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百七十八話

(´・ω・`)おまたせしました……先日ようやく三巻の原稿が出来て送付したので、ようやくとりかかれます

 そして翌日。ついに一次予選最終日がやって来た。

 さて……困ったな。ヴィオちゃんやドーソンはてっきり俺が出場するもんだと思っているのか、なんとわざわざギルドのロビーでこちらを待ち構えていたのだ。

 すまん、正直今日は知り合いも誰も出場しないから会場に行くつもりすらなかったんだ。


「おはようお兄さん。コンディションはどう? 勝ち上がれそう?」

「ようカイさん。昨日のアレありがとうな。嫁さん、凄く研究のしがいがあるって喜んでたぜ」

「おはよう二人共。実はですね、言いそびれていたんですけどね……」


 今こそ回転しろ俺の黄金の脳みそ! 言い訳を、誤魔化しを!

 ……あ、そうだ。


「ドーソン実はな、お前昨日一番ノリじゃなかったんだよ」

「ん? なんだ突然……」

「なんで俺があんな場所にいたか……分かるか?」


 選手は、自分が何番目に予選を通過したかは教えられない。

 周囲の報告や自分の見た光景でそれを判断しているのだ。

 つまり……。


「まさか、カイさんあんた……」

「そのまさかだ」

「え? なになに、どういうことなの?」


 あ、俺はまだなにも言ってないので。勝手に彼が勘違いしただけです。


「つまりカイさんは……昨日のうちに予選を突破しちまってるんだ」

「え? 私も昨日会場にいたんだけど、ドーソンが一位だと思ったよ?」

「いや、ドーソンが迷宮から出る頃には、俺はもう予選を通過していたよ」


 ただしその更に前の日、初日にだが。

 俺は懐から予選突破の証であるドッグを取り出し二人に見せる。

 すると、先入観からか俺が本当に昨日の一位通過者だと信じてくれたのだった。

 いやまぁ、俺があの鎧の男だってバラしてしまっても良いんですけどね?

 だがせっかく騙されてくれているのだから、そのままにしていた方が明らかにおもしろそうじゃないですか。


「ホントに通過してる……一体どうやって……」

「秘密。というわけで今日は会場には行きません!」

「んーお兄さんが出ないなら、正直私も行かなくてもいいかな」


 ひとまずごまかせたのでこれでよし。

 さて、それじゃあ俺はどうするかね?


「じゃあ俺は仲間が出るから応援しにいってくるぜ? 正直、カイさんが同じ日だからって事で葬式ムードだったんだよ連中」

「ははは、じゃあもう俺は出ないって教えてあげてくれよ」

「おうよ。これでグッと予選通過の確率があがるぜ」


 そう言いながら彼は早速ギルドの外へ向かっていった。

 うむ、すまんドーソン。全部終わったら埋め合わせはするからな!


