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百七十九話

(´・ω・`)ライマライマライマライマライマ

「はいレイス。予選通過のお祝いの一品でございます」

「……やっぱりお肉なんですね」

「ほら、やっぱりマグロの方がよかったんだよ」

「む、お肉はダメだったか……」


 自室にてささやかな祝勝会を開き、本日の主役であるレイスにお約束となりつつお肉を贈呈。

 今日はですね、シャリアピンステーキさんです。分厚く切った肉をただ焼くだけではどうしても食べにくくなってしまうため、一度切れ込みを入れてマリネにしてから焼くという手法。

 なんでも、かつて歯が悪いお客様のために日本で編み出されたものだとか。

 ちなみにこのステーキの厚さはですね、なんと六センチもあったりします。


「いえ……なんだかもう私が腹ペコキャラのような扱いになっているのが……」

「大好物を美味しそうに食べる姿が好きなんです」

「いただきます」


 うむ、げんきんなところも大好きです。

 美味しそうに食べ始めた彼女に続き、こちらも半分ほどの厚さにしたステーキを食べ始める。

 美味しい美味しい。ワインビネガーと玉ねぎでさっぱりめのソースにしたのだが、これはいける。

 食事を進めつつ、レイスに今回の大会の手応えについて尋ねてみる

 こちらとしては、まともに戦える相手とぶつかる前に本戦入りしてしまったので、是非とも全体的なレベルを知っておきたいのだが。


「そうですね、私のグループは冒険者所属の方が多く、とりわけあの訓練施設で見かけた方も多かったとみたいですが、そこまで苦戦はしませんでしたね」

「正直苦戦するような相手なんて、片手で数えるくらいしかいない気もするけどね」


 実際、あの施設にいたとしても、Sランク区画に足を踏み入れていなければ正直大した相手ではないと言える。

 むしろランカーじゃないとまともに太刀打ち出来ないんじゃなでしょうか、うちのお姉さんには。


「そうですね……甘く見るつもりはありませんが、私も自分のこれまでの歩みにそれなりの自信があります。今日まで大会で戦ってきましたが、恐らく私と争う事になるのは――三人でしょうか」

「三人、か」

「一人は、間違いなくヴィオさんでしょう。彼女は恐らく名のある戦士だと思います。サーディスとセミフィナル大陸は隣り合ってこそいますが、ギルドという架け橋が存在しない為、あまり武力介入や有事での共闘という記録が残っていません。ですので、向こうの戦闘事情などはあまり知られていないのです」


 彼女が言うには、かつての戦争時に、ギルド、そして当時の王家がそれぞれ助力をサーディスに求めたそうだが、その両方の打診を断り不干渉を貫いたという。

 恐らく、その当時にはダリアもシュンもあの大陸にいたはず……オインクが世界に旅立ったのと、戦争が起きたのはどっちが先なんだ?

 もしも既にオインクがサーディスであの二人と接触を持てていたのなら、協力くらいしてくれそうなものだが……。


「次は、レンという少年です。解放者という性質上、恐らく他の方よりも明らかに身体能力が高いはずです。訓練区画での成長速度から考えても、この大会中に間違いなく私に迫る実力をつけてくるでしょうね」

「そいつは同感。彼は気質的にも戦闘向きだ。組み合わせ次第じゃ決勝まで上るんじゃないかな」

「ええ。ですが、彼はヴィオさん程フットワークが軽くありませんので、距離をあけて戦えば負ける事はないと思っています」


 やはりレイスもレン君を買っている。

 大会というのは、必ずしも実力順に結果がついてくるものではない。

 その場の空気や、ここまでの流れ、そして勝ち上がっていく勢いのまま優勝、なんて事だって十分にある。

 まぁそれはあくまで競争相手との差が一般的な差だった場合の話だが。

 あれですよ、小学生の相撲大会にプロの横綱が混じったらさすがに勢いとか空気とか、そういう次元の話じゃないでしょうよ。

 レイスの実力は、少なくとも現段階ではそれほどまでに隔絶している。レン君では恐らく勝てないだろう。

 だとすると、やはり問題はヴィオちゃんか……。


「最後の一人ですが、通称ネームレスと呼ばれている剣士です」

「……そうか」

「あれ? それって黒い鎧の人かい? 遠目でちらっとしか見たことないんだけど、そんなに強いのかい?」


 あれ、ドーソンは? レイスさん何気に彼の事眼中にないって言ってません?

 いやまぁ確かにヴィオちゃんとレン君に比べると見劣りする面もあるけどさ?


「結局、彼が戦う姿は二次予選では見る事が出来ませんでしたが……たった二度の戦いだけで他の選手の心をへし折る戦いぶり……間違いなくこの三人の中では彼が一番の強敵でしょうね……」


 先ほどまでとはうってかわって、レイスは真剣な調子でステーキをもぐもぐしている。

 いや、そんな顔して食べられるとすごくシュールなんですけど。


「あの剣士の事は今考えても仕方ありません。むしろリュエとカイさん、二人が心配です私は」

「え? 私があの子に負けると思っているのかい?」

「いえ、勝ちすぎないように、と言っているんです」

「確かにそれはあるかもな。多少痛い目に合わせた方がいいとは思うが、それでやり過ぎると再起不能、もしくは逆上して周囲に当たり散らす……なんて事もある」

「ふむ……私の意見としてはだけど……そういう人間は潰すべきだよ」


 話がリュエのエキシビジョンマッチへと移る。

 レイスの心配には俺も心当たりがあるのだが、以外にもリュエは厳しい意見を言う。


「負けて当たり散らすのはいいけれど、それで周囲に大きな被害を出すような人間が、果たして白銀に、議員に相応しいのかい? それはもう、権力と力を持っただけの犯罪者だよ」

