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百三十四話

(´・ω・`)活動報告やツイッターにて表紙イラストを公開中です

 床に座り、俺は地面に自分の装備品やアクセサリー、リュエのカバンから以前出したものなどを片っ端から広げてチェックをしていた。

【カースギフト】で能力を付与出来るものがないか、それを調べるために。

 なお、今回は自分の能力を下げる、つまり【反転】させて付与するため、そこまで貴重な品でなくても強力なアビリティを付与することが可能だ。

 まぁそれでも、一般的な装備品、俺が普段使っているレザーグリーブやコートには付与出来なかったわけだが。


「なにかないか……能力もなにもなくて、そこそこ貴重なもの」


 幾つか付与可能なものを見つけるも、やはり強力なアビリティを付与するには力不足らしく、こうして探しているわけだが、ある程度法則のようなものがわかってきた。

 材質が上等なものならば必ずしも良いとは限らず、造りが丁寧だったり、それなりの歴史があったりしたものの方が高位のアビリティを付与出来る。

 つまり、先天的なもの、材質ではなく、後天的なもの、来歴や作り手の技量が重視されている、と。

 そうして床に並べたものを一つ一つ吟味してはアイテムボックスに戻し、残りの品が少なくなってきたところで、俺は懐かしいものを見つけた。


「あ、これって昔リュエにバレッタを買った時の……」


 以前、彼女に買い与えたバレッタ。元々髪飾りが好きな彼女は、ちょくちょく髪飾りをつけていた。

 今回だって編み込みハーフアップという手間のかかる髪型にしているが、しっかりバレッタ以外にも髪飾りを使っている。

 そしてこれは、俺がプレゼントした事で一つ余ってしまった彼女の髪飾りだ。


「雪の結晶の形か……つくづく氷というか、青色系統が好きなんだなぁ」


 試しに、これになにか能力をつけられないか発動してみる。

 すると、脳内に反転付与可能な能力一覧がリストアップされ――


「おお!? 凄いなリュエの髪飾り、略してリュエ飾り!」


[与ダメージ+25%]


 リストの中にこの文字を見つけ、急ぎ反転して付与してみる。

 相変わらず少しだけ気分が落ち込むような、なにかを失うような感覚に苛まれながらもそれが完了する。

 そしてそれをブローチのように服に取り付け、試しに人形に向けて先ほどと同じ[正拳突き]を放ってみると……。


「お、明らかにダメージが減ってる」


 頭部を凹ませながら吹き飛ぶが、先ほどのように頭部がはじけ飛んだりもせず、また吹き飛んだ距離もだいぶ狭まっている。

 よしよし、これでかなりダメージは抑えられそうだ。

 さらに剣に攻撃力を下げるアビリティをつけるという手も考えたのだが、それだと常にこの剣を背負っていないといけない。

 もし仮に手合わせをするとしたら、俺は奪命剣そのものを封じるつもりだ。

 だから他にもなにか威力を抑える方法が必要なのだが……。


「自分自身にも【カースギフト】って使えるのかね」


 自分に贈り物ってのもおかしな話だが、ものは試しと発動してみる。

 すると、やはりリュエ同様、付与出来るアビリティに制限がなく、なんでも付与可能だということが判明した。

 ……もっと早く確かめるべきだった。

 これは実質、つけられるアビリティが一つ増えると同義だ。

 しかも剣を装備していなくても常時恩恵を得られるとなると……俺はどうやらこの職業固有スキルを甘く見ていたようだ。


「けど、リュエに[生命力極限強化]を付与した時はだいぶ苦しそうだったしな」


 いざ自分に付与しようとして、踏みとどまる。

 以前彼女にアビリティを付与したら、とても苦しそうにしていたことを思い出した。

 だがそれでも、常時[生命力極限強化]の恩恵を得られるのなら、試す価値はあるだろう。

 覚悟を決め、俺は自分自身の身体に付与を試みる。

 その瞬間、まるで寝起きの身体に強引に熱湯でも注ぎ込んだような、猛烈な熱さと力が暴走するような感覚に支配され、デタラメに両腕を振り回してしまう。


「ガアッ! クソッ、なんだ、なんだ!?」


 関節が限界を超えて伸びるような、筋肉が過剰に膨らむような、指先に血液が集まっていくような、そんな猛烈な力の脈動に身体が翻弄される。

 これが、リュエが受けた感覚なのか!? これを、あの程度の反応に抑えていたのか!?

