百五十四話
(´・ω・`)じゅあわ
「うーん悔しいけど、途中で手間取った自覚はあるからね……」
「ではそうですね……リュエには今日の夜、私の抱きまくらになってもらいましょうか?」
「そんな事でいいのかい? よしきた、負けたら私がレイスをしっかり安眠させてあげようじゃないか」
ぼんやりとゲートを眺めていると、リュエよりも先にレイスが現れ、その少し後にリュエも戻ってきた。
この勝負、少なくともタイムだけはレイスに軍配が上がったのだが、そのまま掲示板を確認してみると――
『コースパターン D 月間ランキング1~10』
『1位 挑戦者 ヴィオ クリア判定 A+ タイム 13:41』
『2位 挑戦者 カイ クリア判定 A+ タイム 13:55』
『3位 挑戦者 レイス クリア判定 S タイム 17:00』
『4位 挑戦者 リュエ クリア判定 S タイム 18:44』
『5位 挑戦者 ドーソン クリア判定 S タイム 19:01』
そう、なんと総合評価までもがレイスの勝利をしめしていたのだ。
しかし、彼女達ですら、ヴィオちゃんを追い越すことが出来なかったか……。
いやそもそも、俺自身も魔王装備一式を縛っているとはいえ、そのステータスは一般の冒険者を遥かに上回っているはずだ。
俺が意図的に下げているのは攻撃力のみ、つまり素早さのステータスは完全ではないとは云え化物状態。
にも拘わらず、彼女の速度に追いつけないとなると……あの娘は何者なのだろうか?
なんにせよ、賭けはレイスの勝ちとなり、リュエは今晩は彼女の抱きまくらになる事が決定したのだった。
俺と代われ。
さて、三人揃ったところで、本日は珍しく魔術、魔法の特訓だ。
そう二人に提案すると、やはり自分の得意分野だからかリュエが張り切りだし、望んで先生役を買って出てくれた。
秘匿性の高い知識や属性、自分の手札となる戦術の研究でもあるので、俺達は個人用訓練スペースへと向かう。
初めて訪れたときに、俺が様々な検証を行ったあの場所だ。
……以前も入ったときに思ったのだが、あそこって少し広いスカッシュコートみたいで、ボールで遊びたくなるんですよね。
「ここ、いつも思うんだけど凄い仕組みだよね。部屋全体、壁も天井も術式で繋いであるけれど、平面を折り曲げた術式っていうのは正常に起動しないことも多くて難しいんだよ」
「へぇ、じゃあここを造った人は相当な腕の魔導師って事になるのかな?」
「うーん、たぶんそうじゃないと思う。自慢ではないけれど、術式の解析なら私でも出来るし、たぶん再現も可能だけれども、この発想に至る、新しい術式を考案する力が凄いんだよ」
部屋へと入ると、久しぶりの先生モードになったリュエがそうこの部屋の術式を評した。
ふむ、オインクとクロムウェルさんだけで造ったというわけではないのかね?
「なるほど、そうなると発明や研究の分野ですし、錬金術師の方が協力してくださったのかもしれませんね」
「うん、たぶんそうだね。私も一時期錬金術に手を出してみようとした事があったんだけれど、あれは生まれつきの才能がないと、どう頑張ってもなれないから」
「同じく私もです。諦めきれずに、こうして再生師になったんですよ」
「へぇ、二人共錬金術師に憧れていたのか」
……すまん、生産職に微塵も興味がなくてキャラメイクの段階で戦闘特化で作ったんです。
『グランディアシード』は、ある程度自由に職業を変えることが出来たが、大まかな方向性はキャラメイクの段階で決めなければならなく、その過程で『戦闘』『生産』に振り分けなければならない。
リュエはもちろん、レイスも戦闘に振り分けたのだが、どうやらレイスは後天的に再生師という戦闘職と生産職の中間である職業に就くことが出来ている。
恐らくこれは、ゲーム時代に彼女を育成していなかったのが吉と出たのだろう。だが逆に、リュエはガッツリと育てた影響で、これ以上他の方面へ手を伸ばす事が出来なかった、と。
ちなみにダリアも再生師だが、あいつは最初から生産と戦闘のハイブリットという一風変わったキャラメイクをしていた。
ううむ、あいつはいつも斜め上を行くヤツだからな。
