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十二話

 あーあ

 クロムウェルさんに説明を求めると、彼は親切に事の始まりを教えてくれた。


「約400年前のことです。神託がおりたのです。七星を目覚めさせ、その力を借りて世界に安定をもたらせと」

「何を言っている。あれは見えざる神の残した負の遺産だ」

「ええ。ですが『長年の封印でそれは解呪された』そう伝えられております」

「……そんな筈はない。あれの意思は、封印していた私が一番よくわかっている。アイツは最後まで、この世界を支配すべきは自分達だと怨嗟の声を上げていた!」

「そんな……しかし我々の聞いた話では――」


 え、なんかヤバくないこれ。

 俺アイツ殺しちゃったよ?

 今更そんな、イヤまじでどうしよう。


「私は生きたアイツから直接聞いている。信託? その信託を与えたのは誰だ。あの見えざる神だというのか? それを聞いたのは一体誰だ」

「さる国の神官だそうです……その者が言うには、確かに我らが信仰すべき、創造神様だったと」

「創世記に生きたわけでもない子供だろう? そんな人間の言葉を、何故信じられるんだ……あれは私達が死力を尽くして封印した相手だぞ」

「その神官殿が、当時の神官の末裔なのでございます。そして現に、外世界から力ある存在がこの400年間に幾度と無く召喚され、その歴史の中で無事に二体の七星を呼び覚ますことに成功しております」

「なんだと!? その場所はどうなった!?」

「極めて安定しております。草木は実り、厚い加護の元魔物の暴走もなくなったと聞きます」

「まさか、そんな……」


 雲行きが怪しくなってきたな。

 だが、リュエの様子を見るにあの龍神が災厄を呼び起こすであろう事は事実の筈。

 となると、本当に七星のうち二体は、見えざる神の呪縛から解かれたと言う事なのかもしれない。


「話の途中ですみません。七星の力関係はわかっているのですか?」

「そういえば、カイヴォン殿でしたか。貴方様はリュエ殿とどのようなご関係で?」

「カイくんの事を説明するのは後回しにしていいかい? 私も七星について聞きたい」

「分かりました。七星は一から七まで数字の大きさでその力が増して行くという話でした。リュエ殿が封じていた龍神は『七』龍と神その両面を併せ持つ最強の存在だと伝わっています」

「なるほど。だとしたら、他の七星よりも神の影響が強かった可能性は考えられないかい? 少なくとも私は、千年以上常に悪夢に苛まれ、呪詛の言葉を枕元に聞きながら過ごしてきたよ」


 なんだと?

 一年間、俺と過ごした日々の中でも、常にそんな悪意に晒されながら生きてきたのか?

 側にいたのに、何も気がつけなかったのか、俺は。

 だから、リュエはあそこまで俺に心を開いてくれたのか……?


「初耳だぞリュエ」

「いいじゃないか、今更。つまり、だ。少なくとも龍神は開放していい存在じゃない。現にあの森は、他の場所に比べて圧倒的に魔物が強い。それが何よりもの証拠だろう」

「そう、ですね。リュエ殿が言うのなら間違いないでしょう。確かに言われてみればここ数百年、開放が成功したのは七星のうち『一』と『二』だけ。それを思えばその推論も真実味を帯びると言う物ですね……」

「まぁ、もし他の七星を開放するとしたら、私もその様子を見に行った方が良いかもしれないね」

「そうですな。して、そうなりますとリュエ殿がここにいるのは一体……」


 『再封印した』とか『生贄を必要としない方法がある』とか言い訳して下さいお願いします。

 だけどなー、この人にそれ期待して前回決闘騒ぎになったしなー!

 駄目元でアイコンタクトを試みる。そして案の定人を不安にさせる、自信満々の表情!


