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百五十話

(´・ω・`)エルフスレイヤーBONBON

「なんだ、右手の法則が効いちゃうんじゃ迷路でもなんでもないだろこれ」


 右手を壁につけたまま、全速力で走りながらこんにちは。

 若干指紋が消えていくような感覚がしますが、好成績のためならこれくらいなんともありません。


「敵の強さそのものは前回とかわらず、か」


 恐らく序盤は戦闘にあまり関係のない、身体能力や思考能力に重きをおいたコースなのだろう。

 思えば昨日のコースも、段差や坂道といったアスレチック的な要素が多かったうえに、最後の敵も俊敏な動きをしていた。

 まぁ体当たりで倒してしまったので速さもクソもなかったんですが。

 となると、恐らく今回最後に待ち受けているであろう敵も、頭を使わないと倒せないとか、なにか変わったギミックが隠されているのかもしれないな。

 今はこうして迷路地帯にいるわけだが、実はここに入るためにはちょっとした謎解き……と呼ぶにはあまりにもお粗末な仕掛けを解く必要があった。

 道なりに敵を倒していると、そのたびに横の壁に文章が浮かび上がってきたのだが、その内容がここに辿り着くためのヒントになっていたのだ。


『強き者、常に先へと歩みを進める』


『先だけを見据える者、己の過去を振り向かず』


『真の強さを求める者、自身の歩んだ道を振り返る』


『(´・ω・`)って誰かが言っていたわよー』



 4つ目の文章に向かって拳を振るいながら後ろへ振り返ると、先程までなかった扉が現れていたんですよ。

 で、そこを開いたらこの迷路だったと。

 恐らくそこまで難解なものにはしないだろうとタカをくくり、右手をつけて走ること数分、本当に出口を思しき扉にたどり着き、急ぎ扉を開く。

 すると、扉を開けた瞬間大きな丸太が振り子のようにこちらへと襲ってくる。


「迷路といったら罠ですよねー」


 知ってた。

 そのまま右手に持っていた闇魔術の剣を突き出し、振り子を弾き飛ばす。

 こうなると落とし穴とかもありそうだな……奪命剣を使えるなら[ソナー]でも発動して見破れるというのに。

 しかしここまできて縛りを解くのも癪だ。そのまま足元に気をつけながら先へと向かう。

 すると、またもや前回と同じ、開けた場所へと辿り着いた。

 中央には、やや不格好なロボのような、ゴーレムのような敵の姿が。


「黒くないな……やたらカラフルだ」


 胴体部分が升目状に塗り分けられており、たとえるならルービックキューブをゴチャゴチャに混ぜたような状態だ。

 ……おい、まさか本当にそうなのか?


「動かねぇなこいつ……」


 試しにその胴体に向けて攻撃をすると、殴った箇所を中心に周りの色が入れ替わるという仕組みになっていた。

 まさかこれ、色を揃えろとかそういう仕組みなんですか?

 ……やめろ、俺にパズル関係をやらせるのはやめろ。

 知恵の輪にラジオペンチ持ちだした俺の話する? ルービックキューブ分解した俺の話する?


