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百二十四話

(´・ω・`)レイス無双

 そろそろ最初のパフォーマンスが始まるからと、彼女はステージ裏へと戻って行った。

 俺の心配や不安も、彼女の覇気の前にすべて吹き飛んでしまい、残ったのはこの後どう勝利をもぎ取るのか、その楽しみだけだった。

 レイスもまた姉の凛々しさの余韻に浸るかのような表情を浮かべ、クロムウェルさんもまた目頭を押さえている。

 ……普段とのギャップって凄いな、完全に二人がノックダウンされてる。


「では俺もそろそろ席に戻りますね」

「その方がよろしいでしょう……ふふ、今日来ているブライトの方々がどんな反応をするか楽しみで仕方ありません」

「結構あくどい顔もするんですね」

「ふふふ、久方ぶりですよ、こんな気持ちは」


 さすが元ギルド総帥にしてオインクの上司、ただ優しいだけじゃないんですね。

 その方が頼もしいです。

 して、その件のエルフの方々の様子はどうなっているかというと――


「先ほどの聖……まさか……リ……と魔女の間に」

「馬鹿な……だなんている……」


 微かに聞こえる言葉にはどこか焦りの色が感じられ、そしてその表情は心なしか悔しそうだ。

 そりゃそうだ。君達もリュエが現れた瞬間、恍惚とした表情を浮かべていただろ?

