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百二十五話

あけましておめでとうございます。

 どこかのお姉さまメイドさんの登場により一波乱起きてしまったわけですが、無事に男性部門の最初の審査が終了した。

 いやはや……先ほどのお爺さんは途中棄権となってしまったそうだが、あれは仕方ないと思います。

 で、ここまでの周囲の反応見た限り、一番最初の海の男が優勢のようだ。

 レイスの質問にも、彼は『あっそうか!』と自分の間違いを認識するに留まり、変な言い訳や反論もしなかったのが好印象に繋がったのだろう。

 確かに対応を見る審査なら、ただの質疑応答のようなものでなく、咄嗟の返しのうまさを見るのが重要だと言える。

 その点でいえば先ほどステージから降ろされてしまったお爺さんが頭一つ抜けていたように思えるが……惜しい人を失ってしまったな。


「では審査にご協力頂いたみなさまは、こちらの席で残りのコンテストをお楽しみ下さい」


 お、レイスの思惑通り、ステージ側の特等席に座れるのか。

 ふむ、予定ではこの後は女性部門なのだし、俺も立候補してみようかな。

 だが、会場の男女比率はやはりというか、大幅に男性側に傾いている。

 そして挙手を求められたら、恐らく相当の数が上がるだろう。

 さながら、海に転落した人間達が必死に助けを求めるように。

 地獄の底の亡者達が、天国へと続くロープに群がるように。

 ……例えておいてなんだが、酷くありませんかね。

 ここは地獄だとでも言いたいのかと。


「ええ……では、続いて女性部門に移りたいと思います。では、先ほどと同じ――」


 司会者の言葉は、言い終える前に猛烈な叫びにかき消された。

 まるで、猛犬が昂ぶるように、男たちが一斉に声を上げながら手を伸ばす。

 なにこれ、こわい。そして――見苦しい!

 血走った目で唾を撒き散らしながら『俺だ! 俺だ俺だ俺だ!』と喚く男に、何故か上半身を脱いでそれを頭上で大きく振り回し『ヒャッハア! ここにいるぜぇ!』と叫ぶ男。

 お前は20XX年に帰れ。

 離れた場所からも『やるっきゃねぇ! やるっきゃねぇ!』と声が轟き、一挙に会場がどこぞの世紀末世界のようになってしまった。

 なにこれ、こんな連中が質問するの? これはもう対応力テストというかなんというか、一種の度胸試しなんじゃないんですかね。

 収集がつかなくなるのでは、と危惧したその時、審査員席からさらに大きな、大地を振るわせるような轟音が鳴り響く。

 いや、今確かに会場全体がかすかに揺れた。


「いい加減にしろ、見苦しい! 大人しく手を上げろ、わかったな」


 議院の一人である、元冒険者の男性がいつのまにか席を立ち、その大きな拳を地面に叩きつけていた。

 ゆっくりと身体を起こすその姿からは、熱気が立ち上り、まるで眠れる龍が目覚めたような、そんな威圧感が伝わってくる。

 これにはさすがに会場も静まり返り、先程まで手を上げていた人間が残らず手を下げ俯いてしまった。

 今がチャーンス。


「ええと……『ゴルド』様の仰るとおり、どうかお静かにお願い致します……あ、そこの執事のお兄さん、どうぞ前へ」


 静まり返った会場でスっと手を上げる勇気。

 なぁに、こんなの英語の授業で『はい、ではこれを読んでくれる人』と挙手を求められた時に比べればなんて事はない。

 折角手を上げて読んだのに、発音で笑ったダリアこと久司、許さねぇからな!


「一応、注意事項としましては、セクハラ紛いの質問や下品な質問は禁止です」

「当然でしょう……先ほどの飢えた狼のような方々には任せられませんね」


 はい煽ってく。

 ステージから見渡すと、未だギラギラとした目つきの男性陣がこちらを睨みつけている。

 だが、やはり自覚があるのか再び手を上げようとする男性が現れない。

 どうしたものかと成り行きを見守っていると、司会者さんもこちらに助けを求めるように視線を向けてくる。

 なぜ見てるんです! 


「……私が複数質問する形式にしましょうか?」

「あ、それでお願いします。では、女性部門第一審査、対応力テストを開始したいと思います!」


 おう、お前らブーイングするんじゃねぇよ。

 自業自得だ自業自得。


「しかし先ほどのメイドさんといい、コンテストに出場していないのが不思議で仕方ありません」

「ふふ、先ほどのメイドは私の身内ですよ」

「なっ……出来ればお手柔らかに頼みます」


 なぜ警戒されるのか。遺憾である。

 ちょっと紳士な執事演技でいかせてもらいましょうか。

 さて、最初に紹介された順番だとしたら、この後現れるのはリュエのはずだが、こっちを見た瞬間あの凛々しい姿を崩さないだろうか?

