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百十八話

(´・ω・`)最近寝てても夢の中にぼんぼんが出てくる

 迎えの男の魔車に乗せられ、大都市の中心部へと進む。

 さすがにここまでの規模になると、中央までは徒歩だと時間がかかりすぎてしまうためだ。

 そう考えると、収穫祭のイベントがギルドから向かうことが出来る範囲に集中しているのは幸いと言っていいだろう。

 もっとも、あの界隈のイベントは外部からの冒険者や観光客向けのものが多く、地元の人間のためのイベントはまた別な区画で行っているらしいのだが。


 この都市は大きく分けて四つの区画から成り立っている。

 一つは俺達が活動していた『ギルド直轄区』。

 名前の通り、冒険者やギルド相手に商売をしている人間が多く集う区画だ。


 次が『商業区』これは先日、リュエの案内で向かった大運河を越えた先。

 外部からの商品を扱う商店や、輸入、輸出を受け持つ商会が点在している区画だ。

 昔は『工業区』『農業区』と細かく分けられていたらしいが、今では全て統合されたそうだ。

 国の内外に向けて収穫された作物や民芸品、特産物が送り出される経済の中心区画と言えるだろう。


 で、次が街の入り口から中央の旧王宮を挟んで反対側、地元の人間やそれに密着した商売を行う商店街などがある『居住区』。

 そんな場所に住んでいては街の外に出るのに不便だと思ったのだが、どうやら街の住人専用の小さな門があるらしい。

 つまり、俺達の通った街門は完全に外部の人間専用の場所だったと。


 ちなみに地元の人間向けのイベントはここで行われているのだとか。

 収穫物の品評会や料理を持ち寄っての小さなお祭りなど、アットホームな雰囲気が売りらしい。

 まぁ隠れた名所、楽しみ方って奴だ。


 そして最後に今向かっているのが『行政区』。

 旧王宮とその周辺をそのまま再利用し、近隣の元貴族の屋敷などを全て利用したこの都市の中枢区画だ。

 議員の大半はそこで暮らし、日夜大陸の発展のために手腕を振るっているそうな。

 旧王宮の敷地内には議会場の他にオインクや先日の……名前はなんだったか、イル? それと今は亡きアーカム専用の執務室も存在しているらしい。

 で、今はそのオインクの執務室へとコーヒーを淹れにむかっているわけだ。


「以上がこの都市の大体の仕組み、区画の説明となっております」

「ありがとうございました」


 はい、魔車の移動ですら時間がかかるため、御付の方から説明を受けておりました。

 ちなみに、迎えに来たこちらに敵意を剥き出しにしている男は、俺と同じ空間に居たくないのか外の御者席にいるようです。


「おい、そろそろ用意しろ」


 はいはい、こっちはいつでも下りられますよ。荷物はメニューのアイテムボックスに全て収納済みですから。

 ちなみにこれ、使える人間は総じて、恐らくリュエやレイスのような存在の子孫にあたる人間ばかりだそうです。

 とは言え、リュエのように明確に神隷期を記憶している人間なんていないらしく、またレイスのようにうっすらと覚えている人間すらいないそうだ。

 ううむ、それでもメニューを使えたという方々は今もどこかで暮らしているのだろうか?