「お兄さんお兄さん」

「ん?」

「なにか隠してるよね? 別にいいんだけど、反則して出場取り消しとかは勘弁してよー? 本戦でリベンジするの楽しみにしてるんだから」

「ははは、やっぱ敵わないな君には」

「私の目を盗んで予選通過なんて、絶対無理だからね。恐らく初日……その中にお兄さんがいたんだよね」


 絶対の自信を込めてそう断言する彼女。

 思えば、彼女の強さはこの大会に出ている選手たちの中でもずば抜けている。

 それは、訓練区画のランキングからしても明らかだ。

 リュエやレイスが台頭し、確かに彼女のランクは下がった。

 だが、それでも彼女の順位はベスト10に収まっている。

 ましてや、彼女はインファイター、つまり相手に近づいて直接攻撃するという手段しか持ち合わせていない。

 当然、敵が多くなれば倒すのに手間がかかってしまう。


「本当、君には驚かされるよ」

「ふふん、まぁね~」


 苦手な分野でもランク入りする実力。

 サーディスでの活躍が認められ、訓練施設の利用を許可されたという経緯。

 大した娘さんですね、君も。


「じゃ、私は適当にブラついてくるから、またねー」

「ああ、またなヴィオちゃん」






 そして、時間はあっという間に流れる。

 一次予選が終わり、二日間のインターバルが挟まれるも、その休日を謳歌しようという人間は少なく、どことなくピリピリした空気が街を覆う。

 それはレイスも例外ではなく、二次予選のトーナメント表が発表されるまで、なにかにかこつけて八つ当たり気味にこちらのベッドに潜りこむようになった。

 曰く『私は不安なんです。だから、少しくらい甘やかしてくれてもいいはずですよ』とかなんとか。

 やめて下さい僕の理性が死んでしまいます。

 まぁ半分冗談みたいなものだったのか、次の日の朝にはしっかり自分のベッド……ではなくリュエのベッドに移動しているのだが。


「まぁ二次予選でぶつかるって事がなかったのは幸いだよなぁ」


 そして今日は、二次予選のトーナメントの最終日。

 発表されたトーナメント表は、うまい具合に友人知人がばらけ、こう言ってはなんだがまったく面白みのない組み合わせになってしまった。

 当然、俺は順当に勝ち進み、大会進行の人間が拍子抜けするような結末になってしまった。

 いやぁ……まさか一回戦と二回戦勝っただけで同トーナメントに振り分けられていた選手全員が棄権するなんて思いもよらなかったんですよ。

 そのお陰で、各トーナメントのトップ3が予選を通過するはずなのに、俺だけが本戦入りという番狂わせが起きてしまいましたよ。


 だがそのお陰で、よかった事がある。


「ほら、カイくん! レイスだよレイス! 頑張れレイスー! おねえちゃんが応援してるからねー!」


 そう、レイスの二次予選決勝を見に来る事が出来たのだ。

 やはり二次予選からは一対一の勝負となるため、観客席も増設、また見に来る人間も格段に増える。

 そして俺とリュエは、その観客席の最前列で我が家のお姉さまの勇姿を見守ることが出来ていた。


「リュエさんや、レイスが恥ずかしがってるので――もっと応援してあげましょう」

「よしきた! レイスー! カイくんも私も応援してるからねー! 見守ってるからねー! 全力で相手をぶっ飛ばしていいからねー!」


 あ、とうとう俯いた。


 さて、堂々とぶっ飛ばせ宣言をしたリュエさんだが、その相手となる選手の様子を見てみよう。

 特設会場である、直径三○メートル程の石造のステージ。

 互いにステージの下で控えていたのだが、もう完全に相手側の選手もお葬式ムードなのかレイスと同じように俯いてしまっている。

 ふむ、さては訓練施設でのレイスを知っている相手と見た。

 彼女は、本戦までは手の内を隠すからと、二次予選のリーグ中は弓を布でぐるぐる巻きにして背負っている。

 一次予選の際も、誰にも見られない位置でしか使っていないそうだ。


「レイスは今度はどうやって戦うのかな? 楽しみだね」

「勝つか負けるかじゃなくて、戦い方に興味がいってるのか君は」

「だってレイスが負けるわけないじゃないか」


 なにいってるの? と言わんばかりの表情でそう返されてしまい、思わず黙りこむ。

 ……オインクさんや、今度からは一定以上の実力者は予選免除とかシード枠とか、そういうの用意した方いいですよ。

 その所為で俺のところは全員棄権なんて大惨事だったんですから。


「あ、始まったよ」


 と、いつの間にか試合が始まったようだ。

 一日に何試合も、それも複数同時に行う関係で、わざわざ大仰な名乗りや紹介、開始の合図なんてものはなく。

 ただ選手同士に聞こえるようにレフェリーが合図を下すだけ、というのがここのルールだった。

 試合というよりは、管理された野試合のような印象を受けるが、あくまでこれは予選。

 本当の大会として、栄誉ある舞台で相応の扱いを受けたければ、勝ち上がってみせろ、というのがオインクの方針だそうだ。

 だから今も、特設された他のステージで残りの人間がそれぞれのトーナメントの優勝者を決めるべく争っている。

 正直、トーナメントトップ3が出場出来るのなら、この戦いは無意味なのでは、と思わないでもない。

 準決勝で敗北したもの同士を戦わせて、その勝者を含めた三人を予選通過者とすれば問題ないようにも思える。

 だが、やはり決勝戦というのは聞こえがよく、観客の入りも段違いのようで、今日も全ての観客席が埋まるという満員御礼。

