十五話
ドドドドドドド
「廃鉱山に魔物の氾濫の兆し?」
「ええ。先日貴方達が封印して下さったのとは別に、かなり大きな鉱山が一つ、街から少し離れた場所にあるのです」
「へぇ、街の横だけじゃなかったんですね」
マインズバレーに来てから今日で二週間。
目標金額を稼ぎ終えてしまったが、既に俺が受けているアースドラゴンやマインシーカーの討伐、そして廃鉱山のアンデットの浄化に崩落の調査等、リュエと依頼をこなしていたある日、俺はギルドの長であるクロムウェルさんに一人呼び出されたのだった。
「この件はまだ一般には公開していないのですが、その廃鉱山の奥からアンデットの他、多くの魔物が住んでいる可能性があると調査の結果判明しております」
「では、その鉱山内部の更なる調査の依頼ですか?」
「いえ、さすがにお一人で挑むのは……カイヴォン殿ならば無理とは言い切れませんが、それでも狭く入り組んだ場所で大量に相手をするのは危険ですので」
「では、どういったご用件でしょうか?」
「恐らく、もう一週間もしない内に氾濫するでしょう。ですから、ギルドの方で街の防衛の依頼を出すつもりです。ですが、困ったことにその鉱山は街を挟んで反対側の崖にも繋がっているのです」
「つまり、俺にはそちらの方の防衛を任せたいと」
「心苦しいのですが、お願いできますか? 正直申しますと、今街にある戦力を2つに分けては防衛しきれないと思い、近々北側、即ちソルトバーグ方面の街を諦め、街を二分しようと計画していました。幸い、あちら側は出店や行商人の為の建物ばかりで、常駐している人間が殆どいないので」
結構シビアな事を言うようだが、それが街の防衛を任されている人間の努めなのだろう
「さらに幸運なことにこの街には今、領主が呼び寄せた『解放者』の一行が訪れています。彼らを筆頭に街の南側、首都方面を防衛出来れば良いと考えていたのですが……カイヴォン殿のお力があれば、街の北側も守り切る事も出来るのでは、と」
「力になると約束しましたからね。恐らくメインはその首都からの魔物でしょうし、問題ありませんよ。それよりも援軍はどうなっているのですか?」
「すでに隣町、首都との間にある街のギルド長へと連絡を入れてあります。今日にでも依頼が貼りだされる筈です。挟み撃ちという奴ですね」
ちなみに、ソルトバーグ方面には連絡を入れていないそうだ。
曰く、リュエのいた森は慢性的に魔物を輩出しているらしく、こちらに手を回させるのは酷なんだと。
……あの統括じゃあ頼りないってのもあるのかもしれないが。
「では、俺はこの話をリュエに内緒で?」
「はい。彼女には通常の依頼として、街の南側を防衛してもらいます」
「その方が俺としても都合が良いです。一応その時がきたら街の北門は封鎖、誰も出られないようにして下さいね」
「ええ。ですが、カイヴォン殿も厳しくなりそうでしたらすぐに避難をして下さい。そちら側の人間は全員避難させ、バリケードを設けておきますので」
応接室からギルドのホールへ戻ると、朝一番に依頼を受けようとする人間が押しかけていた。
その中には『解放者一行』の姿も見える。
実は想像通りあの酒場で会った黒髪の彼が勇者、というかここでは『解放者』と呼ばれている人物だったのである。
彼こそがこの大陸の首都『王城都市ラーク』で召喚された異界の存在だとか。
どう見ても日本人です本当にありがとうございました。
「失礼、今日の依頼で何かおすすめはありますか?」
「カイ様! そうですね、既にお受けになられているアースドラゴンの討伐ですが、どうやら発見されたようです。坑道の崩落の原因でもあるようなので、一度に依頼を達成出来るチャンスですね」
目撃されたのは5番坑道だそうだ。
昨日、依頼で向かった人間が発見し、取り逃したとか。
まぁ依頼も受けていないのに討伐しようとするなんて、よほど腕に自信があるようだが。
「なんであのドラゴンの討伐依頼が出てないんだよ、昨日俺が発見しただろ」
「申し訳ありません、すでに何日か前に依頼が出されていまして、既に受けた方がいらっしゃるので……」
「だったら俺に譲ってもらう事は出来ないのか?」
「直接交渉なさって頂くほかありませんが、その……」
少し離れた場所からそんなやりとりが聞こえてきた。
そこには何のご縁か、解放者一行の姿が。
「やぁ先日はどうも。君達がアースドラゴンを見つけたそうだね」
「な、お前は……まさか依頼を受けたのってお前なのか?」
「正解。別に依頼を受けていなくても討伐が可能だと思うけど、報酬が欲しいのかい?」
なんだか受付が困っていたので助け舟を出すことに。
まぁお金に困っているわけじゃないし、依頼その物を譲ってもかまわない。
「金に困ってるわけじゃないが、依頼を受けたほうがポイントが高い。俺はもっと上へと行く男だからな」
「そういう訳だから依頼、私達に譲りなさいよ」
「あの……二人共無理強いは」
