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百二話

(´・ω・`)お ま た せ

「では、後の事は任せたぞ、イクス」

「はい、カイヴォン様!」


 どうも、たぶん今日でしばらく見納めになるであろう魔王ルックのぼんぼんです。

 現在、元領主の館の特設ステージにて、任命式のような事をしております。

 この領地の有力者や街の住人が見守る中、俺は厳かにイクスさんへと剣を授与する。

 これ、アーカムからパクった魔剣です。なんでも、この剣ってアーカムが公爵としてこの土地を任された時に授かった、大変由緒正しい一品なのだとか。

 それを俺の手ずから皆の前でイクスさんに渡すことで、彼女こそがこの地の領主だと知らしめるというアピールをするのが目的だ。

 あ、もちろん段取りやら式場のセッティングは我らが万能豚ちゃんが手配してくれました。

 さて、じゃあ俺も自分の職務を全うしますかね。


「聞け、アルヴィースの民よ。私は本日を持って再び旅に出る! この地に来たのは、ひとえにこの歪んだ統治を正すため。だが、もうお前達は私の力に頼らずとも、己が足で進むことが出来るはずだ!」


 原稿 オインク

 演技指導 レイス

 アドバイザー リュエ

 共演者 イクス

 主演 俺

 の提供でお送りしております。

 死にたい。公開処刑です。俺以外の四人がノリノリだったんです。

 どうしてこういう事になると一致団結するんですかね?


「己の持ち味を、得意分野を、出来る事を、守るべきものを、考えて動く。考えて生きる。もう、お前達にはそれが出来る……そうだろう?」


 声のトーンを少しだけ下げ、柔らかく微笑む。

 子を諭すように、優しげに語りかける。

 会場が、水を打ったような静けさに包まれる。

 ……なんだろう、俺達四人が組んだら、新興宗教やら詐欺集団やら、なんでも出来そうな気がしてきたんだけど。


 そして、静けさが徐々に打ち破られ、小さな嗚咽と鼻をすする音が耳に届いてきたのだった。




「……もう、しばらくは表舞台には立たないからな、俺」

「そうなんですか? すごく素敵だったと思うのですが……」

「そうじゃない、そうじゃないんだよレイス……」


 どうも、傷心と焦燥、そしてなんとも言えない、首筋がゾワゾワするような恥ずかしい気持ちに苛まれている私です。

 無事に式典を終えた俺は、街から離れた場所まで魔車で『飛んで』やってきております。

 住人たちに見送られながら空へと消えていったと思わせておいて、ぐるっと旋回して大陸の中央へと方向転換したわけです。

 あれですよ、これから羽を伸ばす意味もこめて収穫祭をエンジョイしようとしているのに、そこにいると皆に知られるわけにはいかんのです。


「じゃあ、頼めるか、ケーニッヒ」

(御意)


 一旦魔車から降り、我が家の愛犬もとい愛龍ケーニッヒにあるお願いをする。

 すると、僅かに俺のMPが吸い取られる感覚が訪れ、目の前の巨躯が光に包まれていく。

 その光が、まるで空気が漏れ出た風船のように縮まっていき、ある程度の大きさまで縮まったところでその光が収まる。

 するとそこには、契約する前、まだ禍々しい瞳や黄金の角を生やす前の、ありし日のドラゴンの姿が。


「おお、すごいじゃないか」

(主のお力のお陰です)


 どうやら、アルヴィース周辺で戦い続けていたうちの子が、ついに自分の力を完全に制御し、その姿まである程度変えられる程になったそうです。

 あれですかね、そのうち人化でもするんですかね? だがリュエ曰く、さすがにそれはありえないのだとか。


「で、どうよオインク。これなら目立たずに行けるだろ?」

「……なんというか、カエルの子はカエルと言いますか」

「その心は」

「チート乙」


 無言のほっぺビヨーン。

 あらやだもち肌。


「やべでくだざい」

「だが断る」


 まぁ、これで足の確保は万全な訳だ。

 後はこのまま街道を進み、この大陸の中央にある大都市『サイエス』へと向かうのみだ。

 この領地を抜ければ、広大な土地いっぱいに広がる小麦畑へと出ることになる。

 そこを抜けた先にあるのがこの大陸の首都でもあるサイエスというわけだ。

 だがやはり、当時の王家もアーカム自身の力を恐れていたのか、この領地から中央への距離はかなりある。

 徒歩だと一ヶ月、馬車でも一週間以上はかかると言われている。

 だがそこで、我が家の魔車の出番というわけだ。

 元々、魔車は馬に比べて持久力、速度共に優れており、一日の走行距離は魔物の種類によりけりだがおよそ三倍。

 速度に至っては、どんなに低級な魔物でも、馬の二倍はあると言われている。

 で、問題の我が家のケーニッヒ君のスペックなのだが――


 時速約七五キロ、飛行時は二○○キロをキープ。

 さらに飛んでいる場合は一日中飛びっぱなしでも問題なく、地上を走った場合でもぶっ通しで一二時間はへっちゃらです。

 そこにさらに、リュエの回復魔導と俺からの魔力供給で倍率ドン!

