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百三十六話

(´・ω・`)prezzemolo

 以前この場所に連れてこられた時は、王宮の入口前で降ろされたのだが、今回は正式な客人ということで、そのまま門をくぐり会場である離宮の側まで乗り入れることが出来た。

 魔車が停車し、御者さんから到着の旨を知らされ地面に降り立つ。

 そしてすぐに背後へと振り向き、ステップを降りようとしたレイスの手を取る。たぶんこれで正解ですよね?

 すると、彼女が嬉しそうに微笑み、俺の選択が間違いでなかったと知らせてくれる。


「ありがとうございます、カイさん。ふふ、私は幸せものですね」

「その言葉、そっくりそのまま返させてもらいます」


 そしていざ会場へ向かおうと振り向いた瞬間、目に飛び込んできた光景に息を飲んでしまった。

 巨大な、バロック調の宮殿と庭園。

 美しい彫刻のなされた噴水に、美しく刈り込まれた植木、石畳一枚一枚にまで複雑な模様が刻まれており、月並な感想だが、まるで映画の中に迷い込んでしまったのではと錯覚してしまう美しい庭園だった。

 ここ、本当に歩いていいんだよな? 実は展示品とかじゃないよな?


「これは……ここが噂に聞くサングエ・ブル・パラッツォですか」

「む、青い血の宮殿とな」


 さすがバロック、イタリア語ですか。

 ちなみにイタリア語は料理の名前と食材の名前しか知りません。

 知ってるか、パセリって三文字で済む単語がイタリア語だと一◯文字使うんだよ。

 いやぁ、あの時ほど日本のカタカナに感謝した事はありません。

 和名だと『オランダセリ』って六文字使っちゃうんですけどね。


「かつての王族が、最後までこの場所に立てこもり、そして命を散らした事からそう呼ばれているそうですよ。勿論、改修済みだそうですが」


 なるほど、青い血は高貴な血筋を指し示す隠語でもあったな。

 ううむ……そう言われると、むしろこの場所は心霊スポット的な場所なのではないだろうか?

