百五十八話
(´・ω・`)連戦連戦 連射コン放置でオートレベル上げ
直径三◯メートル程の円形フィールド。
周囲は白い壁で覆われており、上を見上げれば、それなりの高さがあるとはいえしっかりと天井もある。
まるで、円柱内部のような、そんな空間。
足元に広がるのはごくごく普通の踏み固められた土で、グラウンドや競技場、はたまた円形のせいか相撲の土俵を彷彿とさせる。
「踏み込みもしやすいし、より現実的な環境で、って事なのかね」
そう、ここはいつもの異空間とは少し違う、より高度な訓練を積むための、選ばれた人間だけが利用出来る『Sランク区画内部』だ。
俺はあの夜オインクの話を聞いてから、しっかりと二日で残りのBとAをトップ成績でクリアし、無事にこの場所に挑む権利を手に入れたのだった。
Sランク専用のゲートに行くには、一度通常のゲートを潜り、その上で出現する六つ目の扉を潜ることで向かう事が出来る。
そして辿り着く、本当に選ばれた強者のみが集うフロア。
そこにいるのはいずれも五つのランクを好成績でクリアした猛者であり、その面構え、佇まい、装備、どれを取っても一角の……いや、別格の存在に見えた。
まぁ、その中にドーソンやヴィオちゃんも混じっていたんですけどね。
二人への挨拶もそこそこに、早速最難関であるSランク訓練を開始したのがつい先ほど。
こうして戦闘用のフィールドに転送されたわけだ。
「今までの障害物競走まがいとは一味違うって事か」
そうぼやいた次の瞬間、フィールドに光の粒が降り注ぎ、それが一箇所に集まっていく。
まるでホタルのような淡い光に一瞬心惹かれるてしまうが、すぐにこれから起きるであろう事象に備え、闇魔術の剣を生み出す。
そして、やがてその光は輪郭を持ち、強く輝いたと思うと、そこには――
「魔物……本物の魔物なのか?」
光が収まると、そこには全身を大きなウロコに覆われた、刺々しいアルマジロのような魔物が存在していた。
その大きさは、恐らく立ち上がれば成人女性と並ぶくらいの巨大さで、さらに見るからに殺傷能力の高そうな鋭い鉤爪を持っていた。
初めて見る魔物だが、なかなかに威圧的、正直最初に現れる敵としては予想外すぎる凶暴な相手に見える。
なるほど、さすがSランク。初手で意表を突くような相手を出してくるとは。
しかしまぁ、今更いかにも弱そうな魔物を出されても困るんですけどね。
「っと、あぶね」
そんな思考を巡らせていた次の瞬間、見かけどおり身体を丸め、高速でこちらへと向かってくるトゲマジロ(命名俺)。
地面の土をえぐり撒き散らしながら向かってくるそれを、やや余裕を持って横に半歩身体をずらし回避する。
だが、俺の予測を裏切り、そいつは途中で方向転換をしこちらへと進路を変えてきた。
なるほど、ほとんど球体だからそれくらい出来るのか。
「ちゃーしゅーめーん」
避けるのは難しそうだからと、そのまま闇魔術の剣をゴルフスイングのように振るい打ち返そうと試みる。
何故か定番になっている掛け声と共に。
回転するトゲにも負けず、見事身体にめり込む一撃。
そのままはじけ飛んだトゲマジロは、地面に墜落すると同時に四肢を投げ出した。
すかさず近づきとどめを刺そうとするのだが――すでに身体が半ばまで切断され息絶えていた。
すると、次の瞬間には最初に出現した時のようなまばゆい光とともに死体が消えていく。
なるほど、こういう仕組みになっているのか。
アイテムのドロップも無いようだし、この場所特有の現象と見ていいようだ。
息を整え、再び警戒し周囲を探ると、やはり予想通り再び光の粒が集まりだした。
今度は先程の倍はありそうな大きさの輪郭を取り、気を引き締めて剣を構える。
……だが、こんな風に出現の予兆があからさますぎると――
「天断(降魔)」
剣を光の粒の上へと振るい、剣圧を滞空させておく。
