百二十一話
(´・ω・`)おまたせしました
激動の三日間の営業を終え、売上チケットを無事に本部へと収め終えた俺とレイスは、早速イベントが開かれるというギルドへと戻る事に。
屋台広場へと振り返ると、最後の追い込みを掛けようと値下げ合戦まで始まっている始末で、一足先に勝負を終えてしまったことに今更ながら若干の不安を感じてしまう。
「カイさん、大丈夫ですよ。私がチケットを渡しにいったら、係の方が凄い顔をして驚いていましたから」
「きっと顔を真っ赤にして視線を右往左往させていたんですね」
「ええ、すごく」
それは驚きもあるだろうが君の姿の影響もあると思います。
だが、初日と二日目でつけた大差があれば、ひとまず安泰か……?
「しかしイベントか。なんだったかな」
「屋台大会最終日と被っていたのは確か『美男美女コンテスト』ですね。毎年凄い盛り上がりだそうですよ」
「ああ、そういえばそんなイベントもあったな。まぁ確かに普段なら心惹かれる響きではあるんだけど」
チラリと隣を歩くメイドさんを窺う。
エプロンを大きく盛り上げる豊かすぎるくらいの果実に、すっと美しいラインを描く顎。
白く透き通る肌に、つややかでぷるんと弾力を感じさせる薄ピンクの唇。
鼻筋も綺麗に通り、その高さも絶妙。横顔はまさに黄金比率であるEラインを完璧に満たしている。
今は色をかえているが、それでもなお美しい透き通った瞳に、やや垂れた優しそうな目尻。
腕を見れば、すらりとしなやかに伸び、程よく鍛えられているのが分かる二の腕のラインが見て取れる。
さらには、スカートの上からでも僅かに分かる、程よい肉付きの綺麗な形のヒップラインと、まっすぐに伸びた背筋。
足の大半は隠れてしまっているが、それでもその歩く姿は本業のモデルと言ったら信じてしまいそうな程美しく様になっている。
身内贔屓抜きでこれですよ。さすが我が家のミスパーフェクトお姉さん。
親バカと言われたら否定出来ませんが!
マズイ、改めて評価すると緊張してきた。
「あの……急にどうしたんですか」
「レイスは美人だなーと。正直美男美女コンテストに出場してたら問答無用で優勝してたと思うんですが」
「面と向かって言われると、流石に恥ずかしいです……ありがとうございます」
あれだ、結婚式に呼ばれた人間が白いドレスで出席するとマナー違反になるっていう暗黙の了解。
それに近いものを感じるんですが。大丈夫? これレイス連れてって本当に大丈夫なのかね?
ようやく戻ることが出来たギルドに、今度は長大な行列に出来上がっております。
いやはや、まさか観覧席が全て埋まってしまうほどの人気だとは。
屋台大会最終日と日程をかぶらせたのも、恐らく会場をパンクさせないための対策なのかもしれない。
あれですよ、花より団子って奴です。
色気より食い気の人間を誘導することで、かろうじて開催出来るくらいまで観客を減らしているって事なのかね。
「物凄い人ですね」
「やっぱ綺麗な人を見たいって気持ちは誰にでもあるんだろうね。それに、どうやら昨年の優勝者も来るみたいだし、それ目当ての人もいるんじゃないかね」
日本で言うアイドルのおっかけや、ライブの為に並ぶ大勢のファン。この大騒ぎも、それとよく似ているように思えた。
あれ、じゃあそうなるとこの大陸のアイドルって、ある意味オインクって事になるのか?
……外見と行動力と功績を見れば相応しいくはあるのだろうが、いまいち納得しかねる。
そうこうしながら、ゆっくりとだが徐々に進み始める行列に従い、会場へと向かっていくのであった。
「では、本日より一般の観客と、外部からいらした貴賓の方々も審査に加わります。先日通達しましたように、最終審査である本日の公開審査では容姿、答弁、さらに大勢の人間への対応力を見ます。最後にその他フリーアピールタイムがございますのでリハーサルが必要な方は今すぐ申請をお願いします」
ああ、ちょっぴり緊張してきたよ。
私はギルドの上の階、宿泊施設の一角にある控室で、職員の説明を受けながらこれまでの事を思い返していた。
あれはそう、カイくんとレイスが屋台大会に出場を決めた日の事だった――――
「レイス、私はちょっとお手洗いにいってくるよ。カイくん自分の世界に完全に入っちゃってるから伝えておいてくれないかい?」
「分かりました。一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫、さすがに勝手に他の場所になんて行かないよ」
魔車を出た私は、再び大勢の人がひしめくギルドの扉を潜る。
こんなに大勢の人が集まるところなんて、たぶん初めて見たんじゃないかな?
