十四話
デュエッ
「マインズバレーにて、創世記に作成されたギルドカードが使用されたようです」
「……そう。でしたら一度向かわないといけませんね」
「総帥自らがですか?」
「ええ。今度こそ私の探し人だといいのですけれども」
やってまいりました冒険者ギルド。
今日から正式に冒険者として活動を開始した俺は、宿代を稼ぐという建前の元、片っ端から討伐依頼を受けるためにやってきた。
本当の目的は勿論『新たなアビリティの習得』だ。
俺がこの世界に来てから倒した魔物の種類はそう多くない。
だが、少なくとも龍神からはゲーム時代にはないアビリティを手に入れることが出来た。
だったら、俺の知らないアビリティを持った相手がまだいてもおかしくはない。
「まぁ、これ以上強くなる必要もないんだけどさ」
でも変わり種のアビリティとか欲しいじゃん?
『攻撃した相手を凍結させる』とか『攻撃した相手を回復させる』とか色々面白そうじゃないか。
まぁ本命は『相手のステータスを覗くことが出来る』とかそういうのなんですが。
建物内へと入ると、掲示板を無視してそのまま受付へと向かう。
「すみません、現在出ている全ての討伐系依頼を受けたいのですが」
「え!? 失礼ですがそういうのは」
「これをどうぞ」
黒いギルドカード手渡す。
気分は『支払いはこれで』と黒いカードを出す若社長である。
すると、直ぐ様依頼の準備を始め、もう一人の職員が大急ぎで掲示板の討伐依頼の張り紙を回収してくる。
さすがに依頼を受けようとしていた人の物を横取りにはせず、迷っている素振りの人からは一言告げてから回収する。
余計なトラブルも起きないように配慮してくれているし満足満足。
「では此方が今受けられる討伐依頼です」
『ケイブバッドの討伐 報酬は出来高制』
『マインシーカー5体の討伐 9000ルクス』
『レアワームの討伐 報酬は出来高制』
『アースドラゴンの発見 可能ならば討伐 10万ルクス~30万ルクス』
『鉱山最深部の崩落原因の調査魔物ならば討伐』
『廃鉱山に潜むアンデットの討伐と最深部の浄化』
合計6つの依頼を用意され、その内容を見る。
最後の2つは少々手間取りそうだが、期限が決められていないようだし後日リュエと相談してみようか。
「では行ってきます」
「本当に大丈夫ですか……? 失礼しました、どうかお気をつけて」
足早にギルドを出ようとすると、建物の一角に小さめの神殿? のような物があった。
見ると冒険者達がお供え物をし、祈りを捧げている。
ああ、あれがリュエの倉庫に送られる物なのか。
でもね、そんな食べかけのパンやら壊れた防具なんてお供えされても困るんですよね。
「とりあえず鉱山にきてみたは良い物の」
街の横、崖に面した場所からスロープ状に切り崩された道を登り到着したのは、横に5人くらい並んでも問題ないくら大きな鉱山入り口。
トロッコのレールが敷かれ、明かりがポツポツと光っている。
腰をおろしレールに耳をくっつけてみるが、トロッコの走る音が響いてこないし、今日は炭鉱夫達がいないのだろうか?
「なんでい兄ちゃん冒険者か? 今日は4番以外は探索可能だぞ、確認してなかったのか」
「ん? いやぁこの街来たばっかりなんですよ。じゃあここで魔物狩りをしてもいいんですね?」
「ああ。明かりを辿って行けば途中で横穴がある。そっから先は自由に探索してくれ」
調査不足でしたとさ。
そりゃ廃鉱山じゃないんだからいつでも自由に探索していいわけないよな。
内部は想像以上に気温が低く、コートを着ている自分を褒めてやりたい。
ただでさえ季節はまだ冬なのだから、寒いのは当然だが、炭鉱夫の皆さんは薄着で寒くないのだろうか?
