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百六十七話

(´・ω・`)本日二巻の校了が決まりました。

(´・ω・`)わーいわーい後は出荷されるのを待つだけよー

「で、なにが聞きたいんだよ」

「まずはそうだな、あの三人の娘さんとはどこまで進んだのかお兄さんにちょっと話してみ?」

「んな!? なに言ってるんだテメェ! そんなくだらない」

「軽いジャブに大きな反応ありがとうございます」


 というわけで、角に追い詰めるという形で一緒に湯を堪能しております、ぼんぼんです。

 いやぁ厄介な年上の人間って感じで嫌になっちゃうね。だが君、体育会系の人間だろ、これくらい慣れっこだろ?


「三人は……仲間だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「そうだな。仲間以上になったらそれはもう仲間じゃない別の何かだ」


 仲間だからこそ、任せられる事もある。

 仲間以上の存在になってしまったら、背負わなければならない責務がそこに生まれてしまう。

 それを背負いきれる自信がないのならば、その先を求めてはならない。

 それは時として、仲間という関係を崩し、周囲を巻き込み崩壊していくのだから。

 ……だがもし、なにも気負う事なく、全てを受け入れられる状況になったら――

 いつの間にか自分に置き換えて考えてしまったな、いかんいかん。


「で、訓練の調子はどうだ? 俺の情報によると無事にSランク区画に到達したらしいじゃないか、大したもんだ」

「よく言うぜ歴代トップ。……なぁ、やっぱり俺は弱いのか?」

「弱くはない。比較対象が悪いだけさね」


 おそらく、ランキングを見て自分の今の立ち位置を再認識して、不安になってしまったのだろう。

 俺が見たところ、彼はおそらく才能ある側の人間だ。

 それも、努力を怠らない方の。

 一度だけ、ただの一度対峙しただけで分かってしまう程の、彼の身体さばき。

 そして今湯船に向かってくる時に見えた、鍛えぬかれた身体。

 一朝一夕で身につくような、鍛えられるようなものではない。

 何年も何年も、練習に明け暮れ、そして戦ってきた人間のそれだ。

 日本という争いの少ない国に生まれ、それでも武の道を選んでだあろうレン君。

 きっと、彼はその中でもとびきり上等な人間なのだろう。


「俺の見立てだけど、君はあれだろう、才能に溢れ、周りよりも頭一つ二つ抜きん出た剣士かなにかだったんじゃないのか?」

「っ……分かるものなのか」

「なんとなくさ。俺は君の事を結構知っているつもりだ。日本という、争いの少ない世界から突然こんなところに呼び出されたんだろう?」

「ああ、そうだ。だが勘違いするなよ、別に俺は誰も恨んじゃいないし、悲観もしていない」

「だろうな。そんなタマじゃなさそうだ」


 しばしの間。

 マーピッグ(命名俺)から湯が流れ落ちる音に耳を傾け、照明から垂れるしずくが時折水面を打つ音に意識を集中させていく。

 すると水面が揺れ、隣にいた彼が体勢を変える。

 だらりと全身の緊張を解すようにして、浴槽の縁へと身体を預け始めた。


「そうだよ。俺はこれでも、前の世界じゃ一番強かったんだ」


 これまでの苦労や、内心の疲労を吐き出すようにして彼はそう告げる。


「へぇ、一番か。それは凄い」

「信じてねぇな? いや、正確には同年代じゃあ国で一番ってだけだけど」


 ふむ、インターハイで優勝、ということだろうか。

 やはりそれくらいだろうとは思っていた。

 彼の動きはちょっといい成績を残した程度で済ませられるものじゃあなかった。

