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百三十三話

(´・ω・`)おたませ

 翌朝、俺がベッドから出ると、すでに二人がお互いの服の調整に入っていた。

 時間を確認すると既に正午を回っており、どうやら俺は爆睡していたようだ。

 昨日は久しぶりに楽しく酒を飲んだからか、気持よく寝入ってしまったのだろう。

 二人が夢中になっている隙に身支度を済ませリビングに向かい、恐らくレイスが作ったと思われるサンドイッチを頬張る。

 む、挟んであるのは豚肉だな、ハニーマスタード味だ。うまうま。


「あれ、カイさんいつ起きたんですか?」

「ん、さっき起きたところだ。これ、頂いてるよ」

「あ、それ実は――」

「うまいな、肉が冷めてるのにぱさついていないし、味付けも文句なしだ。いいな、このやや粗めの粒マスタードがレタスによくからんでる」

「美味しいだろう!? 私もつい三つも食べてしまったんだ」


 本当に、ただのサンドイッチなのにここまでうまいとは。

 やるなぁレイス。


「ふふ、そんなに美味しいですか?」


 横から満足気な声がかかる。

 んむ、美味である、普段あまり口にする機会のないハニーマスタード味だが、こうもすんなり頂けるとは。


「ああ、これなら毎日食べてもいいくらいだ」

「どうやら私の料理の腕も捨てたものではないようですね、ぼんぼん」

「ん……?」


 おかしいな、レイスは寝室側で相変わらずリュエ相手に衣装合わせの真っ最中だ。

 ふと横を見れば、満足気な表情の我らが豚ちゃんの姿が。

 しかもエプロン姿、ブタのヒヅメマークつきの。

 …………。


「やっぱりそこまで美味しくないな!」

「どうしてそういうこと言うの!?」

「くそ……悔しいがうまい、さすが同胞の肉質には詳しいようだなオインク」

「嫌な言い方しないでくださいよ、もう」


 して、なぜこの部屋にいる。

 俺が寝ている横で、必死に前足を駆使して料理をしていたのかこの豚ちゃんは。

『あっあっ、この蹄じゃ包丁持てないわ』とかなんとか。


「凄く不名誉な妄想をしているようですが、今日は晩餐会のための衣装を数着、アクセサリーや小物を含めて持ってきたんですよ」

「ん、そうなのか。ああ、リュエは優勝者だし、専属のスタイリストでもつくのか?」

「例年ならばそうですが、今はレイスがいますし、必要ないと判断しました。ですので、衣装関連だけを」


 なるほど、たしかにレイス以上に女を綺麗に魅せる技に長けた人間はいないだろう。

 文字通り年季が違う、年季が。

 今もリュエの綺麗な細長い耳に、イヤーカフスをあてたり、すっぽり覆い隠すタイプの飾りをつけたりと試している。

 そしてリュエもまた、色とりどりのカチューシャやベレッタといった髪飾りを試している。

 ただ、なぜカチューシャの中にまたあのカブトムシの角が混ざっているのか。


「なるほど、ありがとうなオインク。で、俺の分は?」

「ありません」

「アクセサリーとか、なにも?」

「まったくありません」

「実はとっておきのなにかがあったりするんだろ?」

「そんなものどこにもありません」


 無言のほっぺむにむに。このままそぎ落としてやろうか。

 おら、なにか出せ、出してみろ。


「やめれくらふぁい。私はあくまで女性部門にしか携わっていませんので……ぼんぼんは昨日のモノクルにいつもの魔王ルックを装備して、脚と手の防具と角、仮面、瞳、翼を解除すればそれでいいんじゃないですか?」

「やだ、この豚エスパータイプなんだけど。リュエ、その角かしてくれ、効果抜群のはずだから」


 しかしオインクもそう言うのなら、やっぱりあの恰好が安定なのか。

 まいったな、じゃあ俺もう今日は夜までやることないじゃないか。

 今日は恐らく、リュエもレイスもあまり外に出かけられないだろうし、かと言って一人で街を散策するのも味気ない。

 ふむ、たまには俺も自主練、素振りでもしてくるかね。

 先日の弓術を見てから、ただ力任せに戦うだけの自分が妙に恥ずかしいような、自分が納得出来ないような、そんな言いようのない焦燥に駆られる。

 急に成長なんてしないだろうが、幸いにしてこの身体は熟練の動きを再現出来るだけのスペックを有している。

 ならば必要なのはなにか?


