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百十話

(´・ω・`)そっか、ここにいるらんらんは豚神だったんだ

(´・ω...:.;::..本編には出られないけど

(´・:.;::.....忘れないでね

...:.;::......   ...

『ごめんなさい、彼女は恐らく失礼な態度を沢山取ると思います

 ですが、どうか彼女の願い、本題だけは聞いてください。その後はどう振る舞っても私が責任を取ります。

 私も知りたい何かが、きっと彼女の本題に含まれているはず。どうかそれだけでも、貴方に見てもらいたいんです』


 これが先ほど、オインクに送られてきたメールの内容だ。

 豚面を書く余裕すらない必死さが伝わってくるその文章に、俺もこの場に留まる事を選んだ。

 そこまでして知りたい内容がなんなのか、気にならないと言えば嘘になる。

 だから、今は耐えよう。


「相変わらず感が鋭いですね。しかし、そう急がなくても良いでしょう? 料理もまだなのですし」

「オインク、俺はとっとと終わらせて部屋に戻りたいと言っただろ。メールは尊重しよう、だがそれだけだ」


 自分の都合を最優先する。

 さらに言うと『自分の機嫌を損ねないように動く』ことを最優先する。

 仕方ないね、今回は羽根を伸ばすと決めてきたのだから、こういう公的な場所での活動を優先するつもりは毛頭ないんです。

 ましてや、俺を呼び出したのはオインクではなく、本当はこの娘さんだと分かったのだから。


「……いいわ。こちらも要件を済ませられるのならそれに越したことはないのだし。この手記を見てもらいたくて今回は貴方を呼んだのよ」


 少し呆れ気味にため息をつきながら、イルはそれを手渡す。

 紙の縁がやぶれかけたり、皺になったりとかなりボロボロになってしまっている一枚の手紙。

 だが幸いにして、その文面は無事だったようだ。

 そして俺は、その内容に目を通す。


「正直そこまで期待していないわ。扱いにだけ気をつけなさい。まぁオインクも解読出来なかったのだし、ダメで元々よ」

「確かに読むことは出来ましたが、ほとんど解読出来ませんでした……」


 気に入らないが、解読を試みる。

 恐らくオインクが俺の過去、つまりゲーム時代の発言から予測し、この娘に話したのだろう。

『もしかしたら読める人間がいるかもしれない』と。

 そしてその内容は、オインクが紹介したい人がいるなんて嘘をついてまで俺に解読を試みる程。

 きっと門外不出、イル自らが俺に見せようとしないかぎり、決して目に触れることの出来ない場所に保管されているのだろう。

 大方、イグゾウ氏の孫にあたる彼女にもアイテムボックスのような物があるんじゃないのかね。


 気を取り直してその文面を見る。

 ……ああ、読めるさ。オインクだって読むことだけは出来るだろう。

 ただ、その意味を理解し、何を求め何をして欲しいかはきっと彼女ではわからない。

 ……あのさぁ、せめてこういう大事そうな手記は標準語で書こうよイグゾウさん。

 これ、仮に他の解放者が召喚されても、読める人間って限られると思うんですよね。


「熱心に見ても読めないものは読めないわ。別に期待もしていないし罰を与えるつもりもないわ。返してちょうだい」

「いや普通に解読出来たけど」

「む、本当かい? アキダルの訛りに似ていたけど、ほとんど私もわからなかったよ?」


 と、いつのまにか俺の脇から中を覗いていたリュエが唐突に言葉を発する。

 そう、ここに書いてあるのはとてつもなく訛っていたであろう彼が、そのまま文字に起こしたかのような文だ。

 正直俺も一語一句理解出来たとは言い難いが、それでも九割程は理解出来た。

 何を求め、何をして欲しいのかを。


「まぁ、たぶん俺とイグゾウさんは同じ場所出身だし」

「なんですって!?」


 懐疑的な目を向けていたイルの表情がクワっと変化し、詰め寄るようにこちらへ迫る。

 こっち来んな、殴るぞ。


「たぶん県北に住んでたのかね、所々に津軽弁も混じってたわ」

「一部単語はわかったのですが、具体的な内容がわかったのですか?」

「ばっちり。まぁ解読者以外には内容は秘密にしてほしいみたいだけど」


 要約すると、手紙の文章はこうだ。


『これを読める人間がいるのなら、私の墓に酒をかけてくれないだろうか?

 その際、私の愛用していたクワも持参してもらいたい。それと、これを読めた人間だけで来て欲しい』


 なんだろうね、文面から察するに墓に何か仕掛けでもあるのだろうか?

 そして読めた人間に限るとなると、日本出身の人間、つまり解放者やそれに親しい力ある人間にだけ来てもらいたいように思える。

 原住民に知られたくない何かがあるのだろうか?