 それともやはりこの不老性もリュエとレイスだけが特別なのだろうか。


「聞こえているのか、その耳は飾りか?」

「聞こえていますよ御者さん。お気遣いありがとうございます」

「ちっ」


 意趣返し成功。

 俺は御者にも丁寧な言葉を使いますよアピール&お前は御者みたいなもんだろと暗に伝える。

 思い当たる節があるのか、言い返してくることはありませんでした。




「でっか」


 魔車から下ろされ門の前に立ち、その聳え立つ豪華絢爛な王宮につい素直な意見が口から飛び出す。

 中に直接乗り入れる事が許されるのは、ある程度の権力者や議員だけだそうですよ。

 俺領主待遇なんですけどね、今は一般男性冒険者のカイですから。

 少なくとも豚ちゃんも俺だと知らずに呼び出したんだろうし。

 さて、どんな顔をしてくれるのか楽しみだ。


「黙って着いて来い。声を出すな触るな見回すな」


 了解、ただしニヤニヤフェイスはやめません。

 思いっきり見下したようにニヤニヤと見つめてあげます。

 しかし残念だな、武器の携帯が許されていたら[詳細鑑定]でこいつの情報を隅々まで調べたかったのに。

 そうして王宮を案内され、かなり奥まった場所までやってきたところで一つの扉の前で立ち止まった男。

 ノックを四回、先ほどまでの不機嫌そうな声色が嘘のようなはつらつとした様子で扉へ声をかける。


「オインク様、ドングリのコーヒーを売っていた店主を連れてまいりました」

「どうぞ、入ってください」


 凛とした、耳に心地良い美声が返ってくる。

 これ、豚なんすよ。うちのオインクさんっすよ、凄いでしょう。

 チームのマスコット的存在が、今ではこの有様です。


「ご足労感謝致します、本来であれば私が足を運ぶべきなのですが――」

「そうだよ。足を運べよ」

「貴様! 申し訳ありません、まさかこいつだったとは知らずにこのような男をこんな場所まで――」

「……『アルバ』、下がりなさい」

「しかし!」

「これは命令です、下がりなさいアルバ」


 面白いくらい表情を驚愕に歪め、そしてすぐさま青くして怯えたような顔になる百面相豚。

 あとお前アルバって言うのか、覚えたぞ。

 親の敵でも見るようなを視線をこちらに向けた後、すごすごと退出する姿を見送り、にっこりと我らがお豚様へと向き直る。

 さぁ、お前の……なにかの数を数えろ。


「申し訳ありませんでした。まさかぼんぼんだとは思わず……」

「俺じゃなくても呼び出そうとすんなよ。一応まだ営業時間なんだぞ?」

「そうですね、本来ならばそうしたかったのですが、明日行われるイベントの出場者の名簿のチェックやら今年度の来場者数やら目を通さなければいけない資料が多すぎて……」

「そこまでして飲みたかったのか、これ」

「飲みたいです。お願いします、部下の非礼も詫びます、賠償でもなんでも支払いますから飲ませてください、なんでもしますから」

「……そこまでして飲みたいのか。あれだ、俺も飲んでみたけどかなり美味いぞ、期待していい」


 コーヒーよりも少しだけカカオっぽい香りもするんだよね、これ。

 じゃあ砂糖少な目の方がいいのかね、ドングリが好きなら。

 俺はサイフォンではない、ドリップ式のコーヒーメイカーを取り出しセットする。

 すると、どこから取り出したのかオインクもまた自前のコーヒーカップを取り出し持ってきた。


「へぇ、本当にコーヒー豆みたいなんですね。匂いも良いですし、どうやって作るんです?」

「優勝したらレシピ一式そっちに売るから、それでギルドで店でも出すといい」

「いいんですか!? それだとこちらもかなり経費が抑えられますし、願ってもないことです! あ、でもやっぱり売り上げって……」

「適正だと思う分だけ振り込んでくれりゃいいよ。幸い金には困ってないし。あとあれ、今度売り出したいものがあるから、手配だけお願いしておきたい」

「なんですか? またドングリ関係ですか?」

「いんや、魔結晶」


 アキダルの町で一つ五二万ルクスという値段で売り払ったわけですが、アイテムボックス内にまだ同じ大きさのものが二○個近く、もっと小さいのが一○個近く、さらにはソフトボール大の特大サイズが一つ入ってたりします。

 ためしにその一番大きなものを取り出してみせると――


「ピギャアアアアアアアアアアアアア」

「馬鹿やめろ!」


 慌てて口を押さえる。やばい、この絵面完全にアウトだわ。

 柔らかなぷるんとした唇の感触を手のひらに感じるんですが。


「声でかすぎ」

「え、いや、え? それ本物ですか? え、ちょっとわかってるんですかそれ?」

「なに、そこまで凄いものなのかこれ」

「エネルギー抽出前のウラン燃料数トン分と思って下されば」

「ふぁ!? でもちょっとわからないな、もっと分かりやすく頼む」

「日本全土にソーラーパネルを敷き詰めても追いつけないようなエネルギーを内包しています。というかそれどうしたんですか!? さすがにそんなの世に出したら目つけられますよ! 全世界に私は無限射程の核ミサイルを所持していますって言いふらしているようなものなんですよ!?」