「……リュエは、そういう人間に会ったことでもあるのか?」

「嫌っていう程見てきたよ。私が冒険者として大昔に活動していた時はね、実力者達の横暴さが凄く目立っていたんだ」

「そうだったんですか? となると……ギルド設立当初ですよね」

「そうなるね。あの頃はさ、色んな派閥からギルドに送り込まれた人間がいたんだ。自分達の勢力の発言力を増すために、まずはギルド内で自分の手の者の地位を高めようって」


 彼女が語るのは、まだヒューマンとエルフと魔族が手を取り合わず、険悪ではないにしろスタンドプレーを良しとしていた時代の話。

 ギルドは元々魔族が種族の垣根を超えて手を取り合おうと設立した集まりだが、やはりそれをよく思わない人間もいたのだろう。

 故に、今とは違いギルド内でも激しい派閥争いが起きていた、と。


「金色のランクの人達は曲者揃いでね、せっかくのギルドがめちゃめちゃになっていたんだ。そこで、その更に上にランクを作って、中立の人間を立たせてみるのはどうかって話になったんだ」

「それが、リュエだったんですか?」

「うん。私に続いて何人か中立派の人間が選ばれたけど、お陰でだいぶ派閥争いも沈静化したんだ。つまり私が何を言いたいかと言うと――」


 恐らく、今よりも遥かに過酷で切羽詰まった状況だったからこそ、彼女は組織の上に立つに相応しくない人間に思うところがあるのだろう。

 よく言われる言葉だが、戦に置いて『無能な上官ほど邪魔な存在はいない』というものがある。

 リュエは、まさしくそれを経験してきたのだろうか。


「今はもしかしたら違うかもしれない。けれども白銀っていうのはみんなの目標であり続けなきゃいけないんだ。いいかい、みんなだよ? 一部じゃなくて、みんなにそう思われるように努力し続ける義務があるんだ。私は正直、世間知らずで出来る事を精一杯取り組むくらいしか出来なかったけれど、それが本来あるべき姿なんだ」

「そういえば、リュエはなんだかんだでいつも周りの人間に好かれていましたよね……あれが、あるべき姿なのでしょうか」

「アレはどっちかというと構ってあげたいオーラ出してるせいじゃないですかね」


 しかし、彼女が珍しく厳しく、そして持論を展開するとなると……エキシビジョンマッチはかなり恐ろしい結末になるのではないだろうか……。

 魔術や魔法を使わずに、本気で戦うリュエか……前衛として仮に、ゲーム時代のデータでRyueとKaivonを戦わせた場合どうなるか。

 ……業腹だが、確実に負けるのはカイヴォンだ。殲滅力という面では負けないが、一対一の勝負になると間違いなく負ける。それがRyueのスペック。

 その強さに、この世界で長年生きてきた彼女の経験が加算されるとなると……考えるだけで恐ろしいな。


「リュエ、あの剣はさすがに使わないんだろう?」

「あれはさすがにね。人間相手に向けるべきものじゃないよ。殺しても良い相手ならともかくね」

「リュエ、物騒」

「う……ごめんよ、つい。私も緊張しているのかな」


 手が届かないのでなでりこ出来ません。

 よし、じゃあまず隣のレイスの頭をなでりこ。

 すると、察してくれたのか彼女が俺の代わりにリュエをなでりこ。

 ……なんだこれ。


「カイくんに貰った光って音がするだけの剣があるだろう? あれと魔術の剣を組み合わせて使うつもりさ」

「まて、あげた覚えはないぞ。ああいうネタ武器は俺の大好物なんだ」

「えー? 私あれ欲しいんだけどダメ?」


 珍しく物を欲しがる娘さんに、つい甘い顔をしてしまいたくなるのだが……いやいや、あれはいつかダリアに見せて『これお前が作ったんだろ』って問い詰めたいんだ。

 ……なら別にそれまでなら貸してもいいか。


「貸すだけだからな。サーディス大陸にいったら返してくれ」

「ちぇ……物がいいから改造しようと思ったのに」

「改造なんて出来るのか?」

「うん。あそこまで作りがしっかりしてると、後付で何か魔術でも封じ込められそうだからさ。ちょっとした魔剣に出来ると思うんだ」

「そんな事が出来るんですか? 私も物づくりは得意な方ですが、魔術的なものはどうも苦手で」


 ふむ、ちょっと気になるなそれ。

 壊れないなら少し彼女に任せてもいいだろうか?


「私は大雑把な加工しか出来ないけど、魔術を組み込むのは得意だからね。レイスも少し手伝ってくれたらもっとうまくいくよ」

「それが、エキシビジョンで役に立つのなら、喜んでお手伝いしますよ」


 するとここで、二人してこちらの顔色を窺ってきた。

 いやさすがにこれを断るのはお父さんには無理です。愛娘二人の『これ買って』フェイスには世のお父さん方もきっと敗北するに違いない。


「なるべく壊さないようにな。もしダメにしちゃったら……二人にお仕置きです」

「本当かい! じゃあ早速ご飯が終わったらとりかかるよ」

「……ちなみにどんなお仕置きなのでしょうか」

「うーん……なにがいい?」


 自分で言っておいて尋ねるのもおかしな話だが。

 二人が失敗なんてするはずがないと思ってるからの提案なんですけどね。

 するとレイスは、食べ終わった皿を見ながらなにかを思いついたように提案する。


「でしたら、失敗したら私は一ヶ月お肉なしでいいですよ」

「うん、やっぱり腹ペコキャラ自分で受け入れつつあるね君」


 さてさて、明後日のエキシビジョンマッチはどうなるんでしょうかね?

(´・ω・`)はいれーないー

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