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百八十一話

(´・ω・`)お待たせしました

 都合三度目となる中央区画にある元王宮。

 その内部にある巨大な闘技場、古代のコロッセオのような荘厳で広大なその有様と、ぐるりと囲む客席に、本戦、そしてこのエキシビジョンマッチをいかに大勢の観客が見に来るのかを理解させられる。

 フィールドの円周にはポールが立てられており、その頂点には青い水晶のような物が取り付けられていて、今も淡く光を放っている。

 あれが、戦っている人間の気を増大させて七星である『プレシードドラゴン』を呼び寄せるのだろうか? それとも、予選同様に身体ダメージを軽減する術式を構築するものなのだろうか?


「関係者は特等席……という事ですが、それでもこの広さでは向こう側で戦われたらよく見えないかもしれませんね」

「だなぁ」


 さて、見えやすいであろう位置には、関係者として俺とレイス、そしてアルバの取り巻きであろう冒険者の一団が陣取っている。

 こうしてみると、彼の取り巻き連中はいずれも若く、こう言っては失礼かもしれないが、軽薄そうな連中が目立っているように見える。

 そして、徐々に集まりだす観客達。

 本戦同様今日の試合の観戦権は抽選であり、選ばれなかった人間はなんと、オインクの計らいなのかせめてもの情けなのか、この闘技場の周囲に作られた櫓のような背の高い席から立って見る事が出来るようになっていた。

 いや、絶対満足に見えないだろそれ。早くテレビ中継みたいな魔道具生み出して下さい。


「そろそろ時間か。どうなるかな、この戦い」

「……恐らく、残酷な結果になるでしょうね。昨日まで私もリュエの武器改造の手伝いをしていましたが……完全にプライドを折るための準備をしていましたから」

「へぇ、あの剣って結局どうなったんだい?」

「まず、全体的な重量を下げるために内部の素材を私が再生術の応用で削り取り、その余ったスペースにリュエが術式や他の材料を入れて補強していましたね。恐らく木材でしょうか、特殊な素材だそうですが」

「ふむ。結構軽めの剣だと思ったけど、さらに軽くしたのか」

「武器としての殺傷能力はもともとないようでしたが、さらに重量も下がったので鈍器にもなりませんね」


 話だけを聞くと完全に劣化したように聞こえるんですけど、どうなんですかね?

 リュエの事だ。恐らく何か魔術的な仕掛けを施したのだろうが……。


「たぶん驚きますよ。一目でわかりますから、あの剣の効果は」

「じゃあ楽しみにしていようかな」


 すると、タイミングを見計らったようにフィールド上にオインクが現れた。

 その瞬間、この場に集まった観客達の歓声が爆発する。

 建物を揺るがすような大声援に、我らが豚ちゃんの立ち位置を改めて認識させられる。

 フィールドに用意された壇上に移動した彼女は、マイクを片手に語り出すのだった。


『皆さん、おはようございます。一ヶ月に渡る収穫祭も大詰め、今年は七星杯を同時に開催する運びとなりましたが、こうして何事も無く予選を終える事が出来ました』


 現れたオインクは、式典向けの衣装なのか、ロングコートのようなものを羽織っていた。

 堂々としたその出で立ちと、凛とした表情。そしてよく通る美声に、いつもの様子を忘れ、魅入ってしまう。


『今年は技術的な面で大きな進歩もありました。ある方の助力により、この魔導具を完成させる事が出来たのです。まずは試合の前にこれをご覧ください』


 と、その時。フィールドを囲んでいたポールの先端の水晶が輝きを強め、次の瞬間、フィールド上空に大きな光の玉が生み出される。

 そして次の瞬間、そこにオインクの姿映し出される。


『まだ試験段階ではありますが、観戦の補助になればと思い、導入させて頂きました。本戦、そして今年のエキシビジョンマッチを余すところ無く楽しんで頂けると幸いです』


 その映し出されたオインクが語る。本当に開発してたよこの人……じゃあ外の櫓もこれを見越して用意していたと。

 すると隣にいたレイスが、目をキラキラさせながら空中に映し出されるオインクを見つめていた。


「す、すごいですよカイさん! オインクさんが大きくなりました!」

「可愛い反応ありがとうございます。いやぁ、確かにこれはすごいな。リュエなんか見たら飛びつきそうだ」


 これ、レイニー・リネアリスの所で見た離れた場所の映像を映し出す術に似ているな。

 さては、また彼女がなにか手出ししたのだろうか?


『私の話はそろそろいいでしょう。では、両選手の入場です!』


 その宣言とともにオインクが壇上から下り、意外と軽いのか自分でその壇を持って撤収していく。

 いやいやいや、誰か係の人にやらせましょうよ。シュールすぎるよ。

 周囲からも苦笑いが漏れてるよ豚ちゃん。


『では! ここからは選手紹介へと移行させていただきます。解説席には引き続き私、オインクと――』

『あの……私は仕事でここにきただけなのですが……』

『かつて、私と共にこの大陸の戦場を駆け巡った名軍師、ブック・ウェルドさんをお連れしてきております』

『こ、困りまずそオインク殿……娘を待たせておるのです』


 …………ふぁ!? ブックさんがおる! 久しぶりですね!?