「内容を話しなさい」

「それはイグゾウさんの遺志に逆らうことになる」

「……本当に? 何か大きな富でも得られる算段でもついたのではなくて?」

「……随分な言われようだな」


 あれですか、もっと謙った態度をとらないと納得しないとかそういうのですか。

 それとも、やはり俺がオインクと対等に立っているのが気に入らないとかなんですかね。

 思えば、都市の外まで彼女を迎えに来た男だってそうだ。そして、恐らく今目の前にいる娘さんも。

 オインクが友人と呼んでいたが、彼女からしてもオインクは友人。

 その友人が唐突に知らない男と仲良くし、便宜を図っているのを知って機嫌を損ねる。

 まぁ無いとは言い切れない。

 が、それでもここまで言われてしまうとさすがにね。


「……カイヴォン、本当に申し訳ありませんでした。今日のことは全て私の落ち度です。後日、個人的に会って頂けますか?」

「分かった。料理人には後で部屋に料理を届けるように言ってくれ。後、すまなかったとも」

「な、なにを言っているの? オインク、どうして貴方が謝るのよ!?」

「イル、私は貴女に、今日お呼びするのは私の大切な友人と言ったはずです……」


 珍しく、心底失望したと思わせるような暗い声で話すその姿に、不思議な気分に陥る。

 ここで『俺のことなら気にしなくていい』や『別にこれくらいどうってことはない』なんてフォローが出来たらいい大人なんだろう。

 まぁ、この子も若いんだし、環境的にも傲慢で高慢で少し高飛車になってしまうのだって致し方ないのかもしれない。

 ……だから今日は許そう。これで許そう。

 今日のところはこの場を黙って去る。それで終わりだ。

 それが最大限の譲歩だ。生憎、俺はいい大人どころか、悪い大人にすらなりきれていない身なんで。


「じゃあ、またなオインク」

「申し訳ありませんでした、本当に」

「待ちなさい! 話しなさい、今すぐに! なぜ止めるのオインク!」


 背後で喚く声を無視し、ドアマンがどうすればいいか狼狽えていたので、意趣返しと八つ当たりを兼ねて蹴り開く。

 ……結構楽しみにしてたんだぜ、俺。豚ちゃんがこの世界で作った友達がどんな奴なのかとか、こんな大都市でわざわざ用意してくれる料理とか。

 でも、さすがにこの状況で美味しく頂くなんて無理だ。


「二人共、悪かったな。特にレイス、嫌な気分にさせただろ」

「いえ、相手が相手でしたから……」

「……カイくん、大丈夫かい? なんだかいつもより機嫌が悪そうだけど」

「少し、考えればわかることなんだよ。この街の未来まで見据えて動いた大英雄が、ここまで厳重に隠そうとしている何かがあるって事くらい」

「それは、とても危険なものなんですか?」

「さてね。ただ、恐らくおいそれと人の目に触れさせて良い物じゃないってのは確かだ」


 優先順位は低くなるが、そのうちその場所を訪れる必要がありそうだな。





 部屋に戻った後、そのままアイス液を仕上げ、リュエの切ったパンをバットに並べて浸していく。

 そのまま放置していると、部屋の扉がノックされた。

 恐らく料理が出来たのだろうと扉を開けると、そこには――


「豚ちゃんどうした? イルはどうなった」

「彼女は自宅へと戻りましたよ。……やはり彼女はまだ、柔軟な思考が出来ないようです」

「俺が豚ちゃんに馴れ馴れしすぎたせいもあるんじゃないか?」

「……元々、円卓を用意しようとしたのを彼女が替えました。恐らくぼんぼんを試したのだと思います」

「それは自分より下だと、弁えろと暗に俺に言いたかったって意味なのかね」

「そうですね。彼女は並び立つものが私の他にいませんから、そういうきらいがあります。恐らく私がぼんぼんを友人だと初めに言ったのが面白くなかったのかもしれません」


 ……仕方ないね。

 この一言で流すことにする。

 しかし、まさかオインク自らが料理を運ぶとは。

 ん?