 体内からなにかが、皮膚を突き破って暴れだしてしまうような衝動。

 力んだ指先が、別な生き物のように狂い動く。

 自身の奥歯を噛み砕いてしまうような、猛烈な歯ぎしりを上げながら、ひたすらその衝動を耐える。


「なんつー精神力だよ! くそ!」


 それでも、必死に腕を振り回し、その感覚を支配しようと試みる。

 腕が近くにあったダミー人形にぶつかり、一瞬でバラバラに吹き飛ばしてしまう。

 踏みしめた両足が、地面に大きなヒビを入れてしまう。

 叫んだ声が、自分の鼓膜を破ってしまうような錯覚に囚われる。

 それでも、だがそれでも耐え、全身全霊で自分の身体を抱きしめるようにしてその猛烈な脈動、力の奔流が収まるのをじっと待つ。

 やがて、少しずつだが息を整える事が出来るようになり、ゆっくり、本当にゆっくりとだが全身の力が抜けてきたのが分かってきた。


「……はぁ! ふぅ! ……はぁ」


 そうか、いつもは剣という媒体を介してその効果を得ていたからこそ、なんのリスクもなくこの力を得られていたのか。

 そして、これが本来の力の代償、龍神が宿す絶大な力を、人の身で受けた場合の反応なのだと理解した。

 ……それに適合出来たこの身体も身体だが。


「で、実際に効果が反映されているのかね」


 ステータスを確認すると、確かに最大HPが倍加しており、しっかりとその効果を反映されていた。

 これで、夜眠る時や剣を装備出来ない状況でも、万が一に備える事が出来る、と。

 少々用心が過ぎるかもしれないがね。


「まぁ、あくまでこれは実験、本命は弱体化が可能なのかの実験なんですけどね」


 これで、自分自身にアビリティを付与出来る事が証明されたわけだが、さて問題はなにをつけるかだ。

 能力を下げるとしたら[修行]を付与してレベルを半減させるのが一番なのだろうが[与ダメージ+30%]を反転させた方が与えるダメージを下げられる。

 ということで早速自分にそれを付与してみることに。

 試しに先ほどの暴走で破壊してしまった人形が復活していたので、再び[正拳突き]を放ってみると――


「おお? これなら一般的な破壊力なんじゃないか!?」


 結果、俺の一撃で人形はニ◯メートル程離れた壁まで吹き飛んだわけだが、それでも殴った箇所が凹むだけに留まっている。

 これなら十分に人と戦えると確信を持てた俺は、散らかした道具類と利用可能な装飾品をまとめて、仕上げに入るのだった。




 少しして、俺の最終的な手加減装備一式が完成した。


【装備】

【武器】なし

【頭】なし

【体】旅人のコート(黒)

【腕】レザーガントレット(黒)

【足】レザーグリープ(黒)

【装飾品】雪結晶の髪飾り[与ダメージ+25%](反転)

      神木根のブレスレット[攻撃力+5%](反転)

      ひび割れたブライトオーブの首飾り[与ダメージ+5%](反転)


