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百七十七話

(´・ω・`)おまたせしました

 翌朝。

 昨夜の会食がよほど楽しかったのか、リュエもレイスも珍しいくらい酒を飲み、普段酔うことのないレイスまでもが完全にベッドにダウンしてしまっていた。

 すでに二次予選にコマを進めているのだから、一日くらいゆっくり身体を休めるのもいいだろう。

 さて、そうなると完全に時間が出来て暇になってしまうのだが、どうしたものか。

 今日も一次予選が開催されるはずだが、見物にでも行くべきだろうか?


「そろそろドーソンかレン君あたりが出てるかもしれないしな」


 という訳で、本日もすやすやと寝息を立てている二人を起こさないよう、忍び足で部屋を後にするのだった。




 競技場に到着すると、初日にくらべて幾分人の数も少なく、すぐに観戦席に座ることが出来た。

 恐らく昨日は抽選にきた選手たちがそのまま居座った影響もあったのだろう。

 だがそれを差し引いても、今日の観客席の埋まり具合はかなりのものだ。

 幾つかに分けられ建設されたこの席だが、その七割近くが人で埋まっている。

 そして勿論、こんなに人が集まっているのだから、先日の屋台コンテストで見かけた屋台もちらほらと営業しているわけで。

 ふむ、なにか買い食いでもしようかね。


「すみません、隣空いてますか?」


 するとその時、背後から声がかけられる。


「ええ、空いていますよ――君たちか」

「げ……なんでアンタがいるのよ……レイスさんの試合は昨日だったはずでしょ」


 振り返るとそこには、レン君の取り巻き三人娘。レイナ、アリナ、シルルが立っていた。


「君達がいるとなると、レン君の予選は今日だったのか」

「はい。レン様は先ほど迷宮に入ったところです」

「ふむ、じゃあ一番最初に出てくるのは彼か」


 これはなかなか見ものだな。

 俺が彼と戦ったのは、今から半年近く前の話だ。

 その間死に物狂いでギルドに残り続けたくらいだ、さぞや成長していることだろう。


「……結構レンのこと買ってるのね」

「まぁ一応戦った仲だしな。彼は強いよ」

「……ん……カイヴォンがいる」

「今気がついたのか君は」


 最近妙に縁があるというか、少しだけ険悪な空気が薄れつつあるこの一行。

 本当、エンドレシアで争っていた頃を考えれば、たいした進展だ。

 迷宮に目を向けると、観客に見やすいように配慮された戦闘場で戦いが始まろうとしていた。

 七つの通路からそれぞれ選手が現れ、互いに得物に手をかける。

 だがそんな最中、一人だけ武器を取り出す様子もなく、不気味なローブ姿の男がゆっくりと通路へと引き返していった。


「……なんだ、あの男」


 すると突然、他の選手の背後の通路が埋まり、完全に隔離された空間になってしまった。

 そして次の瞬間、戦闘場の床から無数の棘がビッシリと飛び出し、一斉に串刺しにされてしまった。

 あまりにも無慈悲な、容赦のない攻撃。

 いくら身体的には無傷でも、トラウマになりかねないだろ、あんなの……。

 想像してみるといい。なんてことのないただの道を歩いていたら、突然トゲが飛び出し自分を串刺しにする様子を。

 そんな経験をしては、最悪外に出るのが恐くなってしまわないだろうか?