「四人分ある件について」

「……ニチャア」


 つまりここで食べると申すか。


「私は構いませんよ。どうぞいらしてください」

「おいでオインク、もう少ししたら美味しいパンアイスが食べられるよ」

「すみません、立場上事前にメニューを食べたりするのは禁止されているんですよ」

「そっか。じゃあ当日楽しみにしていてよ」


 食事を交えながら、俺は先ほどの考えをオインクに語って聞かせる。

 恐らくイグゾウ氏の遺したものは、この世界にとって毒にも薬にもなりかねない、危険を孕んだものだと。

 だが、やはり彼女も同じことを思っていたようで、あの場で話さなかったのは正解だと言う。


「イルはある意味、お父様や祖父であるイグゾウ氏の名声に囲まれて生きてきました。しかし今の立場になり、さらに多くの物が見えるようになり、初めて分かったこともあるのです」

「……それは、自分の力だけでなしたものがあまりにも少ないと気付いてしまった、という事ですか?」

「ええ。レイスさんの仰る通り、これまでの彼女の功績は、父の代から引き継いだものが大半をしめております。それでも、彼女の求心力と人間を束ねる気質は本物だとは思うのですが」

「それに伴う実績が少ない、と。まぁ自覚して動こうとするのは評価するけど」

「でも、それでカイくんを疑ったり、視野が狭まっちゃ本末転倒だと思うけどね」


 食事を進めながら、まだ年若い議長についてそう評する。

 恐らく、そんな環境に育ち、その中で唯一自分と対等、いやもしかしたら家族のように慕っていた相手がオインクだったのかもしれない。

 それを突然現れた見知らぬ男があんな態度をとれば……いやいや、知らんがな。俺は呼びだされた側の人間ですから。


「ところで、結局俺に会わせたかった理由ってのはあの手記のせいか?」

「そうですね。あ、ついでと言ってはなんですけど、ぼんぼんにお願いがあるのですが」

「なんじゃらほい?」

「近々、エンドレシアからレン君がやって来ます。恐らく正規の方法で白銀持ちになる道どれほど厳しいかわかったのでしょう、この祭りの最後のイベントについては知っていますか?」


 そういえば、闘技大会で優勝、そして白銀持ちに勝利すれば審査の後、無条件で昇格だったか。

 つまり彼はそれを狙ってこちらに向かっていると。


「万が一があります、ぼんぼんには――」

「断る。なぜならレン君は優勝しないからな」

「……それはどういう? ぼんぼんは大会には出られませんよ?」

「実は、私が出場する事にしたんです。優勝を目指しているのですが、解放者が相手ですか……」


 大丈夫、我が家のお姉さんは解放者なんかに絶対負けたりなんかしない!

 あ、ふりじゃないからね、本当に負けないからね?

 だが、エンドレシアはここよりも魔物が強く、鍛錬する場所としては最適だし、ううむ。


「一応、白銀持ちの中の一人として登録しても良いでしょうか? 何人かいる中から選ばせる形となっていますので」

「……その中に俺がいたら、恐らくレン君なら俺を選ぶ、と」

「そういうことです」


 いいだろう。あれからどれくらい変わったのか、この目で確かめようじゃないか。

 ただし! レイスに勝てたらの話だけどな!!


「あ、そろそろ四〇分経ったよ、様子を見てきていいかい?」

「あ、じゃあ凍らせるのも任せていいか?」

「任された。じゃあ行ってくるよ」


 とここで、時限式の術式を自分にかけていたのか、唐突にリュエがピクンと立ち上がり貯蔵庫へと向かった。

 さてさて、どんな具合になっているだろうか?


「しかし、パンアイスとは中々いいメニューですね。今の時期はバケットを売り出す商店も多いですし」

「そういう事だ。ちなみに米もこの大陸のものだし、まさにご当地メニューって奴だな」

「……ドングリバケットを使うのはどうでしょう」

「却下」

「そんなー」


 どこまでドングリ好きなのこの人。キャラ付けのつもりが気がついたら染み付いちゃった感じなのかね。

 しかし、アイス一本でやるつもりもないし、何か軽食的なものも作りたいところだ。


「ぼんぼんー考えなおしてくれませんかー? きっと美味しいとおもうんですよー」

「人の部屋で転がるな。さっきまでの威厳はどこにいったし」

「誰も見てないならいいんですよー。おほーっこの絨毯ふっかふかねー」

「土足文化でよく転がれるな、お前」

「大丈夫ですよー、この部屋の扉をくぐる段階で靴の汚れは取り除かれるようになっているのでー」

「なにそれすごい」


 靴の裏をみると、たしかに土や汚れが消えていた。

 だからって転がるのは行儀が悪すぎですぜ豚ちゃん。


「おほーっおほーっ」

「……残った二人の三大議長が先ほどの方とこの方ですか……」

「おい、大陸の住人がため息ついてるぞ」

「出来たよー! あ、オインクなに転がってるの? 食べてすぐ寝ると牛になっちゃうよ」

「らんらんはお豚様よー! 牛と一緒にしないで?」


 ……肉巻きおにぎりでも作ってみようかね?

 なんかこいつ見てたら作りたくなった。

(´・ω...:.;::..

(´・ω;::..)

(´・ω・`)おほーっ

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