百五十ニ話
(´・ω・`)お ま た せ
「んぐっ……ん」
「なんで手に首を押し付けてくるんだお前は」
「……ぼんぼん、前に言いましたが、あの日以来彼女は少々様子がおかしくなってしまったんです」
「……様子がおかしいって、これのことなのか?」
跡がないかと、つい労りの気持ちで首をなでたところ、どういうわけか自分から首を圧迫するように押し付けてくるんですこの人。
……そういえば、河原で見た時や今日見た時も首を刺激していたね君。
「カイヴォンさん、申し訳ありません、少しこう、人差し指と親指の間で首をぎゅっと……」
「オインク俺帰る!」
「はい、彼女には少し冷静になる時間が必要だと思います。今日のところは――」
「少しでいいんです、なんでしたら添えるだけでいいですから! 私が体重をかけるので――」
こわ、近寄らんとこ。
なに、俺なんか変な性癖に目覚めさせてしまったの?
折角真面目にしめようと思ったのに、どうしてこんなオチがつくんでしょうかね?
ひとまず今日のところはお開きとし、後日またリュエを伴い会いに来る事を約束し、部屋を後にするのであった。
えー……俺責任取らねぇよさすがに。
翌日の早朝。
今日は俺も早めにあの訓練区画をクリアしてしまおうと目を覚ますと、どうやらレイスも同じタイミングで目を覚ましたようだ。
彼女はリュエ同様朝に弱いのか、眠たそうな瞳をこちらに向けつつも気合を入れてタオルケットを自分ですべて剥ぐ。
分かる。つい誘惑に負けてまた自分にかけ直したくなるんですよね。
「おはよう……ござま……す」
「おはよう、レイス」
朝からいいもの聞かせてもらいました。
やっぱりね、普段しっかりしている人の寝ぼけ姿っていうのはグっとくるものがあるんですよ。
逆に普段から抜けている人はこう、新鮮味が欠けるといいますか。
おう、まだ気持ちよさそうに眠ってる貴女の事ですよ。
「今日は早いですね……でしたら、私は少し後から……」
「ん? どうしてだ?」
「リュエが……起きた時……一人だと寂しいかも……と」
「……いいお母さんですね」
「ではカイさんはお父さんですね……夫婦ですよ、夫婦……」
まだ半分眠っているのか、うつらうつらと首を揺らしながらニヘラ、と初めて見せるだらしない笑みを浮かべるお母さん。
はっはっは、さすがにこれ以上は彼女の尊厳に関わるのでいじるのはこのくらいにしておきましょう。
身支度を済ませ、リュエが起きるまで待つという免罪符を得たレイスが再びベッドに横になるのを確認して部屋を後にする。
ここ最近彼女は毎朝早起きして俺やリュエよりも多く訓練に勤しんでいるのだし、こういう日が一日くらいあってもいいだろう。
エレベーターでギルドロビーまで降りると、やはり大会を控えているためか、こんな早朝にも拘わらず俺と同じく訓練所へと向かう人間の姿がちらほらと見受けられる。
そんな人間の中に、見慣れた青年の姿を見つけ、そっと背後へと忍び寄る。
そう、レン君だ。
「早いなレン君」
「んな!? なんの用だ、カイヴォン」
「あ、この街にいる間はカイで頼む。色々面倒な事になる」
「……分かった」
妙に素直で怪訝に思うが、なるほど確かに納得だ。
彼は一度罰則を受けた身、騒動の原因になるような事はしたくないと見た。
彼もあまり朝が得意ではないのか、どことなくいつも以上に目つきが悪いというか、眠そうな目をしている。
頭もぼさぼさ、元々外ハネの髪型だったせいもあり、完全に爆発パーマ状態だ。
「リュエさんは一緒じゃないのか」
「あの人は寝坊助だから寝かせておいてます。そっちこそあの三人はどうしたんだ」
「……俺が早めに今日の分を終わらせて、その後三人が起きる前に戻るんだよ」
「ああ、まだBランクになれていないのかあの子達は」
そう俺がぼやくと、彼の表情が強張りこちらへと振り向く。
そして、なにかを言いたそうにパクパクと口を動かす。
だが、すぐにそれをぐっと抑えるようにして前へ向き直り、早足で去ってしまった。
ああ、俺のせいだとでも言いたかったのかね。
まぁまったくの無責任ってわけではないのかもしれないような気もしないでもないようなやっぱり10:0で俺が悪くないような気もしますが。
ともあれ、彼に追随するように訓練所へと向かうのだった。
施設にはすでに他の冒険者達の姿もまばらにあり、その顔ぶれを見るに、どうやらいつも見かける人間ではないようだ。
装備の質や動きから、恐らくAランク以上と思われる面々が対人訓練所で手合わせをしていた。
よく見れば、あの……なんだったか、あのオインクの信奉者でやたらつっかかってくる白銀持ちで議員の一人とかいう……。
そう、アルバだアルバ! エキシビジョンマッチでリュエさんにボコボコにされる予定の!