「錬金術はその……色々と節約出来るので、当時はあまり生活が楽ではなく……」
「私はあまり皆から物を売ってもらえなかったから、自分でどうにかしようと」
「……なんかすみません」
結構世知辛い理由で錬金術を学ぼうとしていたんですね。
ちょっと二人共こっち来て、ハグさせてください。
そんな訳で、今日はまずリュエが改めて基礎、魔術の発動の仕方と属性について解説を始めてくれた。
以前、属性とは魔力をどの様に作用させるかで決まると言っていたが、それでも個人差はある。
その差はどこからくるのかと聞くと、魔力の総量だけではなく、どこまで魔力を反応させるかの適正にもよるのだという。
つまり、俺とリュエの氷属性の差はもちろん職業の差もあるのだろうが、イメージの差、そしてその現象に対する思いが俺よりも遥かに上回っているという事だ。
さて、ここまで解説したところでレイスさんの様子を見てみよう。
「……炎……火……種火、焚付……」
「だんだん規模が小さくなっていってますよレイスさん」
「う……どうしてもイメージするとこんな風になってしまうんです」
どうやら、彼女はイメージ力というか、連想するものに難があるようでした。
なので、彼女が想像しやすいように料理で例えてみせる事に。
「例えば、大きな肉を焼くと時間がかかり、肉汁があふれて中がパサパサになっていくとしよう」
「なんてもったいない……」
そんな真面目な顔で突っ込まんで下さい。
「さて、それを防ぐにはどうすればいいか」
「煮込みましょう!」
「うん、この場合はハズレ。正解は強力な炎で全体を先に焼き固めてしまうんだ」
「なるほど……その後にオーブンにいれるんですね」
「そう、ローストビーフと同じだ。だからレイスは、巨大な肉塊の表面を一瞬で焼き固めるような炎をイメージしてもらおうか」
「イメージ……魔力の作用の仕方は問題ないのですよね……」
目を閉じ、うーんうーんと唸りながら試行錯誤を繰り返す彼女を尻目に、同じく唸りながら部屋に張り巡られた術式を観察しているリュエに声をかける。
しかしなんだな、普段なんでもそつなくこなすレイスが一生懸命頑張っている姿を見ると、ほっこりするような安心するような。
「カイくん、ちょっと今からあの黒い人形に私が魔法をかけてみるから、それを殴ってみてくれないかい?」
「本気でいいのか?」
「うん、あくまで今のカイくんの状態の本気で」
ふむ、こっちもこっちで新しい魔法を開発中のようだ。
俺はポツンと部屋の真ん中に突っ立っている人形の前に立ち、拳を構える。
すると、一瞬人形の表面に魔法陣のようなものが浮かび上がり、それと同時に『準備出来たよ』と声がかかる。
さて、じゃあ本気ということで『正拳突き』を発動させてもらいましょうか。
右手を前に差し出し、左手を腰だめにして集中。
実は剣やら包丁やらは右手で使うんですけど、本来左利きなんですよね、俺。
そして右手を引きながら左手を半回転させながら大きく突き出す。
喰らえ必殺左正拳突き。
相変わらず中途半端にリアルな殴り心地を感じながら、鈍い音を立てて吹き飛ぶ黒人形。
だが、その距離は軽く人が倒れた程度のもので、以前のように壁に激突する程ではなかった。
しかもよく見れば、殴られた箇所も僅かに傷がついた程度に留まっているではないか。
以前、同じ状況で殴った時は、吹き飛んだ距離も今の倍以上、殴った箇所も浅くとはいえ凹んでいたはずだ。
ここ数日の訓練で、だいぶ身体の使い方にも慣れてきたうえ、今日は左腕で発動したというのに。
「うわぁ……倒れちゃった。凄いね、かなり本気で魔法かけたのに」
「やっぱり今のはリュエの魔法の効果なのか?」
「うん。この部屋全体に張り巡らせれている衝撃吸収の術式を人体向けに圧縮再構築してみたんだ。うーん……結構良い出来だったんだけどなぁ」
「……いや、正直かなりの効果だと思うぞ。ちょっとその人形再セットしてみてくれ。今度は魔法なしで殴ったらどうなるか見せるから」
この短時間で術式をアレンジして魔法を生み出すとな……彼女はなんて事のないように話しているが、これは普通では考えられない事なのではないだろうか?
