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百七十六話

(´・ω・`)おたませししまた

「よ、ようこしいらっしゃいむしてや!」

「噛み過ぎ」


 無事に全ての料理を仕込み終え、時刻は午後六時を少し過ぎたあたり。

 まず最初に訪れた、というよりは戻ってきたオインクを盛大にスルーしつつ、彼女の後ろから現れた本日のゲストに挨拶をする。

 が、初っ端から盛大に噛んでくれたおかげでせっかくの雰囲気が台無しである。


「……ちょっと、どうしてサーディスの王族がいるの、聞いていないわよ……」

「いやぁ、本当はリュエと引き会わせるのが目的だったんだよ。イルさんはついでってやつです」

「……やっぱり私、そう簡単に貴方とお友達になれそうにないわ」

「残念、俺としてはもう友達だと思っていたんですが」


 はい、まず最初のお客様はイル・ヨシダさんです。

 オインクに頼み、彼女も同席してもらうことにしたのだ。

 やはりエキシビジョンでリシャルさんと戦う以上、彼女とももう少し話しておこうと思ったのだが、無事に来てくれて何よりだ。

 オインクの友達ならば、いずれこの人も立派な豚に成長するかもしれない。いわばこれは先行投資だ。

 いつか二人揃って『そんなー』と言わせてみたいものである。


「ぼんぼん、あまりイルをからかわないでください」

「親愛表現です」

「それで何人敵を作ってきたんですか貴方」

「……どうだったかな?」


 ともあれ、彼女を指定の席にエスコートする。

 椅子を引く際、古典的で効果抜群な悪戯を思いついたのだが、さすがにそんな事をしては仲良くなれるものもなれないのでぐっと堪える。

 これはオインク専用だな。よし。

 だが、振り返るとそこには既に席につき、どこか勝ち誇ったような澄まし顔を浮かべたオインクの姿が。

 ……さすがによく分かってらっしゃる。


「それで、主賓である彼女、リュエさんはいつくるのかしら? ちょっと今日は忙しくて食事もままならなかったのよ私……」

「すまんイルさん、腹ペコキャラは間に合ってるんだ」

「くっ、やっぱり貴方苦手だわ私」

「何度も言うけど俺は結構気に入ってきました」


 いじりがいのある新たな知人と親交を深めていると、部屋の扉がノックされた。


「遅くなりました」

「ごめんね、訓練が長引いちゃったよ」


 そして現れるうちの娘さん二人組。

 瞬間、俺の横を一陣の風が駆け抜ける。

 ほい、足を出してひっかけましょ。


「ふぎゅ!」

「レイラ、慌てすぎ」

「ぐぇ!」


 前のめりに倒れ、床に衝突する寸前のところで再び後襟をつかむ。

 すると、やはりというか、つま先を支点にぶら下がった状態のまま全身をビクンビクンと震わせ始める。

 だが――


「カイさん! 女性になんて事をするのですか! 大丈夫ですかレイラさん、お怪我は――ヒッ」

「レイス、そいつはもう手遅れだ」


 俺から引ったくるようにレイラを保護した我が家の母性本能溢れるお姉さんが、抱き寄せた相手の顔を見て引きつった声をあげる。

 ね、もう手遅れでしょうその人。原因は俺にあるのだけれど。


「レイラちゃん今朝ぶりだね。今日もパン、美味しかったよ」

「え……」


 とここで、別世界にぶっ飛んでるレイラを引き戻しにかかる我らがリュエさん。

 まさか自分の正体がすでに割れているとは思っていなかったのか、驚きのあまりトリップしていた意識が戻ってきた様子。


「リュエにはかなり早い段階で気が付かれていたらしいぞ」

「そ、そうだったんですか……」


 さて、じゃあみんな揃った事だし、席についてもらいましょうかね。




 オインク、イル、リュエ、レイスが席につき、俺とレイラが配膳をする。

 一品目は軽い前菜として、先程俺が作ったパスタオムレツだ。


「レイラ、席についていいぞ。後は俺がやる」

「え……よろしいのですか?」

「今回の目的はお前さんをリュエに引き会わせる事だ。そっから先どうなるかはお前さん次第だ」


 今日は完全に裏方に回らせてもらいましょうかね。

 さすがに女性が五人に対して男一人ってのは気が休まらない。

 それに、俺の目的はレシピの習得。ここから先はもう関与する必要もないだろうさ。


 エプロンを外し、おどおどした様子で席につくのを見届け、彼女の分の料理も配る。

 喜べ、君の分はパスタがあまり入っていない端っこの部分だぞ。

 ……可哀想だからやっぱりやめよう。料理でいじめるのはよくない。


 全員が料理に手を付けたのを見届けながら、次の料理の準備にとりかかる。

 そして一人になった台所で、作業をしながら思考を巡らせる。

 考えるのは、先ほどの話。

 なぜ、そこまでリュエを……いや、セミエールの魔女という、偽りの悪者を仕立てあげたのか。

 思うに、エルフ達はリュエ本人を憎んでいる、恐れているというよりも『セミエールの魔女という共通の敵』を生み出そうとしているように思える。

 あまりにも、あまりにも話捻じ曲げて伝え過ぎている。

 仮にサーディスから外に出たエルフが、エンドレシアに渡りそこでリヒトの一族の話を聞いたらすぐに破綻してしまいそうなものだ。

 それともそこまで徹底的に、幼い頃から教育しているのだろうか?


