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八話

 奴は遅れてやってくる

 街へ来てから3日目の朝。

 今日も俺は早朝からギルドへと向かう。

 宿の主人は毎朝俺に1杯の牛乳と、野菜を練り込んだパイを手渡してくれる。

 それを食べながら――


「店主、今日もリュエは先に?」

「ええ、お連れ様なら日の出と共にギルドへ向かいましたよ」


 そう、俺はリュエと別々に仕事をしていた。









 ギルドに到着し、いつも通り受付へと向かう。

 お相手は魔族の女性、羊の巻角を生やした、桃色のショートカットの若い子だ。

 そして、期待通りに胸元のボタンが外され、谷間を見せつけてくる。


「カイさぁん、なんで人間の姿なんですぅ? もっと見せびらかしましょうよぉ」

「こちらにも事情がある。これで我慢してくれ」


 周りからは見えない魔眼のみを装備して、ちょっと目を細めて視線を送る。

 すると――


「あふん……た、たまりゃなぃですぅ……えっとぉ、カイさん向けの依頼はこの2つですぅ」



 俺は二日目からは魔王ルックを封印して活動していたのだが、どうやら角や翼等を隠すのは難しいが不可能な訳ではないらしく、こうして堂々と披露している。

 どうやら魔族の女性にとっては、翼や角、そして魔眼は強い血脈の証であり、憧れの対象だそうだ。

 そして魔族の男は絶対数が少ないのだとか。

 ……ゲーム時代の男女比率がまさかここまで影響を与えているとは……お陰で毎朝美味しい思いをさせて頂いています.


 それはさて置き、魔族の彼女が気を利かせ、いつも俺向けの簡単な依頼を斡旋してくれている。

 本来褒められた事ではないそうだが、割とお気に入りの人間にこういう事をする受付嬢が多いのだとか。


「ではこの『ソルトディッシュ周辺の見回り』と『グロウホースの脂身の収集』を受けよう」

「了解しましたぁ」


 ソルトディッシュはあの塩湖の名前で、グロウホースはその塩を舐めにやってくる大型の馬の魔物だ。

 一応、リュエの住んでいた森にもいた相手だし、俺でも問題なく倒せる相手だ。

 というか俺が倒せない魔物ってこの辺りにいるのだろうか?


「……敗北を知りたい」

「何か言いましたかぁ?」







 ギルドを出ると、丁度リュエがこちらへと向かってくる。

 だが、互いに視線を反らし、無視をするようにすれ違う。

 リュエの後ろには見慣れない男が3人、まるで舎弟のように付き従っている。

 ……まぁ良い、行こうか。



 街門を出る際、門番に依頼の話をし見回りについて尋ねる。

 どうやら既に複数人受けているようで、門番の指示に従って見まわる事になるらしい。

 俺は塩湖までの道をまっすぐ進み、到着したら時計回りに一周してきて欲しいそうだ。

 ついでにグロウホースについて尋ねると、昨日からちらほら走って行く姿を見かけるらしい。

 この様子なら依頼はどちらも達成出来るだろう。


 街道を進みながら、左右に広がるまばらな草原を見渡す。

 地質のせいで草が育ちにくいのか?

 塩湖の近くだしその影響もあるのかもしれない。

 ……暇である。

 見渡しても魔物の姿などどこにもないので、ちょっと駆け足で塩湖までいってしまおう。




 そんなこんなで依頼終了。

 塩湖を挟んで反対側、俺達が抜けてきた森の側にある小屋で依頼を受けた証を見せ、手続きを終えて小屋を後にする。

 ここで手続きをしないと、見回りをサボった扱いになるそうだ。

 奪剣を移動速度特化の構成にしたお陰で、かなり早く依頼が終わってしまった。


 ちなみにグロウホースの脂身はたっぷり5頭分入手してある。

 ギルドから預かっているクーラーボックスのような箱に詰めて、アイテムボックスに収納済だ。

 今考えれば、リュエのバッグから物を取り出しても、アイテムボックスに入れれば問題ないんじゃないだろうか?


 そして、夕暮れ前にギルドへと戻った俺は、報告をしてすぐに宿へと戻る事にした。




「カイくん! もう嫌だ!!!」

「ははは、後2日頑張りな」


 部屋に戻ってそうそう、リュエが半泣きで飛びついてくる。

 うんうん、やっぱり彼女がいないと調子が出ない。

 そもそも、なんでこんな事になっているのかと言うと――


「ぐぬぬ……報酬が破格だっただけにキャンセルも出来ない」

「しかも明らかに下心丸出しの依頼主だしな」


 彼女は二日目、ある依頼を受けていた。


『氷霧の森への同行(女性の魔術師)』

 それは、パーティーの募集ではなく、お金を払って一緒に来てもらうという物だった。

 報酬は三日間で15万ルクスと破格、俺とリュエの一月分の宿泊費と同額だ。

 だが、思わぬ落とし穴が。


「なんで私がカイくん、というか他の男と一切話しちゃいけないんだ」

「あれだろ、独占欲。あわよくば自分の女、もとい専属魔術師にしたいっていう」

「……もし契約を破ったり、私に何かしようとしたらただじゃ済まさない」

「その時はあれだ、ギルドを敵に回してでも皆殺しで」


 有言実行、大好きな言葉です。











 しかしまぁ、得てしてこの手の話は予想通りの事が起きてしまう物で。

 初日にギルドで起きなかったテンプレが遅れてやってきたと言いますか、案の定――



「僕達となら、彼女は100%、いえ120%の力を発揮できるのです。そして、彼女のような人は僕にこそふさわしい」

「"ルーベル"様は既に氷霧の森で"リトルフェリル"の討伐にも成功しておられます。リュエ様の"魔術"とルーベル様の剣技は、まるで長年連れ添った夫婦のような一体感でございました」

