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十三話

 あ! やせいの ??? があらわれた

 この街は両脇を崖にはさまれるという立地で、その崖に横穴を掘り、そこから鉱物資源を採掘、販売して潤っているらしい。

 なんでこんな崖の底のような場所に街を作ろうと思ったのかははたはた疑問だが、まぁ防衛とかしやすいんじゃね、的な理由かね。

 ともかく、その立地条件からこの街を通る以外にはソルトバーグに向かう事も出来ず、また塩の需要もある為、多くの商人で賑わっている。

 勿論、旅の目的が決まっている訳でもない俺達は、この賑やかな街にも暫く滞在する事にした。


「という訳で行動方針を決めたいと思う」

「お金があるから毎日遊んで暮らそう」

「はい却下。堕落するのが目に見えています。ノルマとして、一人……そうだな、この宿の代金を稼ぐ事」

「たしかまた一月、30日間だったね? ええと料金は……」

「一人約11万。今回は結構良い宿だけど、クロムウェルさんの口効きで割り引いてもらったんだよ」

「なるほど。11万ならまぁ、その気になれば一週間くらいでいけるかな」


 ギルドの裏手にある通りは、宿屋が多く立ち並ぶ。

 その一角に、個室に風呂がつき、さらに三食しっかり出る高級な宿がある。

 無論、貴族や上流階級の人間が留まるような宿ではなく、実入りの良い冒険者達が利用する場所だ。

 前の街の一件もあり、その辺りを配慮してのチョイスである。

 しかしどういう訳かまた同室である。

 ……そしてもう一度言うが、お風呂つきだ。


「俺はちょっと色んな種類の魔物を狩りたいと思うんだけど、リュエはどうする?」

「私はどうしようかな……一緒に行ってもいいけど、それじゃあ競争にならないしね」

「別に競ってるわけじゃないけど、別に一緒じゃなくてもいいんだぞ? 問題を起こさなければ」

「大丈夫、さすがに私だってもう外の世界には慣れたつもりだ。この時代の事だってバッチリさ」

「じゃあ別行動って事でいいか。一応、街の外に長期で出る場合は連絡する事。オーケー?」

「おーけーおーけー。じゃあ今日の所は一緒にご飯でも食べに行こうか」



 街の雰囲気は夕方と夜とでだいぶ違っていた。

 先程までは行商人が露天を開いていたり、忙しなく行き交う馬車の慌ただしい活気が溢れていたが、夜はまた違った一面を見せてくれる。

 露天が少なくなり、代わりに食べ物を売る屋台が増え、さらには少々荒っぽそうな、恐らく炭鉱夫が大通りを練り歩く。

 時折喧嘩でもしているのか、荒っぽい声も聞こえてくる。

 他にも、明らかに炭鉱夫等の男性を対象にした女性の商売人や、怪しげな商品を取り扱う露天等。

 先程までとはまるで別世界な街並みに、ついつい目移りしてしまう。


「カイくん、凄く楽しそうじゃないかいこれは」

「だなぁ。はぐれるなよリュエ」


 楽しそうな背後からの声に注意を促すが、既に返事がない。

 嫌な予感がし辺りを探してみると、案の定一人で出店へと突撃していた。


「カイくん見てくれ! コカトリスの雛らしいぞ! しかも色違いが沢山だ!」

「勝手に行くなよ……ってこれカラーヒヨコじゃねぇか!」


 昨今見ないぞこんなん! なんで異世界でそんな店があるんだよ!


「ほらほら、こっちは不思議な物を作っているよ! なんだアレは、氷魔法だろうか?」

「ん? おお、かき氷じゃないか。ちょっと買ってみるか」


 だが俺もつい、縁日を彷彿させる通りの様子に浮かれてしまう。

 今日はおおめに見てやるか。



 その後、ある程度買い食いをし、少し落ち着いて食事をしようと酒場を探す。

 満員の店に何度かあたったが、それでもきちんと店を見つける事が出来た。


「さてリュエ。久々に一つ予言をしてやろう」

「むむ、いきなりだね。拝聴させて貰おうか」


 夜の酒場、そして女連れ。

 後は分かるな?


「まず俺がリュエを伴って酒場へ行く。ある程度の注目を浴びながらも席に案内されるんだ」

「まぁカイくんはかなりの美形だからね。わからなくもない」

「そこにお前さんも含まれるんだけどね。で、暫くすると酔っ払った男が近づいてくるんだ」

「ほほう、私にもこの後の展開が見えてきたぞ」

「そう、つまり――」

「大丈夫、カイくんのお尻は私が守ってあげよう!」

「なんでやねん」


 まぁいいや、入ろう。


 店員に案内され、人混みを避けつつ奥の席へ。

 メニューは無く、決まった料理とつまみのセットと、任意で酒のおかわりを注文する形のようだ。

 どんな物が出されているのか周りを見ると、いかにも酒が進みそうな、濃い色に味付けされているであろう肉の塊に、揚げた野菜と思われる物。

 それと、スライスされたチーズと薄く切られた野菜を交互に重ねたサラダのような物が見える。

 実にうまそうである。


 そして何よりも……俺は誰かさんと違い、酒なんてこの世界にきてから一度も飲んでいない。

 俺は無類の酒好きでもあるのに、だ。


「楽しみすぎて辛い。リュエは何度か飲んでたろソルトバーグで」

「ああ。私はもっぱらワインばかりだったけどね。なんだ、カイくんはお酒好きなのか」

「大好きです」


 酒ならなんでも好きだが、俺はとりわけ日本酒が好きだった。

 ゲーム時代だって、フレンド達の地元の酒の話を聞いては、通販で取り寄せて実際に飲むなんて事を繰り返していたくらいだ。

 懐かしいな、やはり俺の中では米どころの地酒が一番――


「おいおい兄ちゃん、そんな可愛い姉ちゃん独り占めなんてずりぃじゃねぇか」


 耳に飛び込んできた下卑た声に、思考の海から引き上げられる。

 うっそマジでか、ついに俺の予言があたったのか!


