九話
焦らしプレイ
で、結局そのままの流れで解散、俺はギルドの統括に呼び出されて、リュエと共に事のあらましを聞く事になった。
「ルーベル殿は、この街と塩湖周辺の土地を任されている領主の三男なのです。一応、ギルドはどの国にも属さないのですが、何せここは辺境、さすがにこちらも強く出る事も出来なく、多少の便宜を図るという形でこれまで抑えていたのですが――」
「それで、領主本人はどういう人物なんですか?」
「ご領主様はなんと言いますか……前時代的と言いますか、貴族的と言いますか」
あ、貴族っているんだ。
「貴方は統括と言いましたが、この領主の治めるこの街の統括、なんですよね? もう少し上の人間にご相談をなさってみては?」
「それは……そうなのですが。ですがこれまでは問題もなく――」
日和見、それとも上からの評価を気にしているのか。
雇われ店長みたいな扱いなんだろうか?
まぁ関係ないけれど。
「ギルドは非常時には所属している人間を強制的に従わせる権力があるのですよね。ですが、それを皆が許しているのはそれ以外の平時には、貴方達ギルドが守ってくれているからだと言う事を忘れていませんか?」
「……そうですね」
「私達二人は、たしかにこの街に来て日が浅い、だが所属を認めた以上、それなりの対応を――」
「カイくん、もう良いよ。それよりも決闘の用意を全て受け持ってくれるって事だけど、それに二言は無いね?」
まだ言いたいことが山ほどあるが、もう決まってしまったのならしょうがない。
ギルドに所属している者同士の私闘は基本的に禁じられているが、ギルド預かりの元、キチンと手続きをした場合は例外だそうだ。
何やら決まり事や場所の貸出やらあるらしいが、簡単に纏めると『見世物として扱うからその経済効果をそっくり頂くから文句を言うな』って事だそうだ。
まぁ俺が心配なのは相手方、領主の息子という点だ。
が、これも問題ないらしい。
一度ギルドに所属した以上、全ては自己責任。たとえ親がしゃしゃり出てきても問題はないそうだ。
仮に出てきたら、今度こそギルドの上層、こんな辺境ではなくこの大陸の中央にある本部に連絡がいくそうだ。
「で、勝負のルールは?」
「その前に確認を。リュエ殿ではなく、カイ殿が勝負を受けるという事で間違いありませんか?」
「ええ」
「恐らく今回は相手方は3人、3対1の勝負になると思いますが、それでも?」
「問題ありません」
ルールは決戦直前に発表される事となり、俺は最後まで何か言いたげな統括を尻目にギルドを後にするのであった。
「姐さん、大丈夫でしたかい? あのボンボンが何かやらかしたんで?」
「いや、問題ないよ、ありがとう」
「お姉さま! もしもの時はいつでも頼って下さい! 私のパーティー護衛の任務で近々外へと行きますの逃がす事も――」
「心配してくれてありがとう、でも大丈夫だよ」
なんだこれ。
ギルドの外へと出ると、次から次へと人が押し寄せてくる。
それら全てがリュエへの心配の言葉である。
おかしいな……俺も同じ日数依頼をうけていたのに、友達一人出来ていないぞ?
「随分人気者だな、リュエ」
「ああ、連中と一緒に動いている間、苦戦しているパーティーの援護を独断でしていたらいつのまにか」
「男もいるみたいだが大丈夫なのか?」
「あの連中とは依頼の間しか一緒に動いていなかったからね。ちょっと飲み屋さんに行った時とか親交を深めたりと」
おーれーもーさーそーえーよー!
まだこの街に来てから宿の食事しか摂らず、毎日時間いっぱいまで依頼をこなしていた俺に謝れ!
