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百四話

( ´・ω・` )

「むぅ……仕方ないなぁカイくんは。じゃあやってみるよ?」

「俺も使えるけど、繊細な温度コントロールは出来ないからね、頼む」


 我が家の魔導マイスターに、珍しく炎の魔術の操作を依頼する。

 俺が闇魔導で囲いを作り、その中を炎の魔術で高温にするのが目的だったりします。

 さらに溶岩プレートの遠赤外線効果も追加で。

 魔術を使ったオーブンというわけだ。


「じゃあレイス、そのプレートに切ってある野菜を並べてくれ」

「わかりました。お肉はお野菜の上に置けばいいんですよね?」

「そのとおりでございます」


 やっぱり料理を知ってるアシスタントさんがいると作業が段違いです。

 見てるかダリア、シュン、これが女子力だ。今の時代、女性だけでなく男性もある程度出来ないとだめなんだぞ!

 くそう、あいつらいつも俺が作ってる脇でゲームなんてしおってからに。

 そして約一名、自分が置かれている状況に気が付き、あたふたしている人が。

 気がつけばサボり仲間であったリュエまでもが手伝っているからね、仕方ないね。

 いいよいいよ、座ってな豚ちゃん。今君にこっちにこられるとマズいのです。


 それから少しして、黒い黒曜石のような箱が鎮座している横でリュエが魔術の操作をし、俺とレイスは付け合せのマッシュポテトとソースを何種類か作っていた。

 本日はこの後最後に作る予定のグレービーソースの他に、ワサビ醤油とガーリックソース、ついでに酸味を利かせた玉ねぎソースを用意する予定です。


「カイくん、時間だよ。止めていいのかな魔術」

「ああ、ありがとう、お疲れ様」

「やっぱり炎の魔術は疲れるね……」


 なんちゃってオーブンへと向かい、底の一部を変形させて漏斗状にし、溢れでた肉汁を鍋に回収してから魔術を解除。

 すると、溶岩プレートの上でこんがりと焼けた肉と、じっくりと焼かれて凝縮された野菜の数々が現れる。

 すかさず肉だけを闇魔術で覆い、水分が蒸発するのを防ぎながら熱を奪う。

 これ、本来なら肉をラップかなにかで包んで肉汁を落ち着かせる行程なんだけどね? 便利な魔術があるなら使わない手はない。

 やばいな、これがあれば俺、どんな料理でもお手軽に作れる気がしてきた。


「カイさん、この野菜はどうしますか?」

「んー、既にだいぶ凝縮されてるから、肉汁入れた鍋の中で一緒に煮込んでおくれ」

「ワインはどうします? 自前の物がいくつかありますけど……」


 え、レイスさん貴女自前のワインなんて持ってるんですか?