いまいちこの世界の魔法等の知識に疎いのだが、今度豚ちゃんに聞いてみるか。
俺は再び正拳突きの構えを取りながら、もしかしたら本当に天才なのかもしれないうちの娘さんの事を考える。
リュエ、君が考えた魔法は……ここまでの効果があるんだぞ。
俺は、彼女の功績を証明するかのように、全力で正拳突きを発動させる。
すると今度は、先ほどとは比べ物にならない轟音と共に吹き飛んでいく黒人形。
壁に激突し、その衝撃で四肢が引きちぎれ、腹には大穴が穿かれている。
うむ、やっぱり訓練のかいあって、破壊力が増しているようだ。
「カイくん、さっき殴ったときも同じくらいの力だったのかい?」
「ああ、間違いなく同じだ。つまり、本来こうなるはずの攻撃を、あれっぽっちまで軽減出来たって訳だ」
「本当かい!?じゃあこれは成功だ、新しい補助魔法の完成だよ! これは今までとは違って、人体内部に作用させるんじゃなくて、全体を表面から覆って――」
急にテンションが上がり、ペラペラと今回の魔法について得意気に語る様子が微笑ましいのだが、その内容の半分も理解出来ていません。
リュエさんが楽しそうで何よりです。
「つまり、他の術式に干渉しないから、これまでの補助魔法に重ねがけが出来る上、その気になれば同じ魔法を――」
と、その時だった。
部屋の片隅で黙々と作業をしていたレイスの方から、急激な熱気と明かりが溢れ出してきた。
慌ててそちらに振り向くと――
「た、たすけてください! 急激に室内の魔力残滓が増えて、炎が」
「レイスレイス、発動止めて!」
「あ、はい!」
巨大な、天井にまで届くほどの紅蓮の火柱があがっていましたとさ。
「驚きました……あまりうまくいかないので少し周囲の魔力残滓を取り込んだのですが、急激に増えてしまったようで」
「ごめんね、レイス」
「いえ、私が勝手にしたことなので大丈夫ですよ。それに、おかげでイメージも掴みやすくなりました」
そう言って、彼女は自身の掌にの上に、先ほどと同じ紅蓮の炎を生み出した。
そう、紅蓮だ。ただの炎ではなく、明確に色づいた、真っ赤な炎。
まるで炎色反応を思わせる鮮やかなその色彩に、俺とリュエが同時に疑問の声を上げる。
「お肉を一瞬で焼くのなら、炎の大きさもですが、温度も高い方がいいだろうと思ったんですよ。それで、真っ赤に燃えた炭を思い出して……」
「しかしそれで何故こんな色になるのか……リュエ、炎の温度そのものはどれくらいか分かるかい?」
「どれどれ……見た目こそ違うけど、ただの炎と同じだね」
「むぅ……」
「けどまぁ、今回の目的はレイスの放出出来る魔術の規模を大きくする事だったし、これで第一段階はクリアかな」
そう、今回の最大の目的はレイスの戦力強化の為に闇魔法を覚えてもらう事だ。
先ほどまでのレイスはうっすらと炎を纏う程度しか放出する事が出来なく、闇魔法の最大の特徴である『他の属性と混ぜて同時に放出』という大前提すら不可能だった。
それが解決されたとなれば、後は俺がコツを教えるだけなのだが……。
「……どうやって教えれば良いんだろう」
「私もさすがに闇は専門外だから、カイくんに頑張ってもらわないと無理だね」
なにかいい案はないかとリュエ先生の方を見ると、両手をクロスさせて×を作り出し、バッサリと切り捨てられてしまいました。
自分で発動するときは、黒い魔力というものを想像して、それを発動する魔術に混ぜ込むようなイメージを行っているのだが……。
一先ず、黒い魔力をいうものを意識出来ないかとレイスに言うと――
「黒い……ですか? 魔力に色ですか……」
「例えば、炎だったら赤、氷だったら青みたいにイメージすると発動しやすかったりしないかい? 俺はよくそんな想像をしたりするんだけど」
こればっかりは、日本に溢れている娯楽作品の影響もあり、具体的なイメージが固まっているこちらが有利なのだろう。
どうやらレイスには魔力に色という発想がなかったらしく、中々難航しているようだ。
「試しに魔力が赤いものとして、さっきと同じように炎の魔術を使ってみてくれないか?」
「赤い魔力……元から赤いなら、赤い炎も出やすい、みたいな事でしょうか」
「そう、そんな感じで」
さて、果たして上手くいくのだろうか?
ー(´・ω・`)ー じゅあわ




