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百四十六話

(´・ω・`)グールグル グールグル

 ゾクっと、謎の感覚に背筋を震わせ、首をすくめ目を覚ます。

 なんだ……身体が重いんだが。


「あ、起きちゃった」

「お、おはようございます……」

「……先生、家族がついに一線を超えてきたのですが、どうすればいいでしょうか」

「ち、違うんです! 誤解です」

「なになに、二人で盛り上がってずるいよ」


 説明しよう。

 俺起きる→上半身裸→レイスが身体を撫でている→リュエが胸に耳をあてている。

 やぶさかではございませんが、ちょっと心の準備を下さいませんか。


「まぁどうせぶかぶかの寝間着が寝苦しくて無意識で脱いで、それを見て着せてあげようとしてたらリュエが面白がって遊んでたんでしょうね」

「分かってて誤解した振りをしたんですか……」

「カイくん、心臓の音聞いてたんだけど、聞こえなかったよ?」

「え、マジで? 俺死んでるの?」


 慌てふためくレイスを堪能していると、リュエに爆弾発言をされてしまい、慌てて胸に手を当てる。

 ……普通にドクドク鼓動を伝えてきているんですが。

 というか君、耳の当て方が悪くて細長い耳が折りたたまれていますよ

 セルフ耳栓とか器用っすね。


「耳の先端が穴に埋まってますよ貴女」

「…………」


 珍しく顔を真っ赤に染めて布団に潜ってしまいましたとさ。

 なんでしょう、耳があんな風になるのって凄く恥ずかしい事なのだろうか?


「で、レイスさんはそろそろ服を返して下さい」

「……改めて見ると、本当にいい体をしていますよね……」


 誤解じゃなくなりそうなので返して下さい本当に。

 やめて、腹筋なぞらないで、くすぐったいです。




 ゴルド氏のご厚意で朝食を頂く事になり、食堂で待っていると昨日とは違いどこか余所行きというか、若干きらびやかな意匠の施された服を着た彼が現れた。


「おはようございます。朝食まで頂いてしまい、申し訳ありません」

「いや気にするな。大したもてなしは出来ないが、腹いっぱい食べていってくれ」

「わかりました。だ、そうだよレイス」

「わ、私に振らないで下さい……」

「ははは、レイス先輩は今もたくさん食べるんだな」


 今朝の仕返しに少しいじってやると、やや顔を赤らめ俯いてしまう。

 あ、昔からたくさん食べていたんですね、なるほど。

 よく食べよく育つ――よく育つ。

 はい、今先生大事な事だから二回言いましたよ。


「うーん……昨日の事あまり覚えていないんだけど、泊めてくれてありがとうねゴルド君」

「ははは、どういたしまして」


 運ばれてきた朝食を食べながら、彼に昨日の件を踏まえて質問をしてみる。

 敵情視察みたいなもんです。


「ゴルドさん、少し質問をしてもいいですか?」

「ん、なんだ?」

「冒険者時代のゴルドさんは、白銀持ちのリシャルさんとどちらが強かったのでしょう?」

「ふむ……リシャルはそうだな、力比べだけなら俺に分がある。もちろん俺が全盛期だった時の話しだが」


 俺がこの先、一戦交えるかもしれない相手の事を知るための質問。

 なるほど。以前見かけた時も、線の細さから力よりも技に重きを置いていそうな印象を受けたが、間違っていなかったようだ。

 全盛期のゴルド氏の力は、恐らく昨日よりもさらに強烈なのだろう。となると、腕力だけならば今の俺とリシャル氏はそこまで差はなさそうだ。

 やっぱりネックになるのは技量、か。


「あいつはそうだな、恐ろしく丁寧な戦いをする男だ。俺と剣を交えた事もあったが、正直俺のほうが格は下だっただろうな」

「それほどまでにですか……」

「ふむ、勝負でも挑んでみるつもりか? オインク様に見出された以上、叩き上げで上り詰めたあいつに挑みたいという気持ちは分からんでもないが」

「いえ、そういう訳ではありませんよ」


 これ以上深く聞くのも変に思われるだろうと、この辺りで切り上げる。

 そして彼はこの後、エンドレシアからの来賓を迎えに行かなければならないということで、俺達もお暇する事となった。

 やっぱり、練習あるのみなのかね。




「カイくん、今日も訓練をするなら、私やってみたいことがあるんだけど」


 ギルドへの帰り道で、珍しくリュエがそんな提案をする。

 ふむ、なにか新たな訓練法でも思いついたのだろうか?