 いいか、どんなに迷信やすり込みがその価値観に根付いていたとしても、綺麗なものは綺麗なんだよ。

 例えるなら、極上の料理の盛り付けをめちゃくちゃにしてしまっても、食べて美味しいと感じてしまうのと同じだ。

 お前ら全員、骨抜きにされてしまえ。


 席に戻ろうとした時、今度はこの大陸の議員の方々からも困惑の声が聞こえてきた。

 たしかレイスが言っていた、オインクの片腕と呼ばれている元冒険者の男性だ。

 筋骨隆々というよりも、海外のタフでマッチョなアクション俳優のような肉体を持つその人物。

 そんな彼がもう一人の女性議員と言葉を交わしている。


「エンドレシアの白銀持ちなんて聞いていませんぜ、俺は」

「そう、ですわね。白銀持ちの多くはこちらの支部に配属されていますし、向こうの実力者のほとんどは王国の騎士団に所属していたと記憶しています」

「……いや、だが一人所在不明の白銀持ちが……」

「創世期に任命された最初の白銀持ちの話でしょう? ありえませんわ。恐らくオインク総帥が新たに見出した逸材でしょう」

「そうするとあれか、俺みたいに突然抜擢されたって訳ですかい?」

「恐らくは」


 今の話を聞く限り、創世期の最初に白銀持ちに選ばれた人間だけが行方不明だそうです。

 ……それってもしかしなくてもリュエの事ですよね。

 ちょっとかっこ良すぎやしませんか貴女。

 正確にはもう白銀持ちではなくSSランク、いうなれば青持ちなんですけどね。

 しかし解せないのは、俺の名前とランクはこの大陸の支部にもそこそこ伝わっていたというのに、リュエのほうは殆ど広まっていないという事だ。

 あれか、やっぱり危険人物なのは俺だけだって言いたいのか豚ちゃん。

 自覚があるだけに言い返せないっす。


「カイさん、戻りましょうか」

「ああ、万が一でも気づかれたらことだしな」

「それもなのですが、リュエの晴れ姿を見逃したくありません」


 すっかりお姉ちゃんっこになってしまいましたね。


 そうこうしているうちにコンテストが再開された。

 最初の審査はギャラリーに対しての対応力を見るというもので、会場からランダムに選ばれた人間が一○人、ステージ上で出場者に質問するらしい。

 なお、男性出場者には女性が、女性出場者には男性が選ばれるそうだ。

 是非とも選ばれたいです、間近で見たい的な意味で。

 そしてリュエが困るような質問をしたい的な意味で。


「さぁ、では男性部門から参りたいと思います! 会場にいる女性の皆さん! これはまたとないチャンスです、是非とも挙手をお願いします!」


 司会がそう言うや否や、一斉に上がる女性の歓声と腕。

 中には野太い声の、どうみても男にしかみえない方々の腕まで。

 腕毛、すごいっすね。

 だが、ここで予想外の事態が起きた。

 あの女性議員さんに気づかれてしまうかもしれないというのに、俺の隣からもスッと腕が伸びたではないか。

 大丈夫なのかと確認の意味をこめて彼女に視線を向けると――


「選ばれたら前に行けますからね。間近でリュエの晴れ舞台を見られるかもしれません」

「そ、そうか」


 珍しく暴走気味でした。

 そんなお姉さんが片手を上げたまま、ピョンピョンと爪先立ちを繰り返して必死にアピールをしていた。

 そして俺の真横で素敵な二つの膨らみもアピールしていた。

 さすがにちょっと落ち着こうか。


「では最後の一名は――素敵なメイドさんがいらっしゃいますね、どうぞ前へ!」

「やりましたよ! では行ってきます!」

「ああ、しっかりな」


 ううむ、いいのかね、前に出て。


「おお……なんということでしょう、この大会に出ていないのが不思議で仕方ありません! ではこちらの席におかけください」


 ステージ上に用意された席につき、先ほどまでの浮かれた表情を引き締めるレイス。

 その眼光は、まぎれもなく審査員のそれだ。

 だが、その服装や容姿から、案の定注目を集めていた。

 そうだよなぁ……少なくとも俺の中じゃあさっきの王族の血を引いたナントカって娘さんの十倍は素敵ですしね。

 あからさまな身内びいき思考に浸っていると、一人目が入場してきた。

 先ほどの紹介と同じ順番なのか、現れたのはやや日に焼けた爽やかな海の男。

 うむ、なんかこう、タンクトップを着せて吊り橋やら崖にぶら下がってもらいたくなる人ですな。

 ナントカー! イッパーツ!


「ではランド・シーベルさんに一人ずつ質問をお願い致します! では左から――」


 質問の内容はいずれも『普段どんな仕事をしているのか』『この大会に出た理由はなにか』という定番のものばかりで、中には『今付き合っている女性、または理想の女性はどういう人か』というやや突っ込んだ質問まで飛び出してきた。

 それに対して男性は正直に、ハキハキと笑顔のままストレートに返していた。

 そしてついに最後の質問者、恐らく鬼門で奇問であろうレイスの番がやってきた。


「では最後の方です! 謎の美人メイドさん、どうぞ!」

「では……シーベルトさんの考える、女性をもっとも喜ばせるシチュエーションをお聞かせ願えますか?」


 なに、その即答出来ない質問は。

 ちょっと俺も答えに窮するんですがそれは。

 檀上の男性も、レイスの質問にこれまでハキハキと返していた口を閉ざしてしまい、考え込んでいる。

 ちなみに俺が考えた結果、答えは『すぐには答えられない』だ。

 女性を一括りにしてシチュエーションなんて思いつかんよ。

 そもそも喜ばせるってのは相手の事を考えて動くって事だろうに。

 実際にこの場にいない脳内彼女なんてもののためにそんな事考えられんよ。

 まぁこれは正解を答える審査ではなくあくまで対応力の審査だ。

 さて、どうなるのかね。


「そうだな……やっぱり結婚を申し込む、かな」

「なるほど……私は一言も恋人を喜ばせるとは言いませんでしたが、それがシーベルトさんの答えなのですね?」

「あ、そうか!」


 ちょっとレイスさん厳しすぎない!?

 さっきまで崖だろうが吊り橋だろうが乗り越えられそうだったのに、その一言で一気に跳び箱すら失敗しそうなオーラ背負っちゃってますよ!?

 恐い、恐いよレイスさん。

 いつも人に好意的に接する姿しか見ていない分、厳しい姿の貴女がものすごく恐く見えます。

 だが対応力を見るのなら、これくらいの方がいいのか?


