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九十七話

(´・ω・`)おまたせしました

 さて、今日も今日とて魔王ルックでやってまいりましたギルド応接室。

 すでに外には面会希望者が列をなし、これから一人ずつ面談をする手筈となっているわけですが。

 いやはや、昨日の今日だ、周りの反応がいつもよりも大きく、本当に全員地に伏すような勢いだったんですよね。

 とくに一番大きな影響を受けていたのが案の定魔族、それも女性の方々でした。

 やっぱりあんな風に迎えに来てもらうのは一種の夢なんですかね?

 ただどちからと言うとロマンスというよりもバイオレンスだったと思うんですが。


「ゴトー、こちらの用意は出来た。最初の一人を呼んでくれ」

「あいよ旦那。入ってくれ」


 今回も俺の補佐にはヒューマンであるゴトーさんがスタンバイしております。

 最初はここのギルド長がやりたそうにしていたのだが、まったくの無名というか、権力を持たないゴトーを側に置いたほうが色々と都合が良いのですよ。

 さて、改めて手元の名簿に目を落とす。最初はこの辺りの農作物の管理を任されている魔族の男性だ。

 事前報告では、あからさまにヒューマンへと配当される農作物の質を下げていたとされるが、はたしてどんな人物なのやら。

 正直、この報告書と名簿を見る限り、アーカムの信奉者はどれもこれも似たような連中ばかりだ。これから全員に会わなければいけないと思うと辟易としてくる。

 こう、一度にババっと集めて一喝でなんとかなりませんかね?


「失礼致します」

「入れ」


 じゃあ記念すべき第一号、いってみよう。






「……もう全員処分してしまった方が良い気がしてきた」

「同感だがそうもいかねぇでしょうよ。しっかしどいつもこいつも同じ事しか言わねぇなぁ」


 どうも、一人会うごとに精神力をゴリゴリ削られる事一二回、ぼんぼんです。

 なんかね、おかしいの。みんな同じ事言うんですよ。


「私たちはアイツに無理やり従わされていました! ですが、これからはカイヴォン様の元で、魔族の地位を上げ、ゆくゆくはこの大陸の支配権を再び我らが――」

「どうやらカイヴォン様は人でが足りていないご様子。私の傘下にいる人間を是非。そうすれば、このようなヒューマンなどに頼らずとも――」

「カイヴォン様はレイス様という本妻がおられるようですが、どうでしょう? 我が娘を妾、いえ愛玩用に――」


 多少の違いはあれど、こんなんばっかでした。

 もちろん全員話をそこで止め、別室にて待機させております。

 本当面倒だから最後にまとめて済ませようかと思います。

 そして、次が問題のあると思われる連中の中でも最後の面会希望者なわけだが……。


「……あの姉弟の母親か。たしかローズと言ったか」


 リュエ曰く、一時とはいえ上司を務めた人間だとか。

 メイドを束ねる位置づけで、後に屋敷を追われ一般の使用人と同じ寮に入れられたそうだ。

 その後の顛末は俺が地下牢でジニアに聞いた通り、子供達を捨てて館に戻ったと。

 正直、俺の印象はすでに〇を通り越してマイナスに突入済みでございます。

 ただもし特別な事情があるのだとしたら――そう、たとえば自分が汚名を被り、恨まれたとしても自分の子供達を屋敷の外に出してやりたかったのだとしたら――


「……次、入れ」

「はい、失礼します」


 妙に艶っぽい声が、扉の向こうから聞こえてきた。




 なんだコレ。

 コレはなんだ? アーカムすら霞むこの気持ち悪さはなんだ。

 ああ、そうか。これはどちらかと言うと、俺の世界寄りの気持ち悪さだからか。

 だから、こんなにも気持ち悪く感じ、腹立たしいのか。


「ですので、何卒私めをこのまま、カイヴォン様のお傍に置いていただけたらな、と」

「……そういえば、お前には二人子供がいたな」

「まぁ! もうお会いになりましたの? もしお気にめしたのなら、娘もどうぞお使い下さい。訓練に明け暮れ、男も知らぬ生娘ですわ」


 要約するとこいつが言っている事はこうだ。

『強けりゃ誰でもいい。私に甘い汁を吸わせろ。娘もあげるから』

 救いようがない。純粋に自分の利益しか考えていない分、他の連中よりも厄介だ。


「息子はどうするつもりだ」

「あれでもあの男の血を引いていますので、戦力にはなるかもしれませんが……あ、もしあの男の血筋なんて残っているのが我慢ならないのでしたら、娘共々処分して新しく――」

