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百八十九話

(´・ω・`)発売までもう少しだぞー みとけよみとけよー

 数度。二桁にも届かない回数リシャルの攻撃を受け止めただけで、俺が丹精込めて作り上げた闇魔剣の刃に亀裂が入り始めていた。

 薄々嫌な予感はしていたんだよ。実験の際、最後に俺の奪生……ああもう、毎度毎度名前が変わって面倒だ、もう奪剣でいいや。

 ともかく、奪剣であっさり切れてしまった闇魔剣だが、それは恐らく俺の剣に『神』の属性が付与されていたからだろう。

 防御を半分にしてダメージを計算するという特製を持つ『神』属性。その効果をまさかこういう形で実感するハメになるとは思わなかった。

 そして――今俺が対峙しているリシャルが持つ槍の名前は『神槍フリューゲル』恐らく、あの槍も『神』の属性を宿しているのだろう。


「直接の打ち合いはあまり続けられそうにないな」


 魔力を込め剣を修復する。しっかりと練ったものではないので、あくまで応急処置。

 だがそれでも、常に放出し続ければある程度はもってくれるはずだ。

 リシャルは槍を構えたまま、腰を少しだけ低く落とす。

 何か仕掛けてくると、こちらも闇魔法を周囲の地面に展開し待ち構える。


「……便利な魔術だな」

「使えるものはなんでも使う主義でね」


 次の瞬間、彼の姿が掻き消える。

 手が動く、自分の頭上へと。


「……見事」

「な? 相手の行動をある程度限られたものに出来るんだよ」


 闇に足を取られるのを嫌い、空中からの攻撃にシフトチェンジするであろうと読んだからこその防御。

 そして再び嫌な音をさせながら、剣に亀裂が入る。

 攻撃を受け止められたリシャルは、またしても不可思議な軌道を描きながら中空へと逃れ、そのままこちらの背後に着地した。

 その瞬間を見計らい、こちらから切り込む。


 どうせ折れるなら、自分で折ってやる。そう意気込みながら、二箇所への同時攻撃を放つ。

 手のひらに確かに伝わる手応えと、一瞬で再び距離を取る相手。

 離れた彼の姿を見れば、確かにグリーブの部分と肩口に傷が刻まれていた。

 ……全身鎧ってのは狙う箇所が限られててやりにくいな。

 俺も人の事言えないけど。

 リシャルは自分が受けた攻撃に不可解な点を見出したのか、その表情を一層警戒したものにする。

 そりゃそうだ。剣一本振られただけでこの結果だ。そっちもさっきからおかしな事してるんだし、おあいこだろう。


「……面白い!」


 目が慣れてきたからか、槍の穂先がこちらに向かう瞬間を捉え始める。

 そこめがけて剣をふるい、同時に彼の鎧の空いている部分、首へと向けて刃を向かわせる。

 二箇所同時攻撃の応用。防御と攻撃の同時発動。

 うまくいけと、この一撃が通ってくれと祈りながらの発動は――キンキンと金属音が二度鳴り響き、見事に防がれていた。


「やはりそうか。二箇所への斬撃。ならばこう対処するのが必然だろう」

「……点と点を結べば線、か」


 槍で受けた剣。そして槍の石づきでもう一方の攻撃を防がれる。

 理論上、その通りだろう。

 二箇所への攻撃ならば、長いものをその終着地点に置くことにより、一回の防御でそれを防ぎ切る事が可能、と。

 いやいやいや、無理だろ普通。


「最強の称号、この身に余る過分なものだろう。だがそれでも、これくらいせねば示しがつかん」


 一瞬の驚き、その理論値をそのまま叩き出すような技量に一瞬だけ隙を見せてしまい、大きく弾き飛ばされてしまった。

 腹部への衝撃が鎧を伝わり手足へと至る。

 奥の手がこうもあっさり防がれると、さすがに――


「……いや、先に攻撃をしてきたのはあっちなら、最初から二箇所に槍が来るように置いていなかったはず」


 となると、攻撃を受けた刹那に槍をずらし、二撃目を防いだ事になる。

 0.1秒にも満たないであろう猶予に防御を滑り込ませるという人外じみた反応速度。

 だが……俺の攻撃は同時のはずだ。

 思えば、防がれた音が二度聞こえたのがおかしいのだ。

 考えられるのは……こちらの精度か。


「……そうか、鎧の分か」


 そういえば、この鎧姿で練習してなかったっけ。

 いくら装備していてもあまり重さを感じない化物スペックの身体でも、多少動きの阻害にはなってしまうようだ。

 ……いやでもここで脱ぐ? さすがにちょっと恥ずかしいような。

 ええい、脱いでしまえ。

 固定してあるベルトをすべて外し、手早く鎧を脱いでいく。

 大丈夫、中にちゃんと服着てるから。薄着だけど。

 そして急いでいつもの冒険者装備一式を身にまとう。

 律儀に待ってくれているリシャルさんに目を向ける。

呆れていると思いきや、より一層警戒を強めていた。

何故に? 今凄く間抜けな絵面ですよ俺。


「……自分でやっておいてなんですが、凄く間抜けでしたよね俺」

「それも、何かの作戦か?」

「そうですね、普段こんな鎧着て戦わないので本調子じゃありませんでし――」


 駆け寄り、そのまま再び全力で剣を振るう。

 そして――防がれる片方の斬撃。届くもう片方の斬撃。

 確かに宙を舞う金糸のような彼の髪。そして目にしっかりと映る、髪と同じ色の見開かれた瞳。

 ……防げないだろ。

 さらにギアを上げるようにして連続で打ち込む。

 袈裟、逆袈裟、足首、首筋、手首、槍を握る親指。