「姐さんも俺達と一緒のほうが絶対に良いって言うだろうぜ。なんなら、俺達が新しい魔術師を紹介してやっても良い」



 見るからにお金持ちだと言いたげな、無駄に豪華な装飾のなされたプレートメイルを着こむ男と、深い青色のローブに身を包む老人。

 そして大きな太い槍をこちらに見せびらかすように掲げた褐色のスキンヘッドの大男。

 リュエの依頼の最終日、いつまでたっても戻らないリュエを迎えに行こうとして、宿の前で鉢合わせたのがこの三人である。

 ……本当、お約束だなぁ。


「寝言は寝て言え。リュエは恐らくギルドか。通らせてもらう」

「話を聞いていなかったのかい? 僕達が彼女を――」


 俺が17歳じゃなくてよかったな! 一昔前までは17歳は恐怖の対象だったんだぞ!

 もう10年も前なんだよな……"キレる17歳"とかもう覚えてないよな。

 "皆殺し"なんて言ってはみた物の、実際に事を起こしたデメリットを考えるとさすがに動けない。

 けど面白くない物は面白くないし、当然何かしらの意趣返しはしてやりたい所だが。


「彼女に判断して貰おう。彼女がもし、君たちに付いて行くと判断したのなら大人しく身を引こう。それとも君達は彼女が望んでもいないのにこんな話をしにきたのか?」

「……わかった、良いだろう」


 以外にもあっさり引いた。一応プライドがあるのだろうか? それとも何か策でも?

 不意打ちとかしても無駄だって予め分からせるべきかね?


「では、領主のご子息の前だ。こちらも相応の姿をして行こう」

「ふん、最低限の礼儀はわきまえて――」


 敢えて目の前で装備を変更、もうすっかり自分の中で"魔王ルック"と呼んでしまっている一式。

 さすがに驚いたようだが、それだけだった。

 おかしいな、少なくともギルドの連中は警戒していたのに。





 ギルドへと到着すると、すぐにリュエを見つける事が出来た。

 何やら待合所の一角で、中年の男性と対談中のようだ。


「ですから、何卒応接室の方へ……」

「断る。私がそこに行かなければならない理由はなんだ? もしギルドの権限だと言うのなら、すぐに脱退しよう」

「おいおい、穏やかじゃないなリュエ、どうしたんだ?」

「む、カイくん、来てくれたのか……お前たち、何故カイくんと一緒にいるんだ」


 二人の話に割りこむように彼女へと声をかけると、仏頂面から笑顔に変わったと思った瞬間、俺の背後を見るとすぐに能面のような無表情に戻る。

 これは確認するまでもなく、後ろの三人組の独断先行って事なんだろうな。

 ……で、この明らかにギルドのお偉いさんらしき人物がリュエを引き止めている、と。


「リュエ、この3人がお前を引き抜きたいと言ってきた。リュエもそのつもりなのか?」

「そんな訳ないだろう? 私も散々断り今日で契約も終わりだって言うのに、このギルドの統括に引き止められていてね、困っていたんだ」


 領主の息子と言うのは、ギルドよりも権力があるらしい。

 そもそもまだこの組織がどこに属しているのかも知らないし、俺も迂闊だったのかもしれない。

 まさか領主の子息程度に良いように使われるとは。


「さて、リュエがこう言っている以上、もう俺達に関わるのはやめてもらおう」

「統括、貴方もだ。私は彼らが戻るまで話を聞いているだけでよかったのだろう?」

「……そうですね。申し訳ないルーベル殿、これ以上はさすがに私の方で引き止める事は出来ません。一度ギルドを通してなされた契約、しっかりと守って頂きます」

「くっ……ならば契約延長だ! あと3日! 報酬は倍出す、30万ルクスだ!」


 思いの外あっさりと引く統括。ちょっとだけ好感度アップである。

 あれですか、権力ではないけど、寄り合いと言うか付き合いと言うか、最低限の便宜を図るから、もう文句は言うなよ的な。

 そして往生際の悪いお坊ちゃん。見たところ年齢は……外国の方の年齢はぱっと見じゃわからないけど、恐らく20にも満たないだろう。


「延長で御座いますか……リュエ殿が承諾して下さるのならば……」

「ああ、勿論断らせて貰う。もう十分稼がせて貰ったからね」

「な! じゃあ40万! 40万ならどうです!」


 ……甘やかされて育ったんだろうなぁコイツ。

 よし、リュエさんや、思いっきり手酷く断っておやりなさい。

 そういう意図を込めてアイコンタクトをする。

 だが――


 俺は失念していた。

 こいつが……ちょっとお馬鹿さんだって事を。

 何をどう勘違いしたのか、どうしてそういう発想に至ったのかはわからないのだが、彼女は得意気にこうのたもうた。


「しょうがない、じゃあここにいるカイくんに勝てたら仲間になってあげようじゃないか」

 テンプレニキおっすおっす

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