その熱気にくらくらしながら、私はお手洗いに向かおうと辺りを見回す。
けれども、あまりの人の多さに案内板も見つけられず、少し恥ずかしいけど職員さんに聞く事にした。
しかしどの受付も長蛇の列が出来ていて、それを待っていたんじゃ色々と大変な事になりそうだ。
「うー……あ!」
そんな中、一箇所だけ人が少ない受付を見つけた私は、早足でそこへと向かった。
受付の女性も暇そうに肘をついてぼーっと辺りを眺めているし、これならお手洗いの場所を聞いても迷惑じゃないだろうな、と声をかける。
「あの、すみません」
「はーい、じゃあまず審査しますねー」
「え、審査……?」
私が声をかけても、視線すらこちらに向けず投げやりな態度で応対する職員に、私がどうしてここだけ空いているのか分かったような気がした。
きっとこの子はサボり魔で、隙あらばサボろうとするだらしない子なんだろう。
けど、まさかお手洗いを借りるのに審査が必要だとは思わなかった。
人がこれだけ多いと、やはり犯罪行為を行う不埒な輩もいるのかもしれない。
「じゃあまずあなたは女性ですかー」
「見たら分かるだろう?」
未だ頬杖をつき虚空を眺めるやる気のない職員に、少しだけ気分を害される。
すると、ようやく彼女がこちらへと顔を向けてくれた。
「んー? ……も、申し訳ありません、合格です、すぐに案内しますので」
「ちゃんとお仕事しないとダメだよ? じゃあ早く案内しておくれ」
「応募受付開始からようやく一人目の合格者が……自意識過剰な人が多すぎなのよ、もう」
何やらぶつぶつとボヤいているけれども、案内されたのは宿泊施設のたぶん三階。
わざわざこんな場所まで来なければいけないのかとも思ったけれど、あれだけ人が多いんだ、さぞやトイレも混んでいるのだろうと納得する。
けれども、何故か職員さんはお手洗いを無視して先に進んでしまった。
きっと忙しいのかな? ならば仕方ないと、私も急いでトイレに飛び込んだのだった。
私がトイレを済ませると、先ほどの職員さんが外で待っていた。もしかして、送ってくれるのだろうか?
「申し訳ありません、気が付きませんでした。では、ご案内します」
「こっちも声をかけなかったしね、悪かったよ」
そうして私は、何故か昇降機ではなくそのまま宿泊施設の一室に案内されたのだった。
「失礼します。一人目の合格者をお連れしました」
「おお、ようやくか! いやぁ、今年は開催出来ないかと思っていたところだよ」
「あら、一人目はエルフさんなのね。随分綺麗な髪ね……それに、すごく――」
部屋に通されると、まるで品評会にでもかけられたかのように、私の事をジロジロと観察しようとする視線晒される。
それがちょっと不愉快だったけれども、これがどういう状況なのか尋ねなければと一歩前へ踏み出した。
「すみません、私はどういう意図でここに呼ばれたのでしょうか?」
「む、君は美男美女コンテストに出場するのではないのかね?」
「え?」
慌てて案内してくれた職員さんに目を向けると、彼女も彼女で目をまるくし、ぽかんと私を見つめていた。
……あれ?
「あの、貴女は私の受付……美男美女コンテスト参加受付窓口に来てくれましたよね?」
「え?」
「あまりに参加基準に満たない人ばかり相手にしていたので、ぼーっとしていましたけど……来てくれましたよね?」
「え?」
「ふむ……何か行き違いがあったようだね」
私は人がいない受付があったと思って、そのまま真っすぐ向かっただけだった。
でも、ちゃんとそこがどういう窓口か確認していなかったかもしれない。
……ああ! 審査って、そういう事だったのか!
「行き違いでもなんでもいいわ! 貴女、出てくれるわよね! 貴女なら優勝も十分に狙えるわ! 賞金も、ミスセミフィナルの称号も貴女のものになるわよ!」
「しょ、賞金……」
もし私が、こっそり大金を稼いでカイくんやレイスに持って行ったら驚くかな?
それに、私が美女だってさ、美女。
本当にそうなのかな? レイスみたいに凄い身体でもない私が、一番になれるのかな?
どうしよう……出てみようかな……?
「で、出てみようかな?」
思えば、トイレに行こうとしただけだったのに、気がつけば私はこんな場所にいる。
二次審査である私服姿の審査も無事に合格し、ついに今日は最終日。
控室には私同様、厳しい(らしい)審査を乗り越えてやってきた綺麗な子達が沢山待機している。
私と同じエルフの女の子や、レイスのような小さな翼を持った魔族の女性に、すごく小さな女の子まで。
みんな綺麗なドレスやかわいい衣装に身を包み、ダンスや何かの型のようなものの練習をしている。
きっとそれが、みんながステージで発表するものなんだろう。
私は、綺麗な衣装なんてあのズボンと合わせたかっこいい服と、よく偉い人に会う時に着ていたドレスアーマーしか持っていない。
だから今日は、そのドレスアーマーを着こみ、レイスに教わった編み込みハーフアップという髪型、そして最後に先日また改めて教えてもらったお化粧をしてこの場所にいる。
「二人共見に来てくれないかな? ふふ、きっと驚いてしまうだろうなぁ」
二人が驚く様子を想像して、つい笑ってしまいそうになるけれど、なんとか我慢しようと表情を押し殺す。
ダメだダメ、みんな集中しているんだから、静かにしないと!
私は努めて表情を引き締め、ただ開催の時を持つのだった。
「あの人、いつもキリっとしてるよね……」
「近寄りがたいっていうか……綺麗すぎるよね……自信無くしそう」
「あーあ、今年は人が少ないからいけると思ったんだけどなぁ」
(´・ω・`)あ、そうだ明日ね