勝ち気少女再び。そしてこの二人の抑え役なのか、泣きそうな顔をした女の子。
もう一人いたと思ったが、少し離れた場所で眠っている。
「依頼は譲るよ。ただ、俺もドラゴンに用事があるからね、もし先に倒してしまっても恨みっこなしで」
「あんたがレンより早く倒せる訳ないでしょ! せいぜい怪我をしないうちに逃げなさい」
「自慢じゃないが、俺は既にランクBの『銀持ち』だ。アースドラゴンなら問題なく相手に出来る。止はしないが、俺達の邪魔だけはするなよ」
そう言いながら、再び受付で手続きを始める一行。
そうかそうか、じゃあ俺は受付もないし……。
『移動速度2倍』
『素早さ+15%』
『逃走成功率+50%』
『硬直軽減』
『全能力+5%』
『アビリティ効果2倍』
『天空の覇者』
『ソナー』
スタートダッシュは基本。
この構成にするのはソルトバーグでの見回りの時以来だが、街中だとその早さを実感出来る。
馬車を追い越し、ソナーを頼りに人通りの少ない道を選び、ようやく活躍らしい活躍をしてくれた硬直軽減で鋭角に曲がり障害物を回避、あっというまに5番坑道の前へとやってきた。
ここまで5分とかかってないぞ。
すぐ様坑道へと入り、剣を引き抜き地面へと突き刺す。
すると、少々耳障りなキーンとした音が響き渡り、暫くするとメニュー画面にマップが表示される。
「魔物の数が少ないな。あの子達が昨日狩ったのかね?」
光点の数が明らかに少なく、そして魔物以外、冒険者達の反応も感じられない。
一番乗りのようだし、このまま一気に終わらせてしまうか。
「いたいた。なんだ、結構手前まで出てきてるじゃないか」
マップを見れば、坑道の最深部でもなく割と近くの大きな空間にそれらしい大きな光点が示されている。
さぁ、初めて使う『天空の覇者』
龍神の力はどれほどの物かな?
「うっそだろお前、出会い頭に消滅て」
イカレた戦闘方法を紹介するぜ!
ソナーを見ながらダッシュ!
広間で食事中だったのでそのまま剣を突き出してタックル!
以上だ!
攻撃力インフレってレベルじゃねぇぞこれ。
さすがにここまで圧倒的だと色々とこちらの精神衛生によろしくない。
すでに身体は一部部位を残しながら消え始めている。
その外見は大きな黒いトカゲで、角が二本生えている。
……まてよ? 『天空の覇者』は空に属する相手に特効だった筈。
こいつはドラゴンとは言え、どうみても空に関係しているとは思えない。
つまり、アビリティが効果を発揮するまでもなく即死だった訳か。
残念、君の活躍はまた次回に持ち越しだ。
そして、討伐が終わったと剣が認識したのか、頭の中に声が聞こえてくる。
『アビリティ習得』
『悪食』
『無機物を破壊した際に低確率で武器の基礎数値を微上昇させる』
おお!?
なんだかとてもユニークなアビリティじゃないか。
どうやらあのドラゴンも鉱物を食べていたようだし、その影響だろうか?
これならそのへんの岩でも壊しまくれば、この素のステータスが貧弱なこの剣も最強の剣に早変わりか!?
「だから! なんでこういうアビリティをゲーム時代に手に入れられなかったんだよ!」
あったらあったでクソゲーに拍車がかかったかもしれないけど。
ともあれ、無事にアビリティも手に入れたし、ドロップ品も回収したし戻るとしよう。
念のためもう一度ソナーを発動すると、入り口付近に魔物以外の光点が4つ。
恐らく彼らの反応だろう。
「脇道にそれてやり過ごすとしようか」
もう倒したって教えなくていいのかって?
知らんがな。
彼らをやり過ごし、帰りはアビリティの効果も使わずのんびりと歩く。
まだ早い時間だが、行商人達にとってはそうではなく、忙しそうに本日の営業の準備をしている。
街の外へ向かう者、露天を開く者、商店に品を卸す者と様々だ。
この街では鉄鉱石等を精製してインゴット化する工房はあっても、それを武具等に加工する工房が存在しておらず、街の外へと運ばれるのはそういった未加工の物ばかりだ。
その様子を眺めながら『戦っても手応えも何もないし、行商しながら旅もいいかも』なんて考えが一瞬頭を過る。
「けど商才なんてないからな……ああ、メニュー画面で運び屋をするだけでも儲かりそうだな」
結局ヌルゲーになってしまいそうだ。
ギルドへと戻ると、リュエの姿を見つける。
どうやら小さな神殿、リュエの倉庫へと繋がる場所で何かをしているようだ。
「どうしたんだリュエ」
「見てくれカイくん。こうやってこの石をお供えするよ?」
懐から石を取り出し、神殿の祭壇? のような場所に置く。
するとすぐに消えてしまう。
「で、このバッグから石だけ出てくるように念じて祭壇の上でひっくり返す」
「……無限ループ」
石消える、落ちてくる、消える、落ちてくる……。
永遠と繰り返されるそれを見てると、出来の悪いGIFでも見ているような気分になる。
「で、それがどうかしたのか?」
「凄く楽しい!」
……そっかー。
頭かわいそかわいそなのです