そんな彼の元へと、なにやらレン君が近づいていく。
……君達知り合いかなにかなの? 世間って狭いな。
その会話内容が気になり、そっと近くへと忍び寄る。
「アルバさん、おはようございます」
「……ふん、来たかレン。今日の稽古は……そうだな、三◯分程度ってところか」
「ありがとうございます!」
なんと、レン君は彼から稽古を受けているのか。
…………なんかこう、申し訳ないような、わくわくするような。
心の中でいつもの五割増しくらい性格の悪い俺が『ごめんねええええ!! 師弟そろってボロボロにしちゃってさああ!!!』と言っています。
いやいやいや、さすがにそこまでクズになった覚えはありません、これは胸のうちにしまっておきましょう。
となると、アルバVSリュエ、そして組み合わせ次第ではレン君VSレイスになるというわけか。
……二人ばっかり楽しそうな対戦が待っていてずるいぞ、俺なんて槍をかけてこの大陸最強の聖騎士とハンデありの状態で戦わないといけないというのに。
俺もね、人前で俺TUEEEEしたいというちょっと後ろ暗い欲求があるんですよ。
見てろよ豚ちゃん、絶対に変装なりなんなりして大会に出場してやるからな。
しかし、現役の白銀持ちから稽古を受けているとなると……レイスは大丈夫だろうか? 俺やリュエと一緒にいるとはいえ、彼女は長い間一線を退いていた身だ。
ふむ、今日あたり闇魔術を教えてみるというのはどうだろうか?
彼女は多くの戦闘技術を修め、それを組み合わせ臨機応変に使い分けるというスタイルだ。
ならば、戦術の幅を増やすのは彼女の戦力強化に直結するのではないだろうか?
幸い、この闇魔術は一度覚えることが出来れば非常に柔軟にこちらの意思を反映してくれるある種の万能属性だ。
もしも習得出来たら、彼女のスタイルとのシナジーは計り知れないと思うのだが。
「じゃあ俺は今日の分、終わらせてこようかね」
訓練区画を利用中の人間はこの時間は少ないらしく、すぐに使用することが出来た。
相変わらず気が付くと謎の白い空間へと飛ばされ、五つの扉の前に立たされる。
本日はそのちょうど真ん中、Cランクへの挑戦だ。
Eで運動能力と破壊力を求められ、Dで知能を試されたとなると、Cはさしずめ……技だろうか?
その扉を選び開くと、あいも変わらず真っ直ぐな狭い通路へとつながっていた。
ともあれ、もうタイマーは動き出しているだろうと一気にその狭い通路へとかけ出したのだった。
敵もなく、ただ真っ直ぐな道を走ること数分、もしや前回と同じ仕掛けかと思い後ろを振り向いてもただ走破した道が続いているだけだった。
ううむ、こうも真っ直ぐな道が続くと不安になってくるな、まるでマークシートで同じ番号が続くような『本当にこれでいいのか』感。
訝しみながらもさらに足に力を込め進んでいくと、ようやく曲がり角が見えてきた。
なにが出るかわからないと、その手前で速度を落とし、角へ身体を密着させ向こう側を覗き見る。
「あれは……射撃場みたいなもの、か?」
曲がり角の先には台が置かれており、そこにシンプルな弓と剣、そして杖が置かれている。
そしてさらにその先には、いつもの黒いマネキンではなく白いマネキンが立たされており、胸と頭の部分に二重丸が描かれていた。
その台へ近づくと、なにやら注意書きが。
『(´・ω・`)武器を持っていない人のために用意しておいたわよ、大事に使ってね?』
『(´・ω・`)近接の人は近くに行って切ってね? 後衛の人はこの台より向こうで魔術や弓を使ったら減点よー』
その注意書きの顔文字にいたずら書きを足しつつ、俺は闇魔術を剣の形に変形させ、台の向こう側、ターゲット人形へと向かう。
『くしざし-(´・ω・`)-』
するとその瞬間――
『(´・ω・`)魔術はこの台より向こうで使うなって言ったでしょ!? 減点よー!』
「あ! そうかこれも魔術……くそ、やっちまった」
目の前の空間に突然その文章が浮かび上がり、ブッブーと不快音が耳に突き刺さる。
大人しく台の上にある剣をとり、再びターゲットへ向かう。
動いていない相手を殴るのに技もなにもないんじゃないか? と思いながら側へと寄ると、唐突にターゲットが素早くサイドステップをしはじめた。
まるで反復横跳びを早回しで見ているようなその動きに変な笑いがこみ上げてくるが、これはたしかに技術を求められる。
胸や頭の二重丸が、残像でほとんど見えない状態になってしまっている。