「……せーの」


 大きな刺身包丁のような剣を腰だめに構え、久方ぶりに剣術を発動する。

 基本の中の基本、そしてそのモーションのかっこよさと発生の速さ、ぱっと見抜刀術のようだ、という理由で人気だった『切り払い』。

 覚えるのが初期だからと言ってバカにするなかれ、なにを隠そうゲーム時代、ほとんどのプレイヤーが通常攻撃の繋としてまずこれを組み込むというくらい使い勝手の良い技だ。

 武器のリーチがそのまま攻撃範囲となり、さらに発生が早いので、奪剣を使っていた時もこれを愛用していたくらいだ。

 いやぁ、長剣と同じ範囲で片手剣の技を使えるからと、発見された当初『だけ』は奪剣が神と持て囃されたものです。

 まぁすぐにリーチの長い片手剣が実装されたり、そもそも奪剣そのものの攻撃力がひくすぎてすぐに皆手放していったんですけどね。


「悲しみの切り払い!」


 そんな悲しみを背負ったこの一撃、耐えられるものなら耐えてみせろ。

 放たれる左切りあげ。

 まるで何度も放ってきたかのようによく馴染むその一撃が、綺麗に敵の胴体へと吸い込まれる。

 放ち終えると、目の前には身体を斜めに切り裂かれ、断面から身体が崩れ落ちていくルービックキューブもどきの姿。

 さて、問題はこれでクリア扱いになるか否かだが……。


「なるほど、脳筋も認められる優しい世界だったか」


 無事、倒した相手の足元に魔法陣が浮かび上がり、急ぎ残骸をどかして内部へと入る。

 倒した瞬間に計測が止まるのか、魔法陣に入るまで続いているかわかりませんからね。

 そして再び視界が白く覆われ、気が付くとまた五つの扉が並ぶあの場所へと戻されたのだった。




「ただいま、二人共」

「おかえりカイくん。今日もまたあの黒い人がパンを届けてくれたよ。今日はね、こんなものも置いていってくれたんだ」

「保温容器のようですし、スープかもしれませんね」


 ゲートへと戻ると、二人が出迎えに来てくれた。

 バスケットを持つレイスに、一昔前の大きな水筒のようなものを抱きかかえたリュエ。

 ううむ、ここが草原やお花畑だったら最高のシュチエーションだ。


「じゃあ結果を見てから食べようか」


『コースパターン D 月間ランキング1~10』

『1位 挑戦者 ヴィオ  クリア判定 A+  タイム 13:41』

『2位 挑戦者 カイ   クリア判定 A+  タイム 13:55』

『3位 挑戦者 ドーソン クリア判定 S   タイム 19:01』


「ちょっとドーソン見なかった?」

「カイさん……子供じゃないんですから」

「自慢するんだね!?」


 どうやら今回もヴィオちゃんに勝てなかったが、その差は僅か一四秒。

 そして、ドーソンに圧倒的なタイム差をつけてのゴールでした。

 だが、俺もヴィオちゃんも判定がA+だったが、これはもしかして最後の敵の倒し方が関係しているのだろうか?

