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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
十章

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百七十一話

(´・ω・`)おまたせしました

 迷路の中を駆け抜け、気がつけば見覚えのない広場へと辿り着いていた。

 急ぎ離れようとした結果、いつの間にか別な道に入ってしまったようだ。 

 どうやらこの広場はいくつかの通路の集合地点の役目をしているらしく、今来た道の他に七つの通路がここに繋がっているようだ。


「ここで待っていたら誰か来たりしないかね?」


 予選が開始されたことで耳に届く音もだいぶ増え、これならば近いうちに自ずと他の選手も現れるだろうと[五感強化]を解除する。

 さぁ、これで他の選手と条件は一緒。あとは誰かが訪れるのを待つだけ――

 気持ちを新たにした瞬間、唐突に甲高い金属音と共に背中に衝撃が加わる。

 その衝撃に少しふらつき、一歩足を踏み出し体を支える。

 そして急ぎその場を飛び退り、通路から死角になる位置に身を隠す。

 油断した。もしこの鎧じゃなかったら完全にアウトだっただろ、今の威力……。


「何者だ」


 今の衝撃は、恐らく投擲やそれに類する攻撃だろう。

 先ほどまでアビリティで周囲の音を聞いていたというのに、こうもアッサリと一撃もらうとは……。


「……残念、どうやら相当な逸品のようですね。帰り際に見かけましたので、駄目もとだったのですが」


 ……マジですか。

 声の主は、どこか楽しそうなレイスだった。

 恐らく先ほど奪ったダガーをこちらに投げたのだろう。

 急ぎ彼女の姿を視認しようと通路を覗き込むと、そこにはついに本来の得物である弓を構え、赤く渦巻く魔力の矢を射らんとしている彼女の姿。

 おいおいおい、まさか本気でここでやりあうつもりなのか!?


