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百四十八話

(´・ω・`)お待たせしました、じょじょにまた更新していきます

「カイくん、昨日もそれ食べていたよね? 私にもひとつおくれ」

「ん、そうだっけ」


 フードコートにてバスケットを広げると、本日も色とりどりの野菜の挟まったサンドイッチやホットドッグもどき、さらに今日はビンに入ったジャムまで用意されていた。

 俺は昨日に引き続き、謎のフライが挟まったホットドッグ状のパンを手に取ったのだが、それを自分にもくれと彼女が請う。

 いやぁ、正体が気になってついこればっかり食べていたんですよね。


「今日のジャムも美味しいですね。おそらく野生のベリーでしょうか? 強い風味と、カラメル化した風味が絶妙です」

「ほほう、甘いものは門外漢だが、これは美味しそうだ」


 ビンの中身は、オレンジを少し濃くしたような色のジャムが詰められていた。

 まるで砕いたガラスを詰め込んだようにキラキラと光を反射させる様は、宝石と見紛うほどだ。

 ううむ……薄々思っていたのだが、これ、本当はオインクが作っているんじゃないんじゃないか?

 少なくともゲーム時代、俺が料理の話をしても食いつくような素振りを見せなかったし、というか割とずぼらな食生活をしていたはずだ。


『おほーっ 今日は久々に三○○円もするカップラーメンを買ってきてもらったわよー』とかなんとか。

 先日の一件で彼女がそこそこいい所の育ちだという事が垣間見えたが、あれかね、庶民の暮らしを味わいたいとか、たまにそういうのを食べたいとかなのかね?

 まぁどの道彼女が料理上手だとは思えない。サンドイッチ程度ならまだしも、ここまでとなると……。


「あれ……私これ、食べた事ある……」


 その時、謎フライサンドを食べていたリュエが、ぽつりとそんな言葉を零した。


「本当か? 俺もこれがなんなのか分からないんだけど」

「うーーん、どこで食べたのかな……いや、いつ食べたのかな……」

「そんなに昔に食べたのですか?」

「うん。こんな風ではなかったと思うけど……このフライの中身に覚えがあるというか……」


 それ、それが俺も分からない部分なんだ。

 ツミレのような、エビカツのような、メンチカツのような。

 なんとも不思議で、面白い食感なのだ。


「私が……昔……」

「昔?」

「なんでもないよ、カイくん」

「それでも気になってしまうのが料理好きの性なんです」

「ごめんね、勘違いだから、忘れておくれ」


 そう言ったきり、リュエは黙々とそのパンを平らげてしまった。

 いつもと少し様子の違うその食べっぷりに、レイスと顔を見合わせてしまう。


 少し変な雰囲気になってしまったが、その後もリュエは美味しい美味しいとその謎フライをパクパクと食べていた。

 するとその時、俺たちの席の横からヒョイっと腕が伸び、謎フライサンドがひとつ持っていかれてしまった。


「一個もーらい!」

「む、猫耳だからって泥棒が許されると思うなよヴィオちゃん」


 振り向くと、口いっぱいにパンを詰め込んだ四つ耳少女(?)がニヤニヤと笑っていた。

 こいつ……俺のEコース一位を阻んだばかりかパンまでも……。


「よし表出ろチビっこ。今日は珍しく本来の戦闘スタイルでぼこぼこに――」

「許してあげなよカイくん。それ、美味しいよね? ……つい、つまみ食いしたくなるくらい」

「うん、これ美味しいよねー。あ、初めましてお姉さん。このお兄さんに何回かぼこぼこにされたヴィオです」

「カイさん……こんな小さな子相手にそんな事を……」

「待って、彼女ここの利用者だから。外見に騙されないで? というか俺より良い記録出してるのこの子だから」


 人懐っこい笑みを浮かべながら、するりとこちらの輪に入ってくるヴィオちゃん。

 まぁ食べてしまったのなら仕方ない。最初からひとつ頂戴って言えばいいものを。


「あー美味しかった。お兄さん達これどこで買ったの?」

「いや、これは差し入れで貰っただけさ」

「そっかー。残念、久々の故郷の味だから明日も食べようと思ったのに」

「……故郷の味?」


 ヴィオちゃんは確か、サーディス大陸出身だ。

 そこの故郷の味、だと?

 先ほどリュエが昔食べたことがあるような事をぼやいていたが、まさかそういう事なのか?


