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百七十四話

(´・ω・`)お待たせしました

おかげさまで二巻の初週売上がオリコンにのったそうです

「つまり闇は、他属性に闇という要素を加えてまったく別な属性に変化させるものだと俺は思う。いわば闇は属性ではなく、魔術に対する更なるファクターだと考えてるんだ」

「興味深いね、それは。君は随分と柔軟な思考をしている、王宮やこの街の錬金術師達に見習わせたいくらいだよ」

「この街の錬金術師っていうのにはまだ会ったことがないけど、どこか施設があるんだって?」

「ああ、中央にね。レンの名前を借りて見学に行ったのだけど、やはり魔族が歴史を作ってきただけはあってね、興味深くはあったんだ。けれども、昔の職人気質の人間は皆、既にここを離れていてね、中途半端に先鋭的になっていて得るものが少なかったのさ」


 久々に誰かと議論するという楽しいやり取りをしているわけだが、その相手は一体誰なのか。

 まさかのシルルちゃんである。

 どうやら彼女、普段の眠そうな、そして何を考えているかわからないようなぼんやりとしていた様子は『セーフモード』と自分で呼んでいるらしく、頭を必要な時以外休ませるためのものなのだそうだ。

 会話をしているうちに、段々と彼女の口数が多くなり、気がつけば口調から声色、そして目つきまでキリリとしたものに変わっていた。


「そういえば元々魔族が支配していた大陸だしなぁここ。支配階級になってからものづくりをやめた人間が多いらしいから、もしかしたらアルヴィースのご老人方の方が詳しいかもしれないな」

「なるほど……あの街は活気があり、老人たちの姿もよく見かけた。いやはや、盲点だったよ。しかし、カイヴォン君は剣士だろう? なぜそこまで魔術に対して見識を深めようとしているんだい?」

「やっぱり知らない事を知ろうとするのは楽しいからね。それに、折角身につけた力だ、それを最大限に活用するために学ぶのは当たり前じゃないか?」

「素晴らしい! そう、その通りだ! その点、レンは分かっていない。剣術に磨きをかけるのはいいが、せっかく私が教えた魔術を最低限しか使わないんだ」

「そういえば彼は雷を使っていたっけ」

「ああ、中々に希少な属性でね。彼はそれをあろうことか『これは補助魔法に使えそうだ』なんて見当違いな事を言う。結局、その考え方のせいで満足に使えなくて足止め程度の魔術しか使えないという有様だ」


