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百話

(´・ω・`)百話達成

 俺が屋敷へとたどり着くと、丁度リュエとレイス、そしてイクスさんが出てくるところだった。

 その表情は晴れ晴れとしていて、イクスさんもまた、これまで見せたことのないくらい、生き生きとした表情で嬉しそうにレイスと手を繋いでいた。

 そんな和気あいあいとしたところに水をさすようで悪いが、俺は彼女達に声をかける。


「もう、いいのか? レイス」

「カイさん! はい、すべて、本当にすべて終わりましたから!」

「イクスさん、屋敷の中に貴女の契約に関わるものはありましたか? 見つからないようなら後でギルドから人をよこしますが」

「い、いえ! 既にリュエ様により、契約の解呪は完了いたしましたので」


 え、マジで。

 なに? うちの子どこまで有能なの?

 驚きながらリュエを見ると、これでもかと言わんばかりにない胸を張りふんぞり返っていた。

 なるほど、だから彼女はあの時、アーカムの命令を受け付けなかったのか。


「さすがだな、リュエ。こと魔術関係においてはどこまでも頼りになる」

「ぐ……素直に褒められると照れてしまうじゃないか」


 テレテレと頬を緩める姿がなんとも。

 だが実際、レイスを守り、イクスさんを救い、アーカムの……色々と可哀想な目にあわせたりと、まさに獅子奮迅の大活躍だった。

 なでりこなでりこ。キューティクルが素晴らしいですね貴女。

 なでりこなでりこ。いつもより余計に撫でております。


「カイさん、お願いがあるのですが、いいでしょうか?」


 とそこへ、摩擦熱を帯び始めた我がなでりこハンドを熱心に見つめていたレイスが声をあげる。

 む、貴公も頭頂部頭皮にダメージを負いたいと申すか。


「ん、なんだい?」

「しばらく、私の昔のお店に滞在しても良いでしょうか? 実は、この街にまだ残っているそうで」

「ああ、その場所なら俺も見つけた。いいんじゃないか? 俺もイェンさん達と話がしたいし」


 それに、罰則もあるのでどの道この街には滞在しないといけないのだし。


「私は先にオインク様へとお話を伺いに行きます。この度は本当にありがとうございました、カイヴォン様、リュエ様」

「気にしなくていいさ、俺の都合もあったんだし」

「ほらね? カイくんならこう言うんだよ」

「ふふ、言った通りでしょうイクス?」


 え、なに、俺の反応予想スレでもたてられてんの。

 やめて、俺そんなに行動が読みやすい人間なの?


「本当、なんですね。では、私はお先に失礼しますね。後ほど伺います」


 愛しそうに握りしめていた手を放し走り去るイクスさんの姿は、以前会った時より幾分幼く見えた。

 あれが、本来の彼女の性格なのだろうか?

 ハツラツとしたその後姿に、改めて自分が選んだ道が、正しいとは断言はしないが、それでも間違ってはいなかったと思うことが出来たのだった。


「さて、では行きましょうか、カイさん」

「聞いた話によると凄い場所に隠されているらしいね? ちょっと楽しみだよ」

「あー確かにあれはちょっと行き難い場所だなぁ」


 あの迷路のような、障害物競走のような狭い路地を抜けるのは、中々に厳しい。

 お年寄り勢である方々はどうやってあそこを通り抜けているのだろうか?

 もしかして、実は凄い身軽で、忍者よろしく壁蹴りでもして建物の上を駆け抜けたり?

 思わず奇声を上げながら疑問を口にしたくなりそうな光景だ。ナンデ? ナンデ?