 もちろん、ナオ君同様彼もまた、恵まれたステータスを持っているのだろうが。


「いいや、信じるさ。一度戦ったんだ、それくらい分かる」

「けど、俺は負けた。そして今も、自分の上に大勢の人間がいるって事を実感させられたばかりだ」

「だから最初に言っただろ。比較対象が悪すぎる」


 あの場所は、いわば激戦区。

 平和なセミフィナル大陸とはいえ、過去に戦乱に見舞われ、人間同士というある意味魔物を相手にするよりも厄介な戦いをくぐり抜けた地だ。

 そこに、今は大会の影響でレン君同様、エンドレシアからも人が集まってきている。

 そんな人間の中でも、上位に位置する人間だけが集うSランク区画。いくら才能に溢れ強い能力を得たとしても、そんなにあっさりと抜かされはしないだろう。


「この国、いやこの世界は戦乱に満ちていた。命のやり取りが、人と人が剣を向き合わせる機会が、君がいた世界よりも多かった。そういうことだろ?」

「……そうだな」

「まだ一年かそこらで、君はそんな住人が、そんな一部の強者だけが辿り着ける領域に足を踏み入れたんだ」

「それも、頭では分かってる」

「……悔しいよな。今まで自分の上にいる連中なんてほとんどいなかったのに、突然たくさん出てきやがって、って」


 常に強者だったが故に、その思いの落とし所が分からないのだろう。

 まだ、自分がどれくらいの場所に立っているのか、理解出来ていないのだろう。

 別に特別な才能なんてなくったって、彼くらいの年齢ならば、自分の立ち位置や環境、境遇を考えて思い悩む事だってあるだろう。

 それを支えるのは、きっと家族か、はたまた教師か、それとも友人か。

 人によって違えど、頼ることが出来る誰かの存在だ。

 まぁ、中には自分で飲み込んで解決してしまう人間だっているのだろうが。

 正確に言うと『一人で解決したと思い込んでいる人間』だろうがね。

 ともあれ、彼はその支えてくれる人間達を一度にすべて失ってしまった。

 それでも、失ってしまったという自覚はないのだろう。なにせ彼は強いのだから。

 だが、今こうして彼は壁にぶつかっている。

 あまりにも上を見すぎて、すぐ側に迂回路や抜け穴があるのにも気がつけず、ただ高すぎる壁を乗り越えようと思い悩んでいる。


「まぁ、そういう悩み全部ひっくるめて仲間に話してみなされ。たぶん笑われるぜ、上を見過ぎだって」

「ちっ、やっぱ話すんじゃなかった」

「正直に言うとな、俺は君じゃあ優勝出来ないと思ってる。だがもし――」


 恐らく、今の段階ではまだ彼は勝てない。

 自分の無力さを知ってなお、まだ彼は上を見続けるのをやめようとしない。

 その頑なさは美点だ。だが、それだけじゃあ勝ち抜くことは出来ないだろう。

 正攻法だけを磨いても、上位にいる化物を出し抜く事はできない。

 彼のレベルは71、火山洞窟を突破したナオ君にも負けている。

 だが、彼は恐らくナオ君よりはるかに強いだろう。

 やはり、同程度のスペックを持つもの同士が争えば、最後に物を言うのは闘争心だ。

 極端な話だが、筋肉モリモリのマッチョマンだが、心優しく暴力を嫌う人間よりも、中肉中背の、平気で人を殺せるような人間の方が恐ろしい、そういう話だ。

 故に、武の道をこころざし、そして闘争心に溢れ、さらに敗北を糧にここまで食らいついてきた彼は強い。

 いずれ、間違いなくこの身(俺自身)に牙を届かせるであろう、未来の絶対強者だ。

 故に――


「もし、俺を滾らせる戦いを見せたのなら、再戦を受けてやる。君が見つめる壁の天辺って奴を見せてやる」


 故に、全力でぶつかろう。