「……なにか、都合の悪いなにかが隠されている?」


 分からない。

 そもそも俺の目的は連中から『正式な謝罪を勝ち取る事』と『正しい歴史、真実を認めさせる事』だ。

 向こうさんにどんな都合があろうと、別に詮索するつもりなんてない。

 だがもし、その隠されたなにかが、リュエに関わるものだとしたら……。


「ま、向こうにいったら考えたらいいか」


 さて、集中集中。

 そろそろ謎パテのラタトゥイユ風が仕上がる頃合いだ。





「あら、じゃあ貴女、ウィングレストの町を作る時に尽力してくれたっていう再生師だったの?」

「尽力だなんてそんな……私は自分の屋敷の補修を手伝って下さった方々に恩返しをしただけですので」

「再生師だったのですか? 素晴らしいです、私の国では、再生術を礎にした術式が多く考案されていて、人々の生活に密着しているんですよ」

「そうなのですか? サーディスはエルフの国と聞いていたので、てっきり魔術や魔法が優遇されているのかと……」

「オインク、貴女もウィングレストの創設に携わっていたのよね? レイスさんとは顔見知りではなかったの?」

「……いえ、当時は彼女の存在を知りませんでした。いまさらですが、私はレイスのすぐ側にいたのですね……もし、もっと早く貴女に気がつけていたら……」

「ふふ、オインクは結構おっちょこちょいさんだね。私だけじゃなくてレイスもすぐ側にいたのに」

「うう……痛いところを突かないでくださいよ」


 食卓へ向かうと、五人が和気あいあいと歓談を楽しんでいた。

 ふむ、気になる話がチラホラと聞こえるが、さすがに会話に混ざる勇気はない。

 おとなしく料理提供のタイミングを測っていると、丁度最後の一口をイルが口に運び、全員が前菜を完食した。


「二品目、そろそろ出させてもらっていいかい?」


 歓談に水を差すようで悪いのだが、こちらも出来るだけ美味しい状態で食べてもらいたい。

 少々時間を頂き、カートに乗せた料理を配膳する。


「あ、カイさんのラタトゥイユですか。私も得意な料理ですし、ちょっと厳し目に見てしまいますよ?」

「ははは、お手柔らかに頼むよレイス」


 冗談めかし笑う彼女。

 彼女は長い間、路頭に迷ったり、道を見失った娘さん達の母として料理の腕を振るってきた。

 その期間だけを考えれば、彼女はある意味俺の先輩だ。

 それにラタトゥイユは彼女の得意料理、一家言あるのだろう。


「ちなみにレイスに残念なお知らせを一つ。これ、肉系の食材は入ってないから」

「……あの、そこまでお肉にこだわっているわけではありませんよ?」

「いやぁ、つい。けど、代わりにあるモノを入れてるんだ。みんなも是非そいつを味わってもらいたい」


 例の謎パテを煮込んだのだが、自分としてはいい組み合わせだと思っている。

 トマト系の味と、エビや白身魚の甘さの相性が良いのは様々な料理で既に証明済みだ。

 レイラよ、お前さんには味見をさせなかったが、今こそこの味の完成度、一体感を味わってもらおうか。