 そして、いい席を有料にする事で、ギルドに大量の金が入る……と。

 資本主義の豚ちゃんである。


「相手は……魔術師か」

「うん、見たところ炎の魔術師だね。放出と収縮が得意なのかな? 発動体はベーシックタイプのロッドだけど、だいぶ使い込まれているね。だいぶ魔力浸透が良さそうだ」

「……ぱっと見でそこまで丸裸にされるとか、可哀想すぎんだろ」


 リュエさん、貴女本当に凄いっすね。もう魔術師キラーじゃないですか。

 その解説の通り、魔術師の男性は杖の先から、まるで小さなボールのように圧縮された炎の玉をマシンガンのようにばらまき始めた。

 石のステージに焼け焦げた跡がいくつも残されるも、破壊するには至っていない。

 恐らく、連射力の代わりに威力を犠牲にしたのだろう。

 だが、人間相手の当てるのならそれで問題ない。

 いくら身体的ダメージがないフィールドで覆われていようとも、あの弾幕を人の足を容易に止めさせる。


「レイスほらほら、足とめちゃダメ! もっと近づいて殴らなきゃ!」

「あー、なるほど。レイスは格闘家だと思われてるからか」


 威力を殺してでも弾幕を作り、一切近づけさせない作戦なのだろう。

 となると、レイスはここまでほぼ近接格闘だけで勝ち上がってきたと。

 弓を封印している以上、彼女も遠距離攻撃の手段は魔術に限られてくるが……。


「む、レイスも魔力を集め始めた」

「お?」


 そう言われて注視するも、俺の目からはただ彼女が弾幕を掻い潜り続けているようにしか見えない。

 ふむ……だが一つ分かることがある。

 先程から湯水のごとく魔術を使う相手だが、そうなると当然ステージにはその残滓が充満する。

 そして……レイスは再生師だ。

 格闘家ではなく、再生師。ある意味では魔術師と同じく後衛の術師のようなものだ。

 つまり――


「カイくん耳塞ぐ!」

「え?」


 轟音。視界が白く染まる。

 あまりの大きさに喉すらつまる膨大な空気と音の奔流。

 ビリビリと肌を震わせる衝撃と、呼吸が苦しくなるほど圧迫感。

 目が馴れない。強く瞼を閉じ、視力を回復させようとなんどもしばたかせる。

 すると、ようやく耳が無音の状態から、キーンと耳鳴りのような音を届かせるようになり、少しずつ、少しずつ周囲の音を拾うようになる。


「くん……カイくん? 大丈夫? 聞こえる?」

「ぁぁ……あーあー、うん。大丈夫回復した」

「レイス、よっぽどイライラしてたのかなー? 充満してた魔力ぜーんぶ吸収して一気に放出したんだよ」


 ははは……そうでしょうとも。

 周囲を見れば、俺達同様最前列の席を購入していた人間が皆、俺と同じように口を開けたり閉じたりして、まるで池の鯉のような顔をしていた。

 ステージの方を見れば、試合を行っていた他の選手たちまでもが手をとめてレイスを凝視していた。

 そして相手の選手はというと――


「観客席にめり込んどる」

「凄いねぇ、私の炎魔法でもあそこまでの爆発は起こせないよ」


 レフェリーもまた、ステージの下でひっくり返っていた。

 あー、これたぶんレフェリーも気絶してるなこりゃ。

 試合終了の合図を出す人間もおらず、レイスは一人右往左往している。

 自分の攻撃がここまでの被害を出すとは思っていなかったのか、居心地が悪そうにオロオロと周囲を見回すその姿に、ちょっと可愛いな、なんて思ってみたり。

 すると、他のステージの試合が終わったのか、別なレフェリーが大急ぎで駆け寄ってきて、そのまま何かをレイスに伝える。

 すると、ようやく一息ついたような表情をし、彼女もゆっくりとステージ降りていったのだった。


「レイスおめでとう! 本戦出場おめでとう!」


 彼女に大きく声をかける。


「レイスー! すごかったよー!」


 隣の彼女も、割れんばかりの拍手をレイスに贈る。

 すると、ようやく衝撃から回復した観客たちが、一同にレイスへと声援を送り始めるのだった。

 予選でここまでの規模の技を見られると思ってもみなかったのか、皆興奮した様子で彼女を称える。

 周囲の観客だけでなく、離れた席からも立ち上がり、惜しみない声援が贈られる。

 すると、彼女は声援に応えるように優雅に頭を下げ、ゆっくりと控室に戻っていったのだった。


「ううむ……インパクトがすごすぎて全部持って行った感。たしか今、ドーソンやヴィオちゃん、レン君も決勝の最中だったろ」

「ああ、ヴィオちゃんとレン君ならもう終わらせていたよ。ただドーソン君がさっきの音に驚いて尻もちついてたけど」

「ははは、あいつらしいな。んじゃ、勝者を迎えにいきましょうかね」


 今日で予選は終わる。ということはつまり……ついに俺とリュエの出番がやってきたという訳だ。

 エキシビジョンマッチ。一戦目は隣の彼女とアルバの一戦。

 どうなるか結果は見えている。だが、それでもどんな試合展開になるのか、うちの娘さんはどんな戦法を使うのか。

 それを考えながら、恐らく珍しくはしゃいでいるであろう我が家のお姉さんを向かえにいくのであった。


「……肉の用意した方がいいよね」

「ふふ、そうだね!」

(´・ω・`)まだ細かい調整とかあるので、完全に終了というわけではないのですが、少しずつ再開します

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