 今度飲ませて下さい。


「あ、ワインなら私も持っているよ。アーカムの屋敷から徴収してきたんだ」

「鬼畜がおる」

「リュエ、貴女……」

「ぼんぼん、娘さんの教育がなっていませんよ」

「すみません、いつもはこんな事をする子じゃないんです!」

「リュエ、もしかしてギルドに提出していない品がまだあったりしませんか?」

「そ、そんなことないよ! 欲しいものはちゃんとギルドにお金を払ったし……」


 そうそう、リュエが徴収した物や俺が押さえた屋敷に残されたものは一度、全てギルドに提出した上で競売にかけられている。

 その売上の一部が俺にも入っているわけだが……リュエさん、ワイン好きなんですね。

 そういえばいつも飲んでいるのはワインとか前に言っていたな。


「うーん、牛肉ならどれが合うかなー」

「ああいや、料理に使う奴だからそんな上等な奴じゃなくていいぞ?」

「なんだ、じゃあええと……はいこれ」


 受け取ったワインをレイスに手渡し、野菜と肉汁の入った鍋へと注いでいく。

 後は煮詰めて、ほどよい所でソースを濾して調味するだけだ。

 ううむ、濃度次第ではブールマニエを……。


「カイくーん、お腹すいたー! ポテトだけでも食べていいかい?」

「らんらんもお腹ぺこぺこよー」

「はいはい、じゃあそろそろテーブルとイスの用意でもしててくれ」


 そして俺は、もう一つの肉を密かに闇魔術から開放する。

 外から見えないように、ひっそりと用意していた肉を切り分けるのだった。




「ほい完成。ローストビーフとソース四種にマッシュポテト。バケットは軽く炙ってにんにくを軽くこすりつけて香りだけついてる状態だ」

「おほーっ! 随分本格的ね! ほら、シェフさん早くお肉切り分けて?」

「わ、私のは厚くお願いするよ!」

「……出来ればその、私も」


 完成した肉塊をテーブルにドカンと乗せ、切り分けながら各々の皿へと盛りつけていく。

 ソースは自分でお好みのものをかけて召し上がれの状態だ。

 さてと、じゃあ後は切り分けるだけなのだが――


「あら? 私のだけ少しお肉の色が違いますね」


 オインクが自分の皿に切り分けられた肉を見て、そう感想を漏らす。

 若干、赤身が薄く淡いピンク色の肉だ。


「ああ、たぶん部位から少しずれたんだな」

「大きなお肉でしたからね」


 まぁ部位どころか種類すら違うんですけどね。


「違う違う、もっと厚く! これくらい、これくらい!」

「それじゃあ美味しくないぞ? ある程度薄さがないともったいない」

「むう……」


 そして我が家の腹ペコ代表が、指で厚さをしめしてくるが、どう見ても国語辞典くらいの厚さでした。

 なお、レイスはそのあたりをわきまえているのか、ちゃっかり二センチ程のギリギリの厚さをしめしてきた。


「美味しいですねぼんぼん。グレービーソースも絶品です」

「そりゃよかった。もっとレポーター風に頼む」

「ええと……肉の甘さが引き立っていて……脂が口の中でとろけて……」


 豚ちゃん、冷めた牛脂は口の温度じゃ普通は溶けないんですよ。

 最初にレイスが言っていただろう?

 そして本人もそれに気がついたのか、はっとした顔でこちらを見つめてくる。

 若干青ざめた顔で、恐る恐る訪ねてくる姿に、心が歓喜の声を上げる。

 あーかわいい。


「……ぼんぼん、これ、なんのお肉ですか?」

「そいつはな、ブウブウって鳴くんだ」

「どぼじでぞういうごどずるのおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「でも美味いだろ? それにキャラ付けしてるだけで、別にタブーって訳じゃないんだろ?」

「そ、それはそうなのですが、アイデンティティーがその……」

「じゃあ黙って食え、な」

「そ、それはそれとして、私にも食べさせて下さいローストビーフ」


 もちろん食べさせますとも。

 しかし、画面の向こうにいた見ず知らずの人間だったオインクに、こうして俺の作った料理を食べてもらえることになるとは。

 なんの因果か偶然か、面白い人生だよ本当。


「美味しいなぁ……野菜をくるくるーっとして……あむ」

「ソースも美味しいです。この、少し辛いのはなんでしょう?」

「ああ、それは西洋わさびことホースラディッシュだよ。ちなみにベースはチキン南蛮の下味にも使っていたと思うけど醤油ね」

「なるほど……実はあまりイグゾウ氏が遺してくれた調味料を使ったことがなくって」


 言われてみれば、元々麦食文化で西洋料理、とくにイタリアに近い食文化が浸透しているこの大陸に、日本のものが持ち込まれても中々浸透しないだろう。

 だがそれでも、米や酒は嗜好品として広まっているようだが。

 ちなみに米の大半はエンドレシアに輸出されてるそうです。寒い大陸だから塩っ辛い料理が多いからね、パンよりも米の方が合うって人も多いのかもしれない。

 もっとも、オインクの影響もあるのかもしれないが。

 しかしイグゾウさんは本当に何者だったのだろうか?