 そして、敗北感に苛まれ、失意と絶望、そして自尊心を――


「あ、美味しいですねカイヴォンさん。少しパテにハーブを入れたんですか? 後で教えて欲しいです」

「……あ、ああ。後でな、うん」


 ちくしょう素直か。


「あ、これあのモチモチぷりぷりフライの中身なんだね!? カイくんこれ作れるようになったのかい!?」

「お、分かったかリュエ。さっきレイラに教えてもらったんだ」

「そっかー、ありがとうねレイラちゃん」

「い、いえいえ! 喜んでいただけてなによりです」

「これ私本当に大好きなんだよね。幸せの味だよ」


 そこまで言われると、照れる。

 アレンジした甲斐があるというものだ。

 さて、ところでこの中で恐らく最もセレブなお二人の反応はどうでしょうか。


「相変わらずの腕前ですね……変な意味にとらないで欲しいのですが、ずっと手元に置いておきたいですよ、ぼんぼん」

「家畜に飼われる趣味はないです」

「そんなー」

「え、なに本当にこれ貴方が作ったの? これ料理上手だとか、得意料理だとかそういう域の味じゃないわよ」

「お孫様のお口にあったようでなによりです」

「お孫様って言うのやめてくれない? なんだか小さい頃を思い出して嫌なんだけど」

「じゃあイルちゃんで」

「ちゃんづけもやめて。呼び捨てのほうがマシよ」


 んむ、結果は上々。

 再び彼女達の元を離れ、次の料理の準備をしながら歓談に耳を澄ます。

 盗み聞きと言うなかれ。こういうホームパーティーで料理を出す側の楽しみとしてはごくごく普通の事です。

 聞こえてくる『美味しい』の言葉が、作る側のなによりの活力なんですよ。

 ……それに女子会の会話って気になりません?

 我ながら発想がゲスである。


「それでさっきの話に戻るのだけど、貴女、レイスさん? しかるべき場所に出るのなら、当家でバックアップするわよ?」

「そうですね。仮に貴女が議員に立候補するのなら、私も後押しさせて頂きますよ。現状、アーカムの失墜で各地の元貴族の末裔が足並みを崩しています。そこに新たな旗印として、過去の実績のある貴女を――」


 肉の筋が、随分と硬いな。

 こりゃ力を入れないと切れそうにない。

 少しだけ力を入れ、包丁を振り下ろす。

 ズドンッと振動と共に衝撃音が響き渡り、彼女達の話し声が止む。


「すまん、うるさかったか」

「……いえ、問題ありません」

「じゃあ、引き続き歓談を楽しんでくれ」


 豚ちゃん、さすがにそいつは地雷だぜ?

 

「申し訳ありませんが、私はここに留まるつもりはありませんので、提案は嬉しいのですが……」

「そう、なら仕方ないわね。そうね、もし気が変わったりしたらいつでも言って頂戴」

「ふむん。全部終わったらこの大陸で暮らすのもいいかもしれないね? オインクもこの大陸によくいるみたいだし」


 確かにリュエの言うとおり、世界を見て回り、サーディスの一件を片付け、そして過去の七星や見えざる神に纏わる一連の謎に決着をつける事が出来たなら、それもいいかもしれない。

