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百六十九話

(´・ω・`)

 時間を潰すこと三時間。

 その間イメージトレーニングをしてみたり、実際に身体を動かしてみたりと色々試してはいたのだが、やはり暇なものは暇な訳で。

 結局周囲を見て回る事にし、そしてその結果この姿のせいで無駄に警戒されるはめになったわけで。

 いや、俺だってこんな全身真っ黒な鎧姿の人間が練り歩いてたら警戒するけどさ。

 なにはともあれ、ようやく会場に選手が揃い始め、次第にこの広大な特設会場の周囲一帯が人で埋まりはじめた頃、拡声器のような魔導具で全体にある通達がされた。

『これより、開会の挨拶を開始します』と。


「これで挨拶の最初に『本日は天候に恵まれ』となんて言い出したら、いよいよもって運動会の挨拶だな」


 なんて独りごちて笑いを漏らす。

 どうやらどこかに集まって開会式を行う訳ではなくこの拡声器で挨拶が行われるだけらしく、皆足を止め聞き入っていた。


『皆さん、おはようございます。七星杯運営を任されている冒険者ギルドの総帥、オインク・アール・アキミヤです』

「お、豚ちゃんが挨拶してるのか」


 となると、この会場のどこかにいるのかね? 万が一があるかもしれないし、少し警戒した方がいいか。


『今年は収穫祭の開始が一月早く、結果として例年通りのスケジュールでは七聖杯までの期間が大きく開いてしまうため、急遽前倒しで開催する事となりました』


 なんでも、七星杯は年に一度遥か上空に棲む七星『プレシードドラゴン』が下界に降りてくるタイミングを見計らい開催されるらしく、開催日がほぼ毎年決まっているそうだ。

 が、今年は温暖な気候の影響で収穫祭が早めに始まり、そうなると結果として、大陸の外から訪れた人間が七星杯が始まるまで長く大陸に滞在しなくてはならなくなってしまう。

 なので、それに配慮した形で前倒しの開催と相成った、と。

 まぁ間が長いと、人によっては予算の都合で途中で帰らなくてはならなくなってしまうし、出来るだけ間を開けずに開催して集客率を上げようって魂胆なのだろう。


 なお、優勝者は毎年現れたプレシードドラゴンに今年度収穫された作物の中から特別よく出来た物を捧げる役目を担っているそうだ。

 今年は一月早いのだが、恐らく収穫時期が早まったのでプレシードドラゴンもそれを察知して現れるのではないか? という事らしいのだが。


『出場者の人数にも影響が出てしまうのではと危惧していましたが、今年も無事、前年度の出場者数を上回ることが出来ました』


 確かにこの人数は圧巻だ。

 スタジアム球場もかくやという規模であるにも拘わらず、すでに人の密度が凄まじく、これから観客が次々にやってくる事を思えば相当な数になってしまうだろう。

 もっとも、観客席は別に用意されているのでまだ余裕はあるのだが。


『では日程についてお知らせします。一次予選は三日間に渡り開催される予定になっており――』


 日程をざっくりとまとめるとこうだ。


・一次予選は選手を三つのグループに分けてのバトルロイヤル形式で行われる。基本一日一回で三日間まるまる使う事になる。

・二次予選は一次予選終了から二日後に行われる。一次予選で三百人程度まで絞りこまれた選手をさらに一◯のグループに分け、トーナメント方式で絞り込んでいく。


 スムーズに進めば二次予選は四日程度で終わるらしく、各トーナメントのトップ3が本戦に出場する事が出来るという。

 本戦は特設会場ではなく、都市中央にある王宮にある闘技場で行われるらしく、観覧する為のチケットは毎年抽選で配られるそうだ。

 わざわざ入場者数が限られてしまう場所で行うのもおかしな話だが、なんでもその闘技場にはプレシードドラゴンを呼び寄せるための術式が刻まれているらしく、強い人間同士の闘志が増幅され、上空にいるプレシードドラゴンを呼び寄せるのだそうだ。


・本戦は全ての予選が終わった後、四日間のインターバルを挟んでから行われる。


 さて、俺としてはこのインターバルこそが本番と言えるだろう。

 この間に行われるエキシビジョンマッチが本戦の観戦券を得られなかった人間にとってのメインイベントの様なものなので、毎年大勢の人間が詰めかけると言われている。

 いやはや、今から楽しみ半分緊張半分、想像するだけで胸の鼓動が早くなってしまう。


『さて、では今年のエキシビジョンマッチの組み合わせをここでお知らせしましょう。既に一部では噂されていますが、なんと今年はリシャルが出場してくれる事になりました』


 さて、その一大イベントとも言えるエキシビジョンについてオインクが語ったのだが、その瞬間周囲から一斉にどよめきの声があがる。

 聞こえてくるのは困惑と期待の声。皆『誰が相手を務めるんだ』『ついに俺もリシャルさんの戦いが見られるのか』という内容のものだった。

 ふむ、彼はあまり人前で戦わないのだろうか。

 確かこの都市の防衛に専念しているという話だったが、やはり何者かに襲われないかぎり、その腕を振るう機会がないという事なのだろうか?