 覇気を込めて、まるで目の前の彼を今すぐ喰らいつくさんばかりの意思を込めてそう告げる。

 瞬間、水面を荒らしながら猛烈な勢いで彼が後ずさる。

 一瞬で臨戦態勢に入るその反応の良さに、さすがは武人と賞賛を送る。


「……ああ、見せてやる。だから待ってろ、カイヴォン」


 ただの気迫、覇気だと見抜き肩の力を抜いた彼が、こちらを強く見据えてそう告げる。

 よしよし、さすがだレン君。だから、お兄さんは君に一つ、ご褒美を約束しよう。


「あ、あとあれよ? 副賞としてなにか食べたいものがあれば用意してやる。なんでも言ってみろ、絶対に用意してやるから」

「な、なんだよ突然……本当調子狂うな」

「考えときな、本当になんでも用意してやる。この国は過去の解放者の異世界から伝わった文化が根強く息づいている、故郷の味だって見つかるだろうさ」


 賞賛と一緒に、選別も兼ねて副賞を約束しよう。

 なにせ俺は、彼に一つ『大きな借り』があるのだから。

 ……すみません、本当まだ龍神探してあっちこっち冒険してるらしいですね。それでこっちに手がかりを探しに来たとかなんとか。

 本当に申し訳ない。申し訳ないが、後数年待ってくれ、悪影響がないのが証明されたら教えるから許してくだせぇ。

 ちなみに、当方日本の郷土料理なら大抵のものは作れるのでご安心ください。

『しもつかれ』から『ソーキソバ』、『ぼっかけ』から『きりたんぽ』までなんでもござれ。

 あまりにマイナーのものはさすがに聞きながらじゃないと作れませんが。


「じゃあ、エンドレシアでもこっちでも見つからなかった料理だ。カレーっていうシチューみたいな料理、それを用意してくれ」

「あくまで俺を滾らせるような戦いを見せてくれたらの話、な」


 ええ……そんなんでいいんですか? というかカレーライスないんですかこの世界。

 イグゾウさんやらオインクやらは一体何をしていたというのでしょうか? 国民食だろうよもはや。

 スパイスの類なら流通しているのだし、その気になれば今からでもリュエさんバッグの力を借りて作れそうなものなんですけど。


「じゃあそろそろ俺はあがるからな」

「身体は洗わないのか。今なら全力で背中をこすってやるぞ」

「やめろ、さすがに落ち着かないんだよここじゃあ」

「それには同意。んじゃ俺も上がるか」


 さて、仲良くぶらり族で戻りましょうか。




「なんでアンタがレンと一緒にいるのよ!」

「いや先に俺が入ってたんだが」


 着替えを済ませ脱衣所から廊下へ出ると、恐らくレン君を出待ちしていたであろう件の三人娘さんがおりました。

 で、案の定あの勝ち気な娘さんが食って掛かってきたというわけだ。

 なーんでこんなに敵意剥き出しにされてるんですかね俺。この子になにかしたっけ?


「なんだ、待っていたのか三人とも」

「レン! 大丈夫? なにもされなかった?」

「ナニをされたと思ってるんですかね?」

「いや、カイの言うとおり先にそいつが入っていただけだ」

「そう……ならいいけど」


 そう言いながら、もう一度キッとこちらを睨む勝ち気娘さん。

 さて、そんな中沈黙を守っている残りの二人の娘さんはと言うと……。


「……温かい……眠い」

「あ、だめですよ部屋まで我慢してください」


 我関せずといったご様子。

 彼女が一人暴走するのはもう慣れっこなんですかね。


「じゃあ俺は先に失礼するよ。まぁ頑張りな、レン君。俺は早速必要な物を揃えられるか調べてみよう」

「ああ……本気でやる気なのか。だったら精々約束は守れよ」

「当たり前だ。この手の約束は絶対に守るから安心しなされ」


 こと食べ物が関わった約束や言葉は守るのでご安心を。

 