 愚痴やらなにやら、これでもかと吐き出される言葉の数々。

 普段しゃべらない人間ほど、一度話すと止まらなくなるというやつだろうか。

 いや、彼女の場合はそれとも少し違うような気もするが。


「案外、補助として使えるかもしれないな。けど恐ろしく繊細なコントロールが必要になるし、今の彼には難しいかもな」

「む? 君は彼の発言の意図を理解したというのか? 少し聞かせてくれないか」

「ん? いや体内の電気信号やら、筋肉の伸縮やらに作用させるって話なんじゃないか?」

「電気信号? 筋肉の伸縮に作用? ちょっと詳しく聞かせてくれないかい、なんなら後でレポートでまとめて渡してくれても構わない」

「あー、ほら、身体に小さな電気を流すと、ビクって反応して勝手に動いたりしないか?」

「ふむ、どれどれ」


 いやはや、随分と長いこと話し込んでしまったが、彼女は自身に魔術をかけるのに集中しはじめたので一端視線を訓練中の四人へと向ける。

 するとどうやら、今は変則的な組み合わせとしてリュエVS残りの三人という状況になっていた。

 さすがにレイスを含む三人相手では棒のみで戦うのは難しいらしく、所々氷の魔術で牽制を行っていた。

 やはり魔術を解禁したリュエの強さは凄まじい。ほぼノータイム、ノーモーションで的確に相手の行動を阻害している。

 勝ち気娘さんことアリナが果敢にも正面から挑み、それを安々といなそうとしたところに、死角からレイスの拳が襲う。

 そして、彼女達の後方からレイナの光魔術だろうか、輝く礫がリュエの顔付近にパラパラと降り注ぐ。

 それを頭を振って払いのけ、レイスの拳を片方の手で受け止めつつ、アリナの剣を自分の棒で打ち払う。

 ほぼノータイムのコンビネーション攻撃にも関わらず、それらを全て凌ぎきる姿は、まさに熟練の戦士だった。


「……俺もリュエに稽古つけてもらおうかな」

「アバババババババ」

「ん?」


 と、横からおかしな声が聞こえてきたので振り向くと、ベンチに横たわったまま動かなくなったシルルの姿が。

 ……電気の加減を間違えたな。


「……今日は、この辺りにしておく……」

「お、またダウナー状態に戻った」

「眠いから……寝る」


 そう言いながら、彼女は再び例のクッションを頭の下にしいて眠り始めてしまった。

 ううむ、中々にバラエティーに富んでいるというか、面白い子だな。

 再びリュエ達に視線を戻すと、訓練を終えたのか全員が地面に座りこんでいた。

 顔つきをみるに、どうやら魔術を解禁したリュエに勝てなかったのだろう。

 分かりやすいくらい悔しそうな表情を浮かべているのはアリナで、次に悔しそうな顔をしているのが意外なことにレイス。

 そしてリュエは少しだけ疲れた顔で、満足そうに頷いていた。


「うん、レイスがうまい具合にアリナちゃんに合わせて動いていたね。アリナちゃん、気がついていた?」

「わ……わからない……わよ……」


 息も絶え絶えといった様子でそう吐き出した彼女に、レイナが回復魔術を行使する。

 その様子を見ながら、俺も四人のそばへと向かい声をかける。


「お疲れ様。やっぱり強いな、リュエ。三人がかりで攻め切れないなんて」

「ふふ、私は元々消耗戦や持久戦が得意だからね。けど、なかなか手強かったよ」


 初手の広範囲魔導で攻めきれなければ、前衛として戦線を上げ、相手の攻撃を一身に受けつつ徐々に削っていく。

 そして誰かもう一人の前衛、ダメージディーラーとなる人間が動きやすいようにサポートする。

 ゲーム時代、Ryueを使用していた時の集団戦に置ける役割はこうだ。

 そして、いつもその隣で戦っていたのはシュンだった。

 連携。チーム戦。懐かしいな。

 恐らく、レン君達はこういう戦い方を主としているのだろう。


「アリナさん達はお仲間の役に立ちたいと願い、訓練を申し出たのですよね?」

「そ、そうよ」

「でしたら、個人の力を急激に磨くよりも、先ほど私がそうしたように、他の誰かを活かす動きを学ぶといいかもしれません」

「他を活かす……?」

「個人の力が急激に伸びることはありません。ですが、連携を学ぶことにより、誰かと一緒に戦った時の効率が急激に伸びる事は十分にありえますから」


 レイスが諭すようにそう言うと、先ほどの戦いに思い当たるフシがあったのか、納得したように頷いていた。

 そしてリュエもまた、レイナという少女に魔術についてなにか教えを授けているようだった。


「さて、そろそろ予選も終わっただろうし、俺はオインクを探しにいくけど二人はどうする?」

「うーん、もう少し彼女達に付きあおうかな。もし夜に会うようだったら私も行くよ」

「そうですね、私も良い訓練になりますし、もう少しだけ一緒に身体を動かそうかと思います」

「了解。じゃああまり根を詰めすぎないようにな、四人とも」


 お互いにいい刺激になりそうでなによりだ。

 俺も、アキダルでナオ君達のパーティーに入っていい経験を詰むことが出来たし、たまには別な人間と戦うのも必要だろう。