「あの、こちらの方は……」
「ああ、彼は私の仲間だよ。今は一緒のパーティーではないけれど、彼が本来の私のパートナーさ」
「姐さんの……」
我ながら目立つ姿をしていると思うのだが、集まった人達は今になって俺に気がついた様子。
そして集まる視線。
「カイヴォンだ。リュエと旅をしている」
「マジかよ……まさか姐さんが……」
男としてちょっぴり優越感に浸ろうと思ったが、視線の質が思ってたのと違う。
明らかにこれは怯えられている。
魔族のポジションって今どうなってんの? いや俺人間だけど。
そういえばこの姿でギルドに来るのって初日以来だったっけ?
結局俺がいるせいかなのか、集まった人間が散ってゆく。
が、最後に一人の女の子が『お姉さまの事、どうかお守り下さい』と頭を下げて行った。
本当、たった数日で凄い人望ですねリュエさん。そのコミュ力を是非俺にも分けて下さい。
それから2日。
リュエは宿の外に出て連中に会うのが面倒だからとずっと引き篭もり生活をし、俺は変わらず簡単な依頼を受けて歩いていた。
何度かリュエの事を訪ねてくる人間もいたが、引き篭もっているとも言えず『事が済むまで身を潜めている』とだけ言っておいた。
言葉って凄いな、やってる事は変わらないのに表現一つで全然違って聞こえる。
『私はもう稼ぐ分は稼いだからゴロゴロしても許される筈』なんて言っていたんですよね彼女。
そして今日、ついに訪れた決闘の日。
ようやく外へ出たリュエを伴い、街の外れにある演習場へとやってきた。
ここは大規模な魔物の討伐や遠征にきた軍の為に用意された場所で、他にも今回のような決闘で使われる場所だそうだ。
一応観客席も用意され、暇な人間やら、リュエを心配していた連中、そして恐らく領主と思われる一団の姿が見えた。
「じゃあ私は今回賞品みたいな物だから、ちょっと特等席に行ってくるよ。カイくん、わかっていると思うけど」
「手加減してわざと負けたらいいんですね、わかります」
「本気で怒るよ!? しっかりコテンパンにしておくれよ?」
こちらのやりとりを見ていた職員の苦笑いを受け流し、ルールの確認。
手渡された紙に書かれているルールを見て、俺は察した。
"ああ、あの時ギルド長が微妙な表情をしていたのは、俺を過小評価していたからなのだ"と。
「さてカイ殿。既に通達されたように、今回のルールはあってないような物。どうかここは退いてもらえないでしょうか?」
ルールには『互いの持ちうる全ての力を使い、どちらかの命が尽きるまで』とあった。
そして3対1と思っていた決闘が、このルールにより別な物となってしまった。
そう、領主の一団には私兵と思われる人間が多数含まれていた。
それら全てが、今回の相手となる。
「なるほど。最初からこういうつもりでしたか統括」
「我々の立場をどうか理解してもらいたい。リュエ殿ならば、独力で彼らの元を離れる事だって容易な筈、ですから――」
「たしかに。それにどうやら、そちらはリュエの力をキチンと理解しているようだ」
「……ええ、正直驚きました。彼女は"魔術師"と思われていますが"魔導師"だと言う事が既に判明しておりますから……」
"魔術師""魔法師""魔導師"
この3つは完全に上位互換と下位互換の関係だ。
魔術師を育て、魔法使いに至り、そして極めた果てに魔導師となる。
『魔を扱う術』を持つ者と『魔を従える法』を持つ者と『魔を導く』者。
従えるのではなく、勝手についてきてくれる者の方が上位なのは当然だ。
そしてリュエはその最上位。
……まぁ本職は本人もまだ見せてくれないけれど、騎士なんですけどね。
「確かに統括の言う事ももっともだ。……ただしそこに私の感情が一切考慮されていない」
「感情で動くのですか? カイ殿が彼女の友人だと言うことは分かっているつもりですが――」
「いや、もう良い。このルールを決めたのは誰だ」
「領主様です」
「そうか、なら良い」
だったら文句言うなよ?