 しかしこの時俺は忘れていた。

 あの場所に行くという事は、ヒューマン保護区を通るということを。

 ある意味、俺の影響が一番大きいといってもいいあの区画に行くというのが、何を意味しているのかを。


 心なしか、街を歩くだけで視線が集まってきているように思える。

 いつもなら、それはレイスやリュエに向けられる羨望の眼差しや俺への嫉妬のような眼差しだが、今回ばかりははっきりと分かる。

 俺だ。俺が目立っている。

 いや知ってたけど。けど明らかに昨日よりもその視線の数が増えてるんですよね。

 そしてそれは、ヒューマン保護区に向かえば向かうほど強く、多くなっていった。


「人気ものだねカイくん。ほら、さっきからこんなに人が挨拶してくれてるよ」

「すっかり魔王様がいたにつきましたね。それに、子供達もあんなに楽しそうに走り回って」

「確かに楽しそうなのは結構なんですが……さすがにこれは」


 子供がね、ずらーっと後ろにいるんですよ。

 一体どこのハーメルンの笛吹きですかこれ。

 百鬼夜行も真っ青だよ。というかこの街にこんなに子供いたのかよ。

 とそこへ、子供達の群れから一人の少年が駆け出してきた。


「カイヴォンさん!」

「お、ケージュじゃないか」

「どうしたんですか! お嫁さんも一緒だなんて」

「カイさんこの子凄くいい子ですね」


 レイス、君も相変わらずですね。


「保護区の奥に用事があるんだ。それと、区画長には近いうちに挨拶に向かうと伝えておいてくれないか?」

「はい! 昨日から母さんも姉さんも、これからどうすればいいのかーって悩んでるんです。だから、カイヴォンさんが来てくれるなら心強いです!」

「ああ、そういえば姉がアーカムのところにいたんだったな」


 確かに雇用の問題もある。

 そして、この狭い区画に押し込められてきた彼らも、ようやく自分の拠点を外に広げることが出来るようになるはずだ。

 これまで数十年間、決められた場所でしか生きることを知らなかった住人だ、今回のことで一番混乱しているのは彼らだろう。

 そうだな、自分が巻き込んだも同然の彼らを、このまま置いていくわけにもいかないよな。

 罰則の有無関係なく、この街にはしばらく留まらないと。


 その後、案の定狭く険しい路地に苦戦しながら、レイスのかつて暮らしていた原初の『プロミスメイデン』を目指す。

 俺はまぁ、服装的にもズボンだし問題はない。

 だがしかし、リュエとレイスはスカートだ。

 ふと振り返ると、悪戦苦闘しながら進む二人のおみ足がチラチラと、更にその先の神聖な三角地帯まで見え隠れさせながら後へと続いてくるではありませんか。

 眼福である。スクリーンショット保存機能の復活はよ。


「レイスレイス、大丈夫かい? ほら、このパイプの隙間なら通りやすいはずだよ」

「そ、それが胸がつかえて……」

「…………」


 レイス のこうげき。

 リュエに 大ダメージ。

 こうかは ばつぐんだ。

 この道も後でなんとかしないといけないな。

 これ以上リュエのような犠牲者を出さないためにも。


「なるほど……区画整備の際に瓦礫の中に埋められたのを掘り起こしたようですね」

「ということは、この場所は瓦礫を捨てる場所として……?」

「恐らく、私の居場所を無くすという意味と、見せしめの意味もあったのでしょうね。逆らう者の末路として」

「けど、凄く素敵なところじゃないか。まるで隔絶された聖域みたいだよ。さぁ、行こうよレイス」


 明るく先を促すリュエに言われたとおり、確かにこの場所には何かこう、不思議な空気を感じる。

 それはきっと、この場所をアーカムが最初に埋めたからこそ、他の場所のような影響を受けず、古きよき時代、まだ人々が暖かく過ごしていた時代の名残を残しているからなのかもしれないな。

 ……確かに、彼女の言うとおりこの場所は文字通り聖域だ。

 この場所だけは、今後もそっとしておくべきなのかもしれないな。


 レイスは、やはり万感の思いが込み上げてくるのか、一歩一歩踏み出すその歩みに、力が込められているように見えた。

 そして、扉まで残り僅かになった所で彼女は駈け出した。

 普段の姿からは想像も出来ない、お転婆な走り方。スカートを両手で軽く持ち上げ、階段を飛び越え扉へと向かう姿に、俺はあの写真の姿を幻視した。

 地味ながらも温かさを感じさせるセーターに身を包んだ、母と呼ばれていたあの時代の彼女を。

 そして、ややためらいがちにドアノブに手をかけ、彼女は声高にこう告げた。


「ただいま!」


 そう、告げた。




『子供達』に囲まれながら、レイスは最後にこの店を後にした時の事を語ってくれた。

 エンドレシアからこの国へと進出してきたギルドと、それをよく思わない王国との争いが激化してきた頃、当時既に実力者として認識されていたレイスにもまた、緊急依頼として出征命令が下されたそうだ。

 だが時同じくして、国とギルド両方の目を欺き、密かに己の領地に力を蓄えていたアーカムが領地を完全に閉鎖、王国、ギルド共に不可侵の状態になってしまったそうだ。

 元々アーカムは国王の腹違いの弟にあたり、公爵という高い地位についていたようで、恐らくだがギルドが勝つのならば、自分が王国の軍を食い止めたのだと言い、そして負けるようであれば、一気にギルドへと攻め入り、その功績を持って王位を簒奪するつもりだったのだろう。

 そんなどっちに転がっても問題ないように立ちまわった結果がその領地を完全に閉ざすという選択だったのかもしれない。

 そして、おそらくその混乱に乗じてレイスやその家族を捕らえるつもりだった、と。


「……ごめんね、随分待たせてしまったわね、みんな」


 最後にこの街を去ってから四○年弱、当時の子供達は皆年をとり、中には老人のような姿になった方までいる。

 だがそれでも、俺には皆の姿が壁にかけられている写真の子供のままに見えた。

 大きな身体の大人がレイスへと縋り付く姿に、俺は時の流れの無常さと、そして時を経てなお変わらない、家族の絆のようなものを感じた。

 恐らく、どこかでレイスは罪悪感を感じていたからこそ、ウィングレストの街でも同じように行くアテのない娘さん達を引き取っていたのかもしれない。

 そして、いつも彼女が不安そうに眠っていたのも、きっと無意識にこの場所を、この子供達のことを思っていたからなのかもしれない。


「母さん……本当に、本当によかった……昨日、私たちは声をかける勇気がなかったから、こんなおばちゃんになった私たちに、気がついてくれないかもしれないと思って……」

「俺もだ母さん……! 俺、結婚して最近孫まで生まれたんだ! へへ、笑っちゃうよな、一番小さかった俺が、爺さんなんだぜ?」


 小さな、本当に小さな古びた店。

 だけどそんな場所が、彼女の出発地点だった。

『親とはなんなのか』『庇護と親愛はどうすれば得られるのか』。

 かつて、そんな悲しい疑問を抱き俺に問うてきた娘がいた。

 その答えになるかはわからないが、この光景を彼女、ジニアに見せたいと思った。


 その時、俺は店の中に見当たらないリュエの姿を探し、外へと視線を向けた。

 そこにはリュエだけでなく、どこか入り辛そうなイクスさんの姿が。


「イクスさん、みんな待っている、中へ入りな」

「わ、私は……」

「ほら、カイくんの言うとおりだよ。みんなー! イクスさんも帰ってきたよー!」


 心配は、杞憂に終わる。

 年甲斐もなく、転がるように店から飛び出してきた兄弟姉妹に囲まれて、今度こそ家族が揃ったのだった。

(´・ω・`)百話でこの章が終わると思った? もう少しだけ続くんじゃ

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