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百十五話

(´・ω・`)百獣ゴアなる魔物を間違えて召喚してしまったのがこちらの話となっております。

「よーし、じゃあプレートの慣らしも済んだし、初動対応に必要なストックも確保出来たなー?」

「ばっちりだよ。一瞬で凍らせるから問題なし」

「お米も炊けていますし、既に整形済みのおにぎりも用意出来ました」

「よし、じゃあ後は開始を待つだけか」


 執事服でおはようございます。みんなの執事、女性のアイドルぼんぼんです。

 なお鏡で自分の姿を見たところ、どう見ても乙女ゲーにでも出てきそうなドS執事にしか見えませんでした。

 接客に向いてないキャラだと思うんですが。

 ただ、そんなミスマッチな存在である俺がいても問題ないと言わんばかりのメイドさんが二人、この場にはいるのです。

 リュエのメイド姿は既にアーカムの一件で見ていたが、なんと彼女、レイスの分のメイド服もちゃっかり確保していたんです。

 結果、俺の背後では黒髪に緩いウェーブのナイスバデーのメイドお姉さんがせっせとおにぎりを握っています。

 もちろん、お客さんから見える位置ですとも。

 ドレスエプロンの中になにか食材、具体的に言うとメロンでも隠しているかのような膨らみを見せております。

 格式高いクラシクなロングスカートタイプだからいいものの、これが前の世界のメイド喫茶的な男性に媚びるようなデザインだったらもう、犯罪すれすれです。

 なお、フラットなお胸のリュエさんはリュエさんで、全体的なまとまりが素晴らしく、ツンと澄ました表情をしているともう、色々と堪りません。

 口を開く前と開いた後でここまで印象が変わる人もそういないだろう。

 なお本日は俺も含めて三人共、髪を後ろで軽く結いでおります。やっぱりこの辺りは最低限やらないとね?

 さてさて、料理のスタンバイもOKだし、我が家の看板娘さんもばっちりだ。

 後はいかに客をこっちに引っ張ることが出来るかだ。


「初手範囲攻撃は基本。香り用醤油だれの準備OK」

「こっちも空気の温度差で壁を作ったから、アイスに影響は出ないよ」

「では、私が後ろから扇ぎますね」


 最初に香ばしい、芳しい香りを出来る限り撒き散らす。

 営業妨害? いいえ、この屋台大会にそんなルールはありません。

 意図的に他の店にむかって送り込んだらそりゃ迷惑行為ですが、客に向けて匂いを放つのはセーフだセーフ。

 さぁ、早く開場してくれ。こっちはもう開き直って出来ることを全てを叩き込むつもりなんだから。

 そして、ようやくその時がやって来た。

 開場の至る所に設置されたスピーカー型魔導具から、聞き覚えのある女性の声が響き渡る。


『それでは、セミフィナル出店屋台人気コンテスト開催です! おほーっ』


 あ、それ自分の掛け声として浸透させる気なんですか。

 ともあれ、開場の入り口からお腹をすかせたお客さんが大量に雪崩れ込んできたのであった。




「今年はどっちから見て回ろうかしら? やっぱり中央を通ってから外周時計回り?」

「私はできるだけ早くパンケーキが食べたいから、中央に行くのは賛成かな~」

「私はお肉系が食べたいのだ」


 目標補足、三人組の娘さんが中央通りに差し掛かった。

 入り口に近い中央通りと聞くと、かなり好立地に聞こえるかもしれないが、実は違う。

 入り口に近いということは、後ろから次々に人が来る、落ち着けない場所だという事だ。

 すると、自然とスルーされやすくなり、もう一度その客が戻ってくる頃には、すでに他店の商品に手を出してしまい、買ってもらえない事が多い。

 つまり、強引な手段でもいいから、ここで人の流れをせき止める覚悟で足止めさせる必要がある。

 すると、どうなるだろうか? もちろん思うように進めずイライラする人間も出てくるだろう。

 だが、それでいい。最悪『もうここでいいや』と妥協で買ってもらっても構わない。

 食えばわかる、うまいから。俺が自信を持って、うまいと言える二品だ。

 強引で他店のひんしゅくを買うかもしれないし、傲慢な考えかもしれないが、それでいい。

 短期間だけの出店だからこそ出来る荒業だ。

 ……ちょっとクズすぎやしませんかね。

 ともあれ、最初の一発を発射しましょうか。

 熱々のプレートの隅に、タレを数滴落とす。すると、猛烈な勢いで香りがたち、それをすかさずレイスが後ろから大きな扇子で通りにむかって扇ぎだす。


「なんだか香ばしい匂いがするわね」

「パンケーキの前だけどどうしよっか~?」

「お肉の匂いもするのだ」


 さぁ、来い、営業スマイルをおみまいしてくれる!