「また出たよ。どんだけ多いんだよこいつら」
暗い横穴へと足を踏み入れてから幾度ともなく現れるケイブバッド。
それを剣を振るうまでもなく、殴りつけて壁へと叩きつける。
すると、残される完全な形の両翼と、結構な頻度で残される大きな牙。
って。
「一応剣でも倒してみるか?」
アビリティ習得という目的を忘れていた。
そしてその結果――
「まじかよ……お前こんな……雑魚がこんな……」
『アビリティ習得』
『ソナー』
『剣を地面に突き立てた衝撃波で周囲の正確な地形を読み取る』
とんでもなく有用なアビリティを落としてくれました。
気配察知なんてもんじゃございません、一度発動させるとメニュー画面にマップが表示され、さらにはある程度の大きさの魔物の位置までわかってしまう優れものでした。
……こりゃ本当にいろいろ期待が高まるんですが。
その後、探すのに苦労しそうなレアワームなる魔物も、不自然にマップの道を無視して動く光点を追いかけることで見つけ出し、そいつが残した綺麗な石を大量に集める事が出来た。
ただマインシーカーだけは見つけることが出来ず、依頼とは関係ないクモ型の魔物や、恐らくゴブリンと思われる人間もどきを数体倒すことで今日の探索を切り上げる事にした。
結局、手に入ったアビリティは『ソナー』だけだったが、非常に実入りのある探索だった。
「マップを見るに狩り尽くしちゃったみたいだしな」
恐らく定期的に魔物が湧くから、鉱山を順番に掘って残りを冒険者に開放しているのだろう。
まぁ明日からはここを炭坑夫達が使う事になりそうだ。
「……ケイブバットの両翼379に牙が98。レアワームの結晶が29。さらに依頼外の魔物の討伐が111ですか……」
「申し訳ありません、マインシーカーとアースドラゴンを見つける事は出来ませんでした」
ギルドに戻る頃には日も沈み、疲れた顔をした冒険者達が次々に戻ってきていた。
「2番と1番の坑道の魔物が狩り尽くされてたらしいぞ」
「狩り尽くされって……この間開放されたばかりだろ? まだ二日目だぞ」
「2番はケイブバッドの巣窟だし、まさか一匹もいなかったって訳じゃあるめぇし……」
やりすぎたらしい。
「精算終了しました。出来高制でしたので、こちらとなります」
「ふぁ!?」
次々と積み上げられていく袋。中身は恐らく硬貨だろう。
「こちらの大きな袋が10000ルクス硬貨、この小さな袋が1000ルクス硬貨になっております。端数分は全て100ルクス硬貨と10ルクス硬貨に分けて一番小さな袋に入れておきました」
「……合計幾らです?」
「ケイブバッドの牙も含めて、986950ルクスとなります」
「……内訳を聞いても?」
「両翼150 牙500 結晶30000 依頼外の魔物は一律100となっております」
俺は考えるのをやめて、とりあえず受け取る事にした。
「失礼ですが、ギルドに口座を開設してはいかがでしょうか?」
「あ、そんな事出来るんですか。ではお願いします」
「すぐに出来ますので、まず最初に預ける金額を決めて下さい」
「あ、じゃあ今の報酬全てと4000万ルクスで」
「え!?」
メニュー画面の中とは言え持ち歩くの恐いからね。
ギルドの金庫の中とどっちが安全かはわからないけど、口座と言うくらいなら利子くらいあるだろう。
「え、ええと……その金額となりますと少々お時間が……」
「あ、どうぞどうぞ、やっちゃって下さい」
その後、本当の意味でブラックカードを手に入れた俺は、ギルドカード共々ニヤニヤ眺めながら宿へと戻る事にした。
まさか本当に異世界にきてブラックカードを持つ日がこようとは。
このカード、ギルドに登録されている一部の商店で使う事が出来るという優れもの。
ギルドの掲示板がアナログな仕組みのクセに、こういう所は妙に現代的というかハイテクだ。
いや魔法の一種ならむしろローテクなのか?