これは、滞空時間の長さに応じて威力が上昇する技。そして本来の使い方は、トラップのように設置したり、ダウン中の敵の起き上がりに重ねるように置いておく技。
……つまり、出待ちなんて事も出来てしまう。
訓練にならないかもしれないが、やれるのなら、一度くらい試したくなるのが人情ってものですよ。
そして次の瞬間現れる、先ほどのトゲマジロを巨大化させて、さらに皮膚を爬虫類のような鱗に変化させた、まるで怪獣映画に出てきそうな魔物。
その姿を確認したと同時に剣を振り下ろし、技を完遂させる。
光が実像を持つまでの間、しっかりと空中で待機し、威力が膨れ上がった斬撃が生まれたばかりの魔物に降り注ぐ。
「グギャアアアアアアアアア」
「あ、死んだ」
断末魔だとすぐに分かる絶叫を上げ、光が収まった瞬間に再び光に包まれる魔物の姿に哀れみをおぼえる。
すまん、もうやらない。ちゃんと戦うから恨まないでくれ。
「ふぅ……次はどんなやつが出るのやら」
どうやらこの訓練は同じフィールで連続で魔物と戦い続ける形式らしく、かれこれ三七体の魔物を撃破してきた。
最初はアルマジロ型が続き、続いて小型の兎型、その次は熊と猛禽類を足したような、俗にオウルベアと呼ばれる魔物だった。
いずれの種類も三回ずつ、より大きく凶暴だったり、素早さなどが上がったりと上位種に切り替わっていく仕組みだったわけだ。
そして現在は一三種目、今倒したのはアンデット系の魔物だ。
ならば、今度は武装した骸骨剣士でも出てくるのかと予測を立てていたのだが……。
「……人型じゃ、ない」
光の粒が、これまでの一◯倍はあろうかという大きさに膨れ上がり、ここに来てパターンが変化したのかと、警戒心を一段階上げ距離を取る。
光の粒はそのままどんどんと膨れ上がり、フィールドの三分の一を占めるほどまでに増え続けていく。
そしてそれは、やがてある輪郭を形取る。
覚悟を決め、ゴクリと唾を飲み、それが実体化するのを持ち構える。
「確かにアンデッドだな、こいつも」
ついに実体化した相手。
アンデッドの定番と言ってもいいかもしれないそいつは、口から緑色のヘドロのようなものを垂れ流しながら、ゆっくりと頭をもたげる。
その巨体をゆっくりと引きずるように動かしながら、背中から飛び出た太い骨組みを、左右に大きく広げる。
いやはや、なんとも番狂わせといいますか。
「ドラゴンゾンビさんですかそうですか」
おい、誰かこいつに蘇生アイテムでも使ってやれ、たぶん即死するから。
なんて、都合のいい現象もアイテムも存在しないんですけどね。
そんな馬鹿な事を考えている間にも、ゆっくりと、だが着実にこちらへと向かうその巨体。
さすがに飛行能力は持っていないだろうと思うのだが、それでもなるべく距離を取り、まずは様子見に回る。
口というよりも、全身から響いてくる『オオォォォン』という雄叫びにも空洞音にも聞こえる不気味な音色に、ごくりともう一度唾を飲む。
やっぱりね、アンデッドいいますか、ゾンビといいますか、一見しただけで生命の輪から外れた、ありえない存在というのは無意識に恐怖を覚えてしまうようです。
若干、慄いております。
しかしまぁ、明確に敵対してくる相手なのだし……いつまでも慄いているわけにもいかないだろう。
「動きが遅すぎる。とっとと来い!」
『ヒャア! 我慢出来ねぇ!』と言わんばかりにこちらから突っ込んでいく。
だがこちらが駈け出した瞬間、それまでの緩慢な動きが嘘だったかのように素早く頭を動かし、口から垂れていたヘドロのようなものをこちらへと吐き出してくる。
酷い悪臭とともに向かってくるそれを、避けるのではなく剣を振るい弾き飛ばす。
すると、今度はこちらから見えていなかったドラゴンゾンビの尾がサイドから向かってくる。
大縄跳びのように跳ねると、足のすぐ下を猛烈な風の奔流が通り過ぎていった。
その破壊力と速度に、もしも回避が間に合っていなければどうなっていたことかと想像し、最悪の姿が脳裏を過ぎる。