「そっか、故郷の味なんだね。美味しいね、これ本当に。なんていう食べ物なんだい?」

「わからないなー。これ、私の故郷のお祭りで振舞われるフライなんだけど、私料理とかしないし」

「そっかそっか。ヴィオちゃんってどこの人なのかな? すごくかわいい耳がはえているけど」

「サーディス大陸の『シンデリア』っていう街だねー」

「なるほど、そこにいけばまた食べられるかもね」


 リュエは笑顔のまま、彼女と会話を続けていた。

 一瞬、俺の思考が警鐘を鳴らしたが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。

 だがそうなると、いったいオインクは何を思ってこれを届けているのだろうか?

 まぁ美味しいからいいけども。

 そしてこの日は、三人で再び組み手を行い、ヘトヘトになり動けなくなるまで訓練に明け暮れたのだった。




 翌朝。

 ベッドから起き上がると、すでにレイスの姿がなく、リュエもちょうど着替え終わったところだった。


「おはよう、リュエ」

「おはようカイくん。ふふん、今日は私のほうが早く起きたみたいだね」

「そうみたいだな。レイスはさらに早かったみたいだけど」

「レイスは昨日寝る前に『明日は朝一であの区画に挑戦してみます』って言っていたよ」

「ああ、なるほど」


 ということは、もしやリュエが早く起きたのも同じ理由なのだろうか?

