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百二十六話

(´・ω・`)クズの極み

 さて、完全に熱暴走を起こした聖騎士様が戻っていったわけですが。

 しかしあの初心な反応は思いのほか会場の皆さんの心を鷲掴みにしたようです。

 いやぁギャップって本当大切ですよね。

 俺ももし一般の無関係の人間として見ていたら、間違いなくやられていました。

 お約束といえばお約束ですよね、初心な女騎士さん。

 だがそれがいい。


「では、続いての方です! この街の大手服飾店に勤めるレイアさん、どうぞ!」


 あ、もうすっかり終わった気だったよ。

 全員分やるんでしたよね、忘れてました。

 さて、次に現れたのは妙齢のお姉さま。俺より二つ三つ年上であろう、大人の魅力たっぷりのまさに大人の女。

 うむ、素晴らしい。


「ではレイアさんに質問します。――お歳は幾つですか?」


 初手タブー。

 女の年齢を聞くのはタブーですしセクハラですが、あえていかせてもらいます。

 司会のお姉さんもいきなりの事で慌てているが、聞かれた本人は余裕たっぷりの様子だ。


「ふふ、私に興味があるのかしら? そうね、今年で三ニになるわ」

「なるほど。ちなみに私は年上女性が好みですので多少興味本位でもありました」


 正直に答えますとも。

 だが無表情で。


「では次の質問です」

「あの、お願いしますよ……?」


 ようやく復帰を果たした司会のお姉さんに咎められる。

 大丈夫、次はちゃんとやるから。


「ずばり、今回優勝をとれる自信はありますか?」


 さぁ、どう答える。

 この質問はある意味、どう答えてもマイナスの印象を与える可能性があるものだ。

 ましてや今回は王族の血をひいたとか言ってる女と、我らが聖騎士様の登場でかなりの大波乱のようだし。


「そうね、可能性はゼロではないと思っているわ。これからその数字を少しでも増やしていきたいところね」

「なるほど、確実に貴女の数字は増えていることでしょう」


 上手い、実に上手い。

 謙遜しているようで、しっかりと目指していると印象付ける良い答えだ。

 これにはすでに審査員の目で見ているレイスも頷いている。

 かなりのやり手、そうとうな場数を踏んできていると見た。


「では続いての質問です――」


 結局、彼女はミスらしいミスを一つもせず、最後にリュエと同じ質問、どう愛されたいかと聞いても『情熱的に愛してくれるのなら、どんなことでも受け入れる』と述べ、一気に会場の男性陣の喉を鳴らさせた。


 そして次に現れたのは、初日に屋台に来てくれた三人組の一人、レイスが『良い身体』と評したあの女性だ。

 どうやら彼女はこの街の冒険者ギルドに所属しているらしい。


「では最初の質問です。普段、貴女は自分を磨くためにどのような事をしていますか?」

「私は毎日三食しっかり食べて、毎日依頼を受けて体を動かしているわ。自分のペースを崩さない事が秘訣かしら」

「なるほど。ここ数日は屋台コンテストの方にも顔を出していませんでしたか?」

「ふふ、やっぱり貴方だったのね。そうね、ここ数日はちょっぴり気が緩んでいたわ」


 少し意地悪な質問をしてみるも、余裕を持って返される。

 やはり彼女もミスらしいミスもせず、最後に恒例の質問をしてみるも、あっさりと『わからないわ、初恋すらまだだもの』と答えてしまった。

 ううむ、サバサバ系というやつだろうか。この子もかなり評価が高そうだ。


「では、次の方お願いします」


 そして現れる、恐らく今回最年少であろう少女。

 ……さすがにあの質問はなしにしておこう。


「今回の大会に出場したきっかけを教えてもらえますか?」

「お金が欲しいのだ。それで、新しい魔術書を買って勉強して、いつか王伝魔導を伝授してもらう」


 正直な回答すぎて会場が反応に困っています。

 しかし『王伝』か。たまに耳にするのだが、どうやらこれは王族やそれに近い人間が習得している大規模な魔法や剣術のことらしい。

 というか、だ。

 そもそもゲーム時代の技のほとんどが今の時代に残っておらず、幾分劣化したものが冒険者や騎士、戦いに興じる人間の間で伝わっているのみだ。

 そして、それらの技の多くは、実際に身を持って経験し、そして相手に伝授する意思がないと習得することが出来ないのだとか。

 ううむ……職業に就いてレベルがあがるだけじゃダメなのか。

 だがそもそも、レベルなんて元々メニューを開ける人間が自分の数字を確認することでしか知る方法がない。

 それに数字的な強さですべてが決まるなんてこともないわけだし。

 だがそれでも、俺の[詳細鑑定]がいかに便利なのかも理解出来る。

 数字は絶対ではない、だが無関係でもないのだから。

 ……けどあの鑑定可能になるメガネがリュエの倉庫にあった以上、どこかに診断してくれる場所もありそうだとは思うのだが……。


「次の質問はないの?」

「失礼しました。では、貴女の望む理想の女性像を教えてください」

「理想……聖女オインク様が理想なのだ。あの人の広域弓術は魔法、魔導に匹敵するし、かっこいいし美人だし、文句なしなのだ」

「……なるほど、よくわかりました」


 やーーーーっぱり納得いかないんですよね?