 クーデターの果てに死を遂げた旧王族最後の場所なんて、いかにもなにか出てきそうじゃないか。

 そしてそんな場所を晩餐会の会場にするとは、なかなかオインクも辛辣というか、悪劣というか。

 しかしこれも必要なのだろう。歴史の勝者は、常に勝者らしく振る舞わなければならないもんだ。

 きっとこの場所を残したのも、こうして他国の要人を招く晩餐会にここを利用するのも、彼女の思惑の一つに違いない。


「昔、議員を務めている方に晩餐会に誘われたことがありましたが、ついぞ私はあの場所から外に出なかったので、こうして見るのは初めてなんですよ」

「まぁ、アーカムが生きていた頃は間違いなくこの場にやつが来ていただろうしな」

「……そんな理由ではありませんよ? 晩餐会に誘う、公の場に付き添って出席するというのは、つまりそういう間柄だと示すような行為ですから」

「すまないレイス、失言だった」

「ふふ、私はずっと貴方だけを待っていましたから、そういうお誘いは全てお断りしていたんですからね?」


 そしてそんな彼女が今、こうして隣にいる。

 かつて何度も断ったその晩餐会へ共に出席するために。

 それがなんとも誇らしく、同時にくすぐったくもある。

 ああ、きっと表情が崩れてしまうなこれ。

 俺は彼女にそんな顔を見られまいと、やや早足で宮殿へと向かうのだった。

 どうせバレてるんでしょうけどね。


 早足で芸術品のような石畳を歩きながら、近づいてきた荘厳な大扉。

 そんな場所に相応しい、美しい鎧甲冑に身を包んだ騎士が、こちらの姿を確認して招待状の提示を求めてきた。

 今回、俺とレイスはリュエ、ならびにオインクの連れという扱いなので、本来ならば彼女達と一緒でないと入場する事はできない。

 だが、あらかじめオインクが話を通してくれているので、ギルドカードを提示するだけで通れるようになっているそうだ。

 俺とレイスがそれぞれ白銀、金のカードを提示すると、ピシっと音がしそうなほどの敬礼を見せ、扉を開けてくれた。

 いやなんともむず痒いね、こういう場所は。


「おお……」

「まぁ……」


 宮殿に入ると、まずエントランスホールの広さに度肝を抜かれた。

 天井がとんでもなく高く、美術品の中に小さくなった自分が放り込まれたような、そんな圧倒的迫力に息を飲む。

 遠目でも分かる壁材の彫刻に、美しい石の白。

 派手な彩色がないにも拘らず、それを物ともしない大胆な彫刻と、対比するかのような微かに染められた別種の石の彫り物。

 正直そこまで芸術に詳しいわけではないが、これがとんでもなく高位の、まさに匠の技の粋を集めた場所なのは理解出来た。

 確かな眼識を持っているであろうレイスまでもが、言葉を発せずにいることから間違いないだろう。


「ようこそおいでくださいました。代表の方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


 そのあまりの美しさに言葉を失っていると、これまたこの場に相応しい、ザ・家令と言わんばかりの老齢の男性が尋ねてきた。


「カイです。招待状はないのですが、こちらをどうぞ」

「カイ様に……レイス様ですね。伺っております、こちらの控室までお越しください」


 彼に連れられ、俺達はホールを抜け中央の階段を上り二階へと向かう。

 そのまま通路を進んでいると、途中、人のざわめきが聞こえる大扉を横切ったが、あそこが控室ではないのだろうか?

 すると、再び先ほどと同じ意匠の施された大扉が現れた。

 そして、丁度俺達が通るタイミングでその扉が開かれ――


「あ、丁度いいところに……申し訳ありません、少々お化粧を直したいのですが――」


 現れたのは『レイラ・リュクスベル・ブライト』あのエルフの王族の血を引く娘だ。

 ああ、本当は名前くらいしっかり覚えているさ。

 当たり前だろ、味方と同じくらい、敵の名前は重要なんだよ。

 ああ、一気に気分が盛り下がる。


「今はこちらが案内をされているのが見て分からないのでしょうか? ふむ、それとも自分は常に何者よりも優先されるのだと、そう思っておいでか?」


 気がつけば、またしても俺の口がその辛辣な言葉を紡いでいた。

 レイスが、そして家令の老人がぎょっとこちらを見るが、俺は態度を変えない。

 そして言われた本人もまた、自分の無作法を認め、謝罪を申し出てきた。

 ……つまらねぇな。


「も、申し訳ありません……」

「後ほど、伺いますので今暫くお待ちくださいませ」


 申し訳無さそうに頭を下げ、案内を再開する彼に続く。

 通り際、俺は少しだけ威圧を込め、魔眼で彼女を睨みつけるのだった。

 化粧直しね、本当はトイレにでも行きたかったのかね? なら精々ゆっくり案内してくれ、家令さん。


「……カイさん」

「悪いな」


 こればっかりは性分だ。そして衝動だ。

 止めるつもりなんてさらさらない。

 それからやや歩いて、宮殿の奥、先程までの大きな扉ではなく、一般的な大きさの扉の前で彼は立ち止まった。

 なるほど、先程までの扉は、ミスコンの出場者やその友人の控室で、その隣が各国の要人の控室だったというわけか。

 で、ここがオインクとリュエの控室だと。


「オインク様、リュエ様。お連れの方がお見えになっております」

「通してください」


 室内の声に促され、俺とレイスが扉を開ける。

 するとそこには、すっかりとめかしこんだ二人の姿が。

 これは……先にレイスで目を慣らしていなかったら、本当にいつまでも立ちすくんでいたかもしれない。

 室内に入り、二人の姿をしっかりと目に焼き付ける。


「カイくん、どうだろう? 似合うかな?」


 リュエは、先日のドレスアーマーと少し似ているが、スカートの丈が長く、華やかなレースが配置された女性らしい、もしも白色ならばウェディングドレスと見紛うような淡水色のドレスに見を包んでいた。

