなぁ……けど名前的に大ボス全部にこれ系のアビリティあるんじゃないかって思うんだけど
Oink:ありえるわね……よーしじゃあぶぅぶぅ先にどっかボスエリア確保しておこうかしら?
Kaivon:マジか! じゃあそうだな……ヒヒイロセンキの城にマーカーだしといて!
Oink:了解よー
これは最後の最後に、面白い事がおきそうじゃないか!
誤字脱字は気が向いたら報告して貰えると助かります。
そして誤字脱字は気が向いたら修正します。