 彼女の答えに、観客一同が納得だと言わんばかりに頷いている。

 司会の女性も『やはり誰もがそう答えますよね』なんて言う始末だ。


「では最後の質問です。今回の大会で優勝することが出来ると思いますか?」


 あの質問は無理そうなので、これを最後の質問とする。

 すると彼女は、今度も表情を変えず淡々と答えを述べた。


「間違いなく無理だと思う」

「それはなぜ?」


 そう聞き返すと、彼女はとんでもないことを言い出した。

 いや、俺としては当然というか、さすがによくわかっていらっしゃるといいいますか。


「最初の人が、一番強そうだった。きっと聖女様みたいに強くて優しい人に違いない。だから無理なのだ」

「……なるほど、ありがとうございました」


 彼女もある意味、ミスらしいミスもせず、終始マイペースだった。

 しかし、話を聞いていて思ったのだが、彼女の中では『強さ』=『美しさ』なのだろうか。

 ……一理あるのか?

 ともあれ、俺の役目はこれにて終了。特別席に向かわせていただきますか。

 だが俺が立ち上がると、司会の女性から待ったの声がかかった。

 ……知っていたんですけどね。


「あ、あの! まだです」

「……はて、誰かいましたっけ?」


 眼中にねぇよ。帰れよ。権力でも振りかざして一位でもとりたいのかね?

 いいか、俺は坊主憎けりゃ袈裟まで憎いを地で行く人間なんですよ。

 いいの? 俺に質問させていいの? ん?

 俺はモノクルを外し、上着を脱ぎ捨てシャツのボタンを第二まで外し、席にもたれかかるように腰かける。

 足をテーブルの上で組み、心底嫌そうな表情を浮かべる。


「あ、あの急にどうしたんでしょうか?」

「対応力見るんでしょ? こんな人間だっているだろ」

「あの、最後の方は――」

「執事なんて見飽きているでしょうよ、早く呼んでください」


 完全にガラの悪いホストくずれである。

 だが実際、丁寧な対応なんていつものことだろう。

 さてさて、どう料理してやろうか。


「では最後の方となりました! サーディス王国から――」

「はい最初の質問。どうしてこの大会に出ようとしたんですかね?」


 遮るようにして質問をぶつける。

 出来るだけ不快に聞こえるように、抑揚なくだらけきった表情で。


「え……そうですわね、隣の大陸同士、少しでも互いの文化に触れあうようにと――」

「はいここは国交の場でも社交界でもありませーん。つまらないので次の質問いきまーす」


 我ながら、ぶん殴りたくなるクズっぷりである。

 彼女もさすがに答えを途中で遮られたせいか、ピクリと眉を動かす。


「自分の価値をこの場で語ってみてくださーい。あ、もちろん血筋とか家柄とか自己満足のような答えはなしの方向で」

「…………」


 ほう、なにも答えないか。

 血筋と家柄に恵まれた人間が、唐突にそれらがなくなったら自分に何が残るか。

 それを考えたことが今までなかったのだろう。

 さぁ、答えを導き出せ。内面でも肉体でもいい、その価値をここで言ってみろ。

 審査員席からまるでこちらを刺殺してやると言わんばかりの視線を向けられるが、知らん。


「……この容姿です」

「へー、中身からっぽなの?」

「っ……わかりません」

「まぁ自分の内面の価値なんて自分で語ったところでねぇ? お嬢様には難しいか」


 この質問、即答したリュエを自意識過剰だと指摘する人間だっているかもしれない。

 だが、それは答えた人間の人柄と、その内容で変化する。

 少なくともこの大会でのリュエの様子、あの時の彼女の受け答えからすれば、それがマイナスに働くとは思えない。

 正直、身内贔屓の極地であり、そして一方的な悪感情をぶつける八つ当たり同然の散々な審査だ。

 だがそれでも、止められない。止める気もない。


「んじゃ次。この大会で優勝出来ると思ってる?」

「……出来ないとは言いません」

「出来るかって聞いてんの」

「……出来ると、信じています」

「あっそ」


 さて、そろそろ審査員席から魔法でも飛んできそうだし、観客もこれが一種のパフォーマンスだと思っていても、やはり不安は拭えないようだし、そろそろ最後の締めに入ろうか。

 俺は手早く服装を正し、モノクルをはめて姿勢を戻す。

 その変貌に驚いているようだが、そのまま俺は口調を戻して最後の質問をする。


「さて、このような人間と会話をする機会は少ないかと思い、こうして質問をさせて頂きましたが、どう感じましたか?」


 すると、まさしく鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした女がやや遅れて口を開いた。


「とても、驚きました。審査を少々甘く見ていたようです」


 ようやくホッ息をつき、安心しきった顔でそう答える。

 ……この瞬間に、再び地の底に落とすような暴言を叩きつけられたらどんなに心地良いか。


「そうですか。では最後に、価値観は人それぞれですし、様々な人間がいます。ですので、どうかこれを糧にして頂ければな、と思います」


 無表情で、心の底からの侮蔑と忌々しさを込めた声で最後の言葉を言い終え、今度こそ俺は特別席へと向かうのだった。

(´・ω・`)フェミニスト()

(´・ω・`)煽っていくー

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