「ごめんなさいね、だまし討ちのような真似をしてしまいました」

「んな!?」


 唐突に、彼女はその魔力の本流を自身の足元に放った。

 瓦礫と突風を巻き上げ、魔力の余波が視界を奪う。

 すると、頭上から彼女の声がかかる。


「では私はお先に失礼致します。どうやら本当にここで叩くのは難しいようですし」


 声を頼りに彼女の姿を探すと、そこには壁よりも僅かに高く飛び上がり、そのまま壁のふちに着地し、立ち去ろうとする彼女の姿が。

 ……そんな使い方も出来るんですか。たしかに普通は壁を乗り越えて移動なんて出来ないししようとも思わないだろう。

 いやはや、まさかこんなに生き生きとした姿を見ることになろうとは。


「……随分と、お転婆だな」

「そうですね、少々浮かれているのかもしれません。出口はもう目と鼻の先、これで失礼しますね」

「ああ。さすがにそう何度も攻撃されてはかなわん」

「ふふ、やはり外の世界は広いです。お名前、お聞きしても?」

「登録名はネームレス」

「名無しさんですか……ではこちらも。私はレイスです。二次予選を楽しみにしていますね」


 元々彼女はギャンブルが好きだったり、様々な戦闘技術を身につけていたりと、意外と活発的というか、攻撃的な面も持ち合わせていた。

 恐らく、周りに俺やリュエの目がない影響で少々はめをはずしているという部分もあるのだろう。

 そして、彼女にとって予選はただの通過点程度にしか考えていなかったのだろうが、そこに意外にも自分の攻撃に耐える人間が現れた。

 それが、楽しくてしょうがない。そんな顔をしていた。


「……あんな風な顔もするんだな」


 まるでどこかの誰かさん。リで始まってエで終わるあの人のように、屈託のない笑顔で飛び去ったレイスの顔を思い出しながら、こちらも笑い声を漏らす。

 ははは、やっぱりまだまだわからない面、魅力的な面が隠れているんじゃないか。


「……とっとと終わらせるか、予選」


 待つのはやめだ。

 あんな顔をする彼女と戦えるのなら、まだ見ぬ表情を見せてもらえるのなら、こんな場所に長々といるのがもったいない。

 全力で行かせてもらう。






「クソ! なんでだよ! あと少しだったってのに!」


 出口からさほど離れていない、少しだけ小高い立体交差になっている場所で、俺は一人の冒険者を追い詰めていた。

 予選が始まってから約一時間、要領の良い人間ならばうまく立ち回り、最小限の労力で登録証を集め、外へと向かう頃だろう。

 だからこそ、その界隈を根城にさせてもらった。

 お蔭様で、後は外に出るだけという七枚の登録証を持った人間をこうして捉える事が出来たのだから。


「諦めろ。見たところ戦闘らしい戦闘もしてこなかったのだろう?」

「くそ……が……」


 その相手の風貌は、全身をローブで隠しながらも、武器らしきものを帯びている様子もなく、ただ不自然な膨らみが腰や胸、足に見受けられた。

 鳩尾に拳を差込み、気を失ったのを確認してローブを剥ぎ取ると、そこには大量の小包や竹筒、薬ビンやロープといった、罠やそれに順ずる装備の数々が隠されていた。

 なるほど……こういう戦い方をする人間もいるのか。


「けどそれじゃあ一対一で戦う時はどうするつもりだったのかね」


 さて、では登録証を頂戴しますかね。

 そう、紛うことなき漁夫の利である。

 なにも自分で六人狩らずとも、すでに狩り終えた人間を狩ってしまえばいいという発想だ。

 全力を出すとは言ったが、その全部の力を悪巧みに振らせてもらいました。


 しめしめと懐へ手を伸ばしたその時だった。

 手の甲に猛烈な衝撃を受け、伸ばした腕を大きくはじかれる。

 手首から肩まで伝わる痺れに眉を顰め、ぶらぶらと腕を振って感覚を取り戻そうとする。

 だがその瞬間、今度は正確に肘の部分、間接の装甲の薄い部分に強烈な一撃が刺さる。

 それは確かにこちらの肉体そのものダメージを与え、猛烈な痛みを感じ、そしてすぐにそれがただの倦怠感へと変換される。

 ……これが、この場所の肉体ダメージを変換する効果なのか?

 だが、再び突き刺すようなズキンとした痛みが走る。

 それもそのはず。攻撃を受けた箇所を見れば、今も肘には鋼鉄の矢が突き刺さったままだった。 

 そりゃ物理的に貫通して矢も残ってたら現在進行形でダメージを受け続けるだろうよ!


「鉄の矢……新手か」


 痛みに耐え矢を抜くと、瞬間的に痛みが倦怠感に変わる。

 先ほどの攻撃、てっきりまだレイスがいたのかと思ったが、彼女は魔力の矢を使う。

 恐らく別な人間だろう。

 すると、こちらがその狙撃主を見つけるまでもなく、ゆっくりと、だが余裕を感じさせる足取りで二人の人間がこちらへとやってきた。

 いずれも、俺同様顔まで隠すフルプレートメイルに身を包んでいる。

 ……恐らく、あれがギルドの人間だろう。

 咄嗟に俺はそう判断を下す。


「……待ち伏せて一気に奪うのは、卑劣な手段だと?」

「分かっているなら話は早い。今なら見逃してやろう。そいつを置いて迷宮の奥に戻れ」


 二人組みの片割れ、身体の大きな人間がそう言った。

 そしてもう一人の、今も弓を構えたままの人間がこちらに狙いをさだめている。

 ……こいつは相当厄介だな。


「……いや、面倒だから断らせてもらう」


 そう言うや否や、弓から放たれる矢がこちらの視線に乗るように正確に向かってきた。

 間髪入れず眼球狙ってくるとか、容赦ねぇな!