「……まじかよ、じゃあこれは無理だな」

「それ、単純に大きければ小さいのが沢山あるのと同じくらいの価値とかじゃないんですからね? 本来、自然発生しない物質なんですから……極稀に魔物の内部から砂粒程度のものがとれて、それを集めて精製して、莫大な魔力と大規模な術式でようやく結晶として成長させることが出来る貴重品なんですから……」

「いやぁ、なんかサーディスから供給が途絶えつつあるとか聞いたもんで」


 それで商人が足元見てるそうですね。

 ギルドとしては絶対に欲しがると思っての交渉だったのだが。


「まぁいいや、とりあえずほら、ドングリコーヒー牛乳もといエイコーンラテの完成だ」

「衝撃ですっかり忘れていましたよ……あ、いい香り」

「砂糖少な目にしといたぞ」


 じゃあ氷砂糖くらいの大きさと、もっと小さい奴を全部預けておけばいいのかね。

 あれ、アビリティの力だと普通に魔物が落としてくれるってのはさすがに秘密にしたほうがいいだろうなぁ。

 本来滅多に生まれないものを強制的に生成させるとか、さすがです龍神さん(角)。


「ああ……美味しいですね。香ばしさと苦味と、ほのかな甘みがなんともいえません。ココアにも少し似ていますね」

「だろ? 正直代用品だと思ってなめてたわ」

「ああ、このレシピが手に入れば毎日飲めるんですね……」

「結構有名だから知ってるもんだと思ったんだけどなぁ」

「それなんですけど、この世界って最初からある程度作物が存在していたみたいで、そういう太古の時代の食文化や知恵っていうものが存在していないんですよ」

「へぇ、神隷期ですら伝説って言われてるくらいだし、この世界の太古とかちょっと気になる事案ではあるな」


 そんな古の時代に思いを馳せながらまた一口飲み息を吐く。

 はぁ落ち着くなぁこれ。

 すると、まるで俺がリラックスするのを待っていたかのようにオインクが再び口を開いた。


「…………喧嘩別れしたような状態ですが、もう一度イルから話を聞く気はありませんか?」

「何か、イグゾウ氏が残した言葉でもあるのか」

「はい。そしてきっとその真意が、ぼんぼんが解読した遺言書には隠されていると私は思っています」


 ……大人気なかったのは自覚しているが、それでもこんな性分なんだ。

 誰かが、あんな風に俺の上にいるのが我慢ならない。

 それが離れた、自分とは関わりのない隔絶した相手なら問題ないが、身近にいて、それでいて対等な立場であるオインクの友人であるにもかかわらず、あんな態度を取られたのが問題だったんだ。

 まぁ、そうさせたのは俺でもあるが。


「認識を変えて敬意を持つようにしつけとけ。そもそも、お前と同格ってのが納得出来ないんだよこっちは」

「……それは本人も思っているはずなんですけどね。やはり、そういう環境で育ったのが大きいのでしょうね」


 難儀なもんだよ。

 再び喉を潤しながら、軽く息を吐く。

 この世界の違和感や、謎。

 それが気にならないと言えば嘘になる。

 ましてや、ナオ君のような人間を呼び出し、俺を警戒している相手だっているのだから。

 ……オインク以上にこの世界に詳しいであろう、先にこの世界に来ていたというあの二人にも、やはり会わねばならないだろうな。

 なぁ、お前らは今何をしているんだ?

 俺には想像もつかない、一つの国の中枢に長い間いるという感覚が。

 今だってこうしてオインクと一緒にいるのに、彼女の内心の葛藤が俺にはわからないのだから。


「さてと、じゃあ魔結晶は小さい奴を幾つか渡しておくから、そろそろお暇しとく」

「やはり、それも龍神関係ですか? 正直そうぽんぽんと出せる物ではありませんので」

「当たらずとも遠からずってとこだな。あ、そういえば闘技大会って――」


 直接もう一度お願いしてみるのはどうでしょうか?