「ん、鍵が空いてるな。リュエはもう戻ってたのか」
しかし部屋の中にリュエの姿はなく、かわりに聞こえるのはシャワーの水音。
……ちょっと疲れちゃったなーベッドで静かに横になっていようかなー。
あーでも眠気がないなー、けど一応目を閉じておこうかなー。
「ふぅ。あれ、カイくん戻ってきてる」
寝てますとも。けど一応何か有った時のためにうっすら目をあけてあたりの様子を伺っておりますよ。
「ふむ……起きろー!」
「ぐえ」
……全裸でボディプレスかましやがったよこいつ。
そうなんだよなぁ……今更恥ずかしがったりしないんだよなぁ。
だからこう、イマイチ燃えないんですよ。
「全部見えてるから隠しなさい」
「改めて指摘されると恥ずかしいから目瞑って」
「だがガン見」
白い肌、引き締まっった身体。女性特有の柔らかさというよりも、筋肉の形が分かる細身ながらも鍛えられた太もも。
うっすらと線が見える引き締まったウェストに、余りふくよかとはいえない胸とその頂点の淡い色の――
「見るな!」
「ぐえ」
ようやく恥じらいを持ってくれてお父さんうれし――
「おはようカイくん」
「まさか俺が気絶するとは……さすがリュエ」
羞恥心は生命力極限強化をも打倒するのか。
「今日の依頼はどうだった?」
「ん? 私かい? 聞いて驚くが良い。なんと初日で宿代を稼いでしまったよ」
「へぇ、やるじゃないか」
「む、なんだか反応が薄いね」
そりゃまあ俺も稼いだから。
「実は今日、依頼を受けるにあたって一番稼ぎの良い物だけを選んで受けたんだよ。採取依頼でね、1番坑道という場所で取れる『怨霊結晶』という物の採取だったんだ」
「また随分物騒な名前だな」
なんでも、この鉱山は大昔戦場だったらしく、崩落で両軍とも生き埋めになり、その後何百年と時を経て地殻変動、鉱山と化したそうだ。
その時の影響で時折とれる物らしいのだが、一番坑道の最深部で一際大量の怨念が渦巻いていたらしく、それを本職の聖騎士であるリュエが浄化したそうだ。
大量の結晶に加え、溢れたアンデットを狩り尽くし、さらにはついでと言わんばかりに他の魔物も狩り進んでいたらしい。
となると、廃鉱山のアンデットもきっと、その戦場だった影響かなにかだろう。
「と言うわけで私の稼ぎは50万オーバー。これでもう私は働かなくても良い訳だ」
「なるほど、それは凄いな。ついでに俺の稼ぎは90万オーバー」
「そうだろうそうだろう。競争は私の勝ちだな――今なんて?」
「私の稼ぎは98万です」
「嘘をつくな嘘を。報酬の高い依頼は全部私が受けたんだぞ!?」
「出来高制の依頼を無視した結果だな。俺が本気を出せばこんなものだ」
まぁそれでも、本当にお互いに宿代を余裕で超える額を稼いでしまったし、本当にもう働く意味がないような気がしないでもない。
「そういえばカイくんはいつ頃宿に戻ったんだい? 私より後だと思うのだけど」
「ああ、ギルドで精算してすぐに戻ってきたんだよ」
「私は夕方頃に依頼を終えてここで休んでいたわけなんだけど」
「ん、それで?」
「つまり、私の方が先にギルドで報酬を受け取り、宿代を稼いだ訳だ」
「あ」
「カイくん、これは先に宿代を稼ぐ競争であって、金額勝負じゃない。つまりこの勝負は私の勝ちだ!」
なんだかとてつもなく嬉しそうに宣言する姿に、哀れみすら覚えてしまう。
そんなに勝ちたかったのか君。
こんな しょうぶに
まじになっちゃって どうするの