 全て、全て同時に他の部位への斬撃を伴う連続の攻撃。

 防がれる。それでも防がれる。幾度となく鳴り響く金の音。

 だがそれでも、確かに刻まれていく彼の鎧への傷。

 輝きが、白銀の輝きが鈍りを見せ始める。

 腕がちぎれ飛びそうな程連続で振るう。

 呼吸を忘れ、今この一瞬だけが勝機の全てだと言わんばかりに攻め続ける。


「ぐぬ……ハァ!」

「っ!」


 鎧の防御に全てを任せるようにして、彼が強引に槍をふるいこちらを弾き飛ばす。

 その衝撃の所為か、それとも彼の鎧が相当な業物だったせいか、こちらの闇魔剣に再び大きな、今にも折れてしまいそうな程の亀裂が走る。

 ……応急手当してもここまで来るとすぐにダメになりそうだな。


「セア!」


 一瞬剣に意識を向けた瞬間、暴風と共に光の刃がこちらを襲う。

 咄嗟に闇魔法の壁を作り出し、それを足場にしてさらに高く飛び、ようやく彼の鎧に覆われていない部分、頭部への攻撃機会を得る。

 今の攻撃は『聖騎士剣クレッセントシェイバー』聖騎士固有の技の中でも、最高クラスの威力を誇る飛び道具。

 間違いなく、こちらを打ち取るための渾身の一撃だ。

 だからこそ、上に飛ぶ。上空に逃げるのは悪手だ。だが、相手に絶対的な隙が生まれると確信しているのなら、それは間違いなく英断だ。


「……そろそろ、終われ!」

「それはそちらだ!」


 その瞬間、二撃目のクレッセントシェイバーを全身に浴びてしまい、大きく吹き飛ばされる。

 ……おかしいな……あの攻撃、使用後の硬直が全技中もっとも長いはずなのに。

 この世界に来てから初めて味わう、全身を貫くような痛みと痺れに意識を奪われそうになる。

そしてゆっくりと近づいてくる地面を見つめながら、意識を塗り替えていく――






「バカな、ありえない!」


隣で戦いを見つめていたリュエが、投影された戦況を見つめながら声を張り上げる。

カイさんが致命打を受けた。けれども、私は彼が最強であると同時に、ただ力を持つだけの、普通の男性だという事も知っている。

決して、完璧な存在ではない。力を持ちながらも普通の人のように訓練を積み重ね、自分の成長に一喜一憂して、楽しそうに日々を過ごすそんな人だと知っている。

ただの人として、自分より格上の相手に挑むのなら、今のような光景が広がるのも十二分に予想出来たこと。

 けれども、そこに敗北への懸念はない。彼は、ここで折れる人ではないのだから。


「リュエ、カイさんならきっと大丈夫です」

「あ、うんカイくんは大丈夫だろうけど……あの技は……連続で出せるものじゃないんだ」

「あの、技?」


『ありえない』というのは、カイさんではなく、リシャルさんの技への事だったようだ。

 私の目から見ても、速度、範囲、そして発生の速度が凄まじいと見受けられた技。

 同じ聖騎士だからこそ、彼女はその技の真価を、特性を熟知しているのだろう。


「あの技は、身体に掛かる負担を逃がすために打ち出したらそのまま身体を回転させて勢いを殺さないといけないんだ。一撃必殺、カイくんの『天断』みたいに発動に手間が掛からない分、使った後にその反動がくる技なのに……」

「けれども、二連続でしたよね……それがおかしいと」


 先程から、時折彼が見せていた不規則な軌道。不自然な空中での姿勢変更。

 それらを含めて、なにかカイさんもリュエも知らない力を、まだ隠し持っているのでしょうか。

 強い。そして上手い。間違いなく歴戦の強者。カイさんやアーカムとも違う、リュエ寄りの強さを持つ相手。

 つい、自身の肩を抱く。私も、あんな戦いがしたいと。あの域に足を踏み入れたいと。


「な、なぁカイさん起き上がらねぇぞ! もうカウント始まってるぞ」

「あの一撃を受けたらさすがにおしまいよ……おじいちゃんの遺言は達成出来そうに――」


 隣の席にいるイルさんとドーソンさん達が、どこか諦めたような口調でそう論じる。

 オインクさんもまた、心なしか不安そうに戦場を見つめている。

 けれども、一人だけ睨むようにして戦場を見つめている人がいた。


「……あの程度の攻撃で沈むようなら、私はお兄さんに負けていないよ。みんな、お兄さんがどれくらい異常なのか、分かってない……直接一撃入れた人間じゃないと、絶対に分からないよ」

「ヴィオ様? リシャル氏はこの大陸最強の冒険者という話ですが」

「私だって、一撃の重さならサーディス随一だって自負してる。その私の攻撃を、三度以上受けてもあのお兄さんは立っていた」


 彼女の言葉に、かつて私が見た訓練場での一幕を思い出す。

 練習用の人形を、まるで内部から爆発させたかのように粉砕した一撃。

 私も見よう見まねで使うことが出来る体術を突き詰めたかのような一撃。

 それを……耐えるのですか、カイさん。


「……これは、マズいですね」

「総帥さん、大丈夫だってば。お兄さんは攻撃より防御の方が――」

「そうではありません……お願いしますよぼんぼん……キレないでくださいよ……」


 確かにそっちの方が心配です。

 ゆらりと、カイさんが立ち上がる姿が映し出される。

 あ……これはもう、ダメかもしれませんね。


「あ、カイくんの目の色が変わった」


 比喩表現ではなく、本当に目の色が変わってしまったカイさんが立ち上がったのでした。


(´・ω・`)

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