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百八十三話

(´・ω・`)おまたせ

「……ステータス差ってのは、残酷だな」


 閃光が収まる。今も目の奥に焼き付き、視界がぼやける中、それでもその光景が飛び込んでくる。

 フィールド上空のスクリーン。そこには確かに、試合の決着を示す光景が映し出されていた。

『私に傷を与える事が出来たなら』それが彼女の提示した、アルバの勝利条件。

 彼の二刀の一撃は、それぞれしっかりと『大地烈断』を発動させていた。

 閃光の中、それでもこの目が捉えた一瞬の交差。その中で確かに彼の一撃は、リュエへと届いていた。

 リュエの二刀の攻撃は、片方しか技を纏っていなかった。だからこそアルバの二刀の一撃が彼女へと届いたのだろう。

 だがあの技は特殊なダメージ計算が行われる。ステータスの差は絶対であり、それはゲームではないこの世界でも例外ではない。


『こ、これは! アルバ殿の攻撃は確かにリュエ殿に届いております! しかし――』

『……ええ。残念ですが彼女へのダメージには至っていませんね』


 かつて、俺は今解説しているブックさんの拳を受けた事がある。

 その時も、俺は一切の痛みを受けず、痣すら出来なかったという事があった。

 つまりそう、アルバの攻撃力が、リュエの防御力を上回る事が出来なかったからこそ、この結果へと繋がったのだろう。

 そして、攻撃を放った体勢のまま動かない二人に変化が訪れる。

 リュエが、片方の剣を手の甲に受けていたリュエが身を引くと、支えを失ったかのようにアルバが前のめりに地面に倒れてしまった。

 恐らく技と技がぶつかった余波で限界が来てしまったのだろう。


『見事だったよ。もう少し、本当にもう少しで私は負けていたよ』

『…………』


 彼女は自分の鎧、ガントレットの甲を見ながらそう呟いた。

 そこには、確かに一筋の傷が刻み込まれていた。

 おそらくもう数ミリ。もう数ミリ深く切り込むことが出来れば、リュエの防御を抜けていたのだろう。

 彼女は踵を返しながら、地面に倒れているアルバへと回復魔法を発動させる。

 恐らく意識を失っているのか、それでも動かない彼に背を向けて、彼女は自分が入場してきた通路へと戻っていく。


『エキシビジョンマッチ第一試合終了。勝者、リュエ!』


 オインクがそう宣言するも、会場からは歓声が上がらなかった。

 だがそれから数瞬して、小さな声がこちらの耳に届く。

 それは次第に大きくなっていき、やがて大きなうねりとなり会場へと降り注ぐ。

『よく戦った』『たいしたもんだ』『かっこよかったぞ』そんな賞賛の言葉達。

 恐らく、試合運びを見て全員がリュエを『遙か高みにいる人外の強さを持つ相手』と認識したのだろう。

 その相手の鎧に傷をつけるという、一矢報いる結果に感動しているのかもしれない。

 結果だけ見れば、大敗もいいところ。だがそれでも、試合をこの場で見ていた人間からすれば、アルバの戦いぶりはこの熱狂を生み出すのに十分な内容だったのだろう。

 ……これで、少しは変わるのかね、彼も。


「さてと、じゃあ我が家の騎士様を迎えにいきますか」

「リュエは大丈夫でしょうか……」

「大丈夫。あの娘さんは切り替えが早いから」




「どうだった!? ちょっとかっこよくなかったかい!? 出来る女、格好いい先輩騎士に見えなかったかい!?」

「クールに出迎えてくれたらその感想も出てきたんだけどなぁ」


 控室に向かうと、鎧を脱いで着替え終わったリュエが目を輝かせながらこちらへと走ってきた。

 ほらね? 切り替えの早さがすごいんですよ。一体誰に似たのやら。

 彼女は興奮した様子で先程の試合について語る。

 自分の剣を不完全とはいえ受け流した事。二刀流で両方の剣に剣術を発動してきた事。

 そして、自分の鎧に傷をつけられた事を。

 嬉しそうに、本当に満足した様子で語る彼女が微笑ましい。


「これで、少しは変わるかな。彼はあのままだと、間違いなく第二のアーカムみたいになっていたよ」

「そこまで、なのか?」

「強い人間は、人より長く生きる。それはヒューマンでも同じなんだ。白銀まで至るような子は大抵、神隷期の人間の血を引いているんじゃないかって言われているんだ。そういう子は強くなると寿命が伸びる。アーカムもきっと、そのクチだったんじゃないかな」