 本来の仕掛け通りに倒すとS判定だとすると……ドーソンはパズルが得意なのか。

 ちなみにリュエさんは壁のメッセージを無視して走り続けていたら、どんどん壁の文章が増えていったそうです。

 最終的に『(´・ω・`)あなたお馬鹿さんね? そろそろ気がついて?』と書いてあったそうな。

 ……だからあんなに悔しそうに泣いていたのか。

 豚ちゃん、後で出荷な。


「レイスは今日の分、もう終わったのかい?」

「はい。無事三位にランクイン出来ましたよ」

「お、さすがじゃないか。じゃあ明日はリュエと一緒にDランクだな」

「レイス、勝負だよ勝負。今度こそランクインするよ私も」

「ふふ、では解析は禁止ですからね? 勝った方は負けた方になんでも一つ命令出来る、というのはどうでしょう?」


 あ、やっぱり勝負事には絶対になにか賭けるんですね。


 本日もオインクデリバリーの恩恵を与り、フードコートの一角でトランクを開ける。

 中にはパンだけではなく深めの皿も入れられており、やはり保温容器の中身はスープなのだと確信する。


「カイくん、昨日のフライ、また私が食べていいかい?」

「そんなに気に入ったのか、あれ」

「うん。私はあれが大好きなんだと思う。……たぶん、ずっとお腹いっぱい食べたかったんだと思う」

「そうか……って、今日はあのフライ入ってないぞ?」

「ええ!? どうして入っていないんだい、私はあれが食べたくて食べたくてたまらないのに」


 病的なまでにドハマリしたリュエさんが詰め寄ってくる。

 目と口からなにか垂れてきそうです、離れて下さい。


「ほら、新しいパンが入ってるぞ? こっちを食べてみたらどうだ」

「うん……あ、これも美味しそうだね」


 本日は、前の世界で見慣れたハンバーガー状のパンも収められており、どうやら挟まっているパテが一般的な肉ではないようだ。

 牛肉ではないと知り、若干肩を落としたレイスさん、可愛い。


「ふむ、若干白っぽいし、鶏肉か……?」

「では私も頂きますね」

「ぎゅっと押しつぶすと食べやすいね」


 控えめに口を開いて齧るレイスと、大口を開けてガブリと食らいつくリュエ。

 そんな対象的な二人にほっこりする午後の一時、プライスレス。

 さて、じゃあ俺も早速いただくとしようか。


「んむ、うまいな。これ昨日までの謎フライと同じ材料なんじゃないか?」

「そうみたいですね。より甘みといいますか、素材の味がダイレクトに伝わってきます」

「だな……ほのかに魚介の味? が混ざっているような気がする」


 これならばリュエも満足するだろうと様子を窺う。

 すると、彼女は最初の一口を食べたまま、固まってしまっていた。

 ……涙を流しながら。


「……ああそっか……やっぱりこれだったんだ」

「リュエ……?」

「どうしたんですか、大丈夫ですか?」


 嬉しそうに、再び彼女は大きく口を開きかぶりつく。

 美味しい、美味しいと何度も呟きながら。

 その姿にどう声をかけたらいいか分からず、俺はただ彼女の器にスープを注ぐ。

 白い、少しとろみのついたポタージュ。見ればバスケットの中にはビンに詰められたクルトンも入っており、それを数個浮かべてやる。


「リュエ、喉に詰まるぞ。ほら」

「ありがとう、カイくん」


 スープを一口のみ、またその謎サンドにかぶりつく。

 そして、ようやく一息ついたところで彼女に声をかける。

 これまで、リュエが隠しごとをするのはたいてい、こちらを驚かせたり、ちょっとした悪戯を思いついた時くらいだった。

 だが、昨日も彼女はなにかを誤魔化すようにはぐらかしていた。

 そして、今の反応。

 人の過去を詮索するのは主義に反するが、それでも俺は彼女に問う。


「昨日はね、フライだったからわからなかったんだけど、これ、私の森で大昔に作られていたものなんだ」


 彼女が懐かしむように、そしてどこか悲しそうに語りだした。

 レイスと二人で、ただ彼女の言葉に耳を傾ける。


「まだ寒くなくてさ、森の中にはいろんな植物もあって、畑なんかも作っていたんだよ皆。川もそんなに冷たくないから、生き物もいっぱいたんだ」


 恐らく、まだ七星を封じる前の話だろう。

 彼女がまだ、あの場所に縛り付けられる前、定期的に訪れ、エルフと共に戦っていた時代。


「私は余所者だったからね、そういうの……分けてもらえなかったんだ」

「殺しに行ってくる」

「カイさん抑えて下さい」


 いやつい。だってつい。ほら、ね?


「だけど、やっぱり大きな戦いとか、防衛戦とかで勝つと大きなお祝いをするから、私も少し分けてもらえたんだ」


 大人しく聞き入る。

 彼女は本当に嬉しそうにその時の思い出話を語ってくれた。

 たとえ一時であろうとも、楽しい時間を共有出来た事、一緒に笑えた事を幸せそう語る。


「けど、やっぱり少し差がつけられていてね、みんながなにか美味しそうなものを食べていたんだ。私は自分のお皿にそれがなくて少し悲しかったけれど、そのうちだんだん――」

「よし、やっぱり殺そう。今すぐ船に向かおう」

「カイさん、抑えて下さい」

「グェ」


 レイスに服を引かれ首がしまる。

 すみません、最後まで聞きますから手を放して下さい。


「みんなが疲れて眠ってしまってね、だから寝床に運んであげたんだ。そしたら、テーブルの上に一つだけ料理が残されていて、それがみんなが美味しそうに食べていた物だって気がついて、つい食べてしまったんだよ」

「それが、この謎サンドの具だったと?」

「うん、間違いないよ。私はこれを初めて食べた時『なんて美味しいんだろう』って感動したものさ」


 しみじみとそう言いながら頷く姿を見ていると、なんとも言えない気持ちが胸中で蠢きだす。

 怒りとも悲しみとも憎しみとも、微笑ましさとも慈しみとも表現出来てしまう、不可思議な、滅茶苦茶に混ざり合った感情。

 ……ただ、今彼女がそれをお腹いっぱい食べられている事に、満足して――


「ああ!! また食べてる! しかも今度はフライじゃないバージョンだ!」

「あ、ヴィオちゃんだ。一緒に食べよう?」

「いいの? お姉さん優しいねー」

「ふふ、そうかな? ほら、おひとつどうぞ」


 とそこへ、毎度お馴染みになりつつある腹ペコ娘さんがやってまいりました。

 少しだけしんみりしていた空気が、彼女のおかげで少しだけ和らぐ。

 リュエは自分が食べていたのと同じ謎バーガーを手渡す。

 やはり彼女は見慣れているのか、先日とは違う調理法だというのに一目で同じ食材だと分かったようだ。


「これ美味しいよねー本当。私の住んでた地方限定なんだけどね、これ色々歴史の深い食べ物なんだー」


 と、彼女は再びこの食べ物の来歴を語ろうとする。

 先ほどリュエの話を聞き、正直これ以上彼女の古傷を抉るような真似はしたくないと、その語り口を止めようと思ったのだが――


「通称『魔女の摘み食い』。他の地方だと別な呼び方なんだけどね?」


 思いもよらぬその呼び名に、彼女の語る伝承に耳を傾けてしまうのだった。

(´・ω・`)アイエエエエエ!! エルフ!? エルフ!?

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