「手本となる存在と、俺の気持ち次第かね……」

「どうしたんですか? その角を頭につけるか悩んでいるんですか」

「ちょっと考えことしてるから大人しくして?」

「ちょ、痛いです、突かないで、やめてください、あっあっ」


 角をグリグリと押し込みながらも、やはり考えるのは戦い方。

 そもそも、思えば俺がまともに剣を交えた相手なんて……レン君くらいしかいないな。それもワンパターンな捌きを繰り返すだけという。

 ううむ、参ったな、なまじ身体のスペックが高すぎるせいで、ちょっと打ち合うだけで簡単に相手の剣を弾き飛ばしてしまうんだよな。

 ……まてよ? 最近あまり使っていないが【カースギフト】があったよな? あれでなにか出来ないだろうか?


「ちょっと夕方までギルドの訓練所に行ってくるよ」

「急ですね? くれぐれも破壊活動だけはしないでくださいね」

「OKOK、かたっぱしから耕してドングリでも撒いておくわ」

「許可します」

「するなよ」

「私とリュエは今日は準備で忙しいので……申し訳ありません」

「カイくん、四時には戻ってきてね? 私は今回早めに行かなきゃいけないみたいなんだ」

「了解、んじゃあちょいと行ってきます」




 ギルドのロビーに向かうと、やはり先日のミスコンがこのあたりの区画で行われるイベントのトリのようなものだったため、幾分人が少なくなっていた。

 とはいえ、今度は逆に冒険者、すなわち七星杯に向けた人間の姿が目立ち始めているわけなのだが。

 俺は訓練所に向かう前に、ギルドの受付へと向かう。


「すみません、隔離訓練所の使用申請を出したいのですが」


『隔離訓練所』とは、大きな街のギルドに用意されている特別な訓練所だそうだ。

 利用には一定以上のランク、この場合はBランク以上にしか許可されていないのだが、俺は現在オインク直属のSランク冒険者『カイ』ということになっている。

 ちなみにリュエも同様、直属の冒険者の『リュエ』だ。彼女はまぁ俺とは違い、あまり名前が広まっていないので問題ないそうだ。

 まぁ、この街に来てからその名前が大きく広がりつつあるわけだが。

 ちなみに勿論、レイスも使用可能なのだが、彼女はあえて人目に触れる場所で訓練を行っているそうだ。

 曰く『格闘家だと印象づけておけば優位に立てるかもしれない』とか。実に抜かりない。


「カイ様ですね。確認完了しました。凄いですね、オインク様直々に白銀認定されたなんて」

「運が良かっただけですよ。では、これで失礼します」


 受付の娘さんが、やや羨望の眼差しを送ってくれるのですが、やはりそれはオインクのネームバリューだろう。

 彼女は文字通り雲の上の人、前の世界で言うならば、歴史上の超ビッグネームが今もなお生きているような、そんな感覚なのだろう。

 自称していたようだが、ジャンヌ・ダルクというのもあながち言い過ぎではないようだ。

 さて、それじゃあ早速向かいますか。


 その訓練場は、先日の特設ステージを解体している現場を横切り、さらに奥へ向かったところにある検問所を抜けた先にある。

 ここで先ほどの申請したデータとこちらが提示するカードを照合し、ようやくそこへの道が開かれるというわけだ。

 随分と厳重だが、さてはて、一体どれほどの施設なのだろうか。

 道の先の階段を登って行くと、その細い道の先にドーム状の建物が見えてきた。

 このギルドは元々ホテルを改装して作ったらしいが、あの施設はなんなのだろうか?


「ドーム状で隔離……球場じゃあないよなぁ」


 なにはともあれ、俺はその施設へと足を運ぶ。

 入り口にはガラス製の両開きのドアが設けられているのだが、中の様子は磨りガラスになっているせいでよく見えない。

 そしていざその扉を開くと、その瞬間屋内から涼しい風が溢れ出してきた。

 なんと、ここはまさか冷房完備だとでもいうのか……!?


