百三十一話
(´・ω・`)この章ももうすぐ終わりね
(´・ω・`)収穫祭前編終わり!
授与式が終わり、出場者達はギルド本部へと戻り、観客もその後を追うようにギルドへと向かう。
恐らく当選番号を早く確認しに行きたいのだろう。
だが、そんな最中でも会場に残る人間が少数。貴賓席の人間や、その関係者だ。
こうなってしまうと色々と面倒な事になってしまうかもだが、後々闇討ちなんてされるくらいなら、ここで終わらせるのもありだろうか。
貴賓席からサーディスのエルフが二人、こちらへと歩み寄ってくる。
俺の隣にはレイスのみ、オインクは選手達と先にギルドへと戻ってしまった。
「先ほどの審査で、私の娘が世話になったようだな」
「お世話をしたつもりはありませんが、お礼なら受け取りましょう」
「……ふん。その胆力に免じて此度の件は不問にしても良い。貴様、名は?」
「名乗るほどのものではありませんので」
リュエの勝利の余韻のお陰で、今ならいつもの五割増しで寛容です。
だからあまり俺に話しかけないで下さい。
俺の返答に、先ほどの女の親ではなく、恐らく部下と思われるもう一人のエルフが顔を怒りに染めつつある。
「無礼だぞヒューマン。この方は――」
「よい。……ふむ、なるほど、ただの使用人ではないようだな」
「残念ながら、これは商売上の衣装ですので」
「くく、そうかただの衣装か」
愉快そうに口元を歪めるも、その目はまるで猛禽類のように鋭く、こちらを探るような視線を無遠慮にぶつけてくる。
それが少しだけ不快だが、オインクと約束した手前、事を荒立てるわけにはいかない。
なので、あくまで慇懃無礼に流すことだけに尽力する。
「では、私はこの後用事がありますので失礼しても?」
「いいだろう。引き止めてすまなかったな」
「よ、よいのですか!? あの男はご息女に――」
「よい、と言った。あれもいい経験を出来たことだろう」
「では、これにて」
踵を返し、その場を足早に去る。
向かう先はギルドの自室――ではなく、屋台大会の結果発表を行うギルド一階のホールだ。
時間的にも、そろそろ全ての屋台が営業を終えてこちらへと向かってくる頃だろう。
リュエも発表に間に合えばいいのだが……。
「カイさん、よく我慢出来ましたね」
「ああ、オインクと約束したからね」
先ほどから無言で付き従っていたレイスがそう呟く。
大丈夫、俺だってこれくらい我慢出来る。ましてや今日はめでたい日、それをぶち壊すような真似はしない。
俺のその答えに、少しだけ彼女が肩を揺らす。
レイスは少しだけ、オインクに対して対抗意識を持っている。
それを刺激するような発言だっただろうかと少しだけ心配する。
だが、肩を揺らしただけだった。その顔には、まるでこちらを慈しむかのような微笑みが浮かんでいる。
……人は、気がつかないうちに成長していく。
リュエしかり、レイスしかり。
どうやら彼女の中で、何かの折り合いがついたのだろう。
まぁ、そもそもオインクはどこまでいっても豚ちゃんなので、君がヤキモチを焼くべき対象ではないんですけどね。
ギルドのホールには、既に屋台大会に出場した人間が集合していた。
先日の抽選会同様、大きな掲示板が設置され、今日はそこに幕がかけられている。
あれか、幕をずらしていくと下から順番に店の名前でも出てくるのか。
ふと、視線を感じ振り向くと、あのパンケーキ屋の女店主がこちらを見つめていた。
そこに込められているのは以前のような敵愾心ではなく、恐らく戸惑い。
自分が今こうしてこの場にいることに戸惑いを感じているのだろう。
告げ口なんてしませんよ、自分で自分を戒めなさい。
「リュエはこちらに間に合わないのでしょうか」
「今日はもう解散だと思うんだけど、どうなんだろう」
出来れば三人で頑張ったのだし、結果も一緒に見たかったのだが。
すると、エレベーターの方からローブ姿の人物が現れた。
なるほど、今やすっかり有名人ですからな。
「ごめん遅れちゃった」
「大丈夫ですよ、今から発表です」
彼女が合流したタイミングで、丁度進行の男性が声を張り上げた。
「さて、では屋台コンテストの結果を発表したいと思います! 事前に告知したように、優勝した店は一年間、ここギルド二階のフードコートでの出店が許可されます! それはすなわち、一年間膨大な利益と、目の回るような忙しさに追われるという事ですね!」
その言葉に一同が笑い声を上げる。
俺は嫌です、ノーセキューです。
しかし、やはり選手達にはそれが魅力的に聞こえたのだろう。次の瞬間には真剣な瞳で掲示板へと視線を向けていた。
優勝の栄光と、確実に人が大勢押しかける場所。それを得ることが出来れば、確かに売上も伸びるだろうし、何よりもその栄冠と名前は一年を過ぎても消えない。
『第◯◯回屋台コンテスト優勝』という肩書は、その後の営業にも大きな利益をもたらすだろう。
自分の店を持つ人間ならば、喉から手が出るほど欲しい称号のはずだ。
「まぁ今年は流れの冒険者に持っていかれるんですけどね」
クククククク……クハハハハハハ……ハーッハッハッハッハッハ!!!