 さすがに飛んで行くのは目立ってしまうが、それでもこの速度、持久力は異常である。

 まぁそこまで本気で移動はしませんけどね、つまらないし。

 むにむにむに。


「リュエ、ちょっと塩とハチミツ出して」

「下味つけようとしないでくれる!?」

「カイさん、女性の肌にそんな風に触れるのは……」


 とそこへ、少しだけ不貞腐れた風な顔のレイスさんの登場である。

 このお姉さん、どうやら自分と同じく美人カテゴリにいるオインクに対抗意識を持っているんです。

 それは違うぞレイス、これはお姉さん枠じゃなくて、食料兼マスコット枠だ。見た目に惑わされちゃいけない。

 しかしそれでも、レイスが俺の手を掴み、一瞬視線を惑わせどうしようかと思案した後に――


「えい」

「しっとりなめらか」


 自分のほっぺに持って行きましたとさ。




 さて、そんな訳で街道をひた走る我らが魔車(名前はまだない)ですが、ようやくこの魔車そのもののスペックが発揮され、嬉しそうにレイスが窓から顔を出しております。

 これが前の世界の車なら危ないと注意をするところだが、この世界の街道には行き交う対向車や標識、看板、そんな注意すべきものはなく、街道そのものも綺麗に整備されているため、飛んでくる石などもなく快適だ。

 なので、レイスは思う存分高速回転する車輪を眺め、僅かな段差や起伏に反応するダンパーに目を輝かせているようだ。


「実際たいしたもんだよな、この魔車」

「これも、昔の魔族と故イグゾウ氏のお陰なんですよ。もちろん、私も改良を加えていますし」

「ここぞとばかりに自分の功績にしようとする豚の風上にもおけない畜生」

「本当ですよ!? イグゾウ氏の板バネに、魔族作の魔導具による衝撃吸収術式に、私が油圧式ダンパーを加えたのですから」

「マジかよ。オインクって前の世界で何してたんだ?」


 食文化を浸透させ、組織を拡大し、人心を掌握、さらには革命を起こし一つの大陸の在り方を変える。

 正直、こんな事をただの一般人が出来るとは思えない。たとえ知識だけを持っていたとしても、それを実際に行うのには絶大な覚悟が要求される。

 ……あ。


「普通に働いて普通に暮らしていたネトゲユーザーでしかありませんよ、私は」

「……まぁ、それでも知識はあったんだろうな」

「趣味が読書でしたからね。読める物はなんでも読みましたよ。パソコンに保存されているチャットログですら、私にとっては変則的な物語のようなものでした」


 そうか、そうだったな。

 ここでまた出てくるのがステータス補正か。

 戦闘で発揮されるその効果だが、戦闘とは一体なんなのか?

 覚悟を決め、困難に立ち向かうと決めた瞬間から、それは始まっているとは言えるのではないだろうか?

 つまりそう、これもまた『精神力』のなせる技なのかもしれない。

 思えば俺もこちらに来てから、色々と割り切り、冷徹なまでの判断を下した事も多々あった。

 元々苛烈な性格を潜ませていると自覚している身ではあるが、それを思えば色々と納得だ。

 ううむ……なんだかズルしてるようで良い気持ちじゃあないが、これも俺のものなのだし、気にしない方がいいのかね。

 あれですよ、使えるものはなんでも使う。立ってる者は親でも使えの精神です。


「ステータス補正ねぇ……」

「あ、そういえばぼんぼん、今回の一件で能力が上がったりはしていないんですか?」

「……え?」


 おう、いつもより興奮していた上に達成感と安堵感に満たされて、その後も激動の日を過ごしたせいですっかり忘れていたが文句あるか!


「……戦果はっぴょーう! どんどんぱふぱふ」

「おほーっ!」


 さて、今回はゲーム時代のシステムを理解しており、俺の力も知っているオインクもいるため張り合いがあります。

 では改めて今回の一件で上がった能力、そして取得したアビリティに目を通していきたいと思います!


