十一話
そるとばーぐに さよならばいばい
ソルトバーグに滞在を始めて約一ヶ月が経過した。
あの騒動の後から、俺の認識が本当に『魔王』となってしまった事以外特に変わったことも無く、俺の実力が露見した事もありちょっかいを出す人間も皆無だ。
だが強いて言うのなら――
「カイ様。本日の依頼の中に、カイ様自らが赴くほどの物は御座いませんでした」
「カイ様ー! 今日のお昼ごはんのお店、予約とっておきましたー」
「カイ様、今夜のご予定は御座いますでしょうか? もし宜しければ我々と共に――」
街にいる魔族、それも8割方女性が取り巻きになってしまった事だろうか。
見回せば、実によりどりみどりである。
いずれも豊満な肢体を持ち、それを惜しげも無くこちらへと寄せてくる。
正直たまりません。が、ここでキャラを崩す訳にもいかず、今日も俺は紳士的にふるまうのであった。
「で、それで我慢出来なくなってほいほい着いていったのかい?」
「面目ございません。いやぁ、俺も男ですから……」
「私が見つけたら良い物の、あのままじゃ確実にお持ち帰りされていたよ? 面白くもない」
何故か見えない力が働いているのか、必ず『ナニかが起きる前』にリュエに見つかり、連れ戻されてしまう。
けど、正直いい加減こっちも行動し辛くもあるし、もうだいぶ仕事の流れも掴んだしそろそろ潮時かもしれない。
「そうだな、じゃあそろそろこの街を出ようか」
「む? いいのかい? チヤホヤされなくなるよ?」
「……一緒に旅をする大切な仲間がいればそれでいい」
「カイくん……キメるのはいいけどその悔し涙拭いて?」
チクショウ。
翌日。
隣街へと向かう商人の護衛の依頼でもないかと、掲示板を自分で探す。
いやさ、取り巻き含め一部職員までも、あからさまに俺が街を出るような依頼を隠すんだよ。
で、実際自分で見ると、やはりありました護衛依頼。
『マインズバレーまでの護衛任務 定員2名』
その依頼書を剥ぎ取り、リュエと共に受付へ。
なお今日は男性職員の窓口だ。
「すまない、この依頼の詳細を聞きたい」
「カイ様が、で御座いますか? 些か役不足ではないでしょうか?」
「……それを決めるのはそちらではない。詳細を」
「も、申し訳ございません」
ギルドぐるみなんですかね?
その後、詳細を聞くと出発は今日らしい。
定員割れを起こしてしまうらしいが、俺とリュエは二人で一人分の報酬と言う事で商人に伝えてくれるそうだ。
「というわけで、今日の正午には私もリュエもこの街を出る。色々と便宜を図ってもらい感謝する」
「そ、それでしたら私達も!」
「いや、私は元々、彼女一人いればそれでいい。すまないが旅の仲間を増やすつもりはない」
「そ、そうですか……」
随分と慕ってくれた手前、何も告げず出て行くのも悪いと思い、取り巻きの中でもまとめ役? のような女性に報告をする。
この子も俺と同じで翼を生やしている為、強い血筋の人間らしい。
……俺は一応人間だし、魔族だって一度も自称してないんですけど。
「カイくん。そっちはもう準備出来たのかい?」
「ああ、挨拶を済ませてきたよ。じゃあ宿に戻って荷物を纏めよう」
「リュエ様……私達は貴方が羨ましいです。どうかカイ様の事を宜しくお願い致します」
「言われるまでもないさ。安心しな、カイくんに変な虫はつかせないよ」
貴方は俺のお母さんですか。
そして変な虫につかれたのはお前だろうと。
宿へと戻り、俺は久しぶりに魔王セットを解除し、普通の服装へと戻す。
一応旅人として問題のない、戦闘もこなせる服装だ。
……色が黒がメインなのはご愛嬌。
【Name】 カイヴォン
【種族】 人間
【職業】 奪剣士 拳闘士
【レベル】 399
【称号】 紛れも無く魔王
神を泣かせた者
龍帝屠りし者
【装備】
【武器】奪剣ブラント
【頭】なし
【体】旅人のコート(黒)
【腕】レザーガントレット(黒)
【足】レザーグリープ(黒)
【プレイヤースキル】闇魔法 氷魔法 炎魔法
剣術 長剣術 大剣術 簒奪
格闘術
【ウェポンスキル】 『生命力極限強化』
『気配察知』
『幸運』
『移動速度2倍』
『素早さ+15%』
『硬直軽減』
『回復効果範囲化』
『』
もちろん中に着ている服も黒でございます。
しかし、スキル構成はもうこれで安定だ。
取得金額はもう必要ないだろうし、攻撃力を上げる必要もない。
硬直軽減も正直、実感出来る程の効果もないのだが、気休めだ。