『対戦相手ですが……そうですね、私の直属の部下と言いますか、秘蔵っ子みたいな人とだけ言っておきましょう』


 今回はあくまで『冒険者のカイ』という扱いだが、恐らくこれが通用するのは今回限りだろう。

 まだアルヴィースでの一件が大きく広まっていないのだろうが、恐らく時間の問題。

 それに、俺は勝つつもりでいるのだ。恐らくそれで注目度も上がり、自然とカイ=カイヴォンと判明するだろう。

 まぁこの大会が終われば、いよいよこの大陸を去るのだからあまり関係はないのだが……そう考えると少しだけ寂しいな。


『さて、それだけではありません。今年のエキシビジョンですが、もう一試合用意しています』


 さて、こちらはどんな反応だろうか?

 アルバは昨年度の優勝者であり、その知名度は相当なものだろう。

 だが、リュエは今年度のミスセミフィナルではあるが、そこまで有名ではないはずだ。

 さてさて、どうなることやら。


『昨年度の優勝者にして白銀持ち、そして昨年議会の一員となったアルバが出場します』


 まず、アルバの名が告げられる。

 だがその反応は俺が想像していたものとはやや異なっていた。

 どこか不満気な、面白くないような、そんな声がちらほらと聞こえてきた。


『早速白銀持ちとしてアピールか……』『まさかこんな奴だったとはな……』

『去年の俺をぶん殴ってやりたいぜ』『彼もまだ若い……ただそれだけだと思いたいが』


 うーん? ただの嫉妬にしては少し気になる言い回しもあるようだが、彼はなにかやらかしたのだろうか?

 辺りを見ると、似たような反応をしているのは皆、この都市に所属している冒険者のようだった。

 その中に先ほど見かけたドーソンとヴィオちゃんの二人組みの姿を確認し、少しだけ傍による。


「なんかみんなの反応よくないね。あのアルバって人嫌われてるの?」

「まぁ……そうだな。去年までは謙虚で、皆に期待されていた好青年だったんだよ。だが優勝して白銀持ちになって、その後周りの推薦を受けて議員になったんだが――」

「議員になった瞬間化けの皮が剥がれたってこと?」

「そう、だな。それからは酷いものだった。自分に従う人間をはべらせて、結構好き勝手やってたんだよ」


 なるほど。

 そりゃ確かに嫌われるはずだ。

 力や富を手に入れた瞬間人が変わり、周りを見下すようになる人間。

 そして上の人間に尾を振りさらに上を目指そうとする。

 別にそれが正しくないとは言わない。ある意味では正しい行為だろう。

 まぁ、それには当然リスクが付きまとうのだが。

 そして、そんなリスクを冒してまで好きに振る舞った結果、アルバに最大の危機、罰が降される事になったわけだ。

 つまり、彼女だ。


『アルバの対戦相手は、今年度のミスセミフィナルであるリュエです』


 名を告げられた瞬間、大きなざわめきが広がる。

 あれ、そんなに有名なのリュエさん。ちょっと鼻が高いんだけど。

 天狗とかピノキオ超えそうな勢いで高いんだけど。


『マジでか! あの姐さんが戦うのか』『あの人魔法師だっけ? アルバとの相性はどうなんだ』

『前に訓練場で木剣で訓練していたぞ』『聖騎士だって噂だ』


 ああ、そういえばレイスと訓練場で早朝訓練をしていたっけ。

 その影響もあってか知ってる人間も多いというわけか。

 だが、さらに続く会話に、有名な理由がそれだけじゃないと知る。


『前に負けて泣いていたぞ、可哀そうでかわいかったな』『木剣を駄目にして急いで隠してるのを見かけたな』

『その後悪いと思ったのか恐る恐る職員の所に持って行ってたな』『怒られなくてほっとしていたな!』

『お詫びに一生懸命木を削って作ってたな、新しく』『うまく出来すぎて惜しいと思ったのか渡すの迷ってたな!』


 ……がっかり具合が広まってるじゃないっすか。


『リュエは私の古い友人で、最近冒険者に復帰した白銀持ちです。おそらく、相当見応えのある試合になるでしょうね』


 さて、そんながっかりな評判を消し去るような戦いを見せてくれるのでしょうか。

 いやぁ……やっぱりうちの娘さんはこういうキャラなんですよね。




『では、最後になりますが予選の抽選を行いたいと思います。皆さん、登録札をご確認ください』


 さて、いよいよ抽選の時間だ。

 指示通り懐から札を取り出すと、先ほど読み取るときに使われていたであろう紋章が、じわりじわりとその形を変化させていった。

 ちょっと気持ち悪いんですが、これ。

 そしてその変化が止むと、紋章の形が『1』にかわっていた。


『紋章が数字に変化したと思いますが、それが予選の順番となっています。今年は総勢2088名、一試合につき約700名によるバトルロイヤルが行われる手はずとなっております』


 つまり、俺はこの後そのまま予選に向かう事になる、と。

 周囲の人間を見れば、俺同様に表情を引き締めなおす者、一息ついたかのように肩の力を抜く者、そして緊張に身を硬くする者と、様々な反応を示していた。

 二次予選は合計で300人出場するという話。つまりこの予選、一試合につき通過出来るのは100人、すなわち七人に一人の割合で突破できるという訳だ。

 さて、そのバトルロイヤルの詳しいルール、聞かせてもらおうじゃないか。

(´・ᾥ・`)

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