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百五十一話

(´・ω・`)タマムシシティで釣り上げられる百五十一話です

 むかしむかし、まだすべてのエルフが同じ森に住んでいたころのお話です。

 森にはたくさんの家族、たくさんの一族が暮らしていました。

 ですがある時、大きな龍が目をさましてしまい、みんなを襲うようになってしまいました。

 ヒューマン、魔族の力も借りましたが、それでもやっぱり龍を退治出来ませんでした。

 そこでエルフのみんなは、昔から時折森を訪れる魔女に助けてもらうことにしたのです。


『魔女さま、この娘の寿命を差し出します、ですからどうか龍と戦って下さい』

『よかろう、その娘の命と引き換えに、私が追い払ってやろう』


 魔女はほかのエルフの命と引き換えに、長い間生きてきたとても力の強いエルフでした。

 そして、襲われるたびに魔女が龍を追い払い、そのたびに大きなお祭りが開かれました。


『ごちそうだ、ごちそうだ。みんなで美味しいごちそうを食べよう』

『魔女には食べさせなくていいのかい?』

『魔女は他の命を食べるんだ、あげてやるものか』


 ごちそうは、魔女には食べさせられないと大人は言いました。

 ですが、魔女に寿命を差し出された女の子は『みんなの為に戦ってくれたのにかわいそう』。

 そう言って、みんなが寝静まった頃、こっそりごちそうをお皿にのせて置いておきました。

 すると、誰もいなくなったまっくらな夜、ひっそりと魔女があらわれたではありませんか。


『おお、こんなにおいしいものがあるのか』


 魔女は残されたごちそうを、しめしめとたいらげました。

 それ以来、魔女が他のエルフの命を吸い取る事はなくなり、お祭りのたびにこっそりみんなが魔女のためにごちそうを残すようになったのでした。

 おしまい。






「っていうお伽話があるんだよ。私の地方だとポピュラーなお話なんだけど、王国の方だとこれって外典扱いなんだよね」


 ヴィオちゃんが語ったのは、彼女の住む地方に伝わる昔話。

 その内容は、先ほどリュエが語って聞かせた思い出話と、非常に似通ったものだった。

 しかし、寿命を食らうという言い伝えには少々眉をひそめてしまうな。

 大方、歳をとらず他のエルフよりも遥かに長命だったリュエへの嫉妬と畏れがそんな話を作ってしまったのだろう。


「シンデリアは王国よりも共和国側にあるからね、こういう外典扱いされてる色んな話が残っているんだ」

「ん? サーディス大陸は単独国家で成り立ってるんじゃないのか?」

「違うよ-? 大半はサーズガルドの傘下だけど、元々大陸に住んでいた種族が暮らす国もあるよ?」


 ……ちょっと大陸すべてが敵だとばかり思っていたので寝耳に水どころか熱湯注がれた思いなんですが。

 なんだそうなのかよ……もう大陸渡ったらずっと敵地の中だとばかり思っていたから、結構慎重になってたんだぞ内心。

 しかしそうと決まれば――


「まぁ大陸の玄関である港は全部サーズガルドのものだから、なかなか私の街とか国にはいけないけどねー」

「……そうなのか」


 上げて落とすのはやめてください。

 しかし、この話はかなり貴重だ。リヒトの一族以外にもまだ、リュエを思っているエルフの存在がいるという証なのだから。

 当の本人であるリュエはどうしているかというと――


「み、見られてた……見られてたんだ……恥ずかしい、摘み食いだなんてそんな……恥ずかしい!」


 感動するでも、嬉しがるでも、泣くでもなくただ恥ずかしがっておりました。

 いやいや、むしろ遠回しにでもそんな料理を振舞っていたエルフに感謝を――

 ……ああくそ、そういうことかよ。


「……人のウィークポイントを突くのが得意だな、あの豚は」


 どうやら今一度、俺はオインクに会いにいかなければならないようだ。




「今日の分は食べ終わりました。オインクのところに戻るのなら、俺も一緒に連れて行ってもらえませんか」


 訓練施設の外。

 どういうわけか近くの木からロープでぶら下がっていた西洋黒子さんにバスケットを返しながら声をかける。

 待って、そのロープなんで首にかかってるの? そんなに過酷な労働環境なの?


