百七話
(´・ω・`)予約投稿で外出先でも更新する豚の鑑!
「はい、では第一回『何を作ろうか会議』を始めたいと思います」
「ローストビーフ!!!!」
「はい一度気に入ったからってすぐに口に出すのはやめましょうね」
落ち着ける場所と言っても、宿も決めていない上に人も多く落ち着ける場所もなく、仕方ないので我らが魔車の中で会議中です。
実はこの中、座席を折りたたんでフラットスペースにかえられるんですよね。もういっそのことここで寝泊りするか。
……いやこんな狭い場所に長い間リュエとレイスを篭らせるわけにはいかないし、色々とこちらも理性を削り取られてしまいます。
本能を刺激するいい香りが……。
「屋台でよくあるメニューから考えますと……そうですね、串ものがいいかな、とは思うのですが」
「確かに。だが実際にはもっと人が多くなると、串だと事故の危険性も出てくる。無意識にそれを避ける人も多いんだよ」
「なるほど……そうなりますと、ホットドックのように手で持って食べられるものがベストでしょうか?」
本当ならば、実際に出店する場所を決めてから煮詰めていきたい話だが、とりあえず大まかな方向性を決めておくに越したことはない。
可能なら隣りの屋台のメニューなどを調べておきたい所だが、それを調べる時間もなければ人脈もない。
まぁ、そもそも思い出作りがメインなのだし、そこまでしなくてもいいのだが。
……多少の欲はあるんですけどね?
「ちなみに去年の優勝したお店は、ギルド二階のフードコードで販売しているそうですよ。どんぐりを使ったパンケーキで、砕いたナッツを混ぜ込んだクリームを挟んだものだそうです」
「なにそれうまそう」
「いいなぁ、私は森が長かったから、ナッツ類は大好きなんだよね」
「そういえば、今回は抽選なしで出場権がもらえたのか」
「はい。どうやら例年より早い収穫祭だったせいもあり、この大陸にこれなかった方が多いのだとか」
「ほー。じゃあこれでも人が少ない方なのか」
やっぱりこれも龍神を倒した影響なんだろうか。
ううむ、もしかしたらエンドレシアの気候も、だいぶ変わっているかもしれないな。
「カイさんは何か意見ありませんか?」
「そうだな、俺としてはこの地域に関連性の深い食材を使いたいと思っている。たとえば、イグゾウ氏のおかげで浸透している米とか」
「あ、カイくんお米好きだからね。じゃあ私は天丼が食べたいなぁ」
「いや、そうなると器も必要になるし、お手軽に食べられない。それに揚げ物とご飯となると手間もかかってしまう」
「そうですね。出来れば下ごしらえ分を超過しても、リカバリー可能なメニューがいいでしょうね」
「むぅ……難しいものだね」
けど、段々楽しくもなってきた。
やっぱりシンプルにおにぎりといきたいところだが、それでは地味だ。
屋台に必要とされるのはお手軽さとスピードだけじゃない、パフォーマンス要素だ。
……フレアバーテンダーのように握るとか? やだ、かっこ悪い。
パフォーマンス要素も大事だが、もう一つ大事なものがある。
それは香り、匂いだ。
恐らく他の屋台のメニューもそこに着目しているだろうし、当日は多種多様の香りが飛び交うことになる。
そうなると、おにぎりじゃあ厳しいだろう。
ううむ、ご飯でお焼きでも作るか、それか焼きおにぎりでも作るか。
「じゃあ次、自分が好きな食べ物をあげてみよう。そこからメニューのヒントが出るかもしれないし」
「……お肉です」
「レイスかわいい。お肉好きだって恥ずかしそうに言うレイスかわいい」
「い、いじめないで下さい……」
「私は……パンのアイス」
「……あ」
懐かしい。
そうだ、俺がリュエの家で初めて作ったデザートだ。
……なるほど、今の季節は初夏。気温も高くなり始め、皆冷たいデザートを欲しがる季節じゃないか。
そういえば、結局あれっきり作っていなかったけど、それを彼女は今も好きな食べ物としてあげてくれるなんて。
あ、俺ちょっと泣きそう。
「パンのアイス……どういうものでしょう?」
「ええと、カイくんがまだ私の家に住み始めてすぐの頃に作ってくれたんだ。私は、ああいうのを食べたのは初めてだったから」
「リュエ、ちょいとこっちへきなされ」
「うん?」
なでりこなでりこ。
メニューうんぬんなしに、作ってやらねば。
なでりこなでりこ。ほのかに温かい絶妙ななで心地です。
「思い出の料理なんですね……あの、私も今度――」
「今夜にでも作るさ。下ごしらえも簡単だし、メニュー候補としてあげてもいい」
それに、簡単な物なら他の物と同時に販売することも可能だ。
レイスが貰ってきた大会のルールブックにも『一つの店が出していいメニューは三つまで』と書かれている。