「まるで屋内練習場みたいだな……まさか本当にドーム球場をイメージしているのか?」


 建物内にはもう一枚扉があり、厳重に内部の空気を閉じ込めているように見える。

 さらにもう一つ検問所があり、そこで再びカードを提示する。


「おや、新顔さんだね」

「……あれ、貴方は」


 検問所の職員は、老齢の男性だった。

 だがその、どことなく風格を感じさせる面差しには見覚えがある。

 そうだ、忘れもしない、あのレイスに嘘を暴かれてミスコンを途中退場させられたお爺さんだ。


「ふむ、どうかしたのかね?」

「いえね、先日ミスコンを見物していたので」


 そう言うと、やはりその本人だったらしく、ギクっと肩を震わせ、バツが悪そうに顔をそむけてしまった。


「いやぁははは……出来心じゃよ。して、君はここを利用するんでよかったのかね?」

「ええ、お願いします」


 そういうとお爺さんは手元の端末を操作し、最後の扉を開いてくれた。


「ほい、それじゃあこの施設の利用は初めてなようじゃし儂から簡単な説明でもしておこうかの」


 そう言うと、お爺さんはパンフレットを取り出し説明を始めた。

 その内容を要約するとこうだ。


 一。まず、この施設はBランク以上の人間がより高みを目指すため、より良い環境で訓練をするために作られた場所だと自覚を持つこと。

 ニ。訓練所内の施設は無料で自由に使えるが、節度を守って利用すること。また係員の指示に従わない場合は利用の停止だけでなく降格もありえる。

 三。模擬戦用の武器を用いない対人訓練を行う際は、専用の魔導フィールド内で行う事。これは絶対厳守であり、違反した者は重罪人として罰せられる。

 四。他人に無理やり勝負を挑むことは禁止する。また私闘と見なされた場合は両成敗とする。

 五。模擬戦を挑む場合は、自分より一つ上のランクまでとする。ただし相手が承諾した場合はその限りではない。

 六。トレーニングルームの機材は大切に扱う。破損させた場合は速やかに申し出る事。無理のない返済プランを立てますので、ご安心ください。

 七。実践訓練用魔導クリーチャーを使った施設は入場制限があります。一日一度きり、先着一五名までとする。

 八。フードコート以外での飲食は、飲み物のみ許可する。また、店員に無理なおかわりやメニューを要求しない。

 九。更衣室は男女別となっているので、くれぐれも侵入、覗き行為はしない事。破った場合はオインク総帥が弓を構えて追いかけます。

 十。みんなで喧嘩しないで仲良く使いましょう。


 正直一々言われずとも一般常識として守るべきことばかりが書かれているように思えるのだが、お爺さん曰く『上位の人間にはどうしても性格に難のある人間が多く、これも仕方ないのじゃ』とかなんとか。

 ふぅむ、つまりレン君のような人間や、なんと言ったか、あの赤毛の白銀持ち……ええと、名前を忘れてしまった彼みたいな人間も多いと。

 まったく、力を持て余したバカはロクなことをしませんね!


「どうしたんじゃ、急に体を逸らして」

「いやなんかブーメランが飛んできた気がして」


 さて、じゃあまずは個人訓練のためのスペースに向かうとしますかね。


 早速施設内へ入ると、防音がなされているのか、それとも使っている人間がいないのか物静かだった。

 例えるなら、無人のコンサートホールに通されたような、そんな圧倒的な静寂という矛盾した感覚。

 そのまま個人訓練、秘匿性の高い術や技を訓練するための区切られたスペースのある場所まで向かうと、ようやくかすかに物音が聞こえてきた。

 かすかに空気が振動するような、そして同時に床に響いてくるような、そんな小さな物音。

 ふむ、もし厳重な防音、衝撃抑制の効果のある施設なのだとしたら、それでも外に伝える程の破壊力を秘めた相手がこのどこかにいるということか。

 なんともワクワクさせてくれる。

 そのまま俺も空いている場所へと入り、扉を閉める。

 すると、閉じたドアがなにやら魔法陣のような文様に覆われ、室内いっぱいにその光が伸び、まるでコーティングするように覆い隠していく。

 これが防音と衝撃を抑える役割をしているのだろうか?


「で、専用のターゲットも用意されていると」


 部屋の中央には、黒い材質不明の成人男性型のマネキンのようなものが設置されていた。

 とりあえず近寄り、どれくらいの衝撃に耐えられるのか、少しだけ力を入れて殴ってみる。

 すると、本当の人間のような、表面の柔らかさと内面の硬さ、そして重さをこちらに伝えてきて、そのリアルさに思わず手を引っ込めてしまう。

 ……悪趣味といえば悪趣味だが、この方がやるがいもあるのかね。


「んじゃちょいと本気で殴らせてもらいますか」


 試しに魔王ルックは封印しているも、ガントレットでもありナックルでもある【渇望と絶望の両腕】を装備し、拳術を発動させる。

 使う技は基本にして主力、みんな大好き感謝して放つと言われている[正拳突き]。

 攻撃がヒットした瞬間、とても気持ちの悪い感触と共に人形の頭がひしゃげ、黒い飛沫を飛ばしながら吹っ飛んでいってしまった。

 ……やべえ、これ弁償か? と、思った矢先の事だった。


「うお、気持ち悪!」


 吹っ飛んでいった人形と頭、破片たちが、まるで意思を持っているかのように地面を滑り一箇所に集まっていく。

 そしてみるみるうちにダメージを修復していき、一寸違わぬ姿で再び俺の前に立ったのであった。


「……なるほど、こういう仕組みなのか」


 さてさて、このまま殴り続けてストレス発散も楽しそうだが、今日の目的を果たさないとな。

(´・ω・`)最近体調が悪くてなかなか執筆が出来ないまん

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