「あれは土属性に氷、雷を作用させて硬質化した魔法のようだ。ふむ、あの規模で展開するのは本来なら魔導の域に届かないと不可能なはずだが……」

「お、ハイテンションモードになった」

「カイヴォン君。君の見解を聞かせてくれないか」


 ふむ、えげつないし、妙なローブ姿だが、あれは間違いなくドーソンだろう。

 散々地味だ地味だと馬鹿にしてきた結果が、あの妖しげなローブ姿とは……誰か彼の買い物に付き合ってやれ。

 ……じゃなくて、あの魔法の仕組みについてか。

 彼は元々、設置型の魔法や定点への発動と、何かを生み出すのに特化している。

 ならば、その自分の得意分野を活かすための戦術や仕掛けを編み出していても不思議じゃない。

 正々堂々真正面から、というのとは違う。二手三手先を読み、自分に都合のいい状況に持っていくのがドーソンのスタイルだと言えるだろう。

 ならば――


「魔法の術式をあらかじめあの場所に刻んだり、なにか時限式で発動させたり、発動の補助をする仕掛けを仕込んでおいたんじゃないか?」

「なるほど、たしかに魔術回路をあらかじめ刻みこんでおけば不可能じゃないか……じゃあ彼はあそこに人が集まるのを待っていたと?」

「恐らくは。いやよかったな、あの中にレン君がいなくて」

「……ふん、レンならあんな罠にひっかかりはしないわよ」

「そうですね。レン様でしたら、床の変化が起きる前に破壊出来ると思います」


 へぇ、そこまで出来るのか彼は。

 地形破壊は、戦闘において大きなアドバンテージ。

 攻撃手段にも、回避手段にも、そして防御手段にも転用出来る、発想次第でどんな戦い方の起点にも使える手段だ。

 ドーソンの魔法がまさにそれだ。彼の場合は地形破壊ではなく地形変化だが要は同じ。

 ふむ、地形を壊す程の破壊力と範囲のある技か。警戒しておこうか。


「じゃあ、予選突破一番乗りは彼になりそうだな。ちょっと冷やかしに行ってくるよ」

「む、あの魔法師と知り合いなのかカイヴォン君。今度是非私のところに連れて来てくれないか」

「はいよ。それじゃあお兄さんは退散するので、三人で存分にレン君の応援をしておくれ」


 さてと、じゃあまずはあの悪趣味なローブについていじってやるとしますかね。




 迷宮の前で待っていると、出口から灰色のローブを纏い、フードで顔をすっぽり隠した人物が現れた。

 だがこちらを見た瞬間、あからさまに動揺した様子を見せ――


「予選突破一番乗りおめでとうドーソン! いやぁ格好いいねぇ、そのローブ。灰色の中に金の刺繍。まるでどこぞのヒーローかなにかみたいじゃないか」

「くっそー! なんで居るんだよカイさん! 昨日だったろ、あの姐さんの予選は」

「勝っても負けてもおちょくれる知り合いがいるんでね、こうして足を運んだわけですよ」

「悪趣味すぎるぜ……」

「そのローブ着たお前が言うな」


 やけくそ気味にフードを脱ぐと、やはりそこに現れるのはドーソン。

 一体どんなセンスがあればそんなローブを選べるんですか。

 背中に刻まれた黄金の紋章に、そこから伸びる呪文がフードや袖にまとわりついている。

 見れば、しっかりと刺繍されているようで造りそのものは上等だ。


「どうしても灰色が好きだけど、地味って言われるから派手さも欲しいって言ったんだよ。そしたらこれを勧められて……」

「誰かの助言を求めなかったのか」

「ヴィオさんが一緒だったんだよ。それで絶賛してくれて、それで」


 明らかに面白がって勧めただろあの子。


「まぁなんにせよおめでとう。これで二次予選で直接対決でレイスにボコボコにされる可能性が出てきたな」

「それなんだよなぁ……なんだよ今年は、去年以上に激戦必須だぞおい……」


 邪魔になるからと、迷宮の出口から少し離れたところにある休憩所に座り話を聞く。

 どうやら昨日敗退した選手達からも情報が出ているようで、すでに今年の優勝候補として何名かの選手の名があげられ始めているそうだ。

 こういう時、横のつながりが多い地元の選手が羨ましくなるな。


「まず、毎年決勝リーグに出てた『毒蛇』って呼ばれる戦士がいる。噂じゃサーディスで暗殺者をしていたって話だが……そいつが昨日、敗退した」

「へぇ、暗殺者なんているのか」

「ああ……あいつは毒や爆弾、様々な道具を駆使して戦うんだが、本人の格闘能力もずば抜けているんだ。俺も一度訓練所で挑んだけど、瞬殺だった」


 ……なんかどっかで見たことあるな、そのスタイル。


「その毒蛇を倒したのが、今年初出場だと思われる鎧の男だ……実はそいつと俺、初日に少し会話したんだよ」


 あ、やっぱりそれ俺が倒したあの忍者っぽい人だわ。


「あれはヤバい。俺の勘が囁いているんだ。きっと人の百や二百は間違いなく殺してるぜ……」

「失礼なヤツだな」

「いや間違いないって! カイさんもそいつを見たらそう思うって!}


 ボクデース!