 リュエの家、あの森で暮らすのも魅力的だが、この大陸のように少しずつ未来に向けて変化し続ける場所というのも、住んでいて楽しいだろう。

 ま、なんにしても未来の話だ。もしかしたらこの先、もっと魅力的な場所に出会えるかもしれないのだし。


 うっし、じゃあ次はレイスお待ちかねの肉料理だ。




 歓談は続き、イルによるイグゾウ氏の過去の偉業の話や、レイラによるリュエへの熱いラブコール、それに今大会に出場中のレイスの話と話題は尽きない。

 が、こちらの用意している料理は残り僅か、もうすぐ尽きてしまう。

 最後の一品、デザートをカートに乗せ、笑いの絶えない彼女達の元へ赴く。


「はいはい、最後のデザートの時間がやってまいりましたよ。ちょっと今回は気合を入れて作った自信作だ」

「む、甘味の時間だね! アイス、アイスはあるかい!?」

「ドングリ、ドングリはありますか!?」

「ちょっとおかしなお客さんがいますね、普通そんな質問はこないと思うのですが」

「オインク、貴女今もドングリに目がないの……? 貴女確か公共の広場に片っ端からドングリの木を植林していたわよね?」


 公私混同も甚だしい。

 だが、だがしかし。

 なんと今回、本当に業腹だが――


「そんなおかしな質問する人と、無邪気な質問をする娘さん。その二人の要求を満たすとしたら?」

「おほーっ!」

「おお!?」


 今回のデザートは、以前出店大会で作った『エイコーンラテ』と『パンアイス』を融合、アレンジしたもの。

 メニューを作った段階で、ドングリチップの一部をサトウキビ由来の蒸留酒に漬け込んでいたのだ。

 コーヒー豆を漬け込んだらコーヒーリキュールになるように、ドングリチップを漬け込む事でドングリ風味のリキュールになるのでは? と。

 ちなみに、実際にスペインには『リコール・デ・ベリョータ』というドングリの甘いリキュールが存在する。

 なのでそれを真似して漬けていたのだが、今日で約一ヶ月、いい具合に色も香りも、そして味も出ていたので活用してみたというわけだ。

 こいつを牛乳で割って軽くアルコールを飛ばし、少し大人向けのドングリラテを作りだしたというわけだ。


「バケットアイスのドングリ風味ってところだな。結構気合入れて作ったんだぞ? それとこっちはドングリのムースだ」

「ぼんぼん、やっぱりここに残ってください。毎日私においしいデザートを作ってください。それだけで衣食住全ての保証をします」

「やだ、この豚ちゃん欲望のあまり強権振り回す気まんまんなんだけど」


 後でリキュールのも含めてレシピ渡すからそれで我慢しなさい。


「カイヴォンさん、いつの間にデザートなんて用意していたんですか……」

「これくらい仕上げの合間の時間だけで一から作れます。さぁ、ひれ伏したまえ」

「おみそれしました」


 素直に頭を下げるんじゃない。


「で、リュエとは満足に話せたかね」

「はい、おかげさまで」

「レイラちゃんの国のお話を色々聞かせてもらったよ。今だと独自の魔導具? みたいな簡易術式が発達していて、どんな物にも簡単な効果を持たせて使っているらしいんだ」


 面白い話が聞けたのか、大好物のアイスに思考を持っていかれる事なく楽しそうに語るリュエ。

 そうか、向こうの大陸にも楽しみを持てたのなら、なにも言うことはない。

 心置きなく向かえるというものだ。


「……ぼんぼんは大会が終わり次第すぐにサーディスへ向かうのですか?」

「そのつもりだ。けど、もしなにか頼みでもあるなら言ってくれ。これまで世話になったんだ、出来るだけ恩は返すさ」

「大会終了後、外部の人間も傍聴可能な中央議会が開催されます。恐らく今年はアーカムの一件もありますから、荒れてしまうかもしれません。あまり長期間拘束する事はありませんので、念のため出席して頂けると幸いです」

「そうね、私からもお願いするわ。現状、オインクと私が二大議長となってはいるけれど、アーカムの信奉者がこちらに流れてくるという訳ではないの。新たな旗印を掲げるか、今の在り方に抗議する為の派閥を新たに作る……こんなところかしら」