だが一息つく間もなく、飛び跳ねた俺へと、再び吐き出されるヘドロ。
空中で回避もままならない状況に合わせてくるか……凄いな、波状攻撃までしてくるのか。
「剛波烈斬」
選んだ行動は、またしても回避ではなく攻撃。
そして、今度は技を発動し、リーチこそ短いが圧倒的な破壊力を誇るそれを放つ。
まるで音速を超えた時に生じる衝撃のような、パンっと破裂音にも似た音をさせ、迫ってきていたヘドロが弾け飛ぶ。
そして、その猛烈な反動でこちらも空中で推進力を得て、後方へと下がる。
すぐ様相手の様子を見ると、今の衝撃が本体まで及んでいたのか、大きく仰け反り首をこちらへと晒していた。
これを好機と見てすかさず駆け出すと、今度は顔を逸らしたまま、やや的外れな軌道で振るわれる。
空振りに終わり、勢いが無くなった尾を踏み台にすると、今度はそんな俺を振り払おうとする。
そして力強く持ち上げようとする力を利用し、一気に跳び上がる。
トランポリンなんてもんじゃない、自分以外の力を利用して力強く跳ぶと、ぐんぐんと眼前に奴の首が迫ってくる。
さて、先程からどんな魔物相手に振るっても刃こぼれ一つせずに耐え抜いてきた闇魔術の剣、この大きな骨も無事に断ち切れるだろうか?
空中で踏ん張る為の足場もない状況だが、腰を可能な限り捻り、剣を振りかぶる。
そしてようやく体勢を整えつつあるドラゴンゾンビの目……があったであろう眼孔がこちらへと向き直る。
存在しないはずの視線が、こちらの視線と交わったような錯覚をしながらも、振りかぶった剣を横へ薙ぐ。
ガツンと衝撃が伝わるも、それでも剣の進行を止めない。
そのまま強引に振りぬき、体勢を整えながら着地、そのまま大きく飛び退る。
やや遅れて、ズシンと鈍い音が地面を伝い響いてくる。
見れば、横薙ぎの一撃の勢いのまま大きく吹き飛んだ首が、地面にゴロリと横たわっていた。
そして首を失いながらも活動を止めず、ジタバタとのたうち回っているドラゴンゾンビが、やがてその動きを鈍らせ、ゆっくりと沈んでいく。
「……こんなもんか」
右手に握る剣を見つめれば、刀身が半ばから折れていた。
やはり、魔術程度の魔力密度ではこの辺りが限界だったか。
だがそれでも、ここまで連戦を戦い抜いたのだから上々だろう。
そうだな、今度は闇魔法で作ってみるか。
視線を向けると、残されていた死体が再び光につつまれ消えていくところだった。
これで三八体の魔物を連続で撃破したわけなのだが、次は一体どんな相手なのだろうか?
ここにきて急激に出てくる魔物の強さが上がったように感じたが、まさか次はさらに巨大で強力な相手でも出てくるというのだろうか?
……ちょっとワクワクしてきた反面、恐くもあるな。さすがに初日でここまでやるハメになるとは思わなんだ。
今度はやや気合を入れて生成した闇魔法の剣を片手に、次の相手を待つ。
すると、今度は先程とは違う、人型程度の光が生まれ、やがてその光が収まると一人の女性が残された。
……次の相手、というわけでもなさそうだな。
「あら、本当に倒してしまったのですね。あまりにハイペースで撃破されてしまい、少々悔しくてけしかけてみたのですが」
全身を紫のローブで覆い、薄いシースルーのベールで顔を隠したその相手が面白そうにそう語り出す。
けしかけた、とな。出てくる相手は決まっていたり、ランダムだったりするのではなく、誰かが選んでいたとでも言うのだろうか?
いや、そもそもそんな操作を訓練中にするなんて、危険なのではないだろうか?
「そう睨まないでくださいな。ここはあくまで術式内部の出来事、事故や怪我で命を落とす事はありませんのよ?」
「なるほど、そういう仕組みになっているのか。で――」
唐突に現れた謎の存在。
だが、俺は確かな予感とともに、彼女に問いかける。
「貴女は何者だ、レイニー・リネアリス」
(´・ω・`)懐かしいね、スターオーシャン2
(´・ω・`)5……? いえ、しらない子ですね