「あの施設には凄く大きな魔導具? みたいなものがあるみたいでね、その力でいろんな術式を起動させているみたいなんだ」

「そういえば、いつも不思議そうに見ていましたね。なにか分かったんですか?」

「うん。あの術式って、全部訓練施設の奥にある実地訓練用の区画の奥から続いているんだけどさ、それだけ大規模なら、きっと面白い仕組みになっているのかなって」

「なるほど。確か一日一回限定の入場制限付きの区画があったな。じゃあそこに行ってみたいと」


 ふむ、リュエがそこまで気にするとなると……よほど凄い仕組みがあるのかもしれないな。

 例えば、リュエの家にある倉庫、あれなんかその最たるものだろう。

 一種の異空間を作り出しているのだから、それに近いなにかがあの施設にあるのかもしれない。

 ……こう、○○の不思議なナニガシ的な。

 そうと決まれば、早速向かわなければ。

 歩くのも面倒なので、市内を移動するための乗り合い馬車へと乗り込みギルドへと向かうのだった。




「凄いな……先着一五名って話だが……」

「今並んでいる方だけで一○人ですし、もしかしたら今日は無理かもしれませんね」


 施設の最深部、その特殊な区画へと向かうと、入場管理をしているゲートの前に人が並んでいた。

 すでに区画内に入った人間を考慮すれば、確かに三人全員がここを利用するのは難しいかもしれない。

 なので、このありさまを見て不安そうな顔をしていたリュエさんを俺の前へと並ばせる。


「いいのかい? 私で丁度一五人目だったらどうするんだい?」

「来たがっていたのはリュエだからな、構わないさ」

「ふふ、そっか」


 辺りを見回せば、ここに挑むのに万全の体勢を整えられるようにギルドから整備士が派遣されており、これから挑む人間やすでに終わって出てきた人間の装備を念入りにチェックしていた。

 さらにゲートの上には、電光掲示板のようにも見えるホワイトボードが設置されており、見ているとそこに自動的に文字が浮かび上がってきた。


『挑戦者 ドーソン コースパターン B クリア判定 A- タイム 26:33』


 うっほ! なにこれ、タイムアタック? 結果が出るのかこれ!

 このゲーム的ギミック、俄然やる気が出てしまうんですが!?

 そして次に表示されたのは、恐らくその他の人間の結果だろうか? それらがズラーっと羅列されており、その横には数字がふってある。

 そう、ランキングだ。

 おいおい、ゲーム好きにこんなの見せちゃダメですよ、モチベが上がり過ぎちゃうじゃないですか。

 いいか、どんな練習や訓練も、自分のモチベーションが高ければ高い程結果に結びつくものなんだ。

 こいつは堪りませんな……。


「リュエ、やっぱり俺と交代して」

「やだ!」


 残念、一度譲ったものは返ってきませんでした。

 いやこれ本当楽しそうなんだけど。もちろん訓練なのは分かっているのだが、それでもこの仕様はゲーマーの心を惹きつけるといいますか。

 これ、オインクが関わったんだろうな絶対。もしかしたらクロムウェルさんも協力したのだろうか?