 農地開拓に栽培法の確立、さらには米の品種改良まで手がけていたそうだ。

 さらには発酵食品や酒造りまで。恐るべし農家の星。


「美味しいですね、本当に。ちょっと料理が得意な人程度を想像していましたが、まさかここまでとは」

「一応、これが飯の種だった時代もあったんでね」

「どうりで……これはもしかしたら、収穫祭で面白いことが起きるかもしれませんね」

「そりゃどういう意味だ」

「それは着いてからのお楽しみですよ」


 意味深な笑みを浮かべるオインクは、一通り堪能したのか食後のワインを口にし始める。

 それを合図に俺も給仕を終え、自分でも食べ始める。

 ああ、美味いよ本当これ。

 ただ――


「さすがに作りすぎたな」


 レイスさん、こっそり自分のアイテムパックにしまうのはよくない。

 明日これでサンドイッチでも作るから、その肉塊をこちらに渡してもらおうか。

 最近ではしっかりもののお姉さんが、すっかりリュエ化しております。どうしてこうなった。


 そして翌日、昼にはこの大陸の首都、収穫祭が開かれる『サイエス』に到着するため、本日の御者は俺とリュエ、そしてレイスが勤めております。

 三人並んで座れる広々空間。うん、素晴らしい。

 そして客車には一人ポツンと我らが豚ちゃん。その様はまるで、一人檻に閉じ込められた豚のようです。


「どうしてですか!」

「いやぁ昨日中がいいって言ってたから」

「どうして一人にする必要が……」

「つい、な」


 仕方ないんです。ついいじめたくなるんです。

 豚だからね、仕方ないね。

 そんな嘆きの豚はさて置き、両脇の小麦畑がまばらになり始め、視界の先に街の外壁が見えてくる。

 近づくにつれ大きくなっていく姿は、留まるところを知らず、どんどんと育っていく。

 その規模は、これまで見たどの街よりも大きく、もはや都市と呼ぶべきものだろう。

 いったい何万人もの人を抱え込んでいるのか想像することすら難しい。

 あれが、この大陸の中心なのか……。


「オインク、すごいなこの大都市は!」

「そうでしょう! 外壁だけで圧倒されましたよ私も」

「落とした人間がなに言ってんだよ。じゃあこのまま向かっていいんだな?」

「はい。もう通信魔導具の無線範囲内に入りましたので、出迎えの準備をさせておきます」

「なるほど、こんな広い都市だからか」


 それを見越して開発したのかね?

 ならいずれ、本当に携帯電話のように誰もが持ち歩く時代が来るかもしれないな。


「私がここに来るのは、何十年ぶりでしょうか……アルヴィースに辿り着く前に、少しだけ滞在したくらいです」

「へぇ! じゃあレイスもほとんど初めてだし、楽しみだね!」

「ええ。じゃあそろそろ……」


 御者席のレイスが何やら小さなアトマイザーを取り出し、シュッと自分の髪へ一吹きし、魔術を使う。

 すると、髪の毛が光だし、俺と初めて出会った頃の黒髪へと変化していた。

 瞳はどうやら即興でかえられるものではないらしくワインレッドのままだが、羽を消したおかげでだいぶ印象が変わっていた。

 リュエは今回は髪の色も変えずに、どうやらすっかり気に入ってしまったのか、ハーフアップスタイルに髪色はそのまま、そして服装もいつも通りのローブではなく、動きやすそうなパンツルックだ。

 そういえばいつもスカートだったのに珍しいな。


「カイさんは普段どおりの姿で十分だとは思いますが……そうですね、髪型だけでもかえてみますか?」

「んー、軽く束ねてみるか」


 首の後ろで軽く束ね、レイスから受け取ったゴム紐で留める。

 ……あまり変わらないんじゃないかね、前から見たら。

 そう思って聞いてみたのだが――


「顔の輪郭がくっきり見えてだいぶ印象がかわりましたよ。爽やかさが三割り増しです」

「おー、似合ってるよカイくん。そうだ、私のこれを……ほら」

「……カブトムシの角はノーセンキュー」


 どうやら十分に効果があるようです。

 さてさて、それじゃあ行きますか!

(  ´・ω・`  )

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