「……自殺はやめておきなされ」

「……!?」


 はっとしたように身振り手振りで弁解をする姿にシュールな笑いがこみ上げてくる。

 あれか、縄抜けの練習かなにかですかね? 特殊な任務をこなす隠密部隊的なポジションなのかこの人は。


「訓練であれ首にかけるのはやめておきなさい」

「……」


 こくこくと頷きながらバスケットを受け取り先導を始める。

 本当、おかしな人だな。ともあれ黒子に続きギルドへと向かうのだった。




 道すがら考えるのは、これから待ち受けているであろう問答について。

 ……オインクが言いたい事も、意図している事もおおよそ理解出来る。

 だが、それでも難しいんだ。

 なにを話そうか、どう感情を抑えたらいいか、落としどころをどうするか。

 珍しく、本当に珍しく陰鬱な気持ちを抱えながら歩みを進める。


 まだ、見せたくない部分がある。

 誰にだって、人に見せたくない部分がある。

 まだ、二人には見せたくない、歪んだ部分が俺にはある。

 そして……今のうちに克服しなければいけない部分が、俺にはある――


 黒子に連れられやってきたのは、俺が宿泊しているスイートルームの一つ下のフロア。

 同じような構造の一角に『PIGルーム』とプレートが取り付けられた扉が一つ。

 今日は突っ込んでやらないぞ、珍しく真面目モードなぼんぼんです。

 ノックを二回、声をかける。


「オインク、俺だ。話がある」


 室内からかすかに人の気配がし、扉に近づく足音がする。

 ガチャリと開錠の音がし、そして彼女の許しが出た。


「……入ってください」


 心なしか硬い声に、こちらの気持ちも引き締まる。

 別に、口喧嘩をしにきたわけではない、大丈夫だ。

 そう自分に言い聞かせながらドアノブに手をかけたのだった。


「なんだ、俺と同じような部屋を使っていたのか」

「いちいち屋敷に帰るのが面倒なときのために用意しているんですよ」

「ブルジョワめ。やっぱり自分の屋敷を持っていたのか」

「資本主義の豚と蔑みますか?」

「建前上持たないわけにもいかないんだろ? 大方、必要最小限の屋敷を建てて庭にどんぐりの木でも植えているんだろ」

「……やだ、ぼんぼんエスパータイプなんですか?」


 勧められた席に着き、軽いジャブをかねた雑談をしながら、どう切り出したものかと思考を巡らす。

 ……ああ、そうだ。


「なんか放置してるけど、黒子さんからバスケットを受け取ってくれ」

「そうですね。すみません、流し台のところに置いてくれませんか?」


 部屋の入り口の側で佇んでいた黒子へと意識を向けさせてから、俺は本題へと突入する。


「で、結局あの料理の数々は俺になにを伝えたかったんだ?」

「……それを理解したからこそ、こうして来たのでしょう?」

「オインク――二度は言わない」


 訊いた瞬間、彼女の瞳がすっと細められる。

 その静かな迫力に気圧されそうになるも、こちらも同じく睨みを利かせそう返す。


「……そんな顔をさせたいわけじゃないんです」

「……それは卑怯だぞ、美人」

「女の武器は使ってなんぼですからね。効き目はないようですが」

「十分効いたさ」


 修羅場に慣れているのか、いとも簡単にソレを流してみせる。

 そして次の瞬間には元通りの、やや好戦的で含みを持たせた笑みを浮かべる。

 ああもう、本当こんな風に向かい合うとやりにくいったらないよこの豚ちゃん。