思わず心のなかで三段笑いをしてしまいます。
だが、お祭りに対してそこまで貪欲になっている人間がどれほどいるのだろうか。
その点で言えば、あのパンケーキ屋の姿勢にだけは好感を持てる。
本当、姿勢だけな。客の事を二の次にした段階で姿勢もクソもないですけどね。
俺がないがしろにしたのは、他の屋台。お客さんにはしっかりと配慮をしたつもりだ。
あ、そういえば屋台の登録をしたのはレイスだったな。もし呼ばれたら壇上に上がるのはレイスになるのか。
他の出場者の敵意を向けられるかもしれないが……大丈夫、きっと周りは俺が黒幕、裏で糸を引いていたと思ってくれるだろう。
そりゃあ、あれだけ大々的にパンケーキ屋さんに喧嘩売ったし。
恐らくこの街で出店している人間は、競争は勿論だが横の繋がりも大事にしているのだろう。
きっとその情報網で俺が酷い人間だと伝わっているだろうし。
「では、売上ベスト3を発表します! 第三位! チケット枚数一八一二枚!『スイーツフェザー セミフィナル支店』!」
その宣言とともに幕が引き上げられ、店の名前が表示される。
ほほう、店の名前からしてデザート専門店だろうか。
支店と言っているし、この街に店を構えているのだろう、今度行ってみるのもいいかもしれない。
ここに名前が上がるのなら、間違いなく人気店だろうから。
「スイーツフェザーの焼き菓子は、私のお店でも取り扱っていましたよ。とても上品で、軽い口当たりのサブレが人気でしたね」
「へぇ、クッキーとかサブレって好きなんだよね俺」
「むむ、クッキーはわかるけどサブレってなんだい?」
「今度食べに行ってみようか」
余裕こいてそんな話をしていたら隣のおっちゃんに睨まれました。
おうおう、文句があるなら直接言ってきなさい。
「では壇上にどうぞ!」
「はい、では失礼して……」
現れたのは、少し背の低い、一見すると少年に見えるエルフだった。
ぱっとみ子供でも、恐らく俺より年上なのだろう。
彼は壇上に上ると、少しだけ照れ笑いを浮かべながら話しはじめた。
「ええと、喜ばしいのですが、少し悔しくもあります。新メニューの伸びが悪かったのが想定外でしたね……ボリュームのあるメニューなので、お腹に入らないという方が多かったみたいです」
「はい、ありがとうございます! 実は今年はそういった傾向にありまして、ボリュームのあるメニューを出すお店の売り上げが低かったのですよ」
はいみんなこっち見なーい。
俺が入口近くで出店することになったのは偶然でーす、もし別な場所だったらこんなことにならなかったと思いまーす。
だがしかし、檀上の彼すらこちらへと視線を向けていた。
ふん、心地良いくらいです。
「では次の発表です! 第二位! チケット数二三一○枚! 『パンケーキふんわり堂』! 三連覇ならず!」
「店の名前初めて聞いたぞ俺」
「私もです。ドングリパンケーキのお店として覚えていました」
「私は知っていたよ?」
そういえば君買いに行ってたもんね。
呼ばれた女店主がなんともいえない顔つきで壇上へと上っていく。
そしてこちらへと振り返ると、視線が俺と合う。
その瞬間、なにか葛藤しているのか、顔を僅かに俯かせた後に、キッと決意したかのように顔をあげた。
「みなさん、私は今回の受賞は辞退させて頂きます!」
「な、なにをいっているんですか!? 一位をとれなかったとはいえそんな――」
「いいえ、私は今回、登録した材料以外の食材を使い、屋台で販売してしまいました。立派な不正行為です」
「そ、それは本当ですか?」
「はい。後日、正式に謝罪に伺います、申し訳ありませんでした」
清々しいまでの発表に、全員が唖然としてしまう。
恐らく彼女は、この大会の花形、そしておそらく人望もあったのだろう。
そんな彼女のこの発表は、全員を動揺させるのに十分すぎる破壊力があったようだ。
「不正……ですか?」
「ああ。彼女はドングリを使っていなかった。どこまでいってもドングリはドングリ、本来食用として親しまれてきた他の食材には勝てないんだ」
「うん? でも美味しかったしいいんじゃないのかい?」
「まぁ、美味しいならそれでいいとは思うが、それを公表しないことでトラブルを起こしてしまったんだよ、あの店は」
そう、アレルギーという名の大問題を。
あれは下手をすればアナフィラキシーショックで人が死ぬ可能性もある大問題だ。
勝つためにより美味しくする、自分達の売りを裏切ってまでアーモンドを使う。その行為自体を理解出来ないとは言わない。
だが、やっぱりお客さんは『二連覇した、オインク総帥が大好きなドングリパンケーキ』を食べに来ているんだ。
彼女は本来、勝利を目指すのではなく、その名前、その称号、その味をお客さんに提供することを優先しなければならなかった。
そして、俺はなんの制約もなく、流れの人間であるからこそ、貪欲に勝利を狙いにいくことが出来た。
勝負の世界において、挑戦するよりも防衛する方が難しいってよく言うだろう?
