百六十八話
(´・ω・`)お待たせしました十章開始です。
薄暗い部屋の中、二人の寝息を聞きながら静かにベッドから降りる。
部屋を去る際二人の様子を窺うと、どういうわけかリュエがレイスのベッドで、そしてレイスがリュエのベッドで眠っていた。
……夜中に寝ぼけたのかね。
「……ぁ、今日は私の番ですよ……」
「……違うよ……私だよ……」
寝言で会話していらっしゃる。
一体どんな夢を見ているのだろうか。
そんな二人の様子に笑みを浮かべながら、静かに扉を閉める。
朝食は会場付近の屋台で適当に済ませるとしようか。
ロビーに出ると、俺と同じように早くから会場に向かうべく職員に会場の場所を確認しにきている人間や、恐らく登録をまだ済ませていなかったのか、少し慌てた様子で登録受付へ駆け込んでいる人間がいた。
そんな姿を尻目に、そっと訓練場へと向かい、以前着替えるのに使った資材置き場へと潜り込む。
もうすっかりなれたもので、テキパキと全身に鎧を纏っていき、最後に腰に魔術剣を下げ完成だ。
さて、じゃあ出発だ。
この街に来てから約一ヶ月。久方ぶりに街門通りへとやってきたのだが、やはり今日からはここを多くの人間が通ると踏んでか、初日よりも遥かに多くの屋台が立ち並んでいた。
が、残念な事にまだ早朝も早朝。屋台骨だけ残された状態だったり、まだ陳列すら済ませていなかったりと、物を買うことが出来ない状態の店ばかりだった。
まぁ、恐らく会場付近にいけば、既に移動を済ませた商人達が店の準備も終えているだろうと期待を込め、そのまま素通りを決め街の外へ。
「なんだか運動会かなにかの案内板みたいだな」
街の外には木製の看板が随所に設置されており、赤いペンキで矢印が描かれていた。
それに従い外壁沿いに進んでいくと、前方にちらほらと他の出場者と思しき人間がまばらに見えてきた。
俺が言うのもなんだが、こんな朝早くから物好きな人間もいたものだ。我が家の娘さん二人もまだ夢の中にいるというのに。
やや歩調を早め、先を進む集団の側へと寄る。
そして鎧の所為で聞き取りにくい周囲の音を拾うべく、自分自身に『五感強化』を付与する。
すると聞こえてきたのは――
「毎年お前も飽きないな。早く行っても結果は変わらないだろう」
「いや、なにか分かるかもしれないだろう! コースの全貌や規模、それに他の人間より先に到着し、訳知り顔で他の選手を待ち受けてみろ」
「ふむ? それでどうなる」
「きっと『あの選手は何か知ってるのかもしれない、俺達よりも戦略を練る時間があったのかもしれない』と一目置かれる訳だ」
「それでどうなる」
「そうすると俺を避ける連中が出てきて、無駄に相手が萎縮して優位に戦えるかもしれない」
……セコい奴もいたもんだ。
が、嫌いじゃないですそういうの。
まぁ確かに、ある意味戦いが始まっていると言えるのかもしれない。
精神攻撃は基本。心理戦は基本。そしてハッタリも基本。
……俺もやっちゃおうかな。どうせこっちの正体は誰も知らないんだ、盛大にヒール役にでもなって場を撹乱してやるってのはどうだ。
凄いな、楽しそうだぞ。しかしなんだね、やっぱり人は自分の正体が隠れているとどんどん悪いことをしたがるんだな。
というわけで、この中々に小狡い作戦を立てている男性の側へと歩みを進める。
「……目障りだからと、先に消されるかもしれんがな?」
低い声を意識し、さらにヘルムに反響した声が相手へと届く。
その瞬間、隣りにいた男共々飛び上がりこちらへと振り返る。
「な、なんだ突然……ひっ」
「……俺はそんなおかしな作戦なんて実行しないからな! だからこいつだけ、こいつだけ狙ってくれ」
面白いくらい顔を青ざめさせる二人に、少し悪戯が過ぎただろうかと罪悪感が込み上げてくる。
が、これも心理戦、これくらいなら別にいいだろうと開き直ることにする。
よしよし、ちょっと盛大に悪乗りしようじゃありませんか。
しばらく外壁沿いに歩いていると、さすがに都市の規模が膨大な為その移動距離も長く、随所に休憩所が設置されていた。
というよりも、そもそも送迎の乗り合い馬車が今日から用意される事になっているのだが、さすがにここまで早朝だとまだ走っておらず、なのでこうして歩いているというわけなのだが。