「これから先、サーディス大陸へ貴方は今の心持ちのまま向かうつもりなのですか?」

「少しは抑えろと、そう言いたいのか?」

「まぁ、そんなところです」

「……それは、大事なものを傷付けられたことがない人間の綺麗ごとだと言ったら?」

「綺麗ごとを並べないと、綺麗なものが溢れている世界で生きていくのは難しいですよ」

「同じくらい汚いものも溢れているけどな」


 分かっている、お互いに。

 互いの主張がある意味正しく、曲げ難いものだということは百も二百も承知だ。

 そんなこと、俺達が一番よく分かっている。

 恐らく、現実世界で出会っていたら、性別を超えた親友になれたであろうこの相手。

 俺の歪んだ部分を理解し、その上でこうして言い含めようと立ちはだかる。


「すべてを許せとは言いません。ですが、味方たりえる相手とまで敵対するような人になって欲しくないんです」

「……その手始めとして、あの女と和解しろと?」

「……ぼんぼんなら、ただ美味しいだけの料理を食べて、満足なんかしないでしょう?」


 ……本当にこいつは、俺の弱い場所ばかり狙ってくる。

 そうだよ、俺はその一点だけは譲れない。

 憎まれ口は叩いても、決して踏み越えない一線、曲げられない信念がある。


「前に言いましたよね『手料理は食べる』って」

「……ああ、食べ物に罪はない」


 戯れに、実際にそんな事にはならないだろうと思いつつも、俺はミスコンの最中にそんな事を言った覚えがある。

 あれは、冗談ではなく本心だ。それを、彼女は突いてきた。


「もう、気がついているんでしょう? あれを誰が作っていたのか」

「今度、つれて来い。感想くらい言ってやる」


 悔しいが、美味しかった。

 いつも小さな心配りがされていた。

 たとえば、野菜はギリギリまで水気を切ってあったし、挟んでいる面には薄く最小限のバターが塗られていた。

 水っぽくならないように、パンやフライが水気をすわないように。

 ソースも二回目からは別々な容器に用意してくれたし、飽きないようにバリエーションも豊かになっていた。

 今日なんて口の中がぱさつかないように、スープを用意してくれるようになった。さらにはクルトンを作り、わざわざ別な容器に入れてくれた。

 味付けだってそうだ、初日と二日目以降では変えられていた。

 訓練後、塩分を欲しているだろうと少しだけ濃い味付けにされていたし、一緒にいるであろうリュエとレイスの分も必要だろうと大きなバスケットにたっぷり入れられていた。

 どれだけ相手を思って作ったかなんて、一目瞭然だ。

 これでも昔はこの道で食ってきたんだ、分かるに決まってんだろうが……。


「どうせ憎まれ口を叩くのでしょう? 素直じゃありませんね」

「……うまいものはうまいし、なによりもリュエが泣いて喜んだ。馴れ合う気なんてしないが、礼くらい……言うさ」

「……だ、そうですよ」


 すると、オインクはおもむろに部屋の向こう、台所へと声をかけた。

 ……マジか、まさかここで作っていたのか。

 だが、俺の予想に反して現れたのは、全身黒尽くめの西洋黒子さんだった。


「……脱いでしまってもいいのでしょうか?」

「今の話を聞いていたのでしょう?」

「……自らデリバリーとはな」


 ああ、そういう事だったのか。

 自分で作り、自分で毎日届けていたのか。

 なぜそこまでする。オインクに頼まれたからか?

