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九十八話

(´-ω・`)寝不足らんらんだー!

(´・ω・`)PSO2生放送は色々と衝撃的でしたね

「別に怒ってはいませんよ? ただ今後の付き合い方についてちょーっと考えないといけないなーとか思っているだけですしー」

「ごごごごめんなしあ」


 人の黒歴史ノートを盗み見るに等しい暴挙に出た豚はどうするべきか?

 出荷? No手ぬるい。

 屠殺? Noそこまで怒っちゃいない。

 蹴る? Noいつもの事です。


「ちょっと気安く話かけないでもらえませんかオインクさん」

「やめて! 他人行儀はやめて!」

「では、今度から節度ある行動、主に俺をいじるような行為は控えると誓えますか?」


 他人行儀! そういうのもあるのか!

 実際、やられると地味に傷つくんですよね、これ。特に親しい間柄だと。

 なおこの手の冗談はお互い気心知れた者同士じゃないと、本格的に関係修復が難しくなるので要注意。


「で、どうしてここにいるんだ? イクスさんの所に行っていたんじゃなかったのか?」

「切り替えが早すぎますよ相変わらず……彼女には先に、話すべき相手がいるようでしたので。ぼんぼんこそ、一緒に行かなくてよかったんですか?」

「レイスは俺なんかよりもよほど大人だ。俺がわざわざしゃしゃり出る必要もないだろ?」


 それに、今回は母と娘の問題だ。部外者が口を挟むものじゃない。

 まぁ俺がレイスの父、もしくは兄という見方をすれば部外者ではないのかもしれないが。

 それでも、これは彼女が母として生きた時代の精算だ。やはり俺はいない方がいいだろうさ。


「……随分と信頼しているんですね、この短い間で」

「まぁ、家族も同然だからな。信頼も信用もするさ。無償の愛だって捧げられるくらいだ」

「ふぅ、ごちそうさまです。本当、羨ましい話です」

「だろ? オインクはそのキャラしか作っていなかったしな」


 羨ましかろう、うちの娘は誰にもやらんぞ。


「……そういう意味じゃないんですけどね」

「なんだって? タコ糸で縛って煮こまれたいって?」

「どぼじでぞうなるのおおおおお!?」






 つい一昨日まで、まるで鉄の檻のようにしか思えなかった館。

 それが今では、どこか物悲しい、空虚で寂れた遺跡のように感じられる。

 オインクさんに連れられて、アーカムが住んでいた館へと再び足を運んだ私は、その一室へと通されました。

 私にあてがわれた部屋とは違い一般的な広さのそこは、簡素なベッドと文机、そしてクローゼットがあるだけの、シンプル過ぎるくらい物の少ない部屋でした。

 そしてこの部屋の主もまた、部屋の有様を映し返すように、余計なものを一切身につけようとしない質実剛健とした出で立ち。

 ですが、その人物の眼差しだけはその強さを失い、戸惑いに彩られ、逃げるように視線を逸らしていました。


「……ようやく、貴女と話すことが出来ますね、イクス」

「……」


 この場には既にオインクさんの姿はありません。こちらの調子や、カイさんの言葉の裏を読み取り、こうして気を回してくれました。

 部屋にはイクスと私、そして心配性なのか、それとも何か考えがあっての事なのかリュエの姿もあります。


「私は、母親失格です。貴女が辛い思いをしていた事も知らずに、隠れ住むように長い年月を生きてきたのですから」

「……」


 大陸全土を巻き込んだ戦乱と、それに乗じたこの街でのアーカムの暴挙。

 誰が敵で、誰が味方かも分からない混乱の中、私は身動きを取ることも出来ず、ギルド構成員として争いが収まるのをただ待つことしか出来なかった。

 もしもあの時、全てを振り払って街に戻ることが出来ていたら。

 戦争なんて自分には関係ない、家族が何よりも大事だとギルドに言い放つことが出来ていたら。

 自分を慕う多くの仲間を置き去りにし、一人街に戻る道を選択出来ていたら。

 イクスはまだ生きていると、どこかにいると信じることが出来ていたら。

 そして何よりも、恐れずに自ら、アーカムの身のまわりを調べることが出来ていたら――


「ごめんなさい、イクス。私は、あなたに謝ることしか出来ません……」


 彼女は、私を見ようともしてくれない。

 口も利いてくれない。

 それが何よりも辛く、涙が出そうになる。

 けれども、泣いていいのは私じゃない。この子だ。

 そして私は拒絶されたとしても、この子の母親だ。

 たとえ後悔の涙でも、子供に涙を見せないのが、私の小さな意地だから。

 目を合わせてくれなくてもいい。私が貴女を見つめるから。

 声を聞かせてくれなくてもいい。私が語りかけるから。

 ……そして、そのためならば私は――今の幸せを手放しても……構わない。


「リュエ、カイさんに伝えてくれませんか? 『私はしばらくこの街に残ります』と」


 いつか、この子の口からその思いを聞けるその日まで――

 いつか、貴女が私を許してくれるその日まで――




「ねぇイクスさん、教えてくれないかな? どうしてレイスとお話出来ないんだい?」

「リュエ、いいんです、私が悪いの、だから――」

「私は母様に合わせる顔がないからです――!?」