 ふむ、とりあえずどんな質問にしようか。


「では女性部門トップバッター! リュエさんの登場です!」


 会場から再び爆発のような歓声が上がり、それがすべてステージに向いていることから、先ほどよりも遥かに大きなものに感じられる。

 まるで衝撃波でも受けたような感覚だ。

 そして現れた彼女は、ステージ上の席に着くこちらを確認して大きく表情を崩す。

 だが、開きかけた口を咄嗟に閉じ、再び毅然とした、凛とした雰囲気を身に纏う。

 やるな、リュエ。


「では、リュエさんに少々質問です」

「ええ、どうぞ」


 さぁ、セクハラは禁止だが、どんな質問をしてやろうか。

 ……まずは軽いジャブから。


「好きな異性のタイプはどのような方でしょうか?」

「そうですね……ユーモアがあり、家族を大切にし、そしてなによりも私を守れる人間でしょうか」

「なるほど。貴女は白銀持ちですが、それを守るとなるとハードルが高そうですね」

「そうなりますね」


 見事に返されました。

 だがこれはほんのジャブ、会場の人間が聞きたいであろうことを代弁したに過ぎない。

 司会のお姉さんもほっとした表情を浮かべているが、ここからですよ?

 俺一人に任せたこと、後悔してももう遅いんですよ?

 リュエもリュエで、自分の答えに満足しているのか、俺にだけわかるように『どうだ』と言わんばかりの表情を向けてくる。

 あーもうかわいい。制限がなければどんどんその顔が真っ赤に染まるような質問をしたいところだ。


「では、貴女のアピールポイント、一番自信のあるところはどこですか?」

「それは身体的なものでしょうか? それとも内面的なものでしょうか?」

「そうですね、ではその両方をお願い致します」


 これもまぁ、まだ許される質問だろう。

 司会のお姉さんも満足そうに頷いている。


「見ての通り、私の身体は貧相でしょう? ですが、一つ自慢をするとしたら、この髪でしょうか」

「そうですね、とても美しく滑らかです。私がこれまで見たどんな髪よりも素敵だと言えます」

「内面はそうですね……私は誰よりも真っ直ぐでありたいと願っています。この在り方が自慢です」

「なるほど、たしかにそんな印象を受けます。ありがとうございました」


 ここにきて、リュエからも攻めてくる。

 あえて、自分が貶された原因でもある髪を自分の一番の自慢だと言い放ったその顔は、虚勢などではない、本物の自信が現れていた。

 それには同意するしかない。たしかに彼女の髪は、誰よりも美しい。

 ちらりと審査員席を見れば、クロムウェルさんが大きく頷き、そしてサーディスから来たエルフ達は忌々しそうに眉を顰めている。

 お前ら、いい加減にしないと塵も残さんぞ。


「では次の質問です。このコンテストに出た一番の理由はなんでしょう?」

「私は不器用で、戦うことくらいしか出来ません。ですので、それ以外の価値を見出したいと、そして、お恥ずかしい話ですが、このコンテストの賞金を勝ち取り、仲間を驚かせてあげたいと思って出場しました」

「なるほど。きっと貴女の仲間は、貴女がいてくれるただそれだけで満たされていることでしょう。会場の皆さんもそう思いませんか?」


 なんでそんなこと言っちゃうんですか。

 戦力的価値なんて、君そのものの存在価値の一割にも満たないというのに。

 価値うんぬんではなく、存在そのものがなくてはならない人なんですよ君は。

 ……はっ! イカンすっかり忘れていた、これはリュエの外向き用の回答だ!

 さっき自分で『驚かす』『俺より先に宿代を稼ぐ』って言っていたじゃないか。

 ……完全にこっちが飲まれただと?

 見れば会場の人間も皆、彼女の言葉と俺の問いかけに深く頷きながら『そうだ』『その通りだ』なんて言っている。

 よし、ならば最後の質問だ。

 司会のお姉さん、ここまでパーフェクトな流れで嬉しそうなところ申し訳ないが、そろそろいかせてもらうぞ。


「では最後の質問です。貴女は男性に、どんな風に愛されたいですか? 精神的、肉体的、その両方のお答えを聞かせて下さい」

「そ、それはセクハラになるのではありませんか?」


 やはりお姉さんから待ったの声がかかっるが、こちらも言い訳をさせてもらおう。

 会場を味方に付けた、それっぽい説明で強引に押し通す!


「男女の関係には様々なものがありますが、互いに愛し合うという形も完成の一つだと思います。ならばこの場で、それを質問しないのはこの催しに対して失礼にあたるのではないでしょうか?」

「で、ですが女性にそんな、肉体なんて……」

「決して下劣な思いからするものではありません。それだけは信じてもらえませんでしょうか? 会場にいる方達も、同じ思いのはずです」


 たぶんいやらしい想像をする男性陣の方が多いとは思うんですけどね!

 が、ここに来てようやく男性陣は一致団結し、取り繕うかのような真面目くさった表情を張り付けてステージを見つめている。

 そしてなぜか女性陣までもが、心なしかうっとりとした瞳でこちらを見つめていた。


「……わ、わかりました。質問を許可します」

「ありがとうございます。では、リュエさん、お答えして頂けますか?」


 再び彼女へと目を向けると――新年のおめでたい色にそまっていました。

 つまり顔が真っ赤で髪が真っ白。紅白リュエさんの出来上がり。


「ああ愛して!? どんな風って!? そそそ、そうですね! ぎゅってしてくれたらいいとおもいます!」


 …………もうある意味この反応が百点満点でいいと思います。

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