 こんな具合である。

 リュエの倉庫から以前取り出したアクセサリーの一部にも反転付与が出来たので、それらも装備している状態だ。

 見るからに凄そうな名前だったり、美しい外見の装飾品よりも、リュエの髪飾りの方が強力なものを付与出来たのはやや納得いかないのだが。

 ここに更に自分自身に[与ダメージ+30%]を反転させて付与することにより、俺の攻撃力は並の人間よりやや強い程度まで下げることが出来たのだった。

 ……まぁ武器なしで殴った場合の話なんですけどね。

 俺は試しに、闇魔法で以前作った巨大な刺身包丁、というかむしろ刀に近い形状の武器を作り出す。

 全体のディティールはやや荒く、細部まで作りこむことはできないが、立派な刀のようななにかが完成し、それを数度振ってみる。

 ヒュンヒュンと空気を切り裂く高音を響かせる姿に、満足気に俺は頷いた。

 やっぱり、こういう刀……のような武器はロマンというか、振ってて楽しい。


「じゃあ、試し切りといきますか」


 鞘なんてものはないが、抜刀術のようなポーズを取り、目標に向けて素早く振りぬく。

 すると、やや強い手応えを右手に感じるも、無事に振りぬく事に成功した。

 目標だった人形を見れば、やや後方に吹き飛んでしまっているが、見事に上半身と下半身に切断されている。

 うむ、これなら十分に実用に耐えられるだろう。


「これで訓練の下地は出来上がった、と」


 これなら対人訓練も行えるだろうし、リュエやレイスと組手をしても、逆にこちらがピンチになることだろう。

 やっぱりね、ピンチや苦戦を経験しないといけないんですよ人間。

 一先ず今日の目的は果たせたからと、訓練所を後にしようとし、振り返る。

 先ほど俺が暴れまわった痕跡はすでに消え、黒いターゲットも元の状態、なんともよく出来た場所だ。

 確かにここならば、より効果的な訓練が出来ることだろう。

 扉に触れると、部屋全体をコーティングしていた光が収束していき、扉に浮かび上がっていた紋章へと集まり消えていった。

 随分大掛かりな仕掛けだが、リュエ辺りが見たら興奮しそうだな。

 今度是非二人を連れて来てみたいところだ。


「ふぅ……訓練室内より外の方が気持ち涼しいみたいだ」


 通路へ出ると、火照った身体を程よく冷えた空気が冷やしてくれる。

 ああ、やっぱり身体を動かした後の冷気ってのはたまりませんな、ここにスポーツドリンクでもあれば文句なしだ。

 飲み物が美味しい瞬間個人的ランキングベストスリーに入っているだけはありますな。

 ちなみに三位です。二位は労働の後のビールで、一位が……昨日みたいな酒の席です。

 やっぱり、大切な人間と飲む酒ってのは格別なんですよ。

 友人しかり、家族しかり、恋人しかり。

 さて、では第三位さんを味わいに行こうではありませんか。

 俺は早速、施設内のフードコートへと向かうのだった。


「へぇ、結構広いな」


 フードコートは、この街のギルド二階のフードコートと比べても遜色のないくらい広く、だが席数は逆に少なく、一人一人がのびのびと過ごせるように配慮されていた。

 まるでそう、会員制のスポーツクラブだ。リクライニングシートや、時間を潰すための書籍、さらには小型のダンベルやエアバイクのようなものまで用意されている。

 これもう一日中ここにいても問題ないんじゃないんですかね。

 だが、そんな超快適空間にも拘らず、現在利用している人間は一人だけのようだ。

 広い席にぽつんと一人座り、一心不乱に手を動かして食事を摂っている。

 ふむ、あの後ろ姿には見覚えがあるな。

 俺もドリンクを注文しに向かいながら、チラリとその人物を振り返る。

 そこにはムシャムシャと炒飯を口に運びながら、幸せそうな表情を浮かべている少女。


「……この子もBランク以上だったのか」


 そう、以前少しだけ会話をしたことがある、頭上に耳を生やしながらも、エルフ耳も存在するという四つ耳の少女だ。

 たしか、彼女は以前訓練所で凄まじい一撃を繰り出していたが、訓練前に感じたあの衝撃は彼女の訓練の余波だったのか。

 そのまま店に向かい、店員にスポーツドリンクを注文する。

 商品名がそのまま『スポーツドリンク』なあたり、これを考案したのもオインクなのだろう。