 リュエが尋ねた瞬間、それまで沈黙を貫いていたイクスが口を開く。

 それを見た瞬間『私ではダメなのか』と、再び悲しみが襲ってきましたが、目の前にいる彼女もまた、目を見開き驚きを露わにしていました。

 まるで、自分の口が勝手に話してしまったかのように手で口を押さえながら困惑する様子に、思わず私もリュエを見る。

 ですが、彼女が特別変わったことをしているようには見えませんでした。


「合わせる顔? レイスに何かしてしまったのかな?」

「……私は、母様を悲しませ、苦しませ、私たちの生活を――っ、どうして!?」


 また、イクスが語り出す。


「私たちの幸せを脅かす人間に屈し、穢され、そしてその片棒を担いでしまいましたから――なんで、なんで言っちゃうの!?」


 身体が勝手に動くように、胸の内を話しだす我が子。

 そして、身体が勝手に動いてしまうのは、私も同じだった。

 気がつくと、私は困惑しているイクスを胸へと抱き込んでいた。

 ……どうして? どうして貴女はそんな風に考えてしまったの?

 違うよ、私は貴女が汚れてるなんて思ってもいないし、屈したとも思っていない。

 ただ、最後まで戦った誇り高い、誇らしい愛娘としか思っていないのに。

 悪いのは子を守れなかった母である私なのに、どうして自分を責めてしまうの?

 言いたいことが多すぎて、言葉が詰まって出てこない。

 ただ、抱きしめることしか出来ない。


「ねぇ、レイスもイクスさんも、ちょっとすれ違っているだけだと思うんだ。私はいなくなるから、二人でじっくり話してごらんよ」

「……わかりました」

「ありがとうございます……リュエ」


 何をしたのかは分からない。

 それでも、このきっかけをくれた最愛の姉に、深い感謝を――


「イクス、貴女は何も悪く無い、悪いのは臆病だった私です」

「いえ……母様は悪くありません。街から逃げた妹達の事もありましたから……」

「……けれども私が見つける事が出来たのは……貴女の妹だけよ」

「エルスは無事だったんですね……よかった……あの子だけがあの日、イェン達と一緒じゃなかったから心配していました」


 ああ、そうだ。

 エルスにも教えてあげなければいけませんね、貴女の姉は生きていると、立派に戦い、そして今も元気だと。

 イクスにも教えてあげないと、貴女の妹は、立派に成長して私の跡を継いでくれたと。

 ああ、やっぱりもう少しこの街に留まらないと。

 話したいことが、教えたいことが、あまりにも多すぎます……。


「ユエ……いえ、リュエさんはどうやって私に本音を言わせたのでしょう……これでも魔導師としての力量には自信があったのですが」

「リュエはその……カイさんの次に強い規格外ですから……」

「カイヴォン様……色々、話したいことが沢山あります、聞きたいことも沢山あります、母様」

「私もよ、イクス」


 私は幸運です。

 手放したものが、再びこうして舞い戻ってきたのですから。

 今の幸せも失わずに、こうして我が子を抱きしめられるのだから。

 本当に夢のようで、でもこの手の中の温もりは本物で、泣きたくなるくらい愛おしくて。

 ああ――私はカイさんにどれほど感謝を示せばいいのかわかりません。

 全てを捧げても、それでも余りある大きすぎる恩に、どうやって報いたらいいか想像も出来ません。

 そして、きっと彼ならば『別に気にしなくていい』と、苦笑いをしながらくすぐったそうにするんでしょうね。

 ……私の未来の旦那様は、どこまでも無欲で、そしてどこまでも欲張りです。

 そんな矛盾を孕んだ、不思議な人です。

 そんな彼の話を、してあげよう。

 私のこれまでを、そして我が子のこれまでを語り合おう。

 だから、今はもう少しこのままで――






「……レイスが幸せそうでなによりだよ、私は」


 扉に背を預け、私は手の平の上にある物を取り出した。

 光沢のある、綺麗な乳白色の丸い石のような物。

 そう、アーカムのベッドの仕掛けに隠されていた『契約の魂珠』だ。

 私はこのアイテムの解析を屋敷の中でずっとしていた。

 そして、どうにか所有者をアーカムから私に書き換える事に成功したんだ。

 たぶん、これがアーカムの切り札だろうと思ったから。

 そして、私によくしてくれた彼女のためになると思ったから。

 けれども、それをこんな形で使ってしまったことに、少しだけ後悔がある。

 契約で縛られる辛さは、たぶんこの世界の誰よりも一番よく知っているから。

 だからこそ、こんな風に無理やり話すことを強要してしまったことに心が強く反発する。


「終わったら、すぐにイクスさんに返して契約解除してあげないと、ね」


 よかったね、レイス。

 本当によかった。これで、何にも邪魔されずに一緒にいられるね。

 何の憂いもなく、一緒にいられるね。

 私はもう、誰かが側からいなくなるのは我慢出来そうにないんだ。

 我儘かもしれないけれど、ここに一人残るなんて、許さないからね?

(´・ω・`)サモ、ナー?

(´・ω・`)豚ちゃん使役する職業かしら。

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