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九十四話

(´・ω・`)お疲れ様でした

 いやはや、こうも想定通りに事が運び、次々と相手の手札を奪う事に成功していると、逆に恐くなってしまう。

『上手い話には裏がある』とよく言われるが、うん、今回は例外になってしまいそうだ。

 龍達は未だ、滞空したまま動こうとしない。ただ何かを待つように、一定間隔で翼を羽ばたかせるのみ。

 見てみろよ、最後の切り札であろう眷属達は、お前の号令に逆らっているぞ?

 イクスさんへと命令を下した時を再現しているかのようなその姿に、俺はとうとう我慢が出来ず笑い出してしまう。


「はははははは! お前はどこまで道化なんだ! 俺が万に一つでもお前に勝ち目を残すわけないだろ!? いやいやいや、お前最高だよ、笑いのセンスあるわ。その大仰な喋りも、そのパントマイムばりの動きも、全部ただの道化にしか見えないわ。なぁ、もうお前に救いはないぞ? なぜ気が付かない?」


 唐突に口調を変えた俺を訝しみながらも、ヤツは背後の竜へと命令を再び下す。

 何度も、何度も何度も、繰り返し手を振り上げては振り下ろすを繰り返すその姿は、出来の悪い玩具のようだった。

 焦燥に表情を歪め、後ろへと振り返っては龍を繰り返し確認するが、それでも龍は動かない。

 もうあまりにも可哀想だったので、俺はネタばらしをする。


「来い、ケーニッヒ!」


 自身の分身のような、離れた場所にいる器官に命令を下すように念じながら声を上げると、空にいる龍達の背後から、その五倍はあろうかという巨体が現れる。

 太陽光を浴びて、そのクロアゲハのような翼を艶めかしく輝かせながら現れるその姿は、自分の眷属である事を忘れ畏怖してしまう程。

 ケーニッヒの姿が完全に現れた瞬間、アーカムの眷属と思われた龍達が一斉にケーニッヒの後ろへ従うように控える。

 そのままケーニッヒは俺の側へと移動する。無論、他の龍共々。

 さぁ、これでお前の逃げ道は絶たれたぞ。今度はどう出る?