「おかわりの際は容器をそのまま持ってきてくださいね」


 程なくして、店員がスポーツボトルに入ったそれを手渡してきた。

 内容量は一リットルくらいだろうか? ううむ、いよいよもってスポーツジムじみてきたな。

 席に戻ろうとすると、先ほどの少女、四つ耳少女が声をかけてきた。


「あれ、前にも会ったことあるよねお兄さん」

「ん? やぁ」

「お兄さん前外の訓練場にいたよね? お兄さんも昇格したの?」

「いや、元々使えたらしいけど、最近まで知らなかっただけだよ」

「ふーん。私はようやくこの国のギルドに認められて使わせてもらえるようになったんだ」


 ああ、そういえば彼女はサーディス大陸から来たと言っていたな。

 オインクは以前『自分の管轄はセミフィナルまで』と言っていたのだし、恐らくサーディスには冒険者ギルドではなく、また違った組織があるのだろう。

 で、彼女の本国での功績がこちらにも認められて、この施設を利用する権利を得られた、と。


「この国は凄いね、なんでも進んでる。魔導具の技術だけじゃなくて、なんて言うんだろう? 人の管理とか、仕事とか、役割が整ってるというか」

「ああ、文化的に先進してるってことかい?」

「そういうことなのかな? ちょっと堅苦しいけど、嫌いじゃないよ」

「サーディスはどんなところなんだい?」


 ふむ、俺としては前のいた世界ほど堅苦しくなく、程よく柔軟なこのあり方を気に入っているのだが、彼女には少し堅苦しいと感じるらしい。

 となると、サーディスはこことはまた違った文化なのだろう。

 これから先行くことになるのだし、少し予習もかねてサーディスについて尋ねてみる。


「そうだね~……ここよりもたくさんの人種がいるから、結構文化が入り乱れてて、でもってあまり魔導具ばかり使ってると術の扱いが下手になるからーって最低限に留めてる感じかな」

「へぇ、自然豊かな感じか」

「まぁ街や種族によりけりだけどね。エルフの人口が多い街ほどその傾向が強い感じかな? 」


 ふむ、俺が想像する、自然に寄り添った生活、エルフらしさと言えばいいのか、イメージ通りの都市のようだ。

 まぁ、すでにそこへの憧れも、その生態への興味も、文化への興味も失われているんですけどね。

 精々平和ボケしてろ、そのファンタジーな城のてっぺんでふんぞり返ってろ。


「お兄さん、どうしたのそんな顔して。なにか嫌な事でも思い出した?」

「いや、なんでもない。すまなかったね」

「別にいいけど。ふぅ、ごちそうさま。この国の食材ってサーディスでも多く出回ってるから、本場で食べると一味違って美味しいんだよね」

「へぇ、米がそんなに根付いているのか」

「うん。サーディスを支配してる都市のトップに、お米が好きな人がいるらしくて、その影響なんだってさ」


 ダリアとシュンですね、わかります。

 俺達三人ともお米の国の人間ですからね、やっぱりどうしても恋しくなってしまうんです。

 しかしこの子はそんなに炒飯が好きなのか……気が合うな。

 俺も大好きだったりします。初めて作った料理でもあるし。


「よーし、じゃあ私はこの後少しウォーミングアップしたらまた訓練に戻るけど、よかったら組手でもしてみる?」

「んー、今日は遠慮しておくよ。この後用事もあるしね」

「そっか、残念。お兄さんカッコいいからもう少し相手して欲しかったけど仕方ないか」

「よせやい」


 やだ、トーンも変えずにニコニコとそんなこと言わんでください。

 ぱっと見まだ子供のように見えるのに、立派に女性してるじゃないですか。

 とりあえず次回彼女を見かけたら、少し手合わせを申し込んでみるとしよう。

 そのまま彼女と別れ、ドリンクで喉を潤しながら施設を後にすることにした。

 なお、この容器は次回返却してくれたらそれでいいとのこと。

 使い捨てじゃなくて、ちゃんとした作りで結構カッコいいデザインなんですよ、これ。

 青いボトルに白文字で『ACORNRIUS』と描かれているのがちょいとアレですがね。

 エイコーンリアスて……ドングリでも入ってるのかこれも。

(´・ω・`)自称 なろうで一番見かけ詐欺な主人公

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