【Name】  カイヴォン

【種族】  人間

【職業】  奪命騎士(5)←NEW 拳闘士(50)

【レベル】 401←NEW

【称号】  原初の魔王←NEW

      心を救った英雄←NEW

      龍帝屠りし者

      神の敵対者


【スキル】 闇魔導 氷魔法 炎魔法

      剣術 長剣術 大剣術 簒奪

      格闘術 サクリファイス

      カースギフト フォースドコレクション←NEW


【フォースドコレクション】

 カースギフトを与えた対象から、任意で一つスキルを奪い取る事が可能。

 カースギフトを解除した場合はスキルを戻さなければならない。


 おお、なんだかとてもおもしろそうな効果が。

 これはあれか、つまり[詳細鑑定]で知ることが出来る、相手の持つスキルを一つ奪う事が出来る能力か。

 そしてカースギフトは俺が解除しない限り残すことが出来るので、その気になれば永遠に奪うことも出来ると。

 なんだか今までとは別なベクトルで反則な能力じゃないですかねこれ。


「――ってアビリティを習得したわけですが、感想をどうぞ」

「そもそもそんな職業になっていた事に驚きなんですけど……他にもこんな反則じみたスキルを覚えているんですか……?」

「まぁまだあるとだけ」


 さすがに手の内は全部は晒しませんよ? この人だけは油断できないし。

 悪いね豚ちゃん、これも俺の性分なんだ。


「これもう視界に入っただけで相手が弱体化するの確定じゃないですか……私の仕事がなくなります」

「そもそも遠距離攻撃ならレイスがいるからそもそも出番はないっていう」

「ちょ、これでもレベルが上がってるんですよ? まだまだ負けません」

「いやぁ、弓と魔弓じゃそもそもの射程がね?」

「ぐぬぬ……」


 ちなみにオインクは弓による相手の部位破壊、武器破壊による弱体化と、付与術による味方の強化に、さらに自分の放った矢に状態異常を引き起こす付与を施すスタイルだ。

 まぁ、パーティー戦における司令塔兼援護ってのが主な役割かね。そういう点においては、豚ちゃんの右に出る奴はゲーム時代もそう多くはなかった。


「で、今度はお待ちかねの取得したアビリティな訳だが……」


 正直、レベルそのものが上がるとは思っていなかった。

 いくらアーカムのレベルが高くても、所詮は魔物ではなく人。

 今回上がったのだって、恐らく前回得たフェニックスの経験値のおかげだろう。

 ほら、いつもなら[修行]で貰える経験値を倍にして、さらに対応する[簒奪者の証]シリーズで五倍にしてるから。

 しかし今回はそのどちらもつけていなかったので、通常の量しか取得していない。

 あーでももしかしたら[簒奪者の証(魔)]が対応してたりしたのかね……。

 過ぎたことは仕方がないとして、メインである取得したアビリティを見てみる。


【絶対強者】

 自身のHPが減っていない場合のみ全ステータスが20%上昇する


【殺戮加速】

 戦闘中に命を一つ奪うごとに移動速度+5%


 む、これまた変り種が二つも。

 しかもこの【殺戮加速】はアーカムが持っていたアビリティだ。

 そういえば最初の瞬間、凄まじい勢いで攻撃してきたが、これって永続効果、すなわち一度上がった移動速度がそのままだったりするのだろうか?

 ……俺には力加減が出来なくて毎日少し動くたびに何かに激突する未来しか思い浮かばない。

 嫌だな、後でちょっと試してみよう。

 で、本題がこっちだ【絶対強者】。

 なんだか凄い名前だが、これをアイツから習得したと思うと、首をひねってしまう。

 絶対強者? アイツが? 雑魚だろあんなの。死者を盛大にディスるスタイル。

 これは元々アイツがもっていたものではないが、別にこれまで手に入れたアビリティだって、倒した魔物が使っていたものに限られていたわけではないので気にする必要はない。

 問題なのはこのアビリティの効果だ。

『HPが減っていない場合』この一文。これって[生命力極限強化]とのシナジーが大きすぎやしないだろうか?

 はっきり言って常時全ステータスが20%上昇と言っても過言じゃないぞ、これ。


「[絶対強者]ってのを覚えたわけだが、効果はこんな感じです」

「どれどれ、少し見せてください」


 メニュー画面を表示させ、オインクにも見えるように許可を出す。

 もちろん、ほかのアビリティ関係は秘密でございます。


「これは、立ち回り次第ではかなり強力なアビリティですね……積極性を失う事によるデメリットと合わせて考えると、近接向きではありませんが……」

「あー、うん、そうだな、うん」


 ここでオインクはゲーム時代の考えに基づき、この効果をそう評した。

 確かに、ダメージを負うと効果が切れてしまう以上、積極的に敵の前に出る前衛とは相性が悪いだろう。

 どちらかというと後衛、ダメージを負う機会の少ない職業向けと言える。

 そうだった、オインクは俺が手に入れた龍神関連のアビリティを知らないんだったな。


「ですが、優秀なヒーラー、リュエと一緒に戦うのなら、これ以上ないアビリティとも言えますね。うらやましい限りです」

「お、おう」


 うん、黙っておこう。

(´・ω・`)ちょっと更新頻度が下がります

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