「わかった、もういい。別室で待て」


 話を途中で遮られたからか不服そうな顔をするが、俺の言った『わかった』を曲解したのか、嬉しそうな顔をして退室するローズ。

 ……今のやりとりで一気に機嫌が氷点下まで下がったせいか、このまま連中の待機している部屋を爆破でもしてやりたくなる。

 だが、勝手に処断する訳にもいかず、大人しく本来の役目を全うする。

 どうやって説得させたらいいのかイマイチわかりませんが、適当に見せしめでも見せれば良いんですかね。


「ありゃかなり強烈だったな旦那……」

「ゴトー、今の女も貴族かなにかの出なのか?」

「いや、違うみたいですぜ。一応アーカムの子を産んだ館の権力者って事でこっちの枠に入れていただけみたいだ」

「そうか、じゃあ見せしめには丁度いいか」

「……消すんですかい?」

「場合による」


 ひとまず、全員に向けて演説のような事でもしてみますかね。

 それで何人洗脳出来るか、まずはそれ次第。

 確認のとれない嘘をふんだんに盛り込んだ洗脳スピーチでもしましょうか。

 一先ず、久々に戦闘以外の目的のためにアビリティの構成を見直す。

 そろそろ戦闘以外で役立つアビリティが欲しいところです。


[以心伝心]

[五感強化]

[アビリティ効果2倍]


 とりあえず対人で有効そうなのはこの三つだろう。

 小さな話し声やぼやき、そして内心思っている事がうっすらと伝わってくる。

 ここにさらに洗脳でも出来そうなアビリティがあれば、もう戦わずになんでも解決出来そうなんですがね。

 誰か持ってませんか、そういうアビリティ。


 ギルド内にある、大規模なミーティング用の会議室。

 そこに押し込められるように入れられたアーカムの信奉者達に話をするべく、今度は俺一人で向かう。

 さすがにね、恥ずかしいから出来るだけ人に聞かれたくないんですよ。

 よくテレビや公衆の面前でスピーチをしている人を見かけるが、俺にはとても真似出来ない。

 好き勝手言うならともかく、少しでもみんなの耳に残るような、そんな『僕の考えたかっこいいセリフ集』のようなものを公開する勇気はないんです。

 正直、この姿ですらこれから行う事に対しての恥ずかしさがギリギリなので、この一件が終わったらしばらく、少なくともこの大陸から離れるまでは魔王ルックは封印したいと思います。


「さて、じゃあ行くか」


 ノックもせずに部屋へと入る。

 いい加減待たされ続けてダレてきていた一同が瞬間的に背筋を伸ばしこちらを見つめる。

 そんな中、俺は部屋の前方、教壇のような場所へと向かい、口を開く。


「……初めに言わせてもらう。我が盟友オインクに頼まれなければ『今すぐここで貴様ら全員を皆殺しにしてやりたい所だ』」


 開幕『テラーボイス』を発動して相手を封じ込めるように威圧を込めてそう言い放つ。

 本来、敵意を向けている相手を麻痺させる効果がある技だが、純粋に恐怖だけで一同が固まるのが手にとるようにわかった。

 喉を鳴らす音、歯が震える音、身震いする音、悲鳴を漏らす者。

 それらが全て、アビリティによってこちらへと伝わってくる。


「魔族の存在意義を理解せず、かつて全ての者に嫌われ、迫害された時代へと逆戻りしようとしている事にも気が付かぬ愚か者共めが……今すぐ一族郎党、その腐った思考を刈り取る事が出来ればどれほど心地良いだろうか」


 背後に熱の無い黒炎を纏い、徐々にその炎の規模を大きくして行く。

 少しずつ追い詰めるように、じわじわとこちらを震えて見ている連中へと近づける。

 逃げ出したいだろうが、既に扉は外から施錠されているはずだ。


「貴様達は古の時代、魔王が何故崇められたか、そしてどうやって我ら魔族の存在意義を認められたか、それすら知らないだろう。貴様達の行いが何を侵し、何を失おうとしているかも」