「い、以上をもちましてランド・シーベルさんへの質疑応答を終えたいと思います!」


 司会のお姉さんもちょっと戸惑っているようでした。

 いやぁ、恐いけど楽しいぞ、これ。

 もうある意味公開処刑じゃないですか。




「では、このコンテストに出る事で貴方の日常にどんな変化が起きるとお考えでしょうか?」

「むっ……ぬぅ……」


 考え込んでしまうジェントルマン。


「本日この場に出るにあたって、その服装を選んだ理由をお聞かせ願えませんでしょうか?」

「えっと……自分が一番好きな服を着てきました」

「なるほど、一番好きだから、と……」

「は、はい……ダメでしょうか……」

「一番好きなのでしょう? 胸をはってください」


 まだ年若い青年がたじろぐ。


「君すっごい綺麗だね、よければ僕の屋敷で働かないかい?」

「先ほどから貴方の対応を見ていましたが、この場においてどう評価されるとお考えなのかお聞かせ願えませんでしょうか?」

「え……いや、なんか余裕持ってそうだなーとか……?」

「……そうですか」


 悪乗りしている男性を容赦なく切り捨てる。


「貴方の思う最高のプロポーズの言葉をお願いします」

「ええとそうですね……僕と最後の瞬間まで寄り添ってほしい……かな」

「資料によりますと既にご結婚なさっているそうですが、奥様にそうプロポーズなされたのでしょうか?」

「え? いえ違います」

「では、最高ではないプロポーズをした、と」


 既婚者を真正面からぶった切ったり。

 待って、さすがに観客すらドン引きしてるぞ。

 司会のお姉さんも半分泣きそうになってるし。

 そんな波乱に満ちた対応力審査だが、ようやく最後の一人が現れた。

 今回最高齢であろう、優しそうな表情を浮かべた、綺麗に整えられた白髭をたくわえた老人。

 歳を感じさせないスッと伸びた背筋と、シワに埋もれてなお感じさせる確かな眼力。

 恐らく一角の人物だと、誰もが感じてしまうような風格を持っていた。


「では男性部門最後の一人、本日の出場者の中でも最高齢! ラズル・ガンドールさんです」


 レイス以外の女性は皆、年齢や家族構成、出場の動機などを聞き、その答えを聞いてほっこりと表情を緩めていた。

 孫に囲まれ、昔の写真を見た娘に言われて出場したという優しそうなお爺さん。

 そして、いよいよレイスの番が近づいてくると、会場全体が妙な緊張感に包まれていった。

 頼む、このお爺さんにだけはお手柔らかにお願いします!


「少々失礼かと思いますが、もし仮に生まれ変わったとしたら、今の奥さんと再び結ばれたいと思いますか?」

「ふむ、そうですね。私は結ばれたくはありません」

「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

「私はもう随分と前に妻に先立たれましてね。彼女はせっかちな人間なので、もうすでに生まれ変わっている事でしょう」


 高齢の人間には少々難のある質問にもかかわらず、彼は自分のペースを乱さず、楽しそうに答えていた。

 その彼の言葉に、会場の人間すべてが静かに耳を傾ける。


「そうなると私も急いで生まれ変わらなくてはなりません。ただ、そうすると彼女の残した家族と過ごす時間が短くなってしまいます」


 やや面白おかしく語るお爺さんの表情は、本当に楽しそうだった。

 レイスの質問について考えるのが楽しくてしょうがない、そんな気持ちがこちらに伝わってくるような楽しそうな声。

 これにはさすがのレイスも表情を崩し、いつもの優しい顔に戻っていた。


「今は今。来世ではまた、別な新しい家族と出会えるだろうと楽しみにしている、という訳ですな」


 そう最後に締めくくり、お爺さんはマイクを置いた。


「……このような質問をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。とでも素敵なお話を聞かせて頂き、心より感謝致します」

「先ほどから貴女は厳しい質問ばかりしておりましたからな。これで一矢報いる事が出来ましたか?」

「ええ、感服いたしました――ですが、勝手に奥様を亡き者にするのは頂けませんよ?」


 …………え?


「先ほどから、もの凄い形相で貴方を睨んでいるご婦人がいらっしゃいますが」

「ひょほ!? お前今日は孫と出店を見に行くと言っておったじゃろう!?」

「お目当ての店がなくなってたんだよ! なにかっこつけてんだい! さっさとこっちに降りてきな!」

「ま、待つのじゃ、まだ審査が――」


 …………いい話で終わってくださいよそこは!

(´・ω・`)このひとこわい


(´・ω・`)さて、今年の投稿はこれが最後となります。

(´・ω・`)皆様、どうかよいお年を

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