 なんだよなんだよ、こんな面白そうなものがあるなら早く教えてくれよ。


「カイさん、あの今表示された名前って、先日の男性ではないのでしょうか?」

「……あーそういえばそうだっけ」

「……やっぱり覚える気ねぇだろアンタ」

「噂をすればなんとやら。おっす、また会ったな」


 列に並んでいると、自分の装備の点検をしていた冒険者、ドーソンが再び現れた。

 いやなんかごめん、君特徴がないんだもん。

 戦闘スタイルはかなり特徴的だというのに、君周りと同じレザーアーマーなんですもの。

 なんかこう、白い石を出すんだからこう、それっぽいローブみたいなのなんてどうでしょう。


「……今度灰色のローブでも買ってやろう」

「なんだ突然。まぁともかく、こいつに挑むのは初めてだよな?」

「俺達三人初見ですので、どうかネタバレは控えて下さい」

「それもそうか……実はあの区画の最後には――」


 嬉しそうに早口で言い出した瞬間、なんと俺よりも先にリュエが彼の口に雪を詰め込んでしまった。

 ははは、自業自得だぞ。


「ブフ!? ……ペッペ、いや本当すまなかった。じゃあ俺はここでカイさんの記録が出るのを楽しみに待ってるぜ」

「その余裕をすぐに崩してやるから見とけよー」


 どうやら区画内には一度に三人入れるらしく、一日一五人となると、五組が利用出来るという計算か。

 となると、すでにドーソン以外にも二人利用しているから――


「このままだとレイスだけがあぶれるな……」

「そうなるみたいですね。別に構いませんよ?」

「いや、折角だし三人でやりたいです」


 ……さてどうするか。

 強権発動で強引にねじ込むのはさすがに印象が良くないし、俺もそういうのは嫌いだ。

 誰だったかな、行列を無視して人数分のパンケーキを買ってきた豚さんは。

 ああ俺? 前に行列無視して入ろうとしたら遠回しに『お前なんて知らね』されて列の横を引き返しましたが。

 いやはや、懐かしいな。確かSSランクのギルドカードを受け取った時だったか。

 少し行列の様子を見てみると、やはり皆ここを利用したくてウズウズしているのか、楽しそうに相談している人間の姿が見受けられる。

 そちらへと耳を傾けてみると――


「今日のところは俺Cコースにしておくわ」

「んじゃ俺もCにするから勝負しようぜ」

「私はAに挑戦してみるわ。たぶん遅れると思うから先にご飯食べてて」


 ふむ? これはもしや一緒に入ったとしても一緒に行動出来る訳ではないのだろうか?

 よし、ここは彼に聞いてみようじゃないか。


「おーいドーソンちょっと来てくれー」

「んあー? どうしたんだカイさん」


 近くのベンチでドリンクを飲んでいた彼を呼び寄せ、先ほどの疑問をぶつける。

 すると、やはり内部では完全に独立したコースになっており、一緒に行動することが出来ないようになっているそうだ。

 また、コースを最初に選択するらしく、E~Aまで用意されており、Aが一番難易度が高いと。

 さらに全てのコースをクリアすることで解放されるコースがあるらしく、そちらは一日の定員以外としてカウントされるそうだ。

 よく白銀持ちや一部の金持ちが訓練で訪れるとかなんとか。


「やっぱり話は聞いておいた方がいいだろ?」

「けどお前さっきネタばらししようとしただろ。どうも信用ならん!」

「へへ、一応俺はあとAランクをクリアすれば晴れて特設コースに挑戦出来るんだ。そしたら今度はその特設コースのネタばらしでもしてやるさ」


 そう笑いながら去る背に視線を向けつつ、どうしたものかと考える。

 これなら無理に三人一緒じゃなくてもいい訳だが、それでもレイスを独り残すのが申し訳ない。

 振り返り彼女の方を見ると、こちらの考えている事が伝わったのか、少しだけ困ったように笑う。

 そんな『しょうがない人ですね』みたいな顔しないでください、正直かなりグっときます。

 やだやだ、レイスお姉さんと一緒じゃないだやだ、とか言ってみたらどうなるだろうか。

 ……ダメだ、自分で自分をぶん殴りてぇ。


「あら? カイさん、リュエの姿が見当たりませんけれど」

「ん? あ、どうしたんだリュエ」

「わ、わたしが譲ってあげるよ! ほら、二人で行ってきな」


 すると、先程までのやり取りを聞いていた彼女が、いつのまにかレイスの背後に回り込んでいた。

 なんといじらしい。だがしかし、そうはいかん。

 俺はサっとリュエの背後にまわりこむ。


「リュエとレイスで行ってきな、俺は明日も明後日も来る予定だから別にいいさ」

「むむ、やはりここは私が!」


 すると今度はレイスが俺の背後に回り込んできた。

 ……なんだこれ、傍から見たら遊んでるようにしか見えないんじゃないか?

 すると、今度はまたリュエが――


「あの……そろそろ順番ですので用意の方をお願いします」


 いつの間に列がさばかれていたのか、気が付くと俺たちはゲートの前でぐるぐる回っていたようでした。

 恥ずかしい、ものすごく。

(´・ω・`)先日ファミ通文庫さんのHPで特集ページを作って戴きました

http://fbonline.jp/02sp/02_1603Himajin/index.html

(´・ω・`)それと、購入特典についての解説ありますのでこちらもどうぞ

http://blog.fbonline.jp/2016/02/26/9473


(´・ω・`)すでに書籍を手にとった方もいると思いますが、試し読みも可能なようですので、序盤だけですがWEB版と読み比べてみても面白いかもしれませんね

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