 へへへ、さっき君『なんでもする』って言ったよね?

 とっとと許可するんだよ!


「駄目ですよ。あとエキシビジョンマッチへの出場も却下ですからね。毎年このエキシビジョンマッチに出る白銀持ちがいますが、彼はこの大陸の議員でもあります。そんな彼がぽっと出の人間にぼろ雑巾のように手も足も出ずに蹂躙されるのは、人々に混乱と恐怖、不安を与えることになりかねませんので」

「まだ何も言ってないんですけど? でも隅から隅まで君の予測通りですわ」


 でもレン君が優勝した際には俺が相手をしていいと言われているし、これはどういう事なのか。

 あ、彼相手ならば俺が物凄く手加減しても勝てるから問題ないって事ですかそうですか。やっぱりまだあの子の事許してないんですね豚ちゃん。


「そうですね……大会会場では大規模な魔法、魔導には制限がかかりますし、身体的なダメージも生命力への負荷へと変換されますので、リュエならばギリギリエキシビジョンマッチに出場出来ますね」

「なんでうちの娘さんも出たがってるって分かったんですかね」

「結構似てますよ、二人とも考えが。まぁそれでも恐らくリュエが勝つでしょうが……これも良い薬かもしれませんね」


 ぽつりと零したその言葉を、俺は聞き逃さなかった。

 つまり、その議員兼白銀持ちの冒険者に、やや問題があると。

 ……なるほどな。


「じゃあアルバ君への憂さ晴らしはリュエに任せるとするかね」

「……気がつきましたか」

「そりゃあな。お前の信奉者でエンドレシアからくっついてきた冒険者か何かの二世ってところか」


 耳を見る限りヒューマンのようだし、大方そんなところだろう。

 イル同様に、環境が人を傲慢にさせるのかね。

 あ、俺も人のこと言えないって思うかもしれないけどこれは後天的なものじゃないと思うんです。

 俺は違うの、俺は。


「正解です。彼は私と共に戦った冒険者の息子ですね。才能に恵まれ、激戦を潜り抜けた猛者に揉まれ教えを受けた文字通りの叩き上げです。悪い子ではないのですが、私とぼんぼんが親しいのが気に入らないのでしょうね」

「いい年して何やってんだよアルバ君。俺と同い年くらいだろ、みたところ」

「おっとー? ここでぼんぼんのリアル年齢が判明。つまり二八かそこらなんですね」

「なんだよ突然」

「私はゲーム時代で二九でしたから、お姉さんですよ?」

「お前すげぇな、年齢までニクかよ」

「……まさかのオチがついてしまいました」


 まぁ、うん。やっぱりオインクはオインクですよ。

 そんな彼女もまた、少しだけ楽しそうにしながら手元の資料に再び目を通し始める。


「では、私もそろそろ仕事に――ふふっ、戻りますね」

「ん、なんだいきなり笑い出して」


 何か面白いものでも見つけたのか、資料を見ながら笑みを浮かべるその姿に、少しだけドキっとしてしまう。

 なんですか、キャリアウーマン的美女でも目指してんのか。

 悔しいが凄い様になってる!


「いえ別に。明日はそうですね、出店を早く片付けて他のイベントを見て回るのも楽しいかもしれませんよ」

「ん? 何かあるのか」


 まぁ、在庫から考えて昼前には終わりそうではあるが。

 ちなみにコンテストの集計は明日の夜にギルドで行われるそうだ。

 お客さんには事前に会場入り口でチケットが手渡されているので、支払いのときに一緒に受け取ったそれを最後に集計するとかなんとか。

 最後に差を広げるため新たに仕入れるのも考えていたが、リュエもいないのだし、今ある分を売り切って終わるつもりだ。


「それは自分の目で確かめてください。では、エイコーンラテ御馳走様でした」

「あいよ、落ち着いたらまた淹れにくる」


 リュエといいオインクといい、中々こちらをワクワクさせてくれるね、本当。

(´・ω・`)はやくしろと催促されてガチバトルに発展

(´・ω・`)毎回引き分けてます

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