 髪は全て下ろし、ストレートロング、頭には先日の優勝の証であるティアラを乗せ、シュッと伸びた耳にはアキダルで俺がプレゼントしたイヤーカフスをつけていた。

 ああ、あの耳をさわりたい衝動が。


「凄く似合ってる。イヤーカフスもつけてくれて嬉しいよ」

「ふふふ、私のお気に入りだよ。落とすといけないから、こういう時じゃないとつけないようにしているんだ」


 そして俺は、もう一人の美女……と呼ぶのが若干癪だが、文句なしの完成度を誇る我らが豚ちゃんへと向き直る。

 美しい、本当に艷やかで、まるで濡れているのではと思うほどの黒髪を、今日は自分の番だと言わんばかりにハーフアップにしている。

 服装は、ドレスではなくパンツスタイルの、男装の麗人を思わせる儀礼服。

 鮮烈な赤の生地に、絢爛さを示すかのような黄金のボタン、そしてお約束のようにとりつけられたドングリの形をしたブローチ。

 む、よく見ればこれ、茶色いの瑪瑙かなにかで出来ているな。


「豚ちゃん、瑪瑙ってこの辺りで採れたりするのか? 綺麗な石がとれる川とかあるなら今度行ってみたいんだけど」

「私の感想はなしですか!? ……まぁ、一応瑪瑙はこの大陸の特産ですけど……」

「ああ美人美人、かっこいいぞオインク。宝塚っぽい」

「投げやりなのに割りと的確な感想で怒るに怒れません……」


 目の前の二人+横にいるレイス。

 俺もうたぶんこの先どんな美女を見てもドキっとしない自信あるぜ、本気で。

 たぶん、俺以外がこの部屋に入ったら、息が詰まるんじゃないだろうか?

 存在感というか、風格というか、そういう目に見えない第六感的な要素だろうとも、充満していると人は萎縮するもんだ。

 まぁ自分の心持ち次第なのだろうが、それでも、自惚れではないが『この俺』が今この瞬間、萎縮しているくらいなのだから。


「流れとしては、給仕の人間と当選した方々がまず先にホールに案内されます。その後、優勝者以外の出場者と、その友人の名前が読み上げられるんです」

「今更だけど、要人と一般の人間が一緒ってどうなんだ?」

「一応『これがこの大陸のあり方だ、どんな人間もこの場に至る可能性のある自由な国なのだ』と知らしめる意味合いもありますからね。毎年恒例ですので問題ありませんよ」


 なるほど、郷に入らば郷に従えってやつか。


「その後、この大陸の議員の人間が呼ばれ、次に他大陸の人間が呼ばれます。本来ならば私もこの大陸の議員の最後に呼ばれるのですが、本日のメインであるリュエの付き添いですからね、最後になります」

「じゃあ俺とレイスもそのタイミングってわけか」

「そうですね。ちなみに、議員の中には現役の白銀持ちや、付き添い兼護衛として白銀持ちを同伴している人間も多いので、くれぐれもトラブルを――」

「売られないかぎりはな。さっきちょいと嫌な顔を見て気が立ってる。しっかりと風よけになってくれ」


 もうね、着飾った二人を間近で見られたので、後はもう適当に料理に舌鼓をうってそれで帰れたらいいかな、なんて思っているわけで。

 だがしかし、さすがに表立って騒ぐつもりはございません。さすがにその辺りは弁えていますとも。

 なので、どうかご安心くださいお豚様。


「ダメだよカイくん? 今日はたぶん、私に声をかけてくる人も多いんだから」

「ダメです、お父さん許しません! うちの可愛いリュエちゃんをそんな飢えた狼の群に放り込むなんて!」


 と、戯けてみせると、それを真に受けたのか、はたまたちゃん付けで呼ばれたのがくすぐったいのか、無言のポカポカ殴りが俺を襲う。

 痛い痛い、今日はいつもよりさらに防御力が低いのでやめてください。

 あのグリーブとガントレットがないとね、本当これただの布の服と同じくらいしか防御力ないの。


「と、とにかく、今日は我慢すること!」

「ふふ、リュエの言うとおりですよ? カイさんは今日は私のエスコートに徹してくださいね?」

「……どうしてレイスはあんなにサイコロの出目がよかったのでしょう……私はダントツのビリでしたのに」

「ふふ、オインクさんはすごろくを運否天賦だと思いすぎですよ? 振り方を指定しなかったせいです」


 え、まじで? レイスってばサイコロの出目の操作とか出来ちゃうの? ギャンブラーレイスなの? 逆境無頼なの?

 これはイカン、すぐに予防しておかないと。


「ちょ、そんな急に……どうして顎をなでるんです……?」

「尖ったら嫌だなーと」

「ぼんぼん、バカな事をしていないで大人しく座っていてください……」


 とか言いながら小声でざわざわ言う豚ちゃんでした。

(´・ω・`)昔、レシピを自分のノートに書き写していた同期の子が


(´・同・`)くそっ、この欠陥言語が! なんでこんなに書かなきゃいけねぇんだ!


(´・ω・`)って言っていたけど、元気かなぁ(彼は留学した

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