「馬鹿な……なんだそいつは……私が分からないのか!? 貴様達の主だぞ! こちらへと来い! 従え!」

「無駄だ。契約で縛っていたんだろうが、生物の本能には逆らえなかったみたいだな。よくもまぁこんだけ数を揃えて。質より量でいくタイプか? お前」


 ケーニッヒには、裏の山にいる全ての魔物を従えてこいと命令しておいた。

 こいつはたった一日余りで、それを成し遂げてしまったようだった。

 いやはや、気がつけばまた二回り程大きく育った我が家のドラゴン様。たしかにこの姿で威圧されたら、他の龍さんが忠誠を誓うのも無理はないと思います。

 正直、目の前のなんちゃって魔王よりも、君の方が魔王の名に相応しい気もしてきます。


「なぜ……なぜこんな……くそ、誰か、誰かいないか! ジニア! リネア! 子の責務を果たせ! なぜそちらに居る!」

「自分で捨てた子供に頼ろうとするな、このクズが!」


 俺の背後にいる手勢の中に、自身が切り捨てた二人の子の姿を見つけ、すがるような声を上げるも、それを遮り蹴り飛ばす。

 その感触は、先程までとは違い弱々しく、あっさりと吹き飛ばされ尻もちをついている。

 立ち上がろうとした瞬間、俺は再びヤツの背後に回り込み、残った方の角へと手刀を繰り出す。

 固い岩でも砕いたかのような音と共に、奴の頭が角に引っ張られるように横に引っ張られ、地面へと激突する。

 両方の角を失った事にようやく気がついたのか、恐怖の表情を浮かべ、まるで転がるように逃げ出すアーカム。

 この式典のために用意したであろう、綺麗な儀礼服は薄汚れ、煤け、千切れ、燃え、土や草を縫い付けたギリースーツのような有様になっている。

 無様で無残な姿になり、ガチガチと歯を震わせるアーカムに、俺の心はようやく落ち着きを――

 取り戻すわけないだろ……加虐心が唆られる。


「これももう、必要ないだろ?」


 転がり逃げるヤツの羽根も、既にボロボロになり、草が絡みつき薄汚れていた。

 それを掴み、根本からへし折り千切る。

 声にならない叫びを上げながら、ヤツは今度こそ本当に駈け出した。

 逃げた先にいるのは、未だ近くに残っていた一人の侍女。

 人質にでもするつもりなのか、その女性の背後へと回りこみ、再びその表情を愉悦に染める。

 だが、それは逆効果だ。一番の悪手と言っても良い。

 戦う力を持たない侍女が、未だ逃げずにこの場に残っている訳がないだろう。

 だってその子――


「ユエ、貴様に人質になってもらうぞ! 家畜如きに慈悲を向けるくらいだ、この罪もない女が一人いるだけで――」

「私に触れるな、早漏馬鹿魔族!」


 唐突に、アーカムの膝が崩れ地面へとへたり込んでしまう。

 ビクンビクンと腰を震わせる姿は、なんだろう……こいつだけは同情したくないと思っていた俺ですら、同じ男として哀れみの目を向けてしまう程なさけなかった。

 その様子を、周囲にいる事の成り行きを見守っていた冒険者達、そして冒険者に牽制され動けなくなっていた私兵団、そしてイクスさんを含めた、この屋敷で働いていた人間達が見ている。

 ……お前、本当に終わったな。


「な、ぜ……まさか貴様が、これを」

「毎晩毎晩面白かったよ、愚か者」


 そう言いながら、リュエは魔法でアーカムの足を凍りづけにし、逃げ足を完全に断つ。

 そのまま横を通り過ぎ、俺の横へ。


「私も、最初からカイくんの味方。つまりスパイだって訳だよ」

「初めから、お前は俺の手の平の上で踊っていたんだよ。だから言っただろ? 『全てを失う覚悟をしろ』と」

「は……貴様の、望みはなんだ……この街か? 地位か?」

「お前の命、それだけだ」


 最初から今に至るまで、俺の目的はただその一点に集約している。

 家族を苦しめた事、警告を無視して敵対した事。

 その瞬間にもう、お前はもう死んでいたのと同じだったんだよ。

 ……それに、ここに来てようやく俺は、オインクが言っていた『俺とこいつが相容れない』という言葉の意味を正しく理解した。

 目の前にいるこの男は、魔王と呼ばれ、強大な力と絶大な権力を持ち、自由に尊大に振るまい、そして狂気と享楽の道を歩んできた。

 それは、もしかしたら俺が辿るかもしれない、最悪な未来予想図だ。

 俺もまた、その道の一歩手前まで、きていたのかもしれない。

 だからこそ、俺は激しくこいつを嫌悪したと言われても、納得出来てしまうだろう。

 恐らく、オインクは俺に『こうはならないで』という願いも込め、協力してくれたのだろう。

 悔しいが、思い当たる節もあるし、現に今こうして、残虐の限りを尽くしている。

 ……けどなぁ豚ちゃん、それは杞憂だ。

 俺は絶対にこうはならない。何故なら、俺にはリュエとレイスがいる。

 俺を諌め、俺を愛し、そして共に歩む存在がいる。

 間違ったら、きちんと言ってくれる仲間がいる。

 それが、目の前にいる堕ちた魔王と、俺の違いだ。


「わ、私を殺すか? お前に、この大陸を敵に回す覚悟が――」

「そんな事にはなりませんよ、アーカム」


 その瞬間、ギャラリーが大きくざわめき、人垣が左右に別れる。

 そこに現れたのは、見たことのない、美しく着飾った、まるで物語から飛び出してきた騎士のような、姫のような衣装を身に纏ったオインクだった。

 彼女の背後には、暗い表情をした多くの魔族が付き従っている。

 いずれも、今からパーティー会場にでも乗り込むかのような燕尾服や儀礼服、ドレスに身を包んでいる事から、連中がアーカムの信奉者であろう事は一目瞭然。

 恐らくオインクは、この場に連中を連れてくることで、完全に心を折るつもりなのだろう。

 くっそ、ここにきて俺を利用するのか豚ちゃん。

 悔しいがしてやられた。


「貴様!!!!! お前かああああああ! お前の差金か! この雌豚が!!!!」

「貴方に豚と呼ばれる筋合いはありませんよ。さて、既にこの地方の現状と、かつての所業、そして違法に眷属を増やし隠し持っていた事は確認済みですし、そもそも私はエンドレシア王にも許可を得ています」