 さてと、じゃあ恐らく不機嫌であろう豚ちゃんのところに行くとしましょうか。






「……いやいきなりそんな顔されても困るんだが」

「変な顔してましたか?」

「ムスッとしてるな。どうした、選手に逃げられたあげく煽られでもしたか?」

「……見ていたんですか」


 あの後、ギルドにてオインクの所在を尋ねたところ、既にこちらに戻ってきていると知らされた俺は、総帥の執務室でふてくされた様子の彼女と対面していた。


「登録情報がほぼなし。戦闘スタイルも確認出来ませんでした。ぼんぼん、何か知りませんか? 訓練所で見かけたりはしませんでしたか?」

「いや、あんな目立つ奴を見忘れたりはしないはずだが、記憶にないな」

「そうですか……」


 ほら、俺あの姿で訓練施設になんて行ってないし。

 見覚えなんてあるわけがないでしょう。


「ところで、もう一人のヴィオちゃんはどうして追われていたんだ?」

「……彼女からの進言があったそうです。曰く、この予選のやり方はぬるい、もっと振るい落とすべきだと。それで、荒らして回るから止めてみせろ、と」

「あー、確かにそれは言えてるかもしれないな。出場制限がないせいで選手数が大変なことになってるし」

「やはり制限を設けるべきでしょうかね……いくら予選の段階ではほぼ命の危険がないとはいえ……」

「実際、弱い人間同士でぶつかって分不相応な選手が勝ち上がる事ってこれまでにもあったんじゃないか?」

「そうですね、ギルドの有力株同士がぶつかり合い、その結果一般の農家の方や、パン職人が二次予選まで通ってしまった事があります」

「おいおい、その時点でこのルールはおかしいって気づけよ」

「それが、中々どうして盛り上がるんですよ? 考えても見てください、そんな素人と有名な戦士が、大舞台で戦う。興味ありませんか?」


 言われてみると、確かにそうそう見られない組み合わせではある。

 だが、それは古代のコロッセオで囚人を猛獣に襲わせる、一種の虐殺ショウに通ずるものがあるのではないだろうか?

 趣味が悪いぞ、という意思を込め彼女に視線を向ける。


「うっ……やり過ぎないように指導もしていますから……ね?」

「公開処刑された身にもなれよ、可哀想だろ」

「……それ、アルバに言ってあげてください。恐らくそうなるでしょうね、彼は」

「そういえば、あいつについて色々聞いたな。ああいう人間を議員に選ぶのはどうなんだ?」

「それは私にも非はありますね。ただ、本当にこんな人間だったとは思いもしなかったんですよ。実力も人柄も申し分なく、そして忠誠心も高い。それが、これまでのアルバへの評価でしたから」

「まぁ、周囲の人間が皆騙されたくらいだしな」


 まぁ、大衆の前である程度痛い目を見ればなにかしら変化が起きるだろう。

 それが良い変化であれ悪い変化であれ、オインクはそれを理由になにかしらの判断を下す大義名分を得る、と。

 本当、こちらを利用するのが得意ですねこの豚ちゃんは。


「それで、ぼんぼんはなにか用事があって会いに来たのでしょう?」

「ああ、今晩空いてるか聞きたくてな」


 すると突然、オインクは懐から携帯型の通話魔導具を取り出しどこかへと連絡を入れ始めた。


「私です。今晩の会食はキャンセルです。明日のお昼まで、すべての業務を停止します。これは決定事項です」

「おいおい。なにか用事があるならそっちを優先しろよ。総帥だろ」


 満足気に通話魔導具をしまい込み、彼女は先程までの不機嫌そうな様子をどこかに放り投げたかのように嬉しそうな表情をして語り出す。

 なーんで今晩の予定を聞いただけで明日の昼まで予定をキャンセルする必要があるんですかね?


「いいんですよ、どうせこの催しが終わった後に控えてる会議で、自分たちに味方して欲しいという人間達の根回しですから。私に協力させたくなるような提案を出来ない方が悪いんですよ」

「やだこの豚ちゃん結構辛辣」

「それで、私は今晩フリーになったわけですが、どういったお誘いでしょう?」

「ああ、それなんだが――」


 俺は彼女に、レイラとリュエを引き合わせる事もかねて会食でも開けないかと提案する。

 勿論、オインクやレイスにも同席してもらうつもりだが。

 要件を伝えると、あからさまにがっかりしたように肩を落とす。

 いやいや、俺がそんな二人きりのディナーに誘うなんてねぇ? そんな色っぽい間柄でもないだろうに。


「まぁ薄々そうじゃないかとは思っていましたけどね。どうやら今日もレイラ様は屋敷を抜けだして料理を届けていたようですし」

「もしかしてこの間の部屋、彼女が自由に出入りしてるのか?」

「ええ。よく勝手に抜けだしてあそこで料理を作っているんですよ」


 なるほど。

 じゃあちょっとそのご本人にも協力してもらいましょうかね?

(´・ω・`)で、重版はされるのかしらね?

重版祈願に豚重でも作ろうかしら?

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