「へぇ……それは初耳だよ」

「かなり前に言ったかもしれないけれど、メニュー画面は珍しいものだけど私達だけの力じゃないんだ。アルバ君みたいな子を過去に何人か見てきたけど、その中にはメニュー画面を使う事が出来た子もいたからね。そういう子は皆、白銀に至っていたよ」

「では、もしかしたらアルバさんもそうだったのでしょうか?」

「それは分からないけれどね。けど、彼から感じた魔力の波形はヒューマンのそれから少し逸脱していた。たぶん、これから彼はもっともっと強くなっていくと思うよ」


 リュエが聞かせてくれた話は、実に興味深かった。

 俺達以外にメニュー持ちを見かけなかったが、まさかそこまで貴重な存在だったとは。

 そして、神隷期の人間の血を引いているという言葉。

 やはり、プレイヤーではなくその使われていたキャラクター達もこの世界に存在していたのだろう。

 その子孫たちが、今の世界にもまばらに存在し、時折アルバやアーカムのような強い力を持つ……という事なのだろうか?

 案外、ファストリア大陸に行けばごろごろその辺にいたりするのかね?


「けれども久しぶりにいっぱい剣を振ったから疲れちゃったよ。カイくん、この剣改造しちゃってごめんね? はいこれ」

「ああ、これか。すごいよな、まったく同じ見た目になるなんて」


 するとリュエが改造し魔剣となった『超七色閃光遊戯剣』を手渡してきた。

 それを受け取った瞬間、ガクンと肩が外れそうな重みが唐突に襲ってくる。

 え? いや待ってこれ重すぎない?


「あはは、内部の補強に闇魔術発動したまま渡しちゃった。凄いよね、ここまで濃密に魔法を発動させても耐えられるんだよこの剣」

「軽い気持ちで受け取ったら肩が外れそうになったでござる。ちょっとレイスこれ持ってみて」

「そ、そんなに重かったんですかこれ……? あんなに早く振っていたのに」


 ええ……ちょっと俺の奪命剣の倍以上の重さあるんじゃないですかこれ?

 ほら、隣でレイスが切っ先引きずってますよ、持ち上げることすら出来ていませんよ?

 うんうん唸りながら持ち上げようとして必死ですよ? 可愛いですよ?

 これであの化物じみた速度の攻撃を繰り返していたとか、恐ろしすぎませんかね?