他にも『最終的なメニューを決定して提出した後に使う材料を変えてはいけない』や『昨年度優勝者は無条件で出場可能』とある。
それらを踏まえて、頭の中で様々な知識が渦巻きメニューを構築していく。
なにせ、こっちには大魔導師リュエがいるし、料理上手なレイスもいる。
そして激しい競争と後ろ暗い工作が渦巻く世界を知る俺もいる。なんとかなりそうな気がしてきた。
ううむ、やっぱり一人で考えるより三人だな。
三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったものだ。
その後、パンアイスと米を組み合わせたものを考えた結果、俺はアイスの起源を思いだした。
諸説あるが、その昔中国で、雪山から雪を持ち帰り、そこに乳と米を煮詰めたシロップをかけたとかなんとか。
まぁ他にも乳を凍らせた物が始まりだとか、それこそ無数の説が存在するわけだが。
だがそれでも、アイスと米は共存可能だと歴史が証明してくれている。
……あれ? そういえば、俺のふるさとにもあったような……。
やだ……てっとり早く自分の知ってる商品パクったらいい話でしたよこれ。
しかし米を製粉するのは手間だな、一度炊いて使うか? ライスプティングっていう先駆者もいるのだし。
そうすると、アイス液に濃度がつき過ぎるからパンに仕込みにくいか。
……気泡の大きいバケットを使えばいけるだろうか? 今晩にでも試してみよう。
「カイさん、聞こえていますか?」
味は牛乳だけじゃなくてバニラも必要だが、バニラビーンズはリュエの倉庫にあるだろうか? そもそも香辛料ってどこで栽培してるんだ? 寒い地方じゃ厳しいはずだが……。
「カーイーさん!」
「ぐぇ」
突然、レイスが背後から飛びついてきました。
こわい、ついに肉食系女子(二つの意味)に食べられてしまうんですか。
あれですか、その二つの果実は獲物をおびき寄せるためのものなんですか。
「優しくして下さい、お願いします」
「あの、別にいじめたわけじゃなくてですね、呼んでも返事がなかったので……」
「ありゃ、それは悪かった。どうしたんだ?」
「それが、リュエが化粧室に向かったのですが、中々戻ってこなくて……」
やばい、今度は何を追いかけて迷子になったんだうちの子は。
あれか、今度は人の流れを追いかけていったりしたんですか彼女。
それとも『人はどこから来てどこに行くんだろうか』なんて哲学的思考に迷い込んだんですか。
どうするべきか考えようとしたのだが、そのタイミングで魔車の扉が開かれる。
そこには、少しだけニマニマと表情を歪めたリュエの姿が。
ふむ、なにか良い事でもあったのだろうか?
「おかえり、どこにいってたんですリュエ」
「ちょっとトイレが混んでいただけだよ~?」
「……ワザとらしいですよ? なにか面白いことでもあったんですか?」
「ふふふ、秘密だよ。後で分かると思うから、楽しみにしていなよ」
「嫌な予感しかしないんですが」
なんだ、この胸騒ぎは。絶対になにかやらかすつもりだこの子。
だが、経験上問い詰めても決して教えてくれないだろうし、彼女は意地悪や悪意で隠し事はしないと知っているので、深く詮索はしないが……。
けどなー! 無自覚でこっちを困らせたりするからなーこの子!
「変なことはしちゃいけませんからね?」
「だいじょうぶだいじょうぶ」
本当、だいじょうぶなんですかね?
少しして、そろそろ昼食にしようとギルド二階のフードコートへと向かうと、案の定去年の優勝者であるドングリのパンケーキサンドの店に行列が出来ていた。
だが、他にも食事的なメニューを出している店もあったため、俺達は先にそちらへと並んだ。
ううむ、大盛況だな。そんなに美味いなら食後のデザートにでも買ってみようか。
ふと、自分の前に並ぶ女の子を見やる。
やや背が低く、薄紫色の不思議な髪の色をしたその少女。
だが、俺の目を引いたのはそんな髪色ではなく、その頭頂部についている――
「ハムネズミ族……?」
三角形の動物の耳がはえていた。
いやいや、けどしっかり本来耳のある場所にもエルフの耳があるし、これは一体……。
「お兄さんなに? これが珍しいの?」
俺の呟きが聞こえたのか、その少女はこちらを見上げる。
変装をしていない時のレイスと同じ、ワインレッドの深い色の瞳で見上げた彼女は、身長の割に大人びて見えた。
六年後くらいが楽しみである。
「いやすまない、気にならないと言えば嘘になる」
「あーそっか。サーディスの人間って余りこっちに来ないから仕方ないか。まぁいわゆる私はハーフなんだよ、こういう種族なの」
「ほー」
やっぱりゲーム時代とは違い、まだ見ぬ種族が沢山いるようです。
シュンもダリアも、そんな場所で暮らしているのか。
「じゃあお先に」