持たざるが故の強さってやつだ。
「これは少々予想外ですが……辞退したというのならば、後日四位の方を繰り上げで三位、三位の方は二位とさせて頂きます」
司会の人間が彼女の辞退を認めたことで、周囲のざわめきが大きくなる。
順位が繰り上がった先ほどのエルフの少年もまた、複雑そうな表情を浮かべながら壇上から降りる彼女を見つめていた。
彼女の歩みを遮るものもおらず、自然と人垣が左右に別れ、彼女は隅の方に一人向かう。
……よく言った。この場であそこまで告白する必要はなかったが、彼女のプライドがそれを許さなかったのだろう。
「それでは、最後の発表に移りたいと思います」
さて、いよいよだ。
いよいよ最後、一位の発表だ。
三日間の合計、俺たちは三日目を途中で終わらせたようなものだが、その手応えは十分に優勝を狙えるものだと確信している。
俺達はメニューを常に二つ以上提供していたこともあり、一人の客で得られるチケットの枚数は倍。
もちろん単価の安い商品をまとめて売ることでチケット枚数を稼ぐことも出来るが、一人に与えられるチケットには枚数制限がある。なのでそんなに大量のチケットを客から貰おうとすると客は離れてしまう。
つまり、客が複数のチケットを提供させるためには個数ではなく種類を、チケットを使いたいと思わせる商品を売らなければならない。
それか、再び来たくなるような商品を売るか。
俺は、そのどちらも満たしていたと自負している。
ここまでヒール役に徹したんだ、悪いがこの勝負、俺の勝ちだ。
「この大会……我々の勝利ですね」
「レイスごめん、それ本当やめて。フラグになるから、それ敗北フラグだから」
「私この大会で優勝したら、そのお金でまた三人でご飯食べに行きたいな」
「リュエもやめて、お願いだから」
やめてくれよ!? ここまでしてランク外とか本気でやめてれよ!?
「第一位! 今回は正直、圧倒的大差がついてしまい、こちらも困惑しております。チケット枚数、脅威の四○九二枚!」
枚数が発表され、周囲がざわめきだす。
三位の店の倍以上の枚数だ、たしかにこれは驚異的な数字だろう。
これは、美味しさを競う大会ではなく、屋台で人をいかに集めるかが肝となる大会だ。
それをはき違えていた人間が多かったからこそ、この結果に繋がったのだ。
きっとうちの店よりも美味しい、本職の方々の料理だってたくさんあっただろう。
俺自身、途中で抜け出して食べたいと思える料理をいくつも見つけた。
だが、それらは客足も少なく、売る側の覇気も感じられなかった。
さぁ、俺を憎め、恨め、嫉み妬め、そうすればきっと、来年は今年の数倍盛り上がるだろうさ。
「カイさん、どうしてそんなに悪い顔を……」
「たぶんまた変なこと考えてるんじゃないかな?」
さぁ、もったいぶらずに発表してもらおうか。
その名前を――あれ? 店の名前決めてなかったなそういえば。抽選のときもレイスの名前が呼ばれただけだったし。
まいったな、名前くらい決めておくべきだったか。
「堂々の一位! 『カイくんと愉快な私、綺麗なレイスの素敵なお店』」
「ふぁ!?」
「ええ!?」
「ふふん」
なんだかとんでもなく恥ずかしい名前が発表されたんですが!?
(´・ω・`)なお後編は戦闘描写が多くなる予定