 ……そりゃ一発でアルバが吹き飛んだはずですわ。こんなのあのフィールドじゃなかったら肉片も残らないでしょうよ。


「しばらくこの剣預かっていていいよ、リュエ。必要になったら言うから」

「本当かい!? いやぁ、急ごしらえでまだまだ改良の余地があったからね! じゃあこれからも少しずつ改造してもいいかな?」

「あ、それでしたら私も手伝いますよ。内部の回路組み込みが急ごしらえでしたからね、もう一度掘り直ししませんと」


 もうすっかり武器いじりにはまってしまった娘さん方にダメとも言えず、内心『頼むから原型留めておいてくれよ』と祈りながら許可を出したのでした。




 会場の熱気が冷めやらぬ中、秘かに街へと戻る俺達。

 どうやら会場ではエキシビジョンマッチではないが、なにか催し物が開かれているらしく、皆それに夢中になっているのだとか。

 それを知らせてくれたのは、急遽解説席に呼ばれてしまっていた――


「しかしお久しぶりですな! いやはや、驚きましたぞ。七星杯後の議会に出席する為にきたのですが、まさかリュエ殿が戦っておられるとは」

「ふふふ、久しぶりだねブッくん。アイドちゃんは元気かい?」

「ええ、今日も貴賓席で試合を見ておられたはずですぞ。今日は同じ女性ということで、あの三大議長……今は二大議長でしたな。イル様のお供をしておりますぞ」


 そう、ブックさんが控室に興奮した様子で現れ、一緒に街へ戻る事になったのだ。

 しかしまさか突然こんな事になると思っていなかった為、街までの護衛も手配出来ていなかった、と。

 そこでオインクが『では手の開いている冒険者をお貸ししますよ』と提案。そして白羽の矢が立ったのが、試合を終え、観客席に戻る様子のない俺達だったと。

 おうおう、随分便利に使ってくれますね豚ちゃん。これは出荷不可避ですな。

 だが、こうして久しぶりにゆっくり話すことも出来るのだし、色々と報告したい事もある。今回の出荷は勘弁してあげましょう。


「ブックさんはどこに滞在しているんですか? やはり中央の行政区画でしょうか?」

「いえ、私は普段あまりこちらに来ないので、別宅をこの街に用意していないのです」


 聞けば、彼はこれまで大きな議会があってもあまりこの街に足を踏み入れないようにしていたらしい。

 必要な手続きや要件だけを伝え、出来るだけここに近づかないように徹していたとの事だ。

 そしてその理由は、やはりかつて三大議長としてここによく顔を出していた、アーカムのせいだろう。

 彼は、アーカムの手からレイスを守るため、自分の領地の奥深く、いざとなれば国外に逃がす事も出来る最北端に近い街に彼女を住まわせていた。

 それ故に、アーカムの信奉者の多い議会での彼への風当たりも強かった、と。

 だが既に奴はこの世に存在していない。故にこうして、自ら足を運ぶ事が出来たというわけだ。


「ギルドの方に部屋をお借りしておりましてな。出来ればそちらまで送って頂けると嬉しいのですが」

「問題ありませんよ。俺達も同じところに泊まっていますから」

「おお! それは僥倖ですな! どうですかな、今夜あたり」


 彼は朗らかに笑いながら、手で杯を作り傾ける仕草をする。

 はっはっは、どこのおっさんですか貴方は。だが、それは嬉しいお誘いだ。

 積もる話もある。俺はその誘いを受ける事にした。


「あーズルい! 今日は私の祝勝会を開くんじゃないのかい?」

「むお! それもそうですな! ではリュエ殿、レイス殿も一緒に是非」

「ええ、是非。積もる話もありますし、ね」


 これは、今夜も騒がしくなりそうだ。




 ブックさんを部屋に送った後、部屋に戻って身支度を済ませる。

 リュエは戦いの疲れを流すためにシャワー室へ向かったのだが、どうやら後ほどオインクが戻ってきたらまた彼女の下へ向かわなければならないそうな。

 そしてどういう訳か俺も一緒に来るように頼まれてしまった。

 一方レイスは、今夜はブックさんが訪れるからということで久々に料理の腕を振るいたいと今も台所で頭を悩ませている。

 館で生活していた時とは違い、今は我らがリュエさんの四次元◯ケット並のバッグがあるので、逆になにを作ればいいのか迷うのだとか。

 うむ、その気持はおおいにわかる。本当なんでも作れそうだからね。


「俺はどうするかな……リュエの好物はアイスや甘い物だし……」

「アイスがどうしたんだい? 作ってくれるのかい?」

「お、あがったか」


 すると耳ざとくその単語を聞き分けたリュエが浴場から戻ってきた。

 ゆでたてホカホカのボイルリュエさんの登場だ。


「今夜作るから楽しみにしてなされ。で、これからオインクのところに行くのかい?」

「たぶんそろそろ戻ってきてるんじゃないかな。ちょっと行ってみるからカイくんもおいでよ」

「何故俺もいかなければならないのか。面倒事の気配がするのですが」

「私が我慢ならない事があるから、それをはっきりとさせたいんだ。だから、来ておくれよ」


 普段あまり見られない彼女の我儘に、仕方ないなとそれに応じる。

 ふぅむ……一体なにがあるというのだろうか?

 今オインクのところに向かうと、もれなくアルバもいるような気がするんですが……。


(´・ω・`)書影公開はもう少し先になります

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