気がつくと少女は、自分の料理を受け取り去っていくところだった。
む、あの子が持っているのはチャーハンじゃないか。俺もそれにしよ。
「さっきの子と同じのを一つ」
「あいよ、カニチャーハン一丁!」
席に戻ると、すでにレイスが別なお店で買ったと思われるサンドイッチを前にして待っていてくれた。
む、よく見るとそっちは……ステーキサンドだと……。
俺の視線に気がついたのか、少し顔を赤らめる姿がとてもカワイイです。
凄いですね、そのカロリーは恐らく余すところなく胸部へと集中しているのでしょう。
「リュエはどこにいったかわかるかい?」
「リュエならあそこです」
彼女が指差すほうへと視線を向けると、長蛇の列の後方、あのドングリパンケーキの店に並んでいるところだった。
……せっかくレイスがわざわざ食べずに待っていたというのに、この分では三人揃って食べ始める頃には料理が冷めてしまいそうだ。
温かいものは温かいうちに。というわけで先に食べてしまうとしようか。
「ああ……リュエが泣きそうな顔に」
「……仕方ない」
最後の手段。アイテムパックに収納。
状態を保存してくれるので、あとは空腹に耐えれば済む話だ。
やっぱりみんな一緒のほうが美味しいからね、せやね。
目の前にいるお姉さんも、少し切なげにサンドイッチを見ながら虚空へとしまいこんだのでした。
「あら、カイもここで昼食ですか?」
「ん?」
耳慣れない呼ばれ方をしそちらへ目を向けると、そこには我らが豚ちゃんの姿が。
それと同時に、昼食時で賑わっていた辺りがしん、と静まり返る。
だがその静寂を切り裂き、脳内に電子音が鳴り響く。
『(´・ω・`)仮の身分として、私直属の冒険者のカイということにしたいと思います』
なるほど把握。
「ああ、せっかくだしな。今リュエがあのパンケーキ屋に並んでいるから、それを待っているところなんだよ」
「そういうことでしたか……ふむ、ではそうですね」
彼女はツカツカと歩き出し、行列を通り過ぎ店へと向かう。
……やばいアレ気持ちよさそう。行列を顔パスとかすっごい気持ちいいんですよね。
「すみません、エイコーンサンドクリーム少な目クラッシュナッツ多目を四つ頂けますか?」
「か、かしこまりました! 今すぐ!」
「あ! オインクずるいよ! ちゃんと並びなよー! それにお一人様二つまでって書いてあるのに!」
違う、違うんだリュエ。
それは気を利かせて俺達全員の分を買ってくれているだけだから!
すみません周りの皆さん、あれうちの子なんです、ちょっと可愛いのが売りのうちの自慢の子なんです。
「リュエの分も含まれていますよ。先に席に戻っていてください」
「ありゃ……ごめんねオインク、ありがとう」
皆、ポカーンである。
少しして、リュエはオインクと一緒に四人分を運んで戻ってきた。
ごくごく自然に合席ととなったが、問題なし。
ただ、周りからの視線が集中して重苦しいです。
だが、俺以外の三人は気にも留めずに甘味について語り合っていた。
「美味しいね、ちゃんと香ばしく炒られていて、クリームとの相性も抜群だね」
「そうですね。パンケーキは付け合せや主食としてしか食べなかったのですが、ナッツケーキのようで美味しいです」
「そうでしょう? このメニューは去年、一昨年と二連覇を達成した王者のメニューですからね。私も毎年、この時期は毎日これを食べているんですよ」
二連覇とな。ちょっと俺も食べてみよう。
あ、すっごいふわふわだ。普通にパンケーキをこんな風に手早く焼くのすら難しいんですが。
おーおー、ふわふわの邪魔をしない程度にナッツの細かさも調整してあるのかね? それに生地もよく渋抜きしたドングリ粉を使っているのか、ほのかな香ばしさがナッツの香りと生地の香りを上手に繋いでいる。
……確かに繋いではいる。だけどこれ、本当にこれでいいのか?
本当ならこれ、アーモンドパウダーを混ぜて焼くべき物なんじゃ?
確かに香ばしさはある。けど、本来ならアーモンドパウダーを使い、クリームの味と生地の味を寄せて一体感を生み出すメニューのように思えた。
香りは確かに今の状態でもマッチしているが、味はそこまで一致しているようには思えない。
いや元々甘味は専門じゃないから詳しくは言えないけど。
「……うまいな」
「それだけですか? カイならもう少し語ってくれるかと思ったのですが」
「そういうのは脳内に留めて置かないと下品でしかない。今は周りに人も多いしな」
「なるほど。で、カイはこれに勝てますか?」
「む」
見れば、レイスとリュエが少しだけ申し訳なさそうな顔をしている。
さては喋らされたな? まったく油断も隙もありゃしない。
「まぁ、なるようになるさ」
(´・ω・`)今頃きっと作者はPSO2のチムメンと横浜でオフ会中ですん