 見れば彼女はあのドレスアーマーを身に纏い、さらに腰に差した『神刀"龍仙"』だけでなく、俺と彼女が初めて出会った日に持っていた杖まで背負っている。

 その気合の入りように、つい『よーし頑張ってくるんだぞ』と頭を撫でたい衝動に駆られる。

 ……いやもう撫でてるんですけどね。


「な、なんだい急に? せっかく髪梳かしたのに」

「気にするな。じゃあ俺は支度したり朝食食べたりするから、先に行っててくれ」

「ふふふ……今日はDランクに挑戦してくるからね? 今回は一位狙いだから勝負だよ」

「マジでか、その装備で本気出しちゃうのか」

「カイくんもいつもの剣使ってしまったらどうだい?」


 ふむ、確かに構成しだいではタイムアタックに特化した状態になることも可能だろう。

 だが、俺の本来の目的は一般的な力に慣れる事だ。

 そしてこれにより、俺の地力の底上げにも繋がると思っている。

 いつもあの姿で戦っていると、たしかにその凄まじい身体能力でたいていの事が出来てしまう。

 だが、加減が難しく、また破壊力特化の戦い方しか出来ない。

 ゲーム時代のように針の穴を通すような攻撃も出来なければ、武道の達人のような完璧な動きも出来やしない。

 まぁそれでも、見よう見まねで再現出来てしまう辺り、この身体のスペックも大概なんですけどね。


「これも修行の一環だから却下。まぁ見てろよ、今にこの状態でもリュエとレイスに勝てるようになってみせるから」

「ふふ? じゃあ私はそうだなぁ……本気の証に氷以外の魔術も使ってみようか?」

「……そういえば使えましたね」

「む、忘れていたね? 魔導に至りはしていないけれど、炎も雷も使えるし、光と聖の魔導だって使えるんだからね?」

「すみません完全に忘れていました」


 あれ、改めて考えたらこの人めっちゃ強いんじゃ。

 一撃の重さで比べたら負けはしないが、範囲攻撃やバリエーションを考えたらもう手がつけられないレベルなんじゃ。

 思えばゲーム時代、Ryueは補助として聖魔法を習得させ、光と氷を軸に育てていた。

 だが、今の彼女はそれだけに留まらず炎や雷、さらに残りを魔導の域まで高めている。

 ……もしも誰も見ていない状況なら、あの訓練所のフィールドで全力で戦ってみたいくらいだ。


「見てなよカイくん、私が一位を塗り替えてあげるからね!」






 さて、朝食を済ませ、お昼前に到着という重役出勤で訓練施設までやってきたところですが、ここで思わぬ相手と出くわしてしまいました。

 出くわしたというか、こっちが発見したといいますか。


「おかえり、レン。私達の事はいいから中で訓練続けててもいいのよ?」

「いや、特別区画を一日一回済ませられたらそれでいい。残りは訓練場で一緒にやるぞ」

「……私は適当に射撃場で魔法撃ってくる」

「では、私は……そうですね、お二人が組み手をしている最中に回復を。どちらに付きます?」


 およそ五ヶ月振りとなる、レン君ご一行の姿があるではありませんか。

 ふむ、確かあの勝気な娘さん以外の二人は彼から離れる風な事を言っていた思ったが。

 まぁこの細い道、絶対にすれ違う事になるのだしこちらから声をかけるか。

 出来るだけ爽やかに、まるでそう、近所の子供に声をかける優しいお兄さん風を装って片手を上げて――


「やぁ、久しぶりだねレン君と愉快な仲間達」

「……やっぱりこの都市にいたんだな。施設内でリュエさんを見かけた時からいるとは思っていたが」


 ふむ、食って掛かるかと思ったが、存外冷静な様子で彼は言う。

 やはり王にたしなめられ、自分が嘘の情報に踊らされたと知った事が響いたのだろうか。

 しかし、彼よりもむしろ、あの決闘の後、俺に七星の開放に行くのなら連れて行って欲しい、みたいな事を言っていた彼女の方が大きな反応を返してくれた。

 青ざめ、下を向いている。なんだ、自分がレン君に見切りをつけた事を隠したまま、再び一緒にいるのだろうか?

 あのちっちゃい魔女っ子さんはマイペースに眠そうな目をしているというのに、この反応の差よ。


「まぁいいや。俺もこっちに用事があるから、そっちも頑張りな」


 なんとなく居心地が悪く、そのまま彼らの横を通り過ぎようとしたのだが、それを遮るようにレン君が腕を伸ばす。

 む、じゃあ下をくぐらせてもらいますよお兄さん。


「はーい潜った!」

「お前、さすがにそこは話を聞けよ!」

「……俺もさすがに恥ずかしかったわ」

「……調子狂うな」


 狂わせているんです。

 ヘイヘイ、どんどん茶化すぜ少年。


「……俺は、今回の闘技大会で優勝したら、白銀持ちに勝負を挑む。お前に、カイヴォン、アンタに再戦を申し込む!」

「俺白銀じゃなくて青色なんですけどね」

「うっ……とにかく、お前も勝負を受ける人間の一人として出席するんだろ!?」

「ああ、するよ。オインクに頼まれたからな」

「だったら、今度こそ本気で戦え。この都市に来るまで、お前の話を幾つも聞いてきた」


 ……アルヴィースでの一件だろうか?

 やめろ、あの最後のスピーチとかも伝わってたりするんですか。

 思い出したくない、まじでやめて。

 おい枕はどこだ、今すぐ顔を埋めてバタ足してやるから。


「俺は、強くなった。どこまでやれるか、試させてもらう……!」

「もし優勝できたら、な」


 精神攻撃は基本。

 彼にその気はないようだが、今のは結構効いたぜ。

 というわけでこちらも少々プレッシャーをかけようかと思います。


「俺も一人、優勝するんじゃないかと目星をつけた相手が一人いてな。君が上を目指すなら、間違いなくぶつかる相手だ」

「なんだと……」

「その人は強いぞ。訓練とはいえ、組み手で俺に膝をつかせたこともあるくらいだ」


 レイスさん、本当近接格闘強いんですよね。

 何度も上に乗られたり組み伏せられましたよ。

 わざとじゃありません、本能です、男の性です。

 あれで本職が遠距離攻撃だっていうんだから、なかなか性質が悪い。

 で、俺の発言は想像以上に効果を出してくれたようで、レン君が若干顔色を悪くし始めた。

 だが――


「ちょっと! あんたがいくらその人を推していようがね、勝つのはレンよ! 見てなさい、今度こそレンがアンタに勝つんだからね!」


 そんな彼を気遣ってか、それとも天然なのか、例の娘さんが言い返す。

 多少盲目的でも、どんな時でも信じて疑わない仲間。

 こういう娘が近くにいるから、彼は頑張れるのだろうか。


「……そうかい。レン君、良い仲間を持ったな」

「……そうだな、俺は仲間に恵まれた」

「ああ、本当に」


 そう言って、今度は彼の背後で俯いていた彼女に視線を向ける。

 だが、彼女もすでに顔を上げ、俺を見据えていた。

 なるほど、変な勘繰りをしてしまって悪かった。

 どうやら彼女は、自分が見放しそうになった事を彼に告白したようだ。

 そうじゃなきゃ、あんな目は出来ない。

 なんの負い目も感じさせない、こちらに挑むようなあの視線。


「私も、レン様が優勝すると信じています」

「よく言った」


 俺とはまた違う仲間との在り方、そして絆の育み方をしてきたであろう彼。

 これは、もしかしたらもしかするのかね。


「レン君。応援は出来ないが、もし優勝したら全力で相手をすると約束するよ」


 さすがに、もう彼を茶化す気にはなれなかった。


「……あ、枕をくれた人」

「今気がついたのか君。というかあれ俺の枕じゃないからね、お城の備品だからね」


 ……俺をツッコミ役に回すとは、本当に仲間に恵まれたな、レン君。

(´・ω・`)少しずつ、見え隠れするリュエさんの過去

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