「ブック……後で挨拶に行かなくてはいけませんね」

「いやなんか豚ちゃんノリノリすぎないか。ブックさんこれ絶対に巻き込まれただろ」

「彼らしいといえばらしいのですが……名軍師だったんですね、彼」

「まぁ豚ちゃん自らスカウトしたらしいしなぁ」


 だが、意外とブックさんの存在は有名だったのか、ざわめきが大きくなる。

 ふむ、軽いフットワークで自らあちこち視察に行くくらいだし知ってる人も多いのか。


『では、選手入場です!』

『むお!?あれはリュエ殿ではないですかな!?』


 あ、もしかして今日こっちに着いたんですかブックさん。

 そうなんです、今日のエキシビジョンマッチにはうちの娘さんが出るんですよ。

 もし本戦の解説もするのなら、レイスも出場するから是非驚いてくださいね。


『まず一人目。先日、ミスセミフィナルを勝ち取ったリュエ選手です!』

『彼女の実力は私もよく知っておりますぞ! ウィングレストの街の治安を瞬く間に回復させた実績がありますからな』

『なるほど、そんな仕事もしていたのですね。実は彼女、エンドレシア出身なのですが、なんと白銀持ちの冒険者でもあるのです……正確には少し違うのですが』

『ほっほ、なるほど、つまり今回は大々的にお披露目、という訳なのですな』


 なんだか楽しそうで羨ましいなそっちの席。

 俺もそっちがいい、思いっきり身内びいきの解説するから。猛烈に煽って会場をブーイングの嵐にしてみせるから。

 なんてふざけた事を考えているうちに、会場にリュエが現れる。

すると同時に会場の上にある光の玉にも大きく彼女の姿が映し出され、全ての観客にその勇姿が披露される事になった。

澄ましたような、凛々しいその面差しに会場からため息が漏れ聞こえる。

全身に身にまとうドレスアーマーと、腰に帯びた美しい装飾のされたあのネタ剣。

確かに説明文さえ読まなければ、儀礼権としては申し分のない外見をしている。

 すべての装備が一体となったかのようなその出で立ちに、普段の姿を知るこちらまでもがため息をつき見惚れてしまう。


「リュエがあんなに大きく映し出されていますよ……!」

「本戦ではレイスも映ることになるんだからね?」

「カイさんも明後日には映るんですからね?」

「…………」

「…………」

「「緊張してきた(ました)」」


 こちらとしては、まるでTV中継でもされるようなイメージであり、当然一般市民として生きてきた身としては緊張するのだが、やはり初見であるレイスもその感覚は同じようでした。

 いやぁ……これはいよいよもって自分の事も考えないといけないな。

 と、その時。再びオインクの声が会場に反響する。


『では、続きまして昨年度の優勝者にして、冒険者代表として議員に選ばれましたアルバ選手の入場です』

『おお、なんとリュエ殿の相手はアルバ殿ですか! 昨年の戦いぶりは圧倒的でしたからな、これはいい勝負が期待出来そうですぞ!』

『……ふふ、そうですね』


 ああ、そういえばブックさんは直接リュエが戦っているところは見たことがなかったか。

 アキダルの一件を知っている人間ならば、この勝負が成立するかどうかすら危ういと気がつくようなものだというのに。


『アルバは白銀就任後は精力的に南の山岳地帯に赴き、秘境に隠れ住む凶悪な魔物を相手に実力を高めてきました。先日、一時的にとは言えギルド管理下にある最高難易度の訓練区画にて、歴代四位の成績も収めた程ですからね』

『おお! 噂の仮想空間ですかな? ふむ、私も一度体験してみたいものですな』


 なお、現在は七位に転落している模様。四位にリュエとレイスの二人が割りこんだからね、それに俺も一位に割り込んだし。

 だが、あれはあくまでスコアアタックであり、対人戦においてはその序列が必ずしも結果と結びつくとは限らない。

 けれども、今回に限ってはまぁ……その序列が残酷なまでに結果として現れる事になるだろう。


『では両選手が出揃いましたので、この試合に向けての意気込みをお話して頂きましょう』


 そして、プログラムはどんどん消化されていき、ついに試合前の抱負を語る場面までやってきた。

 光の玉にはリュエの姿が大きく映し出され、拡声の魔導具を手にした彼女が語り始める。

 その声は、いつもの彼女とはかけ離れた、厳格で強い意思の込められたものだった。


『ご紹介に預かりました、リュエです。今回は相手の方が白銀持ちという事ですので、どの程度のものなのか内心とても期待しています。こちらはその……エンドレシアと比べると少々ぬるいですからね』


 だが、語られるのは敵を作りかねない、若干の嘲りが含まれた彼女の感想だった。


『戦争を経験したでもない。強い魔物に揉まれたわけでもない。そんな人間が白銀に選ばれるというのに若干の疑問を懐きましたが……まぁ、恐らく次世代を代表する旗印として選ばれたのでしょうね。でしたら、ここで本物の白銀持ちととはどういうものなのか、この新人君に教えなければ、というのが出場した一番の理由です』


 その傲慢な物言いに会場がざわめく。

 中には、射殺さんばかりの眼差しを向ける者すら混じっていた。

 ……そうか、リュエ。そういう事なんだな。


「カイさん……リュエは……」

「ああ、そうだ。リュエはわざと敵になろうとしている……!」


 なにも言うまい。

 彼女がそれを選んだのなら、俺はただこの戦いの結末を見届けるのみ。

 レイスもまた、リュエの選んだ道を理解し、同様にただフィールドを心配そうに見つめている。

 ……アルバよ。ここまでさせたんだ。無様な戦いを見せるのは、俺が許さないぞ。


(´・ω・`)いやぁ東京にいってファミ通文庫の編集部に行ってきましたけど、やっぱり破壊出来なかったよ難しいね

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