 それとも……なにか聞いてしまったのだろうか。

 あのフライやパテを出したのは、偶然ではないだろう。

 少なくとも、あれがリュエにとって特別なメニューだと知っていないと説明がつかない。

 俺はその説明を求めるように、再びオインクへと視線を向ける。


「……今は彼女を見てあげてください。すべて、話してくれますから」

「そうかい」


 黒いフードと下でつけていたらしい仮面を外す黒子、もといレイラ。

 だが、俺は彼女の姿を見てある事に気がついた。

 ……そしてその変化を見て、これまでの出来事を思い出し、頭を強烈に殴られたかのようなショックを受ける。

 吐き気すら覚える……自己嫌悪で。


「……オインク様から、聞きました。あの方は、セミエールの血を引く方だったのですね」

「……」


 オインクは、正直にすべてを話すのは問題になるからと、恐らく嘘の情報を与えたのだろう。

 嘘とはいえ、あたらずとも遠からず、この場合は最適な判断だと言える。

 だが、俺の頭にはもう、そんな事を深く考える余裕すらなかった。


「……驚きましたか? 私は、あの方の強さに心の底から感服したのです……私なんて、周囲に守られ、全てを偽って生きてきたのですから」


 フードを脱いだ彼女の髪は、以前のような黄金ではなくなっていた。

 プラチナブロンドよりもさらに色素の薄い色。

 リュエの髪のような本物の白と見比べて、初めて金髪だと分かるくらい淡い色彩の頭髪。


「私の言葉は、きっと別な方向から聞こえてしまっていたんですね……」


 自嘲気味言うその姿に、心臓が痛む。


「……持つ者の傲慢、持たざる者への施し、恵まれた人間の戯言、そう聞こえてしまったのですよね……」


 レイラがリュエに拘っていたのは、そして頑なに近づくのを拒否した俺に拘っていたのは、正義感や使命感、ただ友達になりたいなんて単純な思いではなかったのだ。

 それは、少し後ろ向きな理由。自分の境遇を嘆き、そして救いを求めるために伸ばされた手段だったのだ。


「……ただの羨望なんです。あの方のようになれたらと、そう憧れてしまっただけなのです」


 髪の色を偽っていたからだとか、そんな見た目に惑わされてそれを振りほどいたんじゃない。

 俺はただ、憎い気持ちだけで彼女に、あんな事をしでかしてしまったのだ。

 彼女に流れている血は確かにブライトの一族のものだろう。

 それでも、あの髪色で彼女もまた、辛いを思いをしたのだろうか。

 それで手のひらを返すつもりはないが――


「敵の敵、か」

「あの、それはどういう……」

「こっちの話だ。先に言うが、俺は絶対に謝らないぞ」


 手のひらを返すつもりも、謝罪するつもりもない。

 冷静でなかったとはいえ、あの瞬間はあれが正しいと俺が判断したのだから。

 彼女にしても、あの状況で追いかけるのが相手の感情を逆撫でする事になると、態度を見れば予想出来たはずだ。

 だが、俺と一緒で彼女もまた、冷静ではなかったのだろう。

 自分よりも白い髪、そんな人間が脚光を浴び、晩餐会の花となる。

 そんなリュエに近づきたい、話を聞きたいと思うのも仕方のない事だ。

 そして、その障害となる相手がいると知り、なんとしても乗り越えようと無茶をする。

 互いが冷静じゃない、そんな状態で話そうとしても、上手くまとまる訳がなかった。

 ……俺のほうがより冷静でなかった事は否定しないが。


「……謝りはしないが」


 だが、残念ながらというべきか、悔しながらというべきか。

 もう、俺の中でレイラを敵だとは思えなくなってしまっていた。

 我ながらちょろい。ちょっとご飯を作ってもらって、少し身内と似た部分を見せられただけでこれだ。

 それでも意地はある。だから謝らない。

 だが、俺の手は自然と彼女の方へと伸び――


「……跡は、残っていないか?」

「っ……はい」


 自分でやっておいて、心配をする。

 どこのDV男だよ、最低だな。


「今度、俺にあのパンの具の作り方を教えてやってくれ」

「はい……是非」


 これが、俺の妥協点。

 彼女の首をさすりながら、そう願ったのだった。

(´・ω・`)ミュウの声優してた山ちゃんおはすた卒業おめでとうございます(見たことはない)


(´・ω・`)文庫本重版決定しました

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