「ちょっと……約束ってなんの話よ」

「ああ、ちょっとな。俺が大会で好成績を残せたらこいつにあるものを用意させるって約束をしたんだ」

「なによ、それなら私に言ってくれればお父様に言って……」

「たぶん難しい。俺が手に入れたらアリナやみんなにも分けるつもりだ、楽しみにしていてくれ」

「分けられるものなの……?」


 はーい注目。今お兄さん初めてこの勝ち気娘さんの名前聞きましたよ。

 どうやらこの金髪ツーサイドアップの女の子の名前は『アリナ』と言うそうです。

 そしてこのオロオロしていた娘さんは確か『レイナ』だったか。これで残りはこの眠そうな娘さんだけか。

 自分から聞くのはなんだか癪なので、そのうち機会が訪れるのを待つとしましょう。


「あ、ダメですよシルルちゃん……すみませんレン様、ちょっと先に彼女を部屋に連れて行きます」

「もうそんな時間か? じゃあ俺達も戻るか。カイ、約束忘れるんじゃないぞ」

「あいよ。精々大会で無様に負けないよう頑張ってくれ」


 言った側からその機会が訪れました。

 なるほど『シルル』ちゃんか。


 彼らが去るのを見送りながら、思いを巡らせる。

 レン君達もまた、仲間と共にこの場所まで辿り着いた。既にいない龍神を求め、この場所まで。

 真実を知る側からしたら、無駄な事だと、徒労だと一蹴する事も出来る旅路。

 だが……もし彼がこの旅を通じて変化していくとしたら、それはきっと無駄ではなく、未来への布石となる。

 相変わらずの打算と欺瞞だらけの考え方に、我ながら辟易とする。

 それでも、万難を排し、自分の仲間と平和を享受する為ならば――いくらでも欺こう。いくらでも仮面をつけよう。

 なにせ相手は未だその存在を掴めない相手、見えざる神ですらない、さらに得体のしれない存在なのだから。

 だから、演じよう。面倒見が良く、敵対するような相手ではない、無害ではないが有益な相手であると。


 ナオ君はこちらの世界に来る時、その存在に魔王に関する使命を受けたと言っていた。

 だが、彼の優しい心根もあって、その使命を破棄させる事に成功した。

 だがその一方で、レン君がこの世界に降り立った時は、封じられているとはいえまだ龍神は存在していた。

 ならば、彼はその召喚に関わる存在から、魔王に関する使命を受けていないはず。

 しかし、その存在が後から接触を取ることが出来ないという保証なんてどこにもない。

 だからこそ――






 時間は瞬く間に過ぎていった。

 考えるべき事も、用意すべき事もあった。

 だがそれでも時間は過ぎるのを待ってはくれず、あっというまに本日、予選開始前夜。

 レイスは全ての準備は整ったと、自信を滲ませながらそう告げた。

 リュエも、出来ることは全て終わらせた、あとはレイスを応援するだけだと言う。

 そして俺も、二人には内緒で全ての用意を済ませてきた。

 レン君もまた、あの日を境に鬼気迫る勢いでSランクコースに挑むようになったという。

 レイス曰く、まだ白銀持ちがひしめくトップニ◯には食い込めないでいるものの、それに迫る場所まできていると。 

 その成長速度、ランキングを駆け上がる姿に他の冒険者達も感じ入るものがあったのか、いい刺激になっていると。

 これは本当に、そろそろカレーのスパイス調合の研究を始める必要がありそうだ。


「じゃあ二人とも明日は初日だけど、俺はちょっとオインクに呼ばれてるから先に会場に向かうけど大丈夫かい?」


 就寝前、二人に明日の予定について相談する。

 まだ罪悪感はあるが、それでも俺は明日、彼女達に内緒で変装して会場入りするつもりだ。


「はい。私とリュエは二人で向かいますので、はぐれる心配はありませんよ」

「む? 私一人だとはぐれるとでも言いたげだね?」

「……リュエ、会場の場所は分かりますか?」

「居住区の向こう側だろう? 大丈夫、まっすぐ都市を突っ切っていけば辿り着けるよ」

「居住区側の、都市の外です。そちらからは外に出られませんよ」

「なんだって……」


 レイス、お姉ちゃんの引率お願いしますよ。

 予選はバトルロワイヤル、なにが起きるかわからない。

 曰く、訓練施設のバトルフィールド同様の魔導具による結界内で行われるそうだが、それでも毎年事故が起きているという。

 それに、気を失った選手が他の選手の手により暴行、窃盗などされた事案も過去にはあったという。

 まぁもっとも、近年では再発防止の為に選手に混じってギルドの武闘派職員も巡回しているそうだが。


「じゃあ、明日は早めに起きる事。寝坊助リュエさんと朝は甘えん坊なレイスさんはしっかりと眠るように」

「うぐっ」

「う……」


 ベッドに横になり、ヘッドスタンドの明かりを落とす。

 さぁ、いよいよ闘技大会の始まりだ。

 期待と不安(主にレイスにばれないか)が混じる闇の中、ゆっくりとまぶたを閉じていくのだった。

            __,」]三三三三|

出           /_||_|||三三三三| ‹ 出して!

           f且テ=、_||三三三三|

荷         `て((◎)┴┴(◎)'  ≡3

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