が、そこはさすがのこの身体、少し目を凝らして集中すると、次第にその残像がゆっくりとコマ送りのようになり、段々とその円の中心をはっきりと捉えられるようになってきた。
だが、問題はこの境地に至った状態で、身体がしっかり対応してくれるかどうかだ。
「……狙いは頭と……胸、両方だ」
すでに一度減点されているのだ、生半可なクリアの方法じゃあ高得点は狙えないだろう。
となると、隙の少ない突き技で、さらに連続攻撃が望ましい。
「『デュアルスタッグ』かね……ゲーム時代色々とネタにされた技だけど」
なおネタにされた理由は性能うんぬんではなく名前の所為だった模様。
スタッグって男性向けって意味でもあるしね、色々と突き刺したりする道具の名前にも使われているんですよ。
それがデュアルなんですよ、察して下さい。
技の性能そのものは、同じ箇所にほぼ同時のタイミングで突き技が発動するというものだが、この技には裏の使い方がある。
ゲーム時代、発動と同時にFPS視点でマウスをずらすごとで初段と二段目の到達地点をずらせることが可能だと判明したのだ。
これにより、二箇所を同時に攻撃出来る技として一部の敵の攻略で大変重宝したものだ。
が、これがすごぶる難易度が高く、戦闘中に狙って決めるのは至難の業。
自慢ではないが、俺はこれをほぼ一◯◯%の確率で成功させることが出来た。
「……この世界で、あんな技が再現出来たら」
身体のスペックにものを言わせ、戦う。
ここにもし、昔のような技を再現する力、技術が備われば、俺はたぶんもう一段階上の強さを手に入れられる。
折角ゲーム時代では考えられないほど自由に戦える世界で、こんな恵まれた能力を持っているのだから、それを自由に使いこなせるようになれたら――
「……よし」
軽く身体を解し、剣を片手で構える。
フェンシングの構えのように、一瞬で突きを放てる状態で、再び目を凝らす。
ゆっくりと、残像の大きさが小さくなり、それがコマ撮りのような、連続写真を見せられているような状態へと落ち着いていく。
そして、絶好のポイントにやってくるタイミングを計り、頭の中でメトロノームのようなリズムを刻みながら神経を研ぎ澄ませる。
「……カチ……カチ……」
つい口ずさみ、その状態でタイミングを計り、右腕に力を込める。
出口を塞いだホースのように、解き放たれるのを今か今かと待ち望むその技を、最高の瞬間に――
「……ふっ!」
身体ごと持って行かれそうな速度で放たれる突きが、目標へと吸い込まれていく瞬間、強引にその腕を下にそらす。
鈍い音が二重に響き、次の瞬間にはターゲットの人形が遥か彼方へと吹き飛んでいた。
集中しすぎたせいで、いつも以上に力が入ってしまっていたようだ。
俺はその人形へと向かい、結果を確認する。
「手応はあったが、さてはて……」
うつ伏せに倒れている人形には、しっかり二つの穴があいており、それをひっくり返して二重丸を確認する。
するとそこには――
「……頭はど真ん中で、胸は……中心の一つ外の丸か」
残念ながら、両方ど真ん中というわけにはいかなかったようだ。
この結果に満足すればいいのか、それとも嘆けばいいのか。
初めてにしては上出来だと思う気持ちもあるが、かつてゲームとは云え失敗してこなかった技を失敗した事への悔しさもある。
……まずはここから始めるか?
とその時、ターゲット人形の下に紋章が浮かび上がる。どうやらこのコースはこれでクリアのようだ。
その瞬間、ようやく緊張の糸が解け、短く強いため息を吐き出す。
いやはや、ただの訓練とはいえ、中々にスリリングと言いますか、良い緊張感を味あわせてもらいました。
今日の訓練はいつもより身になったというか、明らかに自分の中でなにか一つ大きな一歩を踏み出したような感覚がある。
気のせいではないと思いたいが、こういう時は一度忘れて、時間を置くのが自分には合っている。
いやね、なにかを掴んだと思ってその勢いのままやると、逆に失敗するタイプなんですよ俺。
上手くいったらそこで止めて、後はしばらくイメージトレーニング。これが俺の成長パターンなんです。
「……初めて包丁握ったときもこんなんだったっけ」
本当に、本当に久しぶりに自分の成長を感じた気がします。
(´・ω・`)ぼんぼんとレイスさんに強化フラグが立ちました
(´・ω・`)リュエさんとレイスさんに寝過ごしフラグが立ちました
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