アビリティを組み替えて一気に駆け抜けてもいいのだが、どうしたものか。
とその時、ヘルムの中になにかいい匂いが届いてきた。
なんの匂いかと周囲を見回すと、なんと用意されていた休憩所ですでに屋台が一件営業を開始しているではないか。
これ幸いにと、急ぎ足で屋台へと向かう。
「すまない、その丸いパンのようなものを二つくれないか」
「へいまい……ど」
おっちゃん、そんなあからさまにこっちの姿見てテンション下げないでくださいよ。ちょっと凹むんですが。
屋台では鉄板が設置され、そこに半分に切られたボール状の白いパンが並べられていた。
断面に焦げ目をつけ、そこに汁気の多い肉野菜炒めを挟んで食べるというものだ。
んむ、ニンニクとハーブの香りが食欲をそそりますな。
早速目の前で仕上げ始めたおっちゃん。こんがり焼けた面に肉野菜炒めの汁が染みこんでいき、最後にボトルに入った赤いソースをふりかける。
あれはチリソースかなにかだろうか? ちょっと味の想像がつかないな。
「ふ、二つで六◯◯ルクスになります」
「安いな」
ガントレットを外し、その巨大な球状のパンを二つ手に取る。
ヘルムの下半分を外し、そのふかふかのパンにかぶりつく。
「……うまい」
もっちりふわふわの生地が香ばしい香りを含んでおり、噛むと同時に口内から鼻孔へと突き抜ける。
それを追うように、ニンニクとハーブの香りが広がり、野菜の甘みと肉の旨味が口いっぱいに広がる。
うまいな、なんかちょっとエスニック的な中華風炒めのようなそんな印象だ。
先ほどの赤いソースはやはりチリソースだったらしく、良いアクセントになっている。
あっという間に二つたいらげた俺は、もう一度店主のおっちゃんに礼言う。
すると、この姿とのギャップに驚いたのか、少しだけ表情を緩めて応じてくれた。
いやぁ、さすがに食べ物に関してはヒールにはなれんのですよ。
「ほら、早速食べてる人もいるし私達も買おうよ」
「いやだってなぁ……ヴィオさん金もってないんだろ?」
「大丈夫、私が優勝したら倍にして払うから。ね?」
「俺も出場する立場なんだけどな……」
背後からの聞き覚えある声に振り向く。
するとそこには、どういうわけかドーソンとヴィオちゃんという組み合わせが。
おい妻子持ち。こんなロリっ子相手に浮気か。
「鎧のお兄さん、それ美味しかった?」
「自分で買って確かめるんだな」
「おいやめとけってヴィオさん。いやなんかすみませんね、はしゃいでるみたいなんですよ」
「ちょっと子供扱いしないでくれる?」
さすがに知り合いの側にずっといるとボロが出そうなので、そうそうに立ち去ることに。
いやはや、苦労人だなドーソン。明らかに奢らせられる流れだぞそれ。
それからさらに三◯分ほど歩く。
まぁさすがに埒が明かないからと、自身に『移動速度2倍』を付与した上で早歩きをしたんですが。
しかしこんな姿で猛烈な速度の競歩なんて、シュールを通り越してちょっとしたホラーだろうに。
すると次第に、遠目に大きな壁が見え始めてきた。
恐らく石造の、大きな遺跡のような建築物。
あれが特設会場だとすると、毎年あんな規模のものを作っているというのだろうか?
それとも、レイニーリネアリスの力を借りた錬金術かなにかなのだろうか?
その遺跡のような建築物の前までやってくると、受付と思しき職員が席に座りこちらを凝視していた。
そこまでなのか。そんな訝しむように凝視するほどなのか。
「……予選の抽選にはまだ早かったか?」
「出場選手の方ですか? でしたら、登録札をお見せください」
「これだ」
事前に渡された木札を差し出す。
そこに掘られているのは登録ナンバーと、なにやら紋章のようなもの。
それをなにかの魔導具にかざすと、そこにこちらの登録情報が浮かび上がる。
ううむ、随分とハイテクというか、魔導具文明が進んでいるな。
「……殆ど情報なしじゃないですか……よくこんな選手を……」
すんません全部聞こえてます。
「確認しました。では、発表までまだ三時間程ありますので、その間へ決して会場に入らないようにしてくださいね」
「分かった」
さてさて、じゃあなるべく人目につかない場所で大人しくしているとしましょうかね?
(´・ω・`)追伸 ちょっと前から豚ちゃんの外伝小説の連載を開始しました。