「ならば、私はエンドレシア王に断固として異議申し立てる! このような男を使い、私を襲わせた貴様への処罰もな!」


 あ、そういえばまだ言ってなかったか。

 俺はおもむろに、ギルドカードとエンドレシア王から貰った身分証明証を取り出した。

 すると、何故か横にいたリュエもまた、思い出したかのように同じものを取り出す。


「ねぇオインク、私もエンドレシアの公爵待遇だけど、今までこいつの屋敷で雇われていたよ」

「……アーカム、貴方は親国の公爵を雇うという、反逆にも等しい行為をしていたのですか……これはもう言い逃れ出来ませんね」


 いやさすがにその理屈はおかしくないですかね。

 ああでも、その事実があればそれでいいのか。


「そこにいるカイヴォンは、ただの領主待遇ではありません。エンドレシア王に正式に認められた、断罪の権利を有した公爵です」


 その宣言を聞き、彼女の背後にいたアーカムの信奉者達もまた、ざわめきだす。

 その反応で、察しがついてしまいましたよお兄さん。

 先日オインクが俺に語った『魔王』という言葉の意味。

 それを考えれば、納得出来てしまう。


『魔王』はかつてエンドレシアで崇められていた偉大なる魔族。

 そこに、エンドレシアから王に認められ、公爵の地位を得た魔王然とした姿の俺。

 そしてこの場にいるのは、魔王信奉者でもあるエンドレシア出身の魔族の末裔。

 つまり、そういう事。


「これでわかりましたか、皆さん。貴方がたは、偽りの魔王を崇め、そして自分たちの存在意義を自ら汚していた事を」


 背後にいた連中や、その他の魔族が一斉に膝を折り頭を垂れる。

 やめろよオインク、これもう本当に完全に既成事実が出来上がってるじゃないですか!


「馬鹿な……馬鹿な……私が、私こそが……」

「さて、じゃあ何か言い残す事はあるか?」


 茫然自失。

 燃え尽きたかのように崩れ落ちるヤツに、最後の問いをする。


「……殺せ、殺してくれ」

「そうか」


 ……じゃあ、最後の追い打ちといきますか。


「いい事を教えてやろう。俺の剣はな、相手を喰らって自分の力にするんだ。例えるなら食事みたいなものだ」

「な、なにを言っている」

「お前はな、殺されるんじゃない。ただ喰われるだけなんだよ。そこには尊厳も有終の美も存在しない、ただ養分として喰われるだけだ」

「やめてくれ! 殺してくれ、せめて、せめて!」

「お前はな、水の張った大鍋の中を泳ぎまわっていた魚に過ぎなかったんだよ。既に火が着けられている事にも気が付かず、最期の瞬間まで自分が餌だとも知らずに仮初の自由を与えられたな」


 追い打ちは基本。

 精神攻撃も基本。

 そして、オーバーキルはロマンで、死体蹴りは礼儀。

 報復は義務で、汚いは褒め言葉。

 貸しは末代まで取り立てて、利子は永遠に増やし続ける。

 それが俺です。

 あ、でもこれはあくまで敵、憎い敵に対してのみですから。


「嫌だああああああああああ! 食われるのは嫌だあああああああああ!」

「ははははははははは! 随分と生きのいい餌だ!」


 そして俺氏、最後の最後で盛大に悪役になる。

 今丁度、アーカムの思想に賛同していた連中もいる。

 つまり、そういう事なんだろオインク。


「これが、魔族の在り方を、誇りを汚し、魔王を騙った者の末路だ! 夢々忘れるな、こうはなりたくなければな!」

「嫌だああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 剣を黒炎で覆い、少しでも派手に見えるように『天断(降魔)』を発動させる。

 斬撃とともに黒い炎を空へと放ち、停滞させその規模を大きくし、そして、俺は動けずに身体をくねらせるヤツへと向かい――


「終わりだ」


 振り下ろし、黒炎を纏った斬撃が空から追随する。

 小規模の地震が起き、大地が裂け、クレーターが出来、火柱が上がる。

 そしてそれをかき消すと、中心部に深い穴が残され、そこにはなにも、何者の痕跡も残っておらず燻ぶるだけとなっていた。

 残り火と土煙を、目に見える形で体内に取り込むように操作して、最後にこう告げる。


「腐った魔族は不味いな」

 ぼんぼん

(´・ω・`)ハハハハハ!

 あーかむ

(´;ω;`)o彡゜  くそ! 言うこと聞けよ!

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