 よーし、パパ作り話披露しちゃうぞー。


「太古の時代、神隷期。我ら魔族は爪弾き者だった。優れた魔導知識とその技術力を妬み、そして危険視した連中から」


 そんな事実あったかすら不明なんですけどね。


「そして、我らが魔物から効率よく力を得て、早く成長する事に嫉妬した者からも爪弾きにされてきた」


 出典 某巨大インターネット掲示板の世界観考察スレ。

 まさかここにきてこれが役立つとは思いもしませんでした。ありがとう、名も無き評論家の方々よ。


「だが、それでも我らが受け入れられ、共に歩んで来る事が出来たのは古の魔族達が諦めず、常に寄り添うと決めたからにならない、そして――」


 切り札。

 リュエが言っていた、神隷期の伝説、神話を織り交ぜる。


「伝説の時代、神隷期を終わらせた剣士の伝説を知っている者はいるか?」


 リュエは知っていたが、あの『剣士カイヴォンとその仲間が七星を打ち倒した伝説』はかなり古いおとぎ話のような扱いで、今ではその名前すらしっかりと伝わっていないそうな。

 オインクも知っていたようだが、それこそ彼女はかつてのリュエのように、自分と同じ境遇の人間を探して旅して歩き、その時に知る事が出来たそうだ。

 曰く、それを知る事が出来たのはサーディス大陸だったとか。

 俺の勘だが、ファストリア大陸に近いほど、かつての伝説や神話が残っているように思える。

 リュエが神話を知っていたのは、まだ神隷期の影響が色濃く残る一〇〇〇年前に生きていたからとすれば合点がいく。

 思えばこれまで散々『カイヴォン』と名乗っているのに、誰もそれに反応しなかったのだし、考えてみれば当たり前か。

 だがあえて今回はそれを利用して、かってにかつての英雄を脚色していく。


「その剣士は、ヒューマンではなかった。そして力で劣るエルフでもなかった。わかるか? その剣士こそが、まだ魔王と呼ばれる前の魔族の男だったのだ」


 その宣言に、ようやく恐怖に縛られていた皆が驚きの声を上げる。

 信じられないような顔をする者もいれば、納得出来たのか深く頷く者もいる。

 この流れにのる。乗るしかない、このビッグウェーブに。


「その男はヒューマン、エルフの仲間と共に世界の終わりを防ぎ、神をも下した紛れも無い英雄だ。今こうして魔族が受け入れられたのも、その人物が世界のため、全ての人々のために力を注いだからこそ、だ」


 やだ、自分の事ヨイショするのって死ぬほど恥ずかしい。

 これ絶対オインクとかダリアとかシュンには言えないやつだ。悶絶して死ぬレベルで恥ずかしい。

 だが、この疑う事を知らない魔族の方々はだんだんと俺の話す偽りの伝説を信じ始め、自分たちのこれまでの行いを振り返りながら顔を青ざめさせつつある。


「貴様達が信仰する魔王の偉業を、貴様達が汚し、泥を塗り、踏みにじる。私がその本人だったなら、今すぐこの場で魂ごと喰らい尽くしてやるところだ。それを理解した上で、貴様達が今日、私に何を話したか思い出してみろ。そしてこれから自分たちはどうすべきか考えてみろ」


 そう最後に言い放ち、周囲の顔を見渡す。

 聞こえてくるのは荒い呼吸の音と嗚咽、そしてかすかに震える音。

 伝わってくるのは、皆の後悔の念と自戒の念、そして恐怖。

 皆が青ざめる中、俺は会議室を後にした。

 だが――そこで俺もまた、顔を青ざめる結果となるのであった。


「……お前いつからそこにいた」

「随分大きな声で話していましたね? ぼんぼん」

「うわああああああああああ」


 扉の先には、ニチャリと嫌らしい笑みを浮かべたオインクが待ち構えていましたとさ。

(´・ω・`)ネトゲでおほーしてたら更新忘れるところでした ごめんなしあ

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