 だがそれを――


「ラァ!」


 手で掴みへし折る。

 出来た、出来たぞ俺にも! 先ほどレイスが相手の投擲したダガーを二本指で受け取ったのを見てから、一度挑戦してみたかった技だ。

 そしてすぐさま足元に転がる男の胸にくくりつけられた薬ビンを蹴飛ばして割ってやる。

 するとその瞬間、シューっと音を立てながら淡い紫の煙が立ち上る。

 本能的に吸ってはいけないものだと判断した俺は、剣を抜き猛烈な勢いで技を発動させる。


「"ワールウィンド"」


 風圧とともに敵の体勢を崩すだけの、攻撃力を持たない剣術。

 だが、煙を送り込むには十分すぎる働きをしてくれた。

 二人が咄嗟に身を低くししたのを確認し、俺はさらに足元の男から竹筒を抜き取る。

 じつはこの竹筒、先端から導火線みたいなのが飛び出してるんですよね。

 これにはピンときましたよお兄さん。

 俺は炎魔術で点火し、姿勢を低くしている二人に投げ込んでやる。

 そしてそれを合図に駆け出し、ここから目と鼻の先にある出口へと向かうのだった。


「外に出てしまえばこっちのものだろ!」


 背後から爆裂音が響いてくるが、あの二人は大丈夫だろうか?

 ともあれ俺は足を前へ前へと蹴り出す。

 そして出口が見えたその瞬間、ゾクリと胸に冷水を流し込まれたような悪寒が走る。

 咄嗟に足をもつれせるようにして転げ、そのまま転がるように出口から外へ出る。

 その悪寒の正体を探るべく迷宮へ振り返ると、そこには――


「……なんだ、あいつ……」


 薄汚れた鎧に身を包んだ、弓使いの小柄のギルド職員が、今も口惜しそうに弓を構えたままこちらを向いていた。

 ……やっぱり、出てしまえば予選通過扱いなんだな。

 よっしゃ、ならここはやることは一つ。

 俺は立ち上がり、弓を構えたままの職員を見据えて――


「どうした、悔しいか? まんまと逃げられた気分はどうだ?」


 スキップしながら煽ります。

 当たり前だろ! こんな美味しいシチュエーションで煽らない奴なんていないだろ普通。


「相方はどうした? 爆発で吹き飛んだか? 敵が取れなくて残念だったな?」


 カシャンカシャンと音を立てながらスキップ&サイドステップ。

 まさしく『ねぇどんな気持ち? ねぇどんな気持ち?』状態である。


「ふむ、では私は予選通過の報告を受け付けにしにいかなくてはな。そちらも『卑劣な選手』を『外に出さない』という『義務』をしっかりはたしてくれ」


 一つ一つ強調しながら言葉をぶつけてやる。

 腕の痛みのお返しだ。結構痛かったんだからな。

 そう最後に告げて背を向けると、背後から何かを叩きつけるような音が聞こえてきた。

 はっはっは、八つ当たりは見苦しいぞ。

 まぁ冗談はここまでにしておいて――


「……鎧はともかく、俺がダメージを受けた、か」


 少し警戒したほうがいいか?




「予選突破おめでとうございます。ネームレス様は……一三番目ですね」

「そうか」


 受け付けに登録証を渡し、無事に予選突破の証であるドッグタグを受け取る。

 正式名称は認識票のはずなのに、なぜこんな名前になったのか。

 むしろなぜ登録票を採用したのか。

 それは恐らく、ここに刻まれている文字が答えを握っているのだろう。


「なーにが『出荷番号』だ。完全にお遊びじゃないか」


 これ、大会が終わったらオインクの首にかけてやろう。


 手続きを済ませ、そのまま観客席側へと向かう。

 まるでサッカースタジアムのような、けれども高さのあるその場所は、遠目ながらも迷宮の中の様子を見ることが出来るようだった。

 が、今回の目的はその席ではなく、観客向けのお手洗いだ。

 目的はもちろん、我慢していた便意なんてものではなく、この装備を解除する事。

 先に街に戻るのも手だが、早く二人に合流しないと後が恐いというかなんというか。

 それに、やはりレイスが『自分の晴れ舞台を見てくれなかった』と思ってしまっているのでは、という心配もある。

 ……いつも彼女が大人な対応をし、余裕を感じさせながら行動してくれるのでそれに甘えている節がどこかにあったのかもしれない。

 ともかく、俺は急ぎ手洗い所へと向かい、装備を解除するのだった。

(´・ω・`)さて、二巻発売はもう明後日(というか明日)ですね

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