「ふふ、龍神はもういないよ。倒してしまった」

「んな!? そんな馬鹿な! それが難しいのは、創世記に生きた貴女が一番よくわかっている筈です!」

「いいや、確かに死に、その亡骸も確認した。そしてそれを倒したのは――」

「リュエ、突然の話でクロムウェルさんも驚いている。まずは落ち着かせないと」

(リュエ、本気で頼むぞ)

(ん? ああもちろん。私だって学習をしているからね)


 小声で念を押し、改めてクロムウェルさんの方を見ると、未だ混乱している様子。


「まず、君は創世記の始まりの時、どうして七星が現れたのかその理由を知っているかい?」

「それは"神隷記"と呼ばれる伝説の時代のお話の事ですか?」

「そうだ。あの時代は確かに存在した。そして確かに、初代の七星は討伐されたんだ。だから今の時代に討伐されても、不思議じゃない」

「ですが、それはその時代の種族たちが、今の我々よりも遥かに優れて……まさかリュエ殿は!?」

「そうだよ。私はその時代の生き残りさ。そうじゃなきゃ、こんな姿のまま生きられる訳ないだろうに」

「そう言う事でしたか……。昔のエルフ族は何故、そんな事にも気が付かず貴女にあんな仕打ちをしたのでしょう……貴女さえ力を蓄えれば、封印等せずとも済んだと言うのに」

「いや、勘違いしないでくれないか。倒したのは私じゃなくて隣にいるカイくんだから」

「おいまてこら」


 ここまで話をひっぱってなんでそうなる。

 そのまま自分の手柄にして下さいよ!

 その方が説得力もあるでしょうに!


「彼は私と同じで、神隷記の人間さ。それも、その時代の英雄、解放者カイヴォンその人だ!」

「突然何を言い出しやがりますかこの口は。一体何を学習したんですかね!?」


 思わず手が出てしまう。くらえ必殺強制おちょぼ口。


「ぶーうー! 何するんだカイくん! しっかりカイくんの強さが伝わりやすいようにしたじゃないか!」

「違う、そうじゃない! なんで俺がやったってバラすんだよ」

「え? 前回だって君がすごく強いんだーって分からせたら、あんな事にならなかったんじゃないかな?」


 心底意味がわからないのか、ぽかーんとこちらを見る。

 ああもう可愛いなこいつ……じゃなくてアホだなこいつ!


「今の話は真実ですか……?」

「ああもう。事実ですよ。あの龍神のせいでリュエが縛られているのが不憫に思って」

「まさかそんな……でしたらその証明になる物……そうですね、封印の礎になった御神体を持っておられますか?」


 なんだそれは。

 あの角じゃ駄目なんだろうか?


「あ、そういえばそんな物もあったね。カイくん、あいつが武器を落とさなかったかい? なんでも、凄い貴重な武器らしいんだ」

「ああ、あれか」


 メニュー画面のアイテムボックスから選択し、実体化してみせる。

 透き通るような青い鞘に、まるで氷で描いたような透明な鎖のレリーフが浮き彫りにされている。

 試しに刀身を引き抜いてみると、一切の音を立てずこれまた惚れ惚れするくらい、美しい深い青色の刃が現れた。


『神刀"龍仙"』

『エルフ達の願いの結晶である御神体。

 幾年の月日を経て龍神の力を抑え続けた刀身は、やがて一人の女性の祈りと共に神器へと昇華された』


『攻撃力 1095』

『魔力  2050』

『攻撃属性 氷 神』


 なんだこれ。

 俺の奪剣涙目の性能なんですけどこれ。


「これですか?」

「おお……まさしく伝承の通りです。本当に、本当に倒すことが出来たのですね……」

「カイくんそれちょっと貸して。いいから貸して」


 奪い取るように刀をひったくるリュエ。

 うっとりと刀身を眺める姿は、ちょっと危ない人に見える。

 ああそうか、青色好きだもんね君。しょうがないね。


「これは私の魔力と龍神の力の結晶みたいな物なんだね。という訳でこれ、私に頂戴?」

「いいぞ」

「……え、本当にいいのかい!?」

「自分の剣があるしな。それに見るからにそれ、似合いそうだし」


 リュエの服装は、相変わらずのローブ姿だ。

 だがその色は案の定青色で、中に着ている服も白いブラウスに青いロングスカートだ。

 ただ、鎧の類は一切装備しておらず、本当に魔導師として活動しているようだった。


「私は剣も得意なのだけどね? 大昔に愛剣を駄目にしてしまったんだ。それ以来魔法だけで戦っていたのだけど、この剣なら私の魔力にも剣術にも耐えられそうだ」

「そういう理由だったのか」


 ああ……当時の努力を思い出す。

 クソみたいな低確率で現れるレアモンスターから、クソみたいな低確率でドロップするレア素材。

 それをアホみたいな量をつぎ込んで、そこからアホみたいな低確率で武器を生み出す。

 さらにそれを頭のおかしい成功確率の強化を重ね、最後に再びクソのような確率で手に入るレア素材を注ぎ込んで進化させる。

 ……たぶんあのゲームでそこまでの苦行を成し遂げたのって、俺を含めて片手の指で数えられるくらいしかいないんじゃないか?