「カイくん! 凄いぞ始めて予言があたった!」

「そのようだ。じゃあ改めまして……なんだお前は――」


 しかし、俺の予言は少しだけはずれていたようだ。


「けどカイくん、私達じゃなくて向こうのほうだよ」

「...oh」


 その声はこちらに向けられた物ではなく、今しがた店内に入ってきた4人組に向けられた者だった。


「なんだ、お前は。俺の女達に手を出すんじゃねぇよ」


 一人の黒髪の青年と、それにつき従う3人の女の子。

 なんだろう、いかにも勇者とそのお供と言わんばかりの様相だ。


「まぁ女の子が3人なら目立つだろうね」

「まぁそうだよなぁ。しかし本当に起きるんだなこういうの」


 というかあの青年の顔、よく見ると周りの人間よりもこう、アジア寄りというか日本人的だ。

 それを踏まえて見ても中々のイケメンっぷり。

 年齢は恐らく17,8って所だろうか?

 腰に帯びた剣は遠目から見ても中々の物に見えるし、後ろにいる3人の女の子もかなりの美人さん揃い。

 これは本当にクロムウェルさんの言っていた勇者の可能性が……なんてな。


「そんな事あるわけがな――」

「カイくん危ない!」


 リュエの声に慌てて身を反らすと、すぐ目の前を剣が飛んで行き、それに続いて男が吹き飛んできた。

 そして丁度俺達の酒と料理を運んできた従業員を巻き込み、すべておじゃんにしてくれた。


「ったく。わかったか? 俺達に手出しすんじゃねぇぞ!」

「レン様! お怪我はありませんか!?」

「ああ、大丈夫だよレイナ」


 暴れるなら外にしてくれませんかね。

 周りの客の迷惑とか考えろよ本気で。

 確かに? 女の子をつれてからまれたら多少気が立っても仕方ないですよ?

 けどそれで周りを見渡す余裕をなくしちゃ駄目でしょうよ。


「カイくん、抑えて抑えて」

「いやぁ、大人として注意くらいするべきでしょうよ」


 立ち上がり、未だ女の子3人と話している青年に歩み寄る。


「ちょっといいかな君」

「何よ! まだレンに勝負をいど――」


 勝ち気そうな女の子がこちらを睨みつけるように振り向く。

 が、急激に勢いをなくす。


「なんだテメェ……まだ俺達に手ぇ出そうってのか?」

「いや、まずめちゃくちゃにした店の人に謝るべきじゃ? それにほら、今ので料理を駄目にされてしまった人が何人もいるんだけど」

「あ?」


 見れば、俺だけではなく結構な数の客が恨みがましくこちらの成り行きを見守っている。

 恐らく男が吹き飛んだ余波だろうか、テーブルの上の料理がめちゃくちゃになっている人が結構いる。


「確かに可愛い女の子を3人も引き連れている以上、警戒するのは分かる。だがそれで熱くなりすぎて周りに迷惑かけちゃ駄目だろう」

「それはあいつが――」

「一旦外に出るとか、いくらでもやりようがあっただろう? 君が短気を起こしてこの場でぶっ飛ばした。その事実は変わらない」

「ぐっ」


 食べ物の恨みは恐いんですよ。

 俺が屋台で買い食いしててよかったな! もし腹ペコだったら問答無用でぶっ飛ばしてたぞ!

 ……なんというブーメラン。


「ちょっと何よ! レンが悪いって言いたいわけ!? 弁償ならあの男がするべきでしょ!」

「言い方をかえたら、ちょっと酔っぱらいにからまれただけで大暴れして店をめちゃくちゃにした。わかりやすいだろう?」

「……わかったよ! おい店員! これで料理駄目にしちまった分と、店への迷惑料だ!」


 女の子が復活しこちらへと突っかかってくるが、俺の最後の言葉にようやく状況が見えてきたのか、青年は懐からお金の入った大きめの袋を取り出し店員へと渡す。

 ……今懐から出したけど、明らかに大きさ的にありえない量が出てきたな。この子もメニュー画面を呼び出せる子って訳か。


「これで文句ねぇだろ! クソ、行くぞ皆!」

「覚えてなさい!」

「申し訳ありませんでした……」

「ご飯早く……」


 肩を怒らせて立ち去る青年と続く一行。

 お金も払ってもらったし、まぁこれで手打ちにしようじゃないか。

 成り行きを見守っていた人達からも感謝の声を貰い、ちょっといい気分でリュエの元に戻っていった。


「へへ、姉ちゃんもべっぴんさんだ――」

「そぉい!」


 リュエさん何してんの!?

 ゆうしゃ(?)は にげだした

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