「どうです、お嬢様方。本日最初のお客様になっては頂けないでしょうか?」


 自分で言っていて歯が浮く。自己嫌悪まっしぐらである。

 大丈夫かこれ、口元引きつってないか俺。

 が、多少効果はあったのか、三人組の一人が少しだけ表情を崩して歩み寄ってきた。


「美味しそう、これはなんなのだ」

「ライスボールというものを豚肉で巻き、特性のタレで焼いた肉巻きおにぎりです。商品名は『らんらんロール』です、どうでしょう?」

「面白い名前なのだ。一ついくら?」

「三五○ルクスとなっております」


 これは屋台メニューの相場から考えるとやや安いくらいだが、値段に対してボリュームが少なくもある。

 だが、そのあたりは味で満足してもらうしかない。


「あら、結構安いわね。じゃあ私も頂くわ」

「二人共買うなら私も買おうかな~」


 そして、複数人で固まっている人間を狙うことで、このように連鎖的に売れる。

 今回のメニューは複数人でシェアしにくい構造になっているかわりに、手軽に一口で食べられるようにしているので、便乗しやすいと踏んだわけだ。

 とりあえず、その作戦は成功したようだ。


「熱いのでお気をつけて。もしよろしければ、隣のパンアイスもいかがでしょうか?」

「あちあち……パンアイス? 初めて聞くのだ」

「去年はなかったよね~?」


 さてさて、どうなることやら。




「うっわ美形! まじで料理してるよ」

「でしょ~? 味もちょっとかわってるけど、癖になるんだ~」

「これ、イグゾウ様由来の料理かしらね? たしか食べた事があるわ、この味」

「このパンアイスも美味しいのだ。さっき二つ買ったけど安かった」


 ビバ、女性のコミュニティー。

 どうやら最初に来てくれた娘さん達が、女の子の知り合いに声をかけてくれたらしい。

 おかしいな、どっちかというとレイスとリュエの力で男性客を捕まえようと思ったんだけど。

 ……女性がここまで集まると、今度は男性が近寄りがたくなってしまうんですが。

 だがそれでも、すさまじい勢いで店頭に用意していた第一陣が売れていく。

 皆アイスだけでなくこっちのおにぎりも買ってくれるのだが、それでもなくなるペースはアイスの方が速い。

 先ほどの女の子が二つ買ったように、価格を低めに設定しているのでまとめて買う子が多いからだ。

 ……これは、思いもよらない効果まで生みそうだな。トラブルにならないと良いが。


「カイさん、一度交代してもらっても良いでしょうか?」

「ああ、お願いしようかな」

「……想定外のペースです。これでは予定より早く切り上げてしまわないといけないかもしれません」

「そうだな。じわりじわりと効果が出るはずだったのに」


 惜しまれつつも、バックヤードへと引っ込むことに。

 選手交代、女子力という名の胸囲の暴力、レイス。

 さぁ、これで女性陣の勢いが少しは収まってくれると良いのだが……。


「申し訳ございません、お嬢様。私どもの家令が、是非とも皆さんの分を自分で握りたいからと――」


 ふぁ!? なに火に油注いでるの君!


「執事さーん! 私の分はハート型に握ってー!」

「私もー!」


 消費されるおにぎりのペースが爆発的に伸びた。

 手を乾かす暇もなく、無心で握り続けた。

 そして俺は、考えるのをやめた――


 結局、初日に想定していた量を僅かニ時間足らずで完売してしまった。

 レイス曰く『今日は早めに切り上げた方が良いと判断しました』と。

 確かに彼女の言うことはわかる。口コミや評判と言うのは、日を跨いでからが本番だ。

 酒の席で、仕事の帰りで、夜のおしゃべりで、そんな憩いの時間でこそ広まるのだから。

 今日早めに切り上げたのは恐らく、今夜中に明日の分を追加で用意するためだろう。

 一度ギルドの自室へと戻った俺達だが、珍しくレイスがメガネをかけ、家計簿のような帳面に必死に何やら書き込みはじめた。

 難しそうにうなりながらも、その表情はとても楽しそうだ。


「カイくんカイくん、突然だけど最終日に私が抜けてしまっても大丈夫かな?」

「突然どうしたんだ? まぁ最終日は在庫を全部売り切るつもりでやるから、追加で作る必要もないから手はあくけど」

「ごめんね、すっかり忘れていたんだ。その日予定が入っていたんだった」

「ふむ、最近よく一人でどこかに行ってるけど、その関係か?」

「うん。もしかしたらいっぱいおみやげを持ってこれるかもしれないから待っていておくれ」


 ……おみやげ?

 なんだ、何か買い物にでもいくのだろうか? 一体誰と?

 オインクだろうか? それとも何か行きたい催しでもあるのだろうか。


「カイさん、明日捌く予定の在庫ですが、最終日の分から半分前倒しにして、今のうちに追加でバケットを注文しに行きたいと思うのですが」

「今日は様子見で少なめの出品だったから、今日の倍以上の量がまだ残ってるはずだけど、大丈夫なのか?」

「女の子の影響は計り知れませんからね……明日は最初に私が店頭に立ちますので、カイさんはバックヤードをお願いしても?」

「なるほど、俺を見るだけの人間もいるからその対策か。よく見たいなら並んで店の前までこないといけない、と」

「正直、カイさんをだしにするようで気乗りはしないのですが……やるからには全力を尽くしたいと」

「了解了解。リュエのパンアイスはどうしようか」


 結局、今日のお客の九割九分は女性客だったが、その中でも小さな子供は皆、リュエの方へと向かっていった。

 恐らくパンアイスの値段が安いため、子供でも手が届きやすかったのだろう。ふぅむ、これは子供の親も引き込めるだろうか?

 そして、相手が子供ならば、接客はリュエで問題ないだろう。

 今日だって、リュエは子供がくるたびに大げさなしぐさで美味しさを語って聞かせたり、美味しいと言ってくれた子供に笑顔を振りまいたりしていた。

 そんな彼女を、こちらに並んでいた女性陣も微笑ましそうに眺め、つい自分も食べてみたくなりそちらへと移るという、最高の循環がなされていた。

 そう、このままなら何の問題もない。このままなら。


「さてと、明日から多少の妨害もとい、対策もされそうだしどうなることやら」

(´・ω・`)ここ窓際で暖房つけてても前足が震えて動かないの……

(´・ω・`)タイプミスがこわいわ

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