この世界にきてからもっとアビリティが増えると思ったのだが、どの魔物を倒しても習得出来た試しがない。
そろそろこう、変わった物が欲しい所。
具体的に言うと相手の能力を解析出来るようになるとか、そういうの。
「ま、ないもの強請りだな」
その後、商人ともう一人の護衛と合流し、街を出発する事になった。
もう一人の護衛は"ムスタ"と言う名の人間の男性で、どうやら俺の事もリュエの事も知らない様子だった。
恐らくこの街に来たばかりだったのだろう。ただ商人の方はばっちり俺の事を知っていたようで――
「カイ様にリュエ殿が護衛とは、これは依頼料に色をつけなければいけませんな!」
「いやいや、ちゃんと二人で2万で問題ないですよ。あと様付け禁止で」
「お二人は有名人か何かなんですかい?」
「いや、私もカイくんもただの旅人さ。ギルドでちょっと依頼を頑張っただけの」
まぁ、もう周りの目をきにする必要もないし、気楽に行きましょうかね。
となり街と言っても、その距離は馬車で4日とかなり離れている。
幸いそこまで治安も悪くない為常に馬車の外で哨戒にあたる必要もなく、交代で御者席に座りそれ以外は荷台の中で過ごすという物だった。
そして、何事も無く4日後の夕方、俺達は"マインズバレー"に到着した。
報酬を受け取りにギルドへと向かうと、そこの看板には『マインズバレー冒険者ギルド』と書いてあった。
もう一度いう『冒険者』だ。ついに王道ファンタジーの定番冒険者の称号を手に入れるチャンスがきたのである。
そうか、総合ギルドっていうのはあの街だけだったのか。
「カイくん嬉しそうだね。そんなに冒険者に憧れていたのかい?」
「いやなんか定番? みたいな。ランクとか決めちゃったりするんだろ?」
「そういえばそんなものもあったねぇ……私はどういう扱いになるんだろうか」
建物もそれほど大きくなく、扉を開くと結構な数の視線を浴びる。
受付へと赴きカードを提示すると、案の定冒険者としての登録はまだされておらず、本格的な登録をしてもらう事になった。
のだが――
「リュエ様。少々お伺いしたい事がありますので、応接室の方へ来て頂けますか?」
「失礼、彼女は俺のツレなんですけれども、何か問題ですか?」
「少々リュエ様のカードについて、お尋ねしたいことがありまして……」
「行ってもいいけど、彼も一緒でいいかい?」
「リュエ様がよろしいのでしたらば」
ふむ、もしやあの領主の息子が何か手でもまわしたのだろうか?
もしそうなら、今度こそ潰さなくては。
「失礼します」
通された応接室には、既に一人の老人がいた。
恐らく種族はエルフ。にも関わらず老人となると、そうとう高齢の筈だ。
「ようこそお出で下さいました。お久しぶりで御座いますなセミエール様」
「私を知っているとなると……誰だい、君。返答次第じゃ私の横にいるカイ君が黙ってないよ」
「そこでなんで俺に振るんだよ。ん? でもエルフとなると……まさか」
リュエを騙して置いていったエルフの生き残りか?
エルフ死すべし慈悲はない。
そう思いあたり剣に手をかける。
「……貴女様がお怒りなの当然です。申し遅れました。私は"クロムウェル・アイソード・リヒト"ともうします」
「リヒト? じゃあ君は……私の所に残った一族の生き残りなのかい?」
「私が生まれてすぐ母はあの森を去りました。赤子には、あの気候は厳しいと判断したのでしょう。それでも、こうしてこれまで街で暮らしていた事にかわりありません。なんとお詫びしたらよいでしょうか」
「いや、いいんだよ。むしろ生き残りがいてくれて嬉しいよ。それに赤ん坊だとは言え、私と同じ時代に生きた数少ない仲間じゃないか」
「私を、仲間と呼んで下さいますか! 申し訳ありません、本当に私に力がなかったばっかりに……」
どうやら、彼女の為に残った一族の末裔、というか当時のリュエの元で生まれたエルフだったようだ。
いやぁ、目の前のおじいちゃんが赤ん坊の頃って、改めてリュエがおばあちゃんなんだなぁと再認識してしまう。
「何しみじみと頷いてるんだいカイくん……えい」
「イテ。なんだよ急に」
「してリュエ殿、こちらの方は……それに、ここにリュエ殿がいるとなると――無事に七星様はお目覚めになられたと言う事でしょうか?」
「……は?」
七星様? お目覚め? 何を言っているんだ。
あれは倒すべき敵だろう?
おれはこいつと たびにでる
カイクーン