 そしてそれを駄目にしたんですかお嬢さん!!!!


「駄目にした剣ってどうなったんだ?」

「ん? 封印みたいな事をしたんだけど、もしかして治せたりするのかい?」

「いんや、俺は生産系は門外漢。友達なら直せそうな物だけど」


 というか、その友達が作ったのがその剣なんですよね。

 その性能は確か……あ、駄目だ、さっきの神刀より弱いわ。

 泣けてきた。


「ええと、それで私はこの事実をどうすればいいのでしょう」

「あ、忘れてた。今の話は秘密で頼むよ? カイくんは騒がれるのが嫌みたいだから」

「原因は俺にもあるとしても、釈然としない。すみません、なんとかこの場だけの話にしてもらえますか? 何でしたら新たに別な場所に封印したとかでっちあげてもらえたら」

「そう……ですね。正直この事実を発表しても信じてもらえませんでしょうしね……それに封印の場所を正確に知っている人間も、もはやエルフでは私だけですから……」

「む? なぁクロムウェルくん? じゃあもしかして、私の家の倉庫って」

「ええ。私が術式を考案し、世界中のギルドに広めたものでございます。あれから千年、本当の理由を知る物は少ないですが、今でも皆、旅の安全、依頼達成祈願として品々を収めております」

「そうか。うん、改めて有難うクロムウェルくん。おかげで私は生きてこれたよ」


 クロムウェルさんの話は結局、リュエの本人確認の為だったらしく、そこで一旦お開きとなった。

 俺としても彼のおかげでリュエが救われた事もあるし、秘密を共有した事もあり、何か問題が起きた際には力を貸すと約束した。

 で、問題の冒険者登録なのだが。



『カイヴォン』

『冒険者ランクEX』



 どうやら特別なランクらしい。

 F~Aそして特別な功績を上げ、ギルドの上層に認められた者がなれるS

 今回は一つの街の冒険者ギルドの長でしかないクロムウェルさんの力で与えられる最大評価だそうだ。

 曰く、Sとは違い強さや依頼の達成度の指標ではなく、ギルド長直轄、つまりある程度のギルド内での権力を持つランクだそうだ。

 これがあれば、高ランクの依頼を受ける際の手続きが免除され、さらにどの依頼でも優先的に受けられ、さらにはギルドの強制依頼をも断る事が出来るらしい。

 曰く、ちょっとした貴族よりもこの地方限定でなら権力を持っているような物らしい。

 だがしかし、一つだけ納得出来ない事がある。


『リュエ・セミエール』

『冒険者ランクS』


「いやぁ、昔の活動記録が残ってたみたいでね。それが適用されたんだ」

「権力的には上でも、響き的にそっちの方が上っぽい気がする」

「ふふふ、一応実務経験は私の方が上だからね?」


 ドヤ顔でカードを見せびらかせてくるリュエ。

 そう、彼女のギルドカードはSランクの証の白銀製だったのだ。

 どうやら一定ランクまでは普通の金属……恐らく鉄製らしいのだが、そこから銅、銀、金、白銀と上がっていくらしい。

 そして俺のは謎の物質で出来た漆黒のカードである。

 まぁ、クレジットカードで言うならブラックカードはセレブの証だって言われているしわからないでもないが……。



「おいおいマジかよ……白銀持ちなんてこの大陸にいたか?」

「どっからきたんだあの人……偉いべっぴんさんじゃねぇか」


 ほーらまたリュエばっかり目立って。

 俺だってね、魔王じゃないとは言えそれなりの外見してんですよ?

 けど冒険者って圧倒的に女性が少ないんですよ!

 ゲーム時代の男女比はどうなったんだオラァァァン!

 最初にラスボス倒す主人公のクズ

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