「で、他に注目の選手はいるのかね?」


 こういう話を他人から聞くのは面白いのだが、随分と失礼なレッテルをはられてしまっている模様。

 あの鎧恐いからなぁデザイン。個人的には常用していきたいくらいだけど、レイスの目もあるしなぁ。


「レイスの姐さんは言わずもがな、ヴィオさんも同じく。まぁあの二人は訓練所で目立ってたからな」

「さすがうちのお姉さん。んじゃ今のところその鎧男とレイスとヴィオちゃんが注目選手ってとこか」

「いや……俺もだ」


 にやりと不敵に笑うドーソン。

 まぁ確かに彼は強いだろう。だが――


「ムカつくのでダメ」

「なんだよそれ! で、カイさん、もちろんあんただって注目株というか、大本命なんだぜ? けど昨日も今日も出ていなかったし、最終日なのか?」

「まぁそんなとこだ。ところで、レン君、解放者の彼は注目されていないのか?」

「おっと忘れてた。まぁ、たしかに強いし注目されてるんだが……アルバの弟子みたいな扱いだからどうしても、な」


 ……まぁ、良い目では見られない、か。

 彼は本当、周りの人間に恵まれないというか、貧乏くじを引きやすいというか。

 ここは少しだけフォローをしておくとしようか。


「ああ、レン君なら『去年の優勝者だから話は聞いたけど、俺には合わないな』とか言ってたぞ」

「そうなのか? まぁ確かにアイツは二刀流であのレンって子とはスタイルが違うが」


 フォローになったかどうか微妙なラインである。

 丁度その時だった。

 迷宮の方から一人の選手が現れた。

 それは今、こちらが噂をしていた人物、レン君だ。


「噂をすればなんとやら。おーいレン君、予選突破おめでとう」

「ん? ……なんでこんなところにいるんだカイ」

「知り合いが今日出場しててな、様子を見に来てたんだ」


 案の定、彼も嫌そうな……とまではいかないが、微妙そうな表情を浮かべながらやってきた。

 見ればそこまで疲れた様子もなく、装備も綺麗なまま。

 ほとんど苦戦せずに勝ち上がってきたのだろう。


「ちなみに今日の一位通過はこの隣にいるドーソンだ」

「ははは、いやどうもどうも。割と卑怯な勝ち方をした一位通過者です」

「くっ、俺が一番じゃなかったのか……」

「正直運がよかっただけだしな、俺は。あんまり気にするなよ解放者さん」


 ドーソンが慰めの言葉をかける。

 たしかにあれは運も大きく関わるだろう。

 あんな大規模な罠、一箇所用意するのが精一杯だ。

 そのたった一度のチャンスに、今回は大勢の人間が同時に掛かった。

 もちろんあの罠を作り出す技量だってあるのだが、運が良かったという彼の自己評価は間違っていないだろう。


「……どうやって勝ったんだ」

「そいつは秘密――」

「たぶん最初の三○分で場所を決めて、罠を張ったんだよ。そんで一網打尽にして後は全力で出口にダッシュ」

「んな!? なんで分かるんだよ! っていうかバラすなよ!」

「まぁ、なんにしてもレン君の実力は、今日の選手の中じゃかなり上位の方なのは間違いないだろうさ。自信を持ちな」

「……約束、忘れるなよ」

「実はすでにカレー粉が手に入ってたり」


 昨日、料理のついでにスパイスの調合とかしていたんですよね。

 それを言うやいなや、彼の瞳が輝いた。


「嘘じゃないな? 本当だな?」

「本当本当。だから頑張りな、精々俺を満足させる試合を見せてくれ」


 そう告げると、彼は決意を新たにしたような顔で去っていった。

 いやそんな大げさな。そこまでカレーが食べたいのか君は。

 ナオ君はチキン南蛮で、レン君はカレー……もし次に解放者が現れるとしたら、どんなものが好物なんですかね?


「なんか二人の世界に入ってたが、なんなんだ? 約束って」

「大会でいい結果を出せたら貴重な調味料を分けてあげるって」

「なんだそりゃ」

「ほら、この小瓶の分を分けてあげるから奥さんに渡してみな。きっとおいしく使ってくれる」


 賞品にしてるものをポンと知り合いに無料で渡すクズである。

 いいんです。美味しいものは広くみんなに伝わった方がいいんです。

(´・ω・`)なかなか更新できないぶう

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