 確かにあの時、アーカムの下に集った元貴族、元領主の末裔があれで全員だとは限らない。

 直接俺が対応し、そして説得した人間はまだしも、又聞きしただけの連中がおとなしくしているとは限らない、か。

 オインクがエンドレシアから人材を補充、監視の目を増やしたといっても、限度があるだろうし、不穏分子が行動を起こすとしたら、その議会の最中、か。


「それに、貴方がおじいちゃんの願いを叶えるのなら、その顛末を聞かせてもらいたいしね。議会までの間に叶えられそうなら、済ませてしまってもいいんじゃないかしら?」

「ああ、それもそうか。……まぁ、俺がリシャルさんから槍を借り受けられたらの話だけど」

「あら?、自信がないの? オインクが推すくらいなのだから、それくらい容易いのではなくて?」

「こっちにもいろいろ事情があるんだよ。まぁ、勝つつもりではいるがね」


 そういえば、イグゾウ氏の墓はどこにあるのだろうか? 確かアギダルは彼の最後の地と伝えられていたが、あの町にそれらしい場所は見当たらなかった。

 ああいう町だと、いかにも人が来そうなスポットを大々的に宣伝して町おこしでもしようとするのが常なのだが、そんな様子もなかったし。

 妙に詳しいって? そりゃあこっちもど田舎出身ですから。

 ともかく、イグゾウ氏の遺言状には『墓に酒をかけてくれ、一緒に(鍬)も持ってきてくれ』とあった。

 ならば今のうちに聞いておくべきだろう。


「イルさんや、ちょいと訪ねたいんだが」

「なによ? 言っておくけどリシャルのクセとか弱点とか、そういう情報は教えないわよ」

「いやいや、ただちょっとイグゾウさんのお墓ってどこにあるのか聞きたくて。アギダルでは見かけなかったからさ」

「おじいちゃんのお墓? それならこの都市にあるわよ? なに、貴方まだここの詳しい地理も把握していないの?」

「うん? カイくん、イグゾウさんのお墓を探しているのかい? だったら私が案内してあげようか」


 灯台下暗し。ここにあったのか……。

 だがなぜここに? 亡くなったのはアギダルではなかったのか?


「この都市の有名スポットは私が一通りチェックしてあるからね。イグゾウさんは元農業区、今で言う商業区の奥にあるみたいだね」

「ああ、あの運河周辺の」

「ええそうよ。おじいちゃんはアギダルで亡くなったのだけど、亡くなる間際に『自分が死んだら、農協の近くに作ってある墓に埋めてくれ』と」

「……農協なのか」

「農業区画だって何度言っても、かたくなにそう呼んでいたらしいわ」


 ……JA全農ですね、わかります。

 しかしそうか、この都市にあるのなら好都合だ。

 リシャルさんとの決戦は大会期間中のインターバル。ならばその日のうちに借り受け、そのまま向かう事も可能だろう。

 ぱぱっと済ませて本戦が始まる前に戻る事も出来そうだ。


「ま、なんにせよ頑張ってよね。リシャルは強いわよ、それこそここにいるオインクに匹敵するくらい」

「ふふ、そうですね。私が勝てるとしたら、試合開始前に一○キロ程距離が開いている場合くらいでしょう」

「オインクがそこまで言うか……警戒させてもらうよ精々」


 とらぬ狸のなんとやら。

 イグゾウ氏がなにを遺したのか、なにを心配していたのか、その事に対する興味は尽きない。

 だが、今は目の前の戦いに集中すべきなのだろう。

 足を掬われる事だってある。それに、本来ならば俺は挑戦者だ。

 相応の覚悟を以って挑むのが礼儀ってものだ。


「さて、じゃあとっくの昔にデザートを食べ終えたようだし、食後のお茶でも用意しますかね」


 気負いはしない。

 この戦いの先で、イルの願いが、同郷の先達の願いを叶えられるかもしれないとしても。

 そしてその